2006-04-02

アメリカ,家族のいる風景

もうひとつのアメリカを
じんわり堪能できる
アメリカ,家族のいる風景

観終わったあと、不思議な感覚に包まれる。

おちぶれた映画スターの主人公は、ただただ身勝手な男なのに、なぜか憎めない。老境に達して、「自分の人生なんだったんだろう」と振り返り、30年もほっぽらかしていた母親に会いに行くことからして、超身勝手。しかも、その母親から「あんたには実は子どもがいるんだよ」と知らされ、かつて見捨てた女が住む街に、子探しに行くにいたっては、情けないを通り越してかっこわるい。それなのに、憎めない。その人間くさくて、情けない生き様に、「人生ってそうだよなぁ」と心傾いてしまうのだ。

この映画は、20年前、カンヌ映画祭でパルムドールに輝いた「パリ、テキサス」のコンビが再びタッグを組んだ作品だ。監督ヴィム・ベンダース、脚本サム・シェパード。しかも、20年前には叶わなかった、サム・シェパード主演が、今回は見事叶って、かっこわるいサム・シェパードが堪能できる。しかも、かつて見捨てた女の役を、私生活のパートナーであるジェシカ・ラングが演じている。彼女は年を召してても相変わらずかっこよくて、見ほれてしまったのだが…。

ハリウッド大作映画ばかり観ていると、アメリカには正義感に満ち、常に前向きな善人か、強烈な悪人しか住んでいないのではないかという錯覚に陥る。一方、アメリカのインディーズ系映画を観ると、アメリカにもごくごく普通の市民が生活しているのだなぁと安心するのだが、この映画は、ドイツ人であるヴィム・ベンダース監督が、アメリカを撮っているので、何とも摩訶不思議な雰囲気に包まれた映画になっていると思う。ドイツ映画でもない、アメリカ映画でもない、ヴィム・ベンダースの世界がそこにあるのだ。
この映画を撮って後、ベンダース監督は長年住んだアメリカを離れ、ドイツに戻ったのだという。

そのベンダース監督が、写真家のドナータ夫人と共に撮りおろした映像・写真を公開する「ヴィム&ドナータ ヴェンダース写真展」が4月29日(土)〜5月7日(日)まで、表参道ヒルズ地下3階の「O(オー)」で開催されるという。

このエントリへの反応

  1. ラビリンス@アメリカ、家族のいる風景
    サム・シェパードが何かを追う。
    ティム・ロスがサム・シェパードを追う。

  2. はじめまして、
    たまたまTVで「アメリカ,家族のいる風景」を見ました。(少し始まってしまったところから、、)
    このドラマにはとても感動しました。
    役者の演技の上手さも素晴らしいと思いました。
    最後のタイトルではじめてヴィム・ベンダース作だと知り納得しました。
    見終わって、さっそく検索してみました。
    TVステーションというところで酷評されてるのを発見し驚きました。
    人の感じ方というのは随分違うものですね。
    コレは傑作だと自分は思います。
    この映画の価値は、人生で耐えられないような苦しみを味わった人にしか分からないのかもしれない、、。
    私は息子と父親両方の気持ちで見ました。
    特に、窓から家具などをほおり投げる息子に若いときの自分の悲しみ怒りを思い出しました。
    何故か?とても癒されました。
    自分の過去の苦しみを客観的に、肯定的に見れた感じです。
    また少し年取った今の自分を父親と重ねて見ていました。
    エンターテイメントというより小説家か芸術作品ですね。
    本当に大切な素晴らしい映画でした。
    DVD買おうかな??