2011-09-28

デジクリ連載13 ■すべての出版物をデジタルに向けて出発した「出版デジタル機構」

しょっぱなからお知らせ。来週、10月3日(月)19時から、新宿ロフトプラスワンで「出版社が電子書籍に取組む方法(実務編)──中小出版社の電子書籍戦略と出版デジタル機構」を開きます。先週発表した、出版デジタル機構の最新情報も報告し、積極的な質疑応答を展開したいと思います。ぜひご参加を。
< http://www.hanmoto.com/news/2011/09/20/digital-loft/ >

さて、ポット出版では2010年年明けから、紙の本の新刊発行と同時に.book形式の電子書籍の販売をボイジャーストアで始めた。だけど、結果はカンバシくない。だいたい二桁の実売だ。まあ予想通りではある。負け惜しみでもある。

なにが足りないのか? 電子書籍のタイトルが少なすぎるということにつきると思う。このデジクリでも何度か書いてきたように、数10万のタイトルが必要だ。ジュンク堂なみの品揃えがあって、はじめて読者たちが電子書籍を一つの本のカタチとして受け入れるのだろうと思う。

だから、まず自社から取組みを開始したし、仲間たちと一緒にやってきた「版元ドットコム」でも取組みはじめた。とはいえ、これだけではジュンク堂なみの品揃えにはならない。出版業界の大手から零細までの既刊本を電子化しなければ、ジュンク堂なみにはならない。

ちなみに、一年間に発行される本は1位が講談社で千と数百、1000位で年間10タイトルくらいの発行。ポット出版が12〜16タイトルってところ。実に多くの出版社が出版活動をしているのだ。

そこで、出版デジタル機構が必要だったのだ。今年の春から、さまざまな出版社が取組んできて、やっとプレスリリースまでこぎ着けた。もう何日かで設立準備室を開いて、日々具体的な準備をはじめる予定。21社(インプレスホールディングス・勁草書房・講談社・光文社・集英社・小学館・新潮社・筑摩書房・東京大学出版会・東京電機大学出版局・版元ドットコム〈代表:ポット出版・ほか6社〉・文藝春秋・平凡社・有斐閣の出版社20社〈五十音順〉)が名を連ねた。
プレスリリースなどはこちら
< http://www.pot.co.jp/news/20110914_232615493925385.html >

●出版デジタル機構は株式会社ということに大きな可能性がある

この出版デジタル機構は「すべての出版物のデジタル化を目指して」を目標にしている。具体的には、出版社の電子書籍化とその販売などのサポート、図書館への販売、著作権者への収益配分の代行、などと同時に「国内で出版されたあらゆる出版物の全文検索を可能にする。」も目的のひとつとした。

出版デジタル機構は、本当にこうした目的を達成できるのだろうか? 困難も山ほどあるけど、ボクは可能性も充分あると思っている。発表後には「いくつ団体をつくれば気がすむのか?」のようなツイートもあった。確かに去年の電子書籍の大流行の際には、いくつもの業界団体ができた。ただ今回決定的に違うのは、株式会社を設立する、ということだと思っている。

業界団体の多くは、会費などを徴収し会費収入で運営されている。専従のスタッフもいるけど、出版社の社員がその出版社の仕事として業界団体の仕事をしていたりもしていて、これらは見えない寄付のように機能している。最大手の講談社や小学館などは、社員をなかば専従のように「派遣」していたりする。業界団体は自立できていないのだ。したがって、意見の食い違うことは実行できないし、どんなことを決めても参加出版社に取組む義務がないことが多い。

こんどの出版デジタル機構を、株式会社として設立することの大きな意味はここにある。株式会社である以上、単独でお金が回っていかなければやがて倒産だ。出版社全社の合意がなくとも事業方針を決定できる。そのかわり、多くの出版社に利用されるように営業に回らなくてはならない。なんとなく合意できることを決める、ではないのだ。後ろは倒産という断崖だ。このことを、少なくともこのプレスリリースに名を連ねた20社は共有したのだ。

●すべての出版物のデジタル化の先に見えるもの

出版デジタル機構は、なにをするのか? もう少し具体的なイメージを紹介しよう。といっても、以下は少々ボクの妄想が混じり込んでいる。全体の合意にまではなっていない。

すべての出版物をデジタル化するのだ。そうすれば、まず第一にジャパニーズ・ブックダム=全文検索一部表示だ。これはすでにリリースでも公表されている。この出版デジタル機構が独自にこのサービスをするのか、国立国会図書館などと共同でおこなうかなどはこれからの課題だけれど、その前進に具体的な一歩を踏み出した。

第二に、これはかなりボクの先走りだけれども、すべてをデジタルにするのだから、今、読者が紙の本で持っている本のデジタルデータを提供することを考えたいと思っている。たとえば、自炊代行業者に宅配便で送るように、出版デジタル機構に送ってもらえればそのデータか閲覧権を提供する。

読者からみれば、持っている本の記録と検索性が高まる。出版社からみれば、読者の本棚に空きが出て、思う存分本を買ってもらうことができるのではないだろうか?

第三に、著作権者のデータベース化が進み、利用度合いに見合った使用料で著作物の利用を可能にするこができそうだ。

これらはボクの妄想の度合いが強い。ほかにもアイデアはどんどん湧いてくると思う。こうした環境が整えば、その環境を利用した新しい商売を生み出す、新しい人たちが出てきてくれる可能性が広がるとも思う。

そこで、デジクリ読者にお願いです。よくお客が店を育てるって言うじゃないですか? ここはイッパツみなさんにぜひ、すべての出版物のデジタル化とその活用を育てていただきたい。どうするって? デジタル化されたすべての出版物を使った新しいサービスのアイデアがあれば、ぜひお知らせ下さい。自分でできることがあれば取組んで欲しい。

それから10月3日(月)に新宿ロフトプラスワンに来て、電子書籍と出版デジタル機構についてのさまざま意見を聞かせて欲しい。
そうです、10月3日に直接お会いしましょう。

◎版元ドットコムpresents
出版社が電子書籍に取組む方法(実務編)
──中小出版社の電子書籍戦略と出版デジタル機構

出版デジタル機構設立準備連絡会が発足して、出版界が既刊本の電子化に本格的に取組む第一歩が踏み出されました。一方、中小出版社でネットワーク対応を強化するなどの取組みを行ってきた版元ドットコムは、機構に参加しながらも、電子書籍市場の確立に自立して取組んでいこうと思っています。

9月には.bookを開発したボイジャーと共同して、版元ドットコムストアもオープンさせました。しかし現実の電子書籍の制作や流通は過渡期であるために、日々変化しています。最新の状況を共有すると同時に、電子書籍を実際につくるにはどう考えてなにをするのか、実務的にも掘り下げて提起します。

電子書籍のとりくみを本格化させようという中小出版社向けのイベントですが、電子書籍や出版に関心もっていただける方も一緒にオープンな議論をしたいと思います。

(主な内容)
・電子書籍はどうなっていて、どうつくるのか? 
・版元ドットコムストアを突破口に電子書籍に習熟する  
・出版デジタル機構で版元ドットコムはなにをしようとしているのか
日時:2011年10月03日(月)Open 18:00 / Start 19:00
会場:ロフトプラスワン(新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2 TEL 03-3205-6864)
出演:沢辺均(ポット出版)
萩野正昭(予定 ボイジャー)
鎌田純子(予定 ボイジャー)
仲俣暁生
料金:1,000円(+飲食代)
申し込み< http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/reservation/reservation.php?show_number=196 >

【沢辺 均/ポット出版代表】twitterは @sawabekin
< http://www.pot.co.jp/ >(問合せフォームあります)

ポット出版(出版業)とスタジオ・ポット(デザイン/編集制作請負)をやってます。版元ドットコム(書籍データ発信の出版社団体)の一員。NPOげんきな図書館(公共図書館運営受託)に参加。おやじバンドでギター(年とってから始めた)。日本語書籍の全文検索一部表示のジャパニーズ・ブックダムが当面の目標。