2009-06-09

お部屋1871/部数と印税 6・部数と定価

読んでない方はお先に以下に目を通してください。

「1864/部数と印税 1」
「1865/部数と印税 2」
「1866/部数と印税 3」
「1688/部数と印税 4」
「1870/部数と印税 5」
  
  
困ったことに、このシリーズはまだ終わらないです。アホな右翼やアホな左翼のことを書いていてもなんのメリットもないので、このまま延々続けようかと思わないではない。

『エロスの原風景』はオールカラーです。この場合は、高い本だからオールカラーなのでなく、最初からオールカラーにしたいというのが私の意向でした。

現物を見ていただかないとわからないと思いますが、例えば今から一世紀前のフランスのポストカードを紹介した章があります。これが泣けてくるくらいに美しいのです。

当時はまだ写真のカラー印刷ができなかったため、カラーのポストカードは、手あるいはスタンプによる彩色です。中でも彩色のヌードものを私は集めています。この時代のモノクロのヌード・ポストカードは復刻もされていますが、カラーのヌードは珍しく、カラー印刷でしかその魅力を伝えられないでしょう。

これはカストリ雑誌も同様。今見ると粗いのではありますが、なんとも言えず、いい色が出ていまして、これもカラーで見せたい。昭和30年代にはカラーのグラビア印刷が登場して、今とほとんど変わらなくなるのですが、変わらないことを見せるにはやっぱりカラーで出すべきでしょう。モノクロにすると、途端に古くさく見えてしまいますので。

カラー印刷の値段が以前より下がったとは言え、印刷代だけでなく、その前の工程にも手間や金がかかりますから、オールカラーにすると、どうしたって定価に大きく反映します。

その上、そうは売れる内容ではないので部数が少ないのであります。

同じ部数で同じ体裁でも、出版社によって定価のつけ方は違ってきます。掛け率の違いもありますし、採算ラインをどこに設定するのか、経費分をどこまで含めるかの計算式が会社によって違うためです。

出版社の個性が値段や部数には反映されるわけですが、大雑把に言えば、売れる本は安くなり、売れない本は高くなります。当たりまえのことですが。

『エロスの原風景』は当初1500部の予定で、定価3800円くらいになりそうでしたが、最後の最後で2000部になって、定価は2千円台に。

部数と定価の決定は出版社の仕事ですけど、値段を下げたのは私の希望でもあります。本は高くてもいいと思っているのですが、私の場合、高い値段に見合う箔がない。大学の先生であれば、図書館が買ってくれたり、出版史や印刷史、近代史の研究者が買ってくれましょうが、物書きの中では最底辺のエロライターが著者ですから、そういった方面の数字を見込めません。

昨今、カストリ雑誌あたりまでは、大学の先生方の研究対象になってますが、それ以降の時代はまだ生々しいため、研究対象になっておらず、『エロスの原風景』のように、ビニ本や自販機本について書いたものは図書館も扱いにくいでしょう。スカ系の図版まで入ってますし。

したがって、「高額でも売れる本」というわけではないので、値段はできるだけ下げたい。かといって単なるエロ好きの人が買う内容でもない。エロに関する本ではあっても、エロ本ではないものですから。となると、3千部は作れない。

その結果が2千部という部数、2940円という定価です。

定価が高いってことは、売れた時の利益も大きいですから、少ない部数で採算をとりやすい。その代わり、定価の高い本は、本好きな人、本当に必要な人しか買わないですから、普段本を買わない人たち、本好きではない人たちを巻き込むことができず、部数は見込めない。

というバランスの中で、出版社は、内容や著者の実績に照らし合わせつつ、部数をどう設定して、定価をどう設定するかを決定します。と同時にそれに合わせた体裁を決定するわけです。

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この書影は本体の表紙で、これに箱がつきます。箱をつけたのは、値段が高い本である以上、高く見える体裁が必要なためです。つっても昔の本のようなガッシリした立派な箱ではないので、たいした経費ではないです。輸送用の箱みたいなものですから、捨ててくれてもいいですし。

30年ほど前まで、箱入りの本は珍しくなかったのですが、今では全集や豪華本以外ではほとんど見られなくなりました。であるが故に、さして金をかけずに「高い値段に見合った見てくれ」になりやすい。

また、ポット出版から出ている田亀源五郎編『日本のゲイ・エロティック・アート』と装丁を揃えて、並べやすくするという意図もあります。こうすることで、書店は再度『日本のゲイ・エロティック・アート』を注文してくれるかもしれません。

おそらくポット出版にはLGBT関連の読者がついているためと、私の交遊関係もそっち方面が多いためだと思いますが、今現在、『エロスの原風景』をアマゾンで予約してくれた方々は、田亀源五郎の作品集を一緒に買ってくれているのが多いみたいです。『エロスの原風景』にはホモ写真の章もあるので、そっち方面の方々もお楽しみいただけましょう。

さらに続きます