2009-05-25

お部屋1855/唐沢俊一のP&Gは無尽蔵

片っ端から編集者たちに確認したところ、1人を除いて、「唐沢俊一P&G(パクリ&ガセ)問題」がこうも拡大していることを知りませんでした。私も最近までその後のことを知らなかったわけですが、多くの編集者は、『新・UFO入門』の盗作騒ぎさえ知りませんでした。私よりは知られているにしても、さしたる知名度がある書き手ではないですから。

私自身、「唐沢俊一だから」ではなく、著作権がらみの報道を一通りチェックしているため、そのひとつとして『新・UFO入門』のことを知っただけのことです。著作権に興味のない編集者だと、わざわざチェックしないでしょう。「著作権に興味のない編集者ってどうなんか」と思ったりはしますけど、そんなもんです。

唯一、正確に「唐沢俊一P&G問題」を把握していた編集者は「唐沢俊一検証blog」「トンデモない一行知識の世界 2」をずっと読んでいるそうです。

「宅さんがコメントを書き込んで、続いて松沢さんがコメントを書き込んだので、どうなるんだろうってドキドキしましたよ」

宅八郎は「四方宏明の処刑」に忙しいようだし、私も東村山の問題に忙しいので、その後、これといった展開がなく、失望させてしまったとしたら申し訳ない。今後も、さして期待に添えないですが、この辺で唐沢俊一の話を入れておきます。

今回は、「1848/唐沢俊一か中村克か」「1850/唐沢俊一のブーメラン」の続きではなく、数日前に、「唐沢俊一 まとめwiki」を読んでいて知った話です。

「唐沢俊一 まとめwiki」「伏字に関する無知」というページがあります。唐沢俊一による原文はこちらです。

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 もちろん、思いがけない発見もあった。酒井潔『らぶ・ひるたァ』(昭和四年・文藝市場社)は、澁澤龍彦のネタ本でもある珍書だが、これも二冊、同じものがある。どうして二冊も買ったか、まるきり忘れていたのだが、このうち一冊は、昭和四年のこととて、ほぼ7割のページに検閲による無惨な空白があるこの本に、どういう好事家だかが、丁寧に、その空白にエンピツ書きで、検閲された部分を埋めている書き込みを付してあるシロモノだったのだ。どういう資料をあさったのか、マニアか編集者か(あるいはヒョッとして著者本人か?)が、事細かに、空白部分の文章を書き込んでいる。単なる想像の落書きなのかと思ったが、江戸時代の文献はその文体で、翻訳ものは翻訳ものらしく、ちゃんと文章を変え(さすがに漢文のところのみは手に余ったか空白のままだが)190ページ以上のこの本に最初から最後まで、その補綴作業を行っているのである。こんな貴重な本買っておいて忘れるなよ、と自分を叱りたくなった。

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叱るべきは、「こんな貴重な本を買っておいて忘れた自分」ではなく、「伏字について理解できていない自分」でしょう。

すでに「唐沢俊一 まとめwiki」で、的確に指摘した2ちゃんねるの書き込みがまとめられていますが、ちょっと前に、調べものがあって、改めて『らぶ・ひるたァ』の一部を読み直したところだったため、この記述のおかしさについて、さらに詳しく説明しておきます。

『らぶ・ひるたァ』は梅原北明が手がけた談奇館随筆の一冊です。この辺の本については、「閑話究題 XX文学の館」がなんと言っても詳しく、かつ正確。この中の「梅原北明とその周辺」のページに「らぶひるたぁ」と出ています。

最後が「ァ」だったり、「ぁ」だったりするのは誤植ではなく、この本の背表紙では「らぶひるたァ」、扉では「らぶ・ひるたァ」、目次や中扉では「らぶ・ひるたあ」になっていて、表記がまちまちなのです。「らぶ・ひるたあ」と最後が大文字になっているのは活字の問題でしょう()。したがって、「らぶひるたァ」でも「らぶ・ひるたァ」でも「らぶ・ひるたぁ」でも間違いではない。「閑話究題 XX文学の館」にある、ナカグロなしのひらがな表記「らぶひるたぁ」は本にはないですけど、まっ、どれでもいいってことで。

酒井潔には二冊の悪魔学に関する著書があります。『愛の魔術』(国際文献刊行会・昭和4)『降霊魔術』(春陽堂・昭和6)です。エロ関係の研究家や装丁家としてではなく、この二冊の著者として知っている人の方が多いでしょう。澁澤龍彦のオカルト研究は酒井潔から始まっていて、酒井潔に関する文章を残しており、澁澤龍彦が編集し直した新装版も出ていますから、この二冊は「澁澤龍彦のネタ本」と言ってもいいのかもしれませんが、『らぶ・ひるたァ』はおもに媚薬、秘薬について書かれたものです(後述のように、それだけではないのですが)。澁澤龍彦はこの本も読んでいたでしょうが、澁澤龍彦の著書はすでに手放していて手元にないため、『らぶ・ひるたァ』をネタ元にしている事実があるのかどうか確認できず。

この談奇館随筆に限らず、北明一派の出版物では、しばしば別刷の「伏字表」が作られています。検閲のため内務省に提出するのは本だけで、それに伏字表を同封して会員に郵送するわけです。これ自体、当局に見つかれば摘発されますから、信頼できる会員だけの特典です。

この手法は北明のオリジナルではなく、その前にもあとにも同様のものが見られます。宮武外骨のものでも「正誤表」として伏字表がつけられていたものがありましたし、検閲がなくなった戦後のものにもあります。「ありふれている」とまでは言わないまでも、決して珍しいものではない。

私の所有している『らぶ・ひるたァ』には、手書きの伏字表がついています。正規の伏字表から書き写したのでしょう。それを見て穴埋めをしたらしく、本文にも手書きで文字が書かれています。ところが、途中で読むのをやめたのか、書き写すのが面倒になったのか、半分も埋められていません。

唐沢俊一の所蔵本は、「漢文のところのみは手に余ったか空白のまま」ということですが、伏字表には、すべての文字が出ていますから、面倒で書き写さなかっただけだと思われます。

「唐沢俊一まとめwiki」に、このような伏字の知識は「古本に関する基本知識」とあります。「基本知識」とまで言っていいのかどうかわからないですが、エロ関係のものを集めている人、研究している人であれば、知らない人はほとんどいないと思います。

こういう話は発禁本についた書かれた本にも出てきますし、何かで読まなくても気づいてしまいます。この手のものに目を通していれば、「伏字表がついたもの」「伏字表を本文に切り貼りしたもの」「伏字起こしをしたもの(文字を書き込んだもの)」に必ず出くわします。また、古書目録を見ていても「伏字表つき」「伏字起」と注釈がつけられていることがありますから、気づかないでいられることが不思議です。

もうひとつ唐沢俊一の書くことにはミスがあります。この本は「190ページ以上」と書いてます。たしかに奥付の前ページを開くと、194ページになっているので、そこだけを見たのでしょう。

この本は、大きく二部に別れており、前半が「らぶ・ひるたァ」で、これが247ページ。これが終わると「性的見世物考」など8本の原稿からなる第二部が始まり(「第一部」「第二部」と書かれているわけではないのですが)、こちらが194ページです。

つまり、前半と後半は、それぞれ別のページ数がつけられていて、本文だけで440ページほどあるのです。

見た目からすると、それほどページのある本とは思いにくく、目次を見てもその構成がわかりにくいのですが、現に手元にあって、伏字までチェックしているのですから、気づいてもよさそうなものです。

伏字起こしを見て頓珍漢なことを書き、同時にページ数も間違っているところを見ると、「唐沢俊一は、この本を読んでないのではないか」と疑わないではいられません。この一文では、読んでいる必要はないかもしれないですが、伏字のあるような戦前の本を唐沢俊一はほとんど読んでないだろうと推測できます。

「唐沢俊一 検証blog」「トンデモない一行知識の世界」をやっている方々に対して、「よくもああも見つけるな」「よくもああも続くな」と感心していたのですが、得意分野であれば、私もP&Gを大量に見つけられそうです。パクリはともかく、ミスに関しては、私もそうは人のことを批判できる立場ではないので、ほどほどにしておきます。
 
 
注:「1764/瀬戸弘幸とは-10」「1814/際限なく広がる瀬戸妄想」に書いた「戦前、拗音・促音が小文字ではなかったのは、歴史的仮名遣いの必然ではない」という話はこういったところでも確認することができます。

このエントリへの反応

  1. [...] This post was Twitted by hugo_sb – Real-url.org [...]

  2. >「宅さんがコメントを書き込んで、続いて松沢さんがコメントを書き込んだので、
    >どうなるんだろうってドキドキしましたよ」

    この編集者の方の今の考えはわかりませんが、私はドキドキ継続中です。ときおり、お気が向いたときだけでも言及してくだされば、何だか幸せという感じで。今回の古本のお話も、そうなのかーと楽しく読ませていただきました。唐沢どうこうというのを抜きにしても面白かったですし。

    宅八郎さんのサイトの方も、これもP&Gつながり (?) ということで楽しく拝見させていただいています。

    ところで、2ちゃんねるのスレもチェックなさっているということですが、こんな書き込みもありましたです。

    ——-
    662 :無名草子さん:2009/05/26(火) 09:27:59
    >>640
    この件については以前から是非松沢氏に感想を聞いてみたいと思っていた。
    松沢氏に聞いてみたいと思っていた事は他に二点あって、そのうち一点はこれ↓

    「裏モノ日記」1999年12月24日(金曜日)
    http://www.tobunken.com/diary/diary19991224000000.html
    >古本業界の噂話いろいろ。古書ゴロのOの近況などを聞く。いまだ
    >あちこちの出版社にもぐりこんで、全集編纂のスタッフに名を連ねようと
    >しているらしい。Oの弟子を自称するMも、伊藤晴雨関係で同じことを
    >やろうとして見事に失敗していたよなあ。そのあと、晴雨コレクターの
    >故・I女史からMの醜態を聞いたのは近来の痛快事だった。Mが古書関係
    >から撤退したのも、これが原因のひとつだろう。

    この「M」とは松沢氏のことだろうか?
    唐沢が事実を歪めて書いていることは想像に難くないが、実際はどんな話
    なんだろう?
    ——-
    確かに、唐沢日記には引用の通りのことが書かれているのですが……全然関係ないMさんの話だったら、すみません。

  3. これは読んでました。

    何を書かせてもデタラメな唐沢俊一のすごさに私も虜になりつつあります。改めて取りあげるとしましょう。

  4. [...] このあいだ出版業界の方にお話を聞いたところ、「唐沢俊一検証blog」は業界関係者の間でよく読まれているとのことでした。おかげで影響も出ているとかいないとか。 ———————————————————————— 「お部屋1855/唐沢俊一のP&Gは無尽蔵」に【片っ端から編集者たちに確認したところ、1人を除いて、「唐沢俊一P&G(パクリ&ガセ)問題」がこうも拡大していることを知りませんでした】と書いたことによって、ウィキペディアの唐沢俊一の項に【出版業界の多くの関係者は唐沢の盗作問題にあまり興味を持っていないという声もある】と記述されてしまいました。 出版界全体で言えば、今も多くの人たちは積極的な興味を抱いていないでしょうが、周りの編集者たちは、私のプロモーション活動によって、少なくとも「唐沢俊一検証blog」の存在は知ってますし、熱心に読むようになった編集者もいます。 [...]

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