2009-06-08

お部屋1870/部数と印税 5・本の見てくれ

まだの方は以下を先に読んでください。面倒だったら読まなくていいけど。

「1864/部数と印税 1」
「1865/部数と印税 2」
「1866/部数と印税 3」
「1868/部数と印税 4」
  
  
まだ今回はこのシリーズの最終回ではないです。終われる自信がなくなってきました。

「1866/部数と印税 3」で、雑誌は確実に売り上げを落とし、対して本の売り上げは横ばい、あるいは微減と書きましたが、これは出版界トータルの売り上げであって、タイトル数は増え続けてますから、一冊当りの売り上げは着実に減っています。

正確な数字は私も知らないですが、20年前に1万部売れたものが7千部、あるいは5千部くらいにさえなっているように感じます。

ブックオフでも、文庫や新書の値段は安定してますが、単行本は定価を問わず500円均一なんてこともよくやってます。定価3000円のものでも500円。そうしないと売れない。大きい本は重いし、邪魔ですからね。

安定している文庫や新書も、参入する出版社が相次ぎ、トータルの売り上げは伸びていても、一冊当りの売り上げは落ちているでしょう。かつて文庫は初刷が最低2万部と言われていたものですが、今は1万部を切るものもあります(出版社によりけりで、新潮社や講談社、文藝春秋あたりは今も最低2万部をキープしていそう)。

それでも各社がここに参入してきたのは、まだしも文庫や新書は売れるためです。また、競争が厳しいとは言え、コンビニの廉価本も調子がいい。つまり、現在の出版業界は、低価格化によって支えられていて、薄利多売傾向がさらに強まってますから、書き手も編集者も仕事は増えています。書き手で言えば、1冊で得られた印税を2冊で稼ぐしかない。

ここで私も嘆きたくなるわけですが、私自身が本を買わなくなってまして、「そりゃそうだ」と思うしかないです。本が担っていた情報のある部分は、かなりまでネットで得られてしまいますから、わざわざ本を買うまでもない。名作ものは「青空文庫」で読めますし。

買うとしたら、ブツとしての魅力を感じさせる「見てくれ」のものです。例えば、5千円、6千円の写真集は今も買います。あるいは「見てくれ」はともあれ、入手が難しい古本は買う。

今なおこういう層がいますから、本は今後廉価なものと高額なものとに二分化していくのかもしれません(写真集も最近は売れないそうですが)。

売るためのテクでしかないことはわかっていながら、私にとっても「見てくれ」は大事です。2千円台の本となると、「上製本である」「ページ数が多い」「ページが少なくてもツカがある」「カラーページが入っている」「判型が大きい」「箱がついている」「特殊な印刷や加工が施されている」といった「見てくれ」のいくつかが満たされていることを望みます。それなくして2500円の本は買うことを躊躇する。

逆に言うと、それらの条件のいくつかを満たしてくれていれば、2千円台でも3千円台でも買う。ブツとしての魅力のある本であれば、そういった金額を出しても惜しくないわけです。

ところが、こういったブツとしての本の魅力はネットでは伝えにくい。上製か並製か、菊版か文庫か、100ページか300ページかの差がわかりにくい。特殊な紙、特殊な印刷、特殊な加工をしていてもわからない。そもそもアマゾンの小さな書影では、デザインを吟味することも難しい。文字で説明されていても手触りや重みの実感は得られません。

先頃、ポット出版から沼正三著『懺悔録』が刊行されました。

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天地や小口まで真っ黒な本です。この本の装丁について、田亀源五郎氏はこう書いています

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 書影では判らないと思いますが、風合いのあるマットな黒の中に、バーコ印刷(だと思う)で入れてあるグロスの黒のワンポイント。カバーを外した本体も、黒の中に黒でデザインされていて、光の当たり方で文字や図柄が浮かびあがってくる。
 ステキ、ステキ。所有しているのが嬉しくなっちゃうタイプのご本でした。

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こんなことは手にしない限りわかるはずがありません。

「黒い本は売れない」と言われていて、「だったらやってやろうじゃないか」というので、かつて私も『魔羅の肖像』(単行本の方)は真っ黒にしてみました。

単体で見た時には悪くないのですが、黒は書店の棚で沈みます。だから、白っぽい本や派手な地の本が多いのです。それでも『魔羅の肖像』は初版を売り切りましたが、その後の文庫の売れ行きを見ると、黒にしなければ単行本ももっと売れたかもしれないと思わないではないです。

アマゾンでは書影のサイズが小さいため、また、地が白いため、黒い本は目立ちますが、造本・装丁上の工夫はよくわからないので、高い本に見合う「見てくれ」になっていたとしても、ただ単に「高い本」に見えてしまいます。

そうなると、『懺悔録』は2940円の高い本でしかない。この値段は、現物を見てもなお高めです。『家畜人ヤプー』の特装本(特装本は二種あって、最初に出た方)も真っ黒の箱入りでしたから、それに合わせて箱入りにした方が値段に見合った「見てくれ」になったかも。

アマゾンの順位は册数ではなく、売り上げ金額の集計なので、高額本は瞬間風速であれ上位に入りやすいのですが、『懺悔録』は芳しくないです。コアな読者は、ネットユーザーではないということもあるんでしょうけど、やっぱりこの値段の本はネットでは不利なのではなかろうか。写真集のような大判の本は持って帰るのが面倒なので、書店で見た上でネットで買うという行動も生ずるのですが、『懺悔録』は持ち運びに苦労するような本でもないです。

というわけで、どうして値段の高い本があるのか、どのくらい書き手が厳しい状況にあるのかを説明しておかないと、新刊『エロスの原風景』は買っていただけないかと危惧して、このシリーズを始めたのであります。この本も2940円なものですから。

ここまでの話を踏まえて、どうしてこういう値段になったのかを次回説明します。

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