2009-10-26

お部屋1967/改めて地域資料を調べてみる

正直なところ、多摩図書館の廃棄本問題についての皆さんの反応を見ていると、「何を大袈裟な」といった印象を拭えません。たぶん、「地域資料」というところで、とてつもなく重要なものが捨てられるとの想像を膨らませているのでしょう。「どうせおまえらは、エロだったら、なんの反応もしないくせに」と思わないではいられない。

各地域で出された雑誌や報告書の類いが重要ではないと言っているのではないのですよ。私もそういったものを探すのに苦労した経験が幾度もあります。

かつてその地域にあった遊廓について詳しく知っている世代の人が近隣に残っていないことがあって、こういう時は、市史の類いを丹念に調べていくと、ひっそりと出ていたりするものです。あるいは、地元の郷土史家が自費出版していたり。

今回廃棄されるものの中にも、八王子や調布、府中、三鷹の遊廓や赤線、街娼に関する資料があるかもしれない。たぶんほとんどないと思いますけど、あったとしても、どっかの図書館が保存していればいいや。

実際に、今回は破棄されるものは、都立中央図書館にあるわけですし、そのほとんどすべてが、区立図書館、市立図書館にもあるのではなかろうか。

どこの公立図書館でも、郷土資料や行政資料は充実しています。さして利用者はいないですが、それでも「なければならない」類いのものです。さらには、郷土資料館の類いが図書館とは別に設置されていることもあります。私も世田谷郷土資料館は時々利用しています。

郷土資料館は、世田谷なら世田谷の資料に特化している傾向がありますが、図書館の地域資料の棚を眺めると、どこの地域でも、同じ行政区域内の市町村史は一通り揃っています。

しばしば図書館には『東京市史稿』がズラリと並んでいて、多摩地区の図書館でも同様のはずです。つまり、各図書館の地域資料には、その地域の資料だけでなく、広く東京という行政単位のものが所蔵されているものであり、相当数の図書館が重複して保存している状態になっているはずです。

ためしに『東京市史稿』東京公立図書館横断検索で調べてみると、羽村市立図書館、日の出町立図書館、瑞穂町立図書館を除いて、残りの49館が所蔵していることがわかります。全巻ではないにしても。

続いて『武蔵野市史』(1970)で調べてみると、あきる野市立図書館、日の出町立図書館、瑞穂町立図書館を除いた49館にあります。

各自治体が発行する、このような市史は東京都内の図書館に一通り配布されるのでしょうね。さらには、管轄内にある学校などにも配布されているはずです。

「市内の名所旧跡」といった類いの発行物も同様です。博物館や資料館などの図録も同様。

予算書、会計報告書、議事録などの行政資料については、各自治体の図書館にしかないのではないかとも思ったのですが、そうでもないです。「武蔵野市一般会計特別会計予算」は府中市立図書館、立川市立図書館、調布市立図書館にもあります。

こっちも意地になってきて、局単位の決算書はさすがに地元の図書館にしかないだろうと思って検索したら、「武蔵野市水道事業会計決算書」は、小平市立図書館にも昭和59年度版だけあります。それ以外の年度はないわけですが、当然、武蔵野市役所にも複数保存されているはずです。他の自治体の古い決算書まで保存する意味はないと思うので、小平市は廃棄し忘れではなかろうか。

つまりは自治体が発行するようなものは、相当数保存され続けていて、いかに保存する意義がある貴重なものだと言っても、現に保存されているのですから、都立図書館内での重複分を廃棄したところで、さして問題はないってことです。

では、それ以外のものも見てみましょう。中村高一著『三多摩社会運動史』(都政研究会・1966)を調べてみました。多摩地区の図書館を中心に、14の図書館で17冊所蔵しています。都立図書館にもあります。40年以上前のものでも、しっかり保存されているものです。たいしたもんだなと。

地域資料は、各自治体の図書館にとっては肝とも言えるジャンルですから、自治体発行のものでも、一般の出版社の発行のものでも、利用者が少なくても廃棄されにくく、複数の図書館で保存され続けているわけです。

これ以外に、重要な地域資料に地図がありますが、これはどこの図書館でも保存が悪いです。今現在の地図や復刻された地図はすべての図書館にありますが、大ざっぱな時代区分のものしか復刻されておらず、たとえば昭和初期の3年単位くらいの変化を知ろうと思うと困難です。地図は傷みやすいので保存が難しいんでしょうね。

こういうものは古本屋で探した方が確実です。昭和に入ってからのものでも、地図は数千円しますし、特定地域の特定年号の地図を探すには時間がかかりますが。

新宿区は『地図で見る新宿区の移り変わり』を地域ごとに出していて、歓楽街の歴史を知るために、私は「淀橋・大久保編」を所有してますが、こんな丁寧な資料を発行しているのは、新宿区くらいでしょう。他にも新宿区はいいものを出してますし、台東区もかつて吉原史をまとめています。行政もたまには気の利いたものを出すものです。

おそらく今回廃棄されるものの中にも、古い地図のオリジナルはほとんどないはずです。でも、『地図で見る新宿区の移り変わり』が廃棄されるものの中に入っているんだったら、「四谷編」「戸塚・落合編」「牛込編」が欲しいな。図書館にあるから、まっ、いいか。

といったように、個別に見れば、私にとっても欲しいもの、貴重なものはあるに決まっていますが、その多くは複数の場所に保存されています。あるいは、『地図で見る新宿区の移り変わり』を現に私が所有しているように、その気になれば古本屋で買えますし、最近の行政の発行物であれば、新本を買えたり、もらえたりします。

都立図書館にしかない多摩の地域資料なんてものはほとんどないはずで、しかも、都立図書館内で重複したものを廃棄するって話なのですから、「もったいないけど、しょうがないんでねえの」ってことでしかないと思います。

地元の郷土史家たちが集まって作っている同人雑誌や論文集みたいなものもあるかもしれず、こういうものはひとつの図書館にしか寄贈していない可能性もありますが、寄贈するなら、市町村の図書館じゃなかろうか。

以上のように、そんなことはほとんどないと思うのですが、仮に多摩図書館の廃棄によって、日本の図書館に一部しかなくなる資料が存在するとしたら由々しき事態ではあります。しかし、7万ものタイトルを仔細に検討することの人件費を考えたら、素直に右から左に捨てた方が税金を無駄にしないと思う。

そんなことより、多摩地域で発行されたピンクチラシをせっせと集めている好事家の方が大事です。それこそ、ここにしかない可能性が高いんですから。

もうそろそろ発売になる「実話ナックルズ」の連載「日本エロスの原風景」では1980年代のビンクチラシを紹介していますが、私も多摩までは手が回らねえです。今はともあれ、かつては立川や八王子あたりにもあったと思うんですけどね。引っ越しでピンクチラシコレクションを捨てざるを得ないなどといった事情があったら、私に連絡をください。

このエントリへの反応

  1. ピンクチラシですか、以前似たような関係の仕事をしておりましてね。風俗案内所の今はありませんが割引きチケット(2005年3月まではありました)なら少々詳しいです。
    まああれに関して言えば100歩譲って家に持ち帰るのであるならまだしも(使いまわす為)路上に捨てるなどの心無い行為が多発し道義上いけませんでしたね。
    まあ当時風俗店の写真見学というのがあまり定着しておらず、また何枚かチケットを持っていても全部回る訳じゃなし何枚かは確実にゴミになるものでしたが。
    風俗案内所サイドも一人一枚としておけば良かったのですよね。
    まあ当時は自然はけ(案内所店員の接客はほとんど無く客がパネルを見て勝手にチケットを持ち風俗店へ行かせる。自然にはける経営方針)の店のほうが人気ありましたからね

  2. もちろん、割引チケットも保存してます。地方都市は店が迎えに来てくれたり、店まで連れていってくれるスタイルが多かったため、ほとんどが東京のものですが、新宿、池袋、渋谷については、定期的に集めて回っていたので、かなりの量があります。

    迷惑であろうが、違法であろうが、資料は資料。

  3. [...] 前回書いたことを踏まえて、地域資料についてもう少し書いておきます。 [...]

  4. [...] そもそも都立図書館は、そんな珍しいものを所蔵しているのだろうかと思って、数時間にわたってチェックしてみたら、あるわ、あるわ。これほど東京のレアな資料が都立図書館にあるとは知りませんでした。地図も充実していて、これだったら、3年単位の変化を見ることもできそうです。都立図書館を甘く見てました。 [...]

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