2004-10-12

誰も知らない

4人の子どもたちの生きる姿が目に焼きつく
誰も知らない

「誰も知らない」パンフより 第57回カンヌ国際映画祭で、この映画の主演俳優・柳楽優弥くんが史上最年少で主演男優賞を受賞した。今年5月、この華やかなニュースが日本中を駆け巡った。しかし、映画の内容は、その華やかさとは大きくかけ離れた、実在の「子ども置き去り事件」を題材にしたものだった。

友人から、「観た後、数日経ってもシーンを思い出すたび涙ボロボロ」と聞いていたので、「うわーっ、悲惨でかわいそうな話なんだー」と勝手に想像しながら映画館に行った。

確かに、テーマは重く、気がつくと涙が流れている。でも、不思議と置き去りにされた子どもたちを「かわいそう」だとは思わなかった。
それよりも、「子どもって、なんて素晴らしいんだろう! どんな些細な日常にも喜びや幸せを見つけ、ただ生きることそのものに喜びを感じられる生きものなんだなぁ」と、本来、子どもが持っている無限大の可能性に気づかされ、そこにいたく感動してしまったのだ。

「誰も知らない」パンフレット 子どもたちが置かれた状況は、確かに悲惨だ。
父親の違う4人の子どもをひとりで育ててきた母親が、新しい恋人と幸せになりたいからと、子どもたちを置いて家を出てしまう。戸籍もなく、学校にも行かず、周囲の大人にその存在を知られることなくひっそりと生きてきた子どもたち。それが、唯一の庇護者であった母親から見捨てられてしまうのである。
この映画は、残された4人の子どもたちが、周囲の大人に頼ることなく、秋から冬、春、夏へと移り変わる季節をどうやって生きて、暮らしたか、それを追った物語だ。最初のうちはあった母からの送金も、徐々に途絶え、子どもたちが暮らすアパートの電気やガスは止まり、暑い夏になってからは、水さえも止められてしまう。どんどん薄汚れていく子どもたち。しかし、子どもたちはたくましい。
子どもたちが外で拾ってきた土を、カップラーメンの空いた器に入れ、種を育てるシーンがある。大人の発想でいくと、「食べられる野菜の種を買ってきて育てる!」なのだが、子どもたちは道端や工事現場で拾った雑草の種を植えて育てるのである。
大人から見捨てられた子どもたちが、自分よりももっと弱い小さなものを保護して育てようとする、その姿に胸をつかれる。

YOU演じる母親は、最初から、柳楽優弥くん演じる長男の明に頼りっぱなしだ。
小学6年生。うちにも同じ年の子どもがいるが、誤解を恐れずに言えば、彼女が頼りたくなる気持ちもよくわかる。
小学6年というのは、ちょうど思春期がくるか、こないかの時期で、子どもらしい素直さと、妙に大人びた面を持ち合わせている。生意気を言いながらも親の言うことには逆らわないし、妙に大人びた正義感もあるから、頼りにされたらその頼まれごとを全うしようとする。映画の母親は、そこにつけ込んだのである。
わが身を振り返って、考えさせられることがたくさんあった。
子どもを見捨てないまでも、子どもの本来の姿、可能性ある未来を見ずに子どもの良さをつぶしている大人がたくさんいるのではないか? 子どもはただ、庇護するだけの存在ではない。でも、だからこそ、無限大の可能性を持った子どもを守る義務が大人にはある! そんな力強いメッセージもこの映画からは感じられた。

この映画の監督、是枝裕和は、主に、テレビのドキュメンタリー番組を作ってきた人だ。初監督作『幻の光』で第52回ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞。この映画に主演した江角マキコは自然体で、とっても美しかった。この映画の子どもたちも、長い時間をかけて自然体の演技を引き出したようだ。柳楽優弥くんの主演男優賞もこの演出力があってこそだったのだろう。