2009-06-04

お部屋1864/部数と印税 1・印税さまざま【追記あり】

岩崎定夢の話はまだ続きますが、ここでちょっと休憩。休み休みやらないと、疲れますので。

間もなく新刊『エロスの原風景』が出ます。その宣伝をかねて、今回と次回は橋本玉泉さんが書いていた印税についての補足をしておきます。試しにネットで検索してみたのですが、印税について細かく、かつ正確に書かれたものが意外に少なかったものですから。

橋本さんが書いているように、本のギャラには「買い取り(買い切り)」「印税」があります。

「買い取り」というのは、最初に一定額の金をもらって、あとはいくら売れても金は支払われない方式で、多数の権利者が関わる本では、支払いの煩雑さを避けるため、「買い取り」になることがよくあります。しかし、通常、この「買い取り」は著作権を買い取ることではないので誤解なきよう。

ゴーストライターを起用する場合は、表に名前を出す人やその所属事務所と、書き手の力関係によって条件はさまざまで、印税を等分に分けるケースがある一方、買い取りの話もよく聞きます。何万部も売れているのに、ゴーストライターは30万円でおしまいだったりするわけです。ゴーストライターの権利については微妙な問題がさまざまあって、時にそれが表面化することもありますが、長くなるので、ここでは省略。

対して単著ではほとんどが印税方式です。こちらは、大きく「刷部数計算」「実売計算」があって、同じく「印税10%」でも、手にする金額が大きく違ってきます。

「刷部数計算」は刷った部数すべてについて印税が支払われます(宣伝用の部数や傷んで破棄される部数を概算で除くことも多い)。「実売計算」は、実際に売れた本に対してのみ印税が支払われます。

定価千円の本を1万部刷って、千部しか売れなかったとします。「刷部数計算」の印税は百万円。「実売計算」では十万円です。

「刷部数計算」では、発行の翌々月あたりに支払われることが多いのに対して、「実売計算」の支払いは7ヶ月から8ヶ月ほどあとになります。実売の数字が確定するのは委託期間が終わる半年後であり、それ以降じゃないと金額が決まらないため、そうなるのはやむを得ません。それ以降は、一年といった単位で区切って、売れた分だけ支払われていきます。

この二つの方式を組み合わせた支払い方法もあります。「刷部数」の半分は保証されて、その分の印税は発行から間もなく支払われ、残りは実売計算になるようなものです。定価千円の本の初刷()が1万部として、5千部分の印税50万円が先払いされ、5千部以下しか売れなかったらそれまで。5千部以上売れればその分がまた支払われるわけです。

また、初刷分は「実売」で、増刷分から「刷部数」ということもよくあります。通常、本は初刷分を売り切った段階ですでに利益が出ていますので。

当然、書き手にとっては、「刷部数計算」の方が有利です。「実売計算」では、すべて売り切って、やっと「刷部数計算」と一緒。支払いも遅く、その間に出版社が潰れたらとりっぱぐれます。

ただし、「実売計算」の印税率は10%が多いのに対して、「刷部数計算」の印税はさまざまです。

一般に本の印税は定価の10%と思われていますし、大手はだいたいそうなっていますけど、編プロやフリーの編集者が間に入っていると、その分が引かれます。編集印税が3%として、残りは7%。印税を13%にして、うち5%を編集費とし、残りの8%が著者の印税になるような方式もよくあります。

確実に売れる書き手だと、著者分だけで10%を超える印税になることもありますが、例外的な条件であり、ほとんどの書き手にとっては、10%が最大の数字です。

中小では編プロが関わってなくても8%、6%といった印税が普通にありますし、私の体験では4%もありました。定価1500円の本を3千部刷って、10%で印税は45万円。8%で36万円、6%で27万円、4%で18万円。雑誌の連載など、すでにある原稿をまとめるだけだとしても、原稿を選び、手直しし、調べ直し、あとがきを書き、校正をする作業で2週間くらいかかったりしますから、4%だと厳しいです。

私は体験がありませんが、現物支給というのもあります。100冊もらって、それを定価で手売りすれば、十数万円になりますが、そうは売れないため、名刺代わりに配っておしまいになることも多いようです。

中堅どころのよく知られた会社でも、昨今は8%を導入したり、刷部数の一部のみ支払い、残りは「実売」という方法を導入するところが増えています。文庫でも、書き下ろしは10%で、単行本の文庫化は8%だったり。

出版社はどこもいつ潰れるかわからない状態ですから、印税を下げて、利益を出しやすくしたがるのはやむを得ないです。「どうしても刷部数の10%じゃなきゃイヤだ」という人は、そういう条件で本を出してくれる出版社を探すしかない。

原稿料がさまざまであるのと同様、印税に決まりはありません。長らく10%が基準になっていたのも「キリがいい」という以上の意味はなく、互いに合意すれば何%でもよく、4%だからと言って、あるいは印税が払われない契約になっていたとしても、出版社が非難されるべきではありません。

非難されるべきなのは、払われるはずの印税が払われない場合です。昨今、こういう例が増えているとも聞きます。ありものの原稿ならまだしもとして、何ヶ月もかけた書き下ろしの本で踏み倒されたらたまらんです。

私も、これまで雑誌の原稿料の未払いは何度か経験しています。印税が期日に支払われないこともありました。共著の本で、当然、ギャラが出るのだろうと思っていたら、出なかったこともあります。「原稿依頼の段階で説明しろよ」という話ですけど、確認しなかったこっちも悪い。

しかし、出る約束になっていた印税が支払われなかったことはなく、この点はラッキーです。もらえるはずの金がもらえるのは当然なのですが、ラッキーと言わざるを得ないのが今の出版界です。

次回に続きます
 
 
注:出版界でも「版」と「刷(すり)」はアバウトに使われがちですが、「初版」は最初の版のことで、「初刷」は初版の最初の印刷のこと。最初の版で何度印刷しようとも初版です。版を作り直して初めて「第二版」になります。

これを厳密に使う出版社では「初版第五刷」「第二版第一刷」といったように表記しますが、この別なく、印刷した回数を「第三刷」「第三版」と表記する出版社も多いものです。

また、「版」の定義も出版社によって違っていて、単なる誤字・脱字を修正しただけなら同じ版とし、内容に踏み込む直しをした場合にのみ、新しい版とすることもあります。

追記1:これを読んだ知人から、本の企画を出版社に持ち込んだら、「買取をしてくれれば出してもいい」と言われたとのメールが届きました。500部なりなんなりを著者が買い上げて、リスクを下げることができれば出すってことです。印税をもらえないどころか、自費出版に近いです。

仕事をしたことはないですが、以前は知っている編集者がいた出版社です。そこがそんな本の作り方をしているとは知りませんでした。本が売れないため、持ち込みは「印税なし」「買取」を条件にする方向になってきているのでしょう。こういう出版社が増えているのかも。

追記2:『最後のパレード』の印税は支払われているのか否かという問題があるわけですが、これはなんとも言いがたい。刷部数で計算する場合は、部数が決まった段階で印税額も決定しますから、頼めば、発売前に支払ってくれる出版社もあります。私もそうしてもらったことがあります。