2009-10-16

うたぐわさんインタビュー(前編)

1237339026786.jpgインタビュー「人気ブログの著者、うたぐわさんってどんな人?」(09.9.23 エフメゾにて)

うたぐわさん/人気漫画ブログ「♂♂ゲイです、ほぼ夫婦です」の著者。
1966年生まれ。B型。フランス(パリ)が苦手。

インタビュアー/伏見憲明(エフメゾママ)
 
 

● 伏見憲明はうたぐわさんの赤木春恵?

伏見 今日はゲイバーの片隅で地味にインタビューするつもりだったのですが、こんなにたくさんのお客さんが集まって、さすが人気ブロガーはすごいですね。若いゲイのお客さんは漫画のファンなのか、うたぐわさんの体を求めてきたのか、よくわからないのですが(笑)。それでは改めまして、うたぐわさんです! 

うたぐわ あ、体のほうはいつでも応じますので。みなさん、うたぐわです。ありがとうございます。

〜拍手〜

伏見 ……最近、小説以外はママ業しかほぼやっていないので、インタビュアーとしての頭が働かない。何から話そうか……。

うたぐわ 元々すごくホモフォビアのフォビ子だった僕が、行かなくなっていた二丁目にもう1回行ってみようと思ったきっかけが、十数年前、伏見さんの『性のミステリー』あたりの著作を読んで、今はちょっと違ってきてるのかなと思ったことでした。ですので、本当になんて言うんでしょう、僕にとって伏見さんは学校の先生よりもっと上の、校長先生のような存在なんです。

伏見 それもオンナ校長?(笑)

うたぐわ 赤木春恵ですね(笑)。だから本当に今日は緊張しておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

伏見 うたぐわさんのブログ漫画、あまりにも素晴らしいので僕もすごいファンなんです。ゲイリブ的にも近年ないヒット。考えてみたらうたぐわさんと仕事で絡んだことって、これまでない。あれ、1回くらいあった?

うたぐわ 『同性愛入門』(ポット出版)で……。

伏見 あ、1回はやってたんですね。1回は「やってた」って言うのもヘンだけど(笑)。

うたぐわ 『同性愛入門』のときに、僕はリーマン担当として登場しました。

伏見 そうでしたね。当時はまだリーマンでメディアに顔が出せる人が少なかったのでお願いしました。すいません。僕も20年近くこんな仕事をやってきて最近ちょっと認知症も入っているので、むかしのことをすぐに思い出せなくて……。ブログはいつから始めたんでしたっけ? いつもこれ、タイトルをなんと読んでいいのか迷ってしまうのですが、「ゲイです、ほぼ夫婦です」でいいの?

うたぐわ そうです。最初の「♂♂」は発音しなくていいです。スタートは今年の1月3日です。

伏見 改めて読み返したのですが、すごい分量ですよね。

うたぐわ 今、230話です。(*09.9.23時)

伏見 サラリーマンとして仕事もされていて、生活のエネルギーを全てそこにぶつけているわけでもなかろうに、異様なパワーですね。

うたぐわ いや、大部分そこにぶつけているかもしれない。「おまえ、サラリーマンだろう」って突っ込まれそうなんですけど(笑)。

伏見 持続しているっていうのがすごいなあと思って。書籍化の予定とかは?

うたぐわ はい、遠からず出版することになりました。今は「書き下ろしはどんなエピソードがあったらいいですか」というアンケートを取っているんですが、とりあえず「もうこれは鉄板ですね」くらいなものから書き始めているところです。

伏見 うたぐわさんは元々芸達者な方で、以前は小説を書いて文学賞でもいいところまで選考に残っていましたよね。10年くらい前ですか。

うたぐわ 10年前に「小説すばる」の新人賞に応募しました。伏見さんは文藝賞を見事勝ち取られましたけれど、僕はファイナリストまでは行ったんですけど、ちょっとダメで、まあ小説はしばらくいいかなとなって。

伏見 最後まで残ればあとは運だから、実力とは関係ないと思いますよ。それにしてもうたぐわさんはどの方向に行かれても成果を上げてしまうんですね。ダイエットも成功するし、料理もお上手だそうですし、リブの活動に関わっても頼られるし、編集もできるし、絵も描けるし、歌もお上手だし……。今回どうしてブログで漫画をやろうと思ったのか、その執筆動機からお聞かせいただけますか。
 
 

● メディアのゲイ表現と現実との距離

うたぐわ やり始めたときは、特に動機は考えていませんでした。なんで自分はこれをやるのかという動機っていうのは、あとから見つかったりするじゃないですか。それでその動機には2つあって、1つ目はベタなんですけど、ゲイが出てくるテレビドラマ、映画、漫画とかいろいろありますが、僕がこうやってゲイとしてだったり、ゲイとしてじゃなくだったり暮らしていて、あるいは、たまに「ああ、やっぱり自分はゲイなんだなあ」と思ったり、人ごとのように「ゲイってホントにねー」みたいな感じになったりする毎日と、テレビや映画が描くゲイとは、ちょっと距離があるなというふうに感じたんですね。もちろんその中にも、すごくいいものはいっぱいあるし、好きなものもいっぱいあるんですけど、やっぱり距離があると感じることが多いので、もうちょっと自分の毎日と近い、ピッタリしたものを作りたいと思ったのが、まず1つ目の大きな動機です。

2つ目は、90年代の「ゲイマーケット」みたいな、そういった幻想が壊れちゃった中で、僕なりに1つの仮説があるんです。それは、ゲイっぽいものを作って、それをゲイに買わせようとするから売れないんだということ。ゲイっぽいものを作ったら、ノンケに売ってごらんよって思ったんですね。それをもしノンケが買ってくれたら、ゲイも絶対買うんだからと思っていて。まあ、もしお話をいただいて上手くビジネスに結びつくんだったら、この仮説が証明できるんじゃないかっていう気持ちになった。あと付けですけど、動機というのはこの2つです。

伏見 うたぐわさんはサラリーマンの激務をこなす日々だと思うんですけれど、それであえてそういうことをやろうとするのは、何かを表現したいという表現欲からですか? 会社から家に帰って、あれだけのものを毎日毎日書くエネルギーというのは、一体なんなんだろう? 

うたぐわ とりあえず世の中がこのような経済状況で、会社だっていつまであるのかわからないし、会社だけに自分のお財布を依存するのではなくて、何か1つ、「僕はこれがあるから生きていけるよ」というものが欲しかったというのはあります。だから、ただ描くだけじゃなくて、きちんとビジネスに落とし込みたいと考えてます。

実はこのブログを始める前に、例えば「アフィリエイトやドロップシッピングで、みんなどのくらい儲けているの?」といろいろと嗅ぎ回って、やってみようと思って去年から準備もしていたんです。でも、どうも最初にやった人だけはおいしい思いができるけど、あとから参入した人は全然おいしくないんじゃないの、というものだという感触があって。

それで、去年はずっと、「じゃあ僕が売れるものって何があるだろう」と考えていて帰着したのが、「売れるものはネタしかない」ということ。僕の漫画を読んでくださったらわかると思うんですけど、いろんなことがある毎日を過ごしてきたので、自分でも「よくこんなにネタがあるな」とか思っているんですけど、あれは演出はしているけどほとんどが実話なんです。しゃべったらみんな受けてくれるので、しゃべりで受けるんだから、描いても受けるだろうと。

伏見 あぁ、ビジネス的な目標、自分の人生設計的な意味合いがあったんですね。うたぐわさんはその前は「オールアバウトジャパン」をやっていたわけでしょう。あれも多少はギャラになったんですか?

うたぐわ 多少はギャラになりました。

伏見 でもそうではなくて、もっとちゃんと稼ぎたいと思われたんですね。
 
 

● 「みんなのため」は面白くない

うたぐわ ちゃんと仕事にしたいというのはあります。あと、「オールアバウト〜」には同性愛コンテンツが1個しかなくて、そうすると個人的なものが出せなくなっちゃう。要はレズビアンの人の気持ちも汲まなきゃいけないし、ゲイと言ってもいろいろなセグメントがあるじゃないですか。女装する人とか、サラリーマンだったり学生だったり。あとはクラブ好きな人だったり、ハッテン場によく行く人だったりというのがあって、そういうのを全部一応は包括してますという体裁でやらなきゃいけなかったので、誰からも文句を言われないように書いちゃって。そうして「みんなのために」にしちゃうと、誰にも必要のないものになっちゃう感じがあって。

伏見 表現として面白くなくなるんだよね。政治的に正しくなればなるほど面白くない、いろんなところに配慮して民主的になればなるほど面白くないというところはありますよね。ぼくのエッセイが面白くないのはそれが染み付いているからなんだよね(笑)。

うたぐわ そんなことないです、面白いし勉強になりますよ(笑)。で、その中でもとんがってやってはいたつもりだったんですけど、ゲイシーン的な動きも、昔のようなスピード感でどんどん進んでいくということもなくなった中で、進まなくなると今度はどんどん広がっていっちゃうじゃないですか。

伏見 拡散していっちゃう。

うたぐわ そう、状況が拡散していっちゃうから、僕が何か書いたってしょうがないんじゃない? という気持ちになって、じゃあもっと若い人にこれをやってもらうほうが、結局は面白いものができるんじゃないとか思って、他の方にやってもらうことになりました。そんなに若くはないですが(笑)、ゲイシーンに愛情たっぷりな方が引き受けてくれました。

伏見 もっと個人的に表現したい欲求というのが、うたぐわさんの中で膨らんでいった感じがあるんですね。

うたぐわ はい、あります。「オールアバウト〜」の中でも、グチャグチャに描いたような漫画とかもたまに載せてたりしていました。「オールアバウト、見てます」と言う人にも「漫画イイッすよね」という反応がけっこうあったので、「あれがいいの!?」とも思ってたんですけど、まあ、あの中で切り取ってリソースとして持ち出すとしたら、もう漫画の部分くらいしかないなあと思って。

伏見 なるほどね。何かを伝えるときに、文章だけだともう読まれないから、漫画ならいけると。

うたぐわ 特にネットだとあんまり長文を読まないですよね。

伏見 うたぐわさんのブログを拝見して、やっぱり漫画というのはすごいメディアだなとつくづく感じました。

うたぐわ ああ、僕もそれは思いました。

伏見 エフメゾに来る若いお客さんには、僕の仕事や名前を知らない人もいっぱいいて、「ママって本なんか書いてるんですか」ってよく言われるんです(笑)。だけど、そう言う子たちでも、うたぐわさんのブログはみんな見ている。

うたぐわ そういえば僕が伏見さんと初めてナマで会ったときに、伏見さんご本人だとわからなくて、「この人はゲイのためにいろいろと本を書いてる人なんだよ」と大塚隆史さんから言われて、それで「ああ、伏見憲明みたいな人ですか?」って聞いちゃった。伏見さんが目の前にいるのに(笑)。

伏見 そうだったっけ?

うたぐわ 本に載ってる伏見さんの写真とはだいぶ……あの……お若いときの写真しか見ていなかったので(笑)。

伏見 それはよくある現象です(笑)。僕が名前を名乗ったら後ろに3メートル飛んだ奴がいて、「伏見憲明ってこんなにデブなんですか!!」って。

ともかく、本当にうたぐわさんのブログは若い人たちによく見られている。僕が雑誌の「クィア・ジャパン」をやめちゃった理由は、活字でやってももはや全然伝わらないということ。ゲイ雑誌が求められるような状況ではないので、なんだかもういいかなっていう気分になってね。うたぐわさんと一緒で、僕もいまは個人的な表現にシフトしているので、ぼちぼち小説でも書いていければいいかなあと。まあ、それとは別にゲイの戦後史の論文も用意しているんですけどね。

うたぐわ 個人的なものを読んだほうが面白いですよね。
 
 

● 自分の生活の中に、友人としてゲイをキャスティングしたい

伏見 うたぐわさんのブログは一般の人気ブログランキングでも上位にランクされていますね。

うたぐわ アメーバブログの絵日記部門で1位になっていました。

伏見 読者層はどんな内訳になっているわけですか。

うたぐわ 僕のブログにアクセスしてくれた人で、ヤフーに自分の情報を登録してる人に関しては、自動的に集計されて、データとなって日々見ることができるんですが、年齢層では1位が40代です。

伏見 ほう!

うたぐわ 2位が30代。40代と30代で60何%くらいで、男女比は、これがへぇ〜と思うんですけど半々なんですよ。僕は圧倒的に女の人が多いんじゃないかなと思っていたんですけど、男女比は半々でした。職業は1位がやっぱり会社員、2位が主婦。大体更新するのが12時なので、12時にガーッとアクセスが上がるんですけど、1日に3回の波があるんです。更新時間の12時にガーッと1回上がって、次は朝の9時、そして昼の12時に。だから朝の9時と昼の12時は、これはもう明らかに会社員のアクセス。夜の12時は、いろいろな人がいるんだろうなあとは思うんですけど。

伏見 若い人ばかりではなく、むしろ上の年代が多いんですね。意外です。

うたぐわ 若い人よりは、アラフォーと呼ばれる年代が一番多いんじゃないかな。若い子にしっくりくる絵柄というよりも、もうちょっとお兄さん、お姉さんの年代のほうにくるのかなと思ってるんですけど。

伏見 ファンメールやコメントもいっぱい来るわけですよね。そういうのを読んだ印象だと、読者層別に見るとどんな受け止められ方をしていると分析されているんですか。

うたぐわ 職業ではあんまり分かれないと思っているのですが、1個の大きな塊として、ゲイと友達になりたいっていう女の人がすごくいっぱいいるんです。

伏見 それは「腐った女子」と書く人たちのこと?(笑)

うたぐわ 腐女子とはまた全然違うんです。自分の生活の中に、友人としてゲイをキャスティングしたいっていう、そういう欲求が女の人にはある人が多いらしいんですね。

伏見 昔だったら「おこげ」というジャンルかな。

うたぐわ いや、追っかけじゃないんですよ。ゲイが自分の身近にいて欲しいということ。例えばちょっと毒っぽくダメ出しされたり、相談したいときはゲイ独自な目線でそれを返してくれたり、そういうことをしてもらいたいという女の人が結構いるんです。その女の人たちは女の人たちで、女の人的な優しさもすごく持っているので、「私もゲイをかわいがってあげたい!」みたいな、そういう気持ちが強いんじゃないかなと思うんですね。

伏見 それは著者的には気持ち悪くないんですか?

うたぐわ …………(笑)。ぶっちゃけ言うと、ぜんぜん気持ち悪くない人から、すごく気持ち悪い人までいます(笑)。

伏見 ちなみに気持ち悪い人はどこが気持ち悪いの?

うたぐわ なんでしょうね。自分の思い通りのことをしてくださいみたいな、呪いみたいな気持ちが根底にあるというか。

伏見 語尾には必ず「〜よ」とか「〜わ」をつけて欲しいとか、そういう縛りがあるということ?

うたぐわ 思い通りになってない漫画を上げると、すごくジットリしたメールを送ってくるとか。

伏見 例えばどういう系統ですか? その人たちに気に入られない漫画の内容は。

うたぐわ 例えばツレちゃんに対してちょっと不本意な発言を書いたりすると、「あんまりツレちゃんにそういうことをしてると、なんとかかんとかですよ」と。ここで僕が一言で言うとすごく短いように思われますが、ものすごく長いメールを送ってきたりとか。

伏見 それは読者の、うたぐわさんとツレちゃんに対して理想のカップルでいてほしいっていう願望?

うたぐわ うん、多分その人は、悪い人じゃないんだろうけど、固執しちゃうところがあるんだろうなと思ってます。で、僕としても「そうですねえ」みたいな感じなんですけど。ときには、「なんでわざわざそういうこと言うかな?」みたいなものもある。

伏見 腐女子の場合には、美形同士というのがあるけど、うたぐわさんの場合は、絵柄からしてもそういうカップルじゃないから、腐女子的な思い込みではないんですね、それは。

うたぐわ 腐女子の方からのアプローチもいっぱいありますけど、腐女子は腐女子で、また違う。僕らもゲイについてメディアが書くと、「そんなゲイばっかりじゃありません!」「ゲイのことを誤解してます」「ゲイのことを決めつけてます!」みたいになるじゃないですか。腐女子も同じで、腐女子がくださるお知らせとして、「そんな腐女子ばっかりじゃありません! あなたは腐女子を固定観念で見ています!!」「そういうんじゃない同人誌だってあります」とかが少なくない(笑)。僕はもっと彼女たちは腐女子をヘラヘラやってるのかと思ったら、けっこう真剣にやってる人もいて、自分たちの世界を曲解されたくない。できれば理解して欲しいという思いがある。まあ、全員がそうだとは言いませんけど、そういう人も結構いるっていうことですよね。

この前、ちょっとボーイズラブっぽい、「やおい穴」っていう漫画を上げて、「ヤオイ」とか「ボーイズラブ」という単語をテキストで入れたら、携帯ではアダルトコンテンツと見なされて、それだけで携帯でアクセスできなくなっちゃった。腐女子の人ってものすごいアゲインストの中でがんばっているんだなあみたいな。だからそうなっちゃうのもちょっとわかるなあみたいな。

伏見 でもむかしのゲイに比べたら緩いよね。だって腐女子の本は、そこらの本屋でだって置いてあるけど、ホモ雑誌は売ってなかったからね。

うたぐわ それは経済的な問題もあるのかも……。腐女子ほどゲイが本を買わないから悪いんだと思うんです。腐女子は1回5000円、1万円って買っていくから置いてあるわけで、ゲイがケチだから悪いんですね(笑)。ゲイだって本をいっぱい買うのであれば、売り場は増えると思うんですけど。まぁ、ゲイに特化したものをゲイ自身があんまり求めてないかもだし、腐女子とちがってクリエイターが少なすぎるってのもありますけどね。
 
 

● 意外と多いノンケ男子の読者

伏見 じゃあちょっと話を戻します。ゲイとお友達になりたい層が1つと、もう1つは何になるんですか。

うたぐわ メールの本数として多いのは、海外に住んでいて、「私の住んでる国では、ゲイってこういう風な感じですよ」というパターン。日本にいる人とコンタクト取りたいというのと、ゲイにちょっとシンパシーがあると、日本人でゲイだったら、この話で仲良くなれるかもという感じのメールだったり、そういうのが多いですね。
 今はメールを受け取らなくしてるので、だいぶ減ったんですけど、もらったメールの中では、3.5割くらいがそういうメールで、一番多いのがお悩み相談系だったり、あとは二丁目情報系だったり。

伏見 お悩み相談はゲイからですか? 女子からですか?

うたぐわ 女子のほうが多いですね。ゲイと女子と両方ありますけど、ゲイからは「好きな人がいて、こんな反応なんだけどどう思う?」系だったり、「カムアウトしたらこんなことになっちゃったけど、どうしたらいい?」系だったり。でもやっぱり恋の相談がすごく多くて、そうなるとすごいしんどいので。

伏見 全部には返事を書いてられないよね。

うたぐわ うん。やり取りが発生しちゃうと、何往復も書かなきゃいけなくなって、結構メール書くのってすごい時間かかるじゃないですか。前は1時間くらい、仕事中に書いてたりした(笑)。でも仕事中にこんなことやってちゃダメと思って、「申し訳ないけどできません」ということにしたんです。

伏見 ゲイの読者は何割くらいという感触なんですか。

うたぐわ ゲイの読者は、僕の感触では……まあゲイですという印が付いてるわけじゃないからわからないんですけど、感触としては2割は行かないと思ってます。

伏見 ということはノンケの男子が結構見てるっていうことになりますよね。女子が半分で男子が半分ということは。

うたぐわ ノンケの男子が結構見てるんですよ。

伏見 それは何萌え?(笑)

うたぐわ 僕は会社でカムアウトしてきたじゃないですか。昔と今と違うなと思っているのは、ゲイノリみたいなものは、ノンケ男子によっては、もうアゲインストはそんなにないということですよね。

伏見 そのノンケの人たちは、例えば「ぼく、オタリーマン」とか、ああいう漫画を読むのと同じように、新種のオタみたいな感じで読んでるってことなのかな。

うたぐわ そうです。結構「がんばれよ」みたいなメールをくれたりもしますね。でもね、「僕も”迫られなければ”ゲイの人とも仲良くなれます」ってわざわざ書いてあって、「誰も迫らんわ!」って(笑)。わざわざ一言書き添えてるからね。「”襲われたりしないんだったら”、ゲイも面白いなあ」だなんて、襲わんっつーの。

伏見 そういう男、多いよねえ〜。

うたぐわ でもさ、ちょっと襲われてみたいノンケ男子だってちょっとくらいいます(笑)。

伏見 だってそういうこと言うときノンケの男子ってうれしそうだもんね。この店にもよくノンケの人が来るんだけど、「自分はかつてこういう経験をしました」といった、ゲイに迫られた経験をうれしそうに語る。

うたぐわ みんなちょっと自慢げなんですよね。

伏見 どう考えたってそれって、ゲイがノンケに対するお約束のご挨拶としてやっているのにね(笑)。誰があんたみたいな恥垢くさいチンポくわえたいっつーの!

うたぐわ リップサービスだよね。やっぱりノンケ男子にとっては、いい思い出になってるんですよ(笑)。

伏見 じゃあノンケ男子からは、ホモフォービックな反応っていうのはないんですか。

うたぐわ 僕のところにわざわざは来ませんね。いろいろなブログを徘徊して、僕のブログについて書いている人を検索して見ていたら、「うたぐわという方からペタが付きますが、このペタは消させていただきました。はっきり言ってキモイ」みたいなことが書いてあったり、あとは「うちの会社にすげぇゲイっぽいやつがいるけど、どうしても仲良くしたくない」みたいなことが書いてあって、「でもなあ、うたぐわさんの漫画は楽しんでるんだけどなあ」みたいなことが書いてあったり、人それぞれあるんでしょうけど……僕のところにそれを直接ぶつけてくるということはないですね、今のところ。だから怖いんだと思いますけど。
 
 

● 悩んでいるゲイは読まない?

伏見 じゃあ、あんまりネガティブな反応というのは、直接的には来ないんですね。

うたぐわ 前に1回、「ゲイとかキモすぎるやろ」みたいな、すごい2ちゃんぽい書き込みがコメント欄に書き込まれていましたが、そんなに件数として気にするようなことはなくて。パレードの方々に比べたら全然書かれてないです(笑)。

伏見 2ちゃんでスレッドが立っていじめられてるってことはないの?

うたぐわ ああ、2ちゃんも、いまのところ書き込まれているという報告はないです(笑)。

伏見 ということはゲイからも、パレードの人たちほどには反発はないという……あ、どうしたんですか? 会場に鼻息の荒い方がいらっしゃるようですが(笑)。ノンケからもさしたるアゲインストはないという感じですね。

うたぐわ はい。なので、ブログは個人的なことを書く場であって、ゲイ全体のことを見て書いているわけじゃありませんよというのが、元々の僕の漫画のスタンスなので、別に文句言われる筋合いはないわけです。「こんなマンガ、ゲイへの偏見を助長させますっ」とか言うヤツがいても、「オマエをモデルに描いたら、いまのマンガより数十倍は助長させてまうわっ」とか言えちゃう(笑)。パレードとかになっちゃうとセクシャルマイノリティ、あらゆるセクシャリティの人たちが、ということで運動をやっちゃっているから、そこに反発を感じたり、乗っかれない感のある人とか、取りこぼされた感がある人がガーッと噛みつくのであって、僕の漫画には噛みつかれる要素はないんじゃないかなと思うんです。

伏見 イラスト部門とか、とにかくブログの上位のほうにいるにもかかわらず、ノンケのほうからも大した差別的なことがないというのは、拍子抜けした感じですか。そんなもんだろうなと思っていましたか。

うたぐわ 僕はそんなもんだろうなと思っていました。僕は転職も何回かしていますけど、そのたんびにカムアウトして、オープンリーという立場でずっとやっていたし、サラリーマンの場合のカムアウトって、1回カムアウトしたら終わりっていうんじゃなくて、人事異動のたびに、僕のことをゲイだって知らない人や、あとはどこかで知らされてくる人にしなければならない。そんなことの繰り返しの中で、昔とは全然反応が変わってきたし、今これをやってもなんのアゲインストもないだろうというふうには思っていました。

伏見 うたぐわさんの業種がゲイに寛容な特別な業種だということはないのですか?

うたぐわ いや、そんなことはないです。いろんな業種の会社でやってきたので。ただアゲインストが強そうなところは避けてきた、というのはあります。金融系はアゲインストが強いとか、そんな噂も聞いたりするので、わざわざそんなところには行きません。

伏見 でも金融系もかなり変わってきたみたいですね。お店に来るお客さんの話を聞いていると、昔と違って、例えば結婚しなければいけないみたいなことを逆に会社の側も言ってる余裕がないとか。某メガバンクの偉いゲイの方も来るけれど、「権力握っちゃえばこっちのものよ」って(笑)。

うたぐわ もうKABA.ちゃんがトイレにサワディのCMにファーッて出てて、IKKOさんが「脚をきれいにしたかったらこれよ」ってやってて、子どもはHGが流行ったときに「フォーッ!」とかやって、それを親がニコニコ笑って見ている中で、僕が「ゲイです」って言ったところで、「まあ、ゲイですって!」っていう感じには絶対ならないと思っていました。

伏見 ぼくなんか二十年前から矢面に立ってきたけど、矢もなにも飛んでこない。ゲイのほうからはいろいろ飛んできますが(笑)。

ゲイのほうの反応では、恋の悩みが多いとおっしゃっていたけれど、「ハートをつなごう」的な反応はあるんですか? 「同性愛者として悩んでるんですが……」みたいなやつ。

うたぐわ ないですね。

伏見 ないんだ。例えば僕は91年に最初の本を出したとき、お悩み相談や、「自殺をしようと思っていたけど救われました」とかいう手紙が山のように来ていたんですが、うたぐわさんのところにはそういう反応はないんだ。自殺するのを僕の本によって救われたっていう人たちが、いま、客として店に誰1人来ないっていう腹立たしい状況はあれですけど(笑)。同性愛自体に悩んでいる人からの反応って?

うたぐわ ないです。多分、そういう状態になってる人は、あんまり僕みたいに「ゲイでハッピーにやってます」みたいなものは見たくないんじゃないかなと思うんですよね。逆にもっと苦しんでる人同士で、「世間ってこうだよな」というのをやりたいんじゃないかなと思うんです。僕みたいにチャラチャラ、ノンケの人にセクハラもしながら、アハハ、ケラケラやってるような人が表現したものを見ても、エコエコアザラク的な気持ちになるだけで(笑)。

伏見 文句は来ない? 僕なんか「性的マイノリティの状況は相対的に良くなってる」と書いただけで、「あなたは差別されている人間の気持ちがわからない!」って保守反動みたいに言う人がいるんだけれども(笑)。

うたぐわ 「オールアバウト」のときにはありましたけど、今の漫画ではないですね。「もうちょっと苦しんでる人の立場に立ってください」みたいなのとか、そんなのはないですね。

伏見 そりゃ差別は厳然とあるんだから、苦しんでるのは苦しんでるのでいいんだけれど、その共同性のなかだけで「こんなに差別されてる」とか「こんなにひどい社会です」と言ってるだけでも埒があかないないのが現在でしょう。うたぐわさんの漫画を拝見していてすごくいいなあと思うのは、そういうことに対する具体的な処方箋というか、前に進めるヒントみたいなものがあるところ。僕からすると、これが今のゲイリブだと思ってて。あ、ゲイリブ漫画と言うとイメージ悪くなっちゃうから、あんまり言わないほうがいいのかもしれないけど。

うたぐわ ノンケに対してもゲイに対しても、結構リブリブした気持ちでやってますよ。
 
 

● 会社のなかでも「もっと優しく言って!」

伏見 ぼくのお店に来る若いゲイのなかにも、「将来会社に入って大丈夫かなあ」と不安がってる子は結構いるんだけど、どうですか? ゲイとして会社で生きるというのは。ゲイとしてって言うのもヘンだけどね。

うたぐわ ゲイとして……ゲイだから給料が低いとか、そういうことはまずないと思うし、よっぽどのことじゃなければ、ゲイだから僻地に飛ばされるとか、そんなことも多分ないんじゃないかなと思うんです。

要は本人の気持ちの中で、なんとなく仲間に入れてない感じとか、なんとなくヒソヒソと自分のことが言われてる感じがするだったり、そういうところで苦しんじゃうのが主なんじゃないかと思うんですよ。なので、そのへんは僕も社会人デビューした頃はなくはなくて、そこは1つ1つ、トライアル&エラーと言うんですか、「これをやるとマズいんだな」とか「こういうことをするといいんだな」とかを繰り返して学ぶしかない。一番気をつけているのは、「みんなと同じなんだよ」ということと、もう1つは「みんなとは違うんだよ」ということのバランスをちゃんと取っていること。ゲイだからって、別に仕事上において特別なアビリティがあるわけでもないし、特別な欠落があるわけでもないから、普通に仕事をしていこうと思えば全然できるんだけれど、僕がゲイだと忘れられちゃうのもすごくヤなんです。

伏見 「みんなとは違う」という違いは、どこのことを言うんですか?

うたぐわ 例えばみんなで連れ立って「風俗行こうぜ!」って言われても、やっぱり僕は行きたくないわけじゃないですか。それは極端な例ですけど、野球のサークルに入れって言われて、野球やるのが好きなゲイがいないとは言わないけど、やっぱり大体のゲイは野球やるのってあんまり好きじゃないですよね。好きな人います? (挙手した参加者ひとり)あ、たまにはいるんだ(笑)。

伏見 ゲイの野球チームもあるからね。でもバレーボールやテニスに比べたら確実に少ない。

うたぐわ そうですよね。それで、そのことによって「つきあい悪いなあ」みたいになったり、僕が野球をやらないからと言って、それをやらなきゃいけない存在であるかのように言わないでくれる、みたいなことだったり。あとはやっぱりゲイというより僕だからかもしれないんだけど、「もうちょっと優しく言ってよ!」っていうのがやっぱりあるんですよ。「ノンケの男と違うんだから」って(笑)。

伏見 それどういうこと(笑)。

うたぐわ だから仕事上のコミュニケーションでも、「もうちょっと優しく言って」と。

伏見 あの、ごめんなさい。サラリーマンの世界がよくわからないので、もう少し詳しく教えてください(笑)。

うたぐわ わりと体育会系のノリで、縦線っぽく言われたりするのが、やっぱりすごくイヤなので、「もうちょっとかわいがって」ほしいんです。

伏見 それはゲイ的な問題なのね(笑)。

うたぐわ うーん、わかんないけど、男の子からバンと冷たく言われたら、傷つくじゃないですか。

伏見 ゲイの中でも縦線ぽい、体育会系ノリで、「おまえヤれよ」って言われちゃう人がいるように思うけど。

うたぐわ それは、もし僕がそういうのが好きなタイプのゲイだとしたら、「もうちょっと燃えるように言ってください」っていう感じ(笑)。要は、個性としてちゃんと認識してほしいということです(笑)。
(つづく)