2009-11-03

お部屋1975/図書館の中では見えないこと 5・断裁の現実【追記あり】

1963/多摩図書館廃棄本問題と「書影使用自由」の表示
1966/廃棄本・里親探しの実情
1967/改めて地域資料を調べてみる
1968/除籍予定本の大半は多摩の資料ではないのでは?
1969/図書館の中では見えないこと 1
1970/図書館の中では見えないこと 2
1971/【必読】多摩図書館廃棄本についての正確な情報
1972/図書館の中では見えないこと 3
1973/図書館の中では見えないこと 4
1974/情報を訂正するためのツール
 
 
沢辺さんがポットの日誌に書いているところによると、単行本の平均初刷部数は3700部くらいだとのこと。

へえ。って感心するような数字ではなく、「均せばそんなもんか」と納得できる数字なのですが、一般的に本はもっと刷られていると思われていますから、こういう数字は積極的に出していった方がいいかと思います。それを出そうとするのは沢辺さんらしいなと、そのことに感心しました。

「modernfreaks」のインタビューでも語りましたが、インターネットでも、初刷5千、6千といった数字を前提にして話が進んでいることがあって、「大手はそうかもしれないけど、中小も一緒だと思うなよ」とムッとすることがあります。前提になる情報が間違っているので、そこから展開する話自体に意味がない。

印税もそうで、刷部数の10%を疑いない数字として議論が進んでいることがあります。

先日もある雑誌の編集長と話していて、8%、6%、4%という印税がいくらでもあること、中には現物支給もあること、あるいは実売計算も当たりまえであることさえわかっていなくて、こっちが驚きました。彼は雑誌畑一筋とは言え、出版界内部でも、こうも本のことは理解されていないものです。

「売れてないのに刷部数の10%なんて払っているから、おめえの会社の単行本はどれもこれも採算がとれないんだよ。実売計算でいいだろ」と著者らしからぬアドバイスをしておきました。出版社が潰れると、著者も困りますので。

ちなみに、沢辺さんが書いている「本に刷部数表示をするのをやめた件」ですが、「やめよう」と最初に言い出したのは私です。数字は公開した方がいいと思いつつ、公開しない出版社が多い中で、ポットだけが初刷3千部と表示していると、いかにも売れていない本に見えてしまいます。

小さな出版社としては標準的な数字なんですけど、それが理解されていないために、「売れているから買う」という層は手を出さなくなります。

「他の人はいいとして、オレの本はやめて欲しい」と申し入れ、結局、他の著者も同様だったと見えて、どの本も表示をしなくなってます。

とは言え、『エロスの原風景』でも初刷2千部ということをあちこちで書いたり言ったりしているので、数字を出さなくなった意味がない。私も沢辺さん同様、原則として情報は公開した方がいいと考えているので、結局一緒ですが、その数字にどういう意味があるのかをしっかり説明できる場ではいいとして、奥付に説明なく数字が出てしまうことにはやっぱり抵抗があります。

本の定価がどう決定されるのかも理解されていない現状では、定価2940円は単に高い本とされ、2000部は単に売れていない本にされてしまうわけです。実際高いし、実際そんなに売れていないんですけど。

それとともに断裁のこともホントに知られてないです。私も現場は見たことがないため、今は断裁されずに、そのまま圧縮されることをポットの日誌で初めて知ったのですが、慣れ親しんだ言葉なので、ここでは「断裁」としておきます。「断裁」に慣れ親しんでしまっているのは困ったものです。

正確なデータを見つけられなかったのですが、年間10億冊以上の本や雑誌が一度も買われることなく断裁されていると思われます。一度買われたものならともかく、店頭に出ることさえなく断裁されるのはかわいそうです。童貞、処女のまま、手術をされるペットの犬猫みたいです。

でも、しゃあないです。商品ですから、保管するだけで税金がかかり、倉庫代もかかります。

断裁されるものの大半は雑誌ですが、人聞きが悪いので、皆さん、言いたがらないだけで、単行本だって日々断裁されています。「modermfreaks」のインタビューでも告白しているように(今までも全然隠していないですが)、私の本も数々断裁されています。

改めて確認するようなことではないですが、今まで私の著書で断裁されたのは、文庫や共著を入れて6タイトルあると思います。『熟女の旅』にいたっては、単行本も文庫も断裁です。見事と言えましょう。自信作だったんですけどね。

これ以外に断裁されただろうと推測しているものが1タイトルあります。刷部数の印税の場合は著者に通知なく断裁することもあるわけです。何冊も本を出しているのに「一度も断裁されていない」と思っている著者がいるとしたら、たいてい気づいていないだけかと思います。数字を全然チェックしていない著者もいますから。

売れてないから断裁されているとは必ずしも言えず、増刷分を断裁することもありますから、売れている人は売れているなりに断裁されているはずです。

委託販売である以上、断裁は避けられず、とくに本が売れず、かつ本の寿命が短くなっている時代には、本を抱えたところで売れる可能性が低くなっていますから、断裁される本は増えているはずです。

出版社によって断裁する基準はマチマチで、思いつきみたいな判断だったりする出版社もありますが、私の感覚では、発行から1年で半分以下しか売れなかったら、刷部数の1割程度残して、あとは断裁というのが適切なところだろうと思います。

『エロスの原風景』で言えば、初刷2千部のうち、9百部しか売れなかったら、2百部を残して断裁。1年で9百部しか売れないのなら、残りの2百部を売り切るには10年くらいかかったりしますから、100部も残せばいいかもしれない。

現実には『エロスの原風景』は、たぶん大丈夫だとは思うのですが、発売から4ヶ月経って、まだまだ危険水域を抜けてないです。本を断裁してはいけないと思う人たちは買うように。買ってから捨ててくれるとありがたい。

その結果、現存する册数が数百という本もザラです。これじゃあ、限定本ですが、数百部も市場に出回れば、一世紀後も残りますから心配なし。何万部出たところで、消えやすい性質のものの方が私は心配。図書館で保存されにくいものやコレクターが集めないものです。エロはコレクターが集めても捨てられやすいので心配。

本を断裁することに対する抵抗感は私にも強くあるのですが、売れない本、必要とされていない本は断裁するしかない。断裁しないと新たな無駄を生みます。

本を作って、それを紙として再生させるにも、人力や石油エネルギーを使うのですから、その分は無駄ですが、断裁された本や雑誌はきれいに再生されます。そんなに無駄でもないです。

これに対して「自分の本を断裁してはいけない」と主張する著者たちもいるわけですが、だったら、全部買い取るか、税金と倉庫代を出版社に払えばいいだけです。経費を払えば断裁しない出版社もあるんじゃなかろうか。

千冊を保存する経費って、年間2万か3万か、そんなものでしょう。実売計算の印税であれば、通常、千部売れて印税が10万円以上入ってくるんですから、1年で売れれば十分に元はとれます。しかし、そんなことをする著者は聞いたことがない。売れるわけがないですから。

それでも、「本を捨ててはいけない」というのであればそうすればいいだけのことで、それをやらないのは、「出版社はひとたび作った本を捨ててはいけない。でも、著者の自分はそんなことはしなくていい」というわけです。「ナニをわがまま言ってんだ。出版社を潰したいのか」と言いたくなります。

あとは「本は品切れにしてはいけない」と言う人もよくいます。これも「ナニ言ってやがる」って話です。年間、どれだけの本が出ていると思っているのでしょう。これらをすべて増刷していたら、出版社は全社潰れます。

「品切れになった本を入手したい」と思うんだったら、古本で探せばいい。その努力をすればいいだけのことで、自分の怠惰さのフォローを出版社に求めるべきではない。

今は本当に便利な時代になって、目録を取り寄せて、最初から最後まで目を通さなくても、インターネットで簡単に探せます。10年探しても見つからなかった本が一瞬ですよ。

今回は図書館となんにも関係のない話でしたが、こういう現実の中にいると、「いらないもんは捨てていいべ。いらないものを保存するのは無駄」という割り切りをせざるを得ず、図書館の本も一緒だと思います。ましてやそっちに使われるのは税金です。保存すべきものを保存していいのは言うまでもないとして、いらないものはどんどん捨てましょう。

続きます。
 
 
追記1:よくよく考えたらポット出版から、いつも通知はもらってませんでした。あとで知るだけです。もしかすると、人を選んでいるのかもしれません。「松沢は断裁しても納得するので、何も言わなくていいだろう」と。実際、ダメージは受けますが、断裁の判断が間違っているとは思わず、「また売れないものを出してしまったぜえ」とひたすら反省です。

追記2:これだけを読むと、断裁された本はいかにも売れなかった本のようなので、補足しておきます。もちろん箸にも棒にもかからないものもあるわけですが、どちらかと言えば、刷部数が多い出版社の方がそういったものが多いはず。売れればベストセラー、売れないと大ゴケということになりやすいため、7割断裁、8割断裁といったものもザラにありそうです。また、売れそうだと、大増刷をかけて、全部戻ってきて断裁ということもあるので、大きな出版社の方が断裁部数がずっと多いはずです。部数にもよりますが、増刷分を全部断裁したところで利益は出てますしね。

その点、小出版社の断裁は地味です。

自分の本の数字を公開しましょう。『60分ロマンス』は全然売れなくて、これで「風俗ゼミナール」シリーズを続ける意欲がなくなった痛恨の一冊です。中身はシリーズ内で一番面白いと思うのですが、作り方の失敗でしょう。初刷3000部のうち、1200部を断裁。店頭在庫を別にして、今現在、倉庫にあるのは20冊か30冊なので、ほぼ売り切ってます。つまりトントンです。

『恐怖の大玉』『風俗見聞録』もほぼトントン。編集者の人件費分くらいは出ています。

箸にも棒にもかからなかったのは『熟女の旅』『亀吉が行く!』です。とくに後者は半分以上断裁です。

アマゾンでは品切れになると、値段が高騰しますが、そのうち適正価格に戻ります。ところが、『亀吉が行く!』は断裁された上に、読み捨てタイプの本なので、捨てられている数も多くて、限定本になってしまいました。新たな要素が加わらない限り、断裁されたものが増刷されることはあり得ないので、高値で安定しています。長田要ファンは多いにもかかわらず、彼は単行本の数が少ないことも影響していましょう。この値段で売れるとは思えず、もう少し安くなるとは思いますが、皮肉なものです。「あんなに売れなかったのに」と思うわけですが、「あんなに売れなかったから」と言った方が正しい。8000円を出してこれを買うなら、『エロスの原風景』を買って欲しい。

売れなかった本ばかりを列挙すると、いかにも売れない書き手みたいですが、増刷されているものもそこそこありますので、誤解なきよう。

追記3:ネットを見ていて気づいたのですが、「断裁」を「裁断」と書いている人たちがけっこういます。似たような意味合いの言葉ですが、この場合は「断裁」が正しい。

「裁断」は布を切る時に使用する言葉です。紙を切る時も使いますが、型抜きのようなものや小さな作業に限り、デカい機械でサイズに合わせて紙の四方をバッサリと切り落とすような場合は「断裁」。紙の工場や製本所で、機械が一瞬にして数千枚もの紙を切り落とすところを見ると、「なるほど、これは断裁だ」と実感できます。

イメージで言うと、「裁断」はハサミで切る手作業。「断裁」は一気に切り落とす機械の仕事ってカンジですかね。

少部数の書類をシュレッダーにかける時は、「断裁する」「裁断する」のどっちも使われていて、私は「裁断」と言うことの方が多いかもしれない。機械ですが、規模が小さいので。

このように、どちらを使ってもいいケースがある一方、出版業界や倉庫屋さんで、売れない本を廃棄するために切り刻む時は「断裁」しか使用していないと思います。すでに切り刻まないようですが、「本の大量廃棄」とイコールの言葉になっているわけですね。

なお、断裁の過程がなくなったこととかかわっているのか、現在は本を廃棄する費用を出版社は払わなくていいそうです。倉庫会社が廃棄にかける費用は古紙代と相殺ってことでしょう。

追記4:Twitterで@takashimtさんから、「古紙代金は相場によって変動するので相殺にならないことも多いです。逆にお金がもらえることもあります」と指摘されました。それを見込んで無料にしている業者もあるということのようです。

このエントリへの反応

  1. ははは、やっぱり松沢さんでしたか、刷部数の表示のこと。
    多分、松沢さんだと思ったんだけど、確信がなかった。

    倉庫は在庫1冊/月/2円です。もっと安いところもあるし、高いところもあるようです。だから松沢さんの予測通り、1000冊/年間/24000円です。

    筑摩などは、倉庫改善、として、POSデータで売れ行きを予測して、返品時点で、断裁するもの/改装するものとわけるようにしたそうです。たしか「どすこい出版流通」に書いてあった話のはず。

    あと、断裁というと全部捨ててしまうように思ってる人が多そうです。ポットも200冊残して、あとは捨てる、というようにしていて、断裁して絶版/品切れにすることはない。大手はわからんけど。

  2. 「これこれこういう意見があるんだけど、どうですか」と著者にお伺いを立てれば、なにがしかの意見は出てくると思うけど、いちいち奥付をチェックして、その意味を考えて自分から文句をつける著者はあんまりおらんのではないかなと。

    それと、全部断裁している出版社もありそうです。返本があるんだから、あとはそれを回せばいい。断裁してから品切れの期間が短かったので、たぶん筑摩はそうじゃなかろうか。

    また、採算ラインに達する程度には残している出版社もありそうです。無駄だと思うけど、そこは出版社の最後の夢ということで。

    断裁の話があまり表に出ないのは、著者に申し訳ないという意識もあるんですかね。通知しないで断裁する出版社もあることからしても。

    私は著者なので、「売れない本を断裁するのは当たりまえだっぺ。それがイヤなら売れる本を書け」と言えますが、そう思っていても、出版社はなかなか言えないですわね。

  3. 補足。

    今思い出したけど、部数表示の件は、他の出版社の人に言われたのがきっかけだ。「どうしてポットは部数を入れているのか」と聞かれて、「そういえばどうしてだろう。プラスになることは何もないかも」と思い、沢辺さんに聞いたら、とくに意味がないと言われて、「だったら、オレの本ではやめてほしい」ってことになったんだと思う。

    ゼロから自分で考えたんじゃなかったです。

  4. [...] 長くなるので、また次回。 [...]

  5. [...] まずは他人の訂正。「1975/図書館の中では見えないこと 5」に断裁について書きました。ネットではこれを「裁断」としている人たちがけっこういることに気づきました。 [...]

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