2009-10-09

ゲスト:永江朗 第2回「今の出版界でも出来ること」

●本のニセ金化は、もう続かない

沢辺 永江さんの考えは「新刊洪水の制度的な要因を考えると、本のニセ金化、地域通貨化だ」ということだよね。
そのことに関して言うと、俺が自分で本を出している感じでは、ニセ金化をやり続けていたら、最終的には出版社はやっていけないと思うんだよね。保ってあと数年じゃないかな。

永江 具体的な社名を挙げるのはあれだけど、「河出書房神話」ってあるじゃないですか。あそこもずっと自転車操業で来て、もう駄目だと倒れそうになった時に、いつも何かヒットがあるっていうね。オカルトじゃないんだけど、不思議なことに、出版社って自転車操業で倒れそうになると、何か当たるんですよ。
 例えば筑摩書房だと、駄目かと思ったところで『老人力』とか『金持ち父さん貧乏父さん』とか、ポコンポコンと来るんですよ。松田哲夫さんも言っていたけど、ちくま文庫とちくま新書を創刊してなかったら、多分また倒産していただろう、ということだし。少なくとも自社ビルをまた購入することはなかったと思う。
もちろん、それぞれ厳しくやりくりしているんだと思うんですけど、でも、ニセ金化での自転車操業状態のところって多くて、「本当にこれであと十年続くの?」っていうところは一杯ありますよ。
 十年後のことを考えると、欧米は日本と構造が全く違うので、また別の話ですけど、欧米で起きたのはコングロマリット(複合企業)化でしょ? コングロマリットが出版社を買って、出版社もグループ化していって、メディア総合産業になっていったり、全然関係ない企業がメディアを買ったり。そういう風になっていく可能性はありますね。ポット出版が、キリンビールに……それはないか(笑)
 でも、日本でも小規模な出版社がIT系の会社に買われたりするし、出版社のブランド構築がちゃんと出来ていればお互いにメリットがあるし、別に良いことでも悪いことでもなんでもないと思いますけどね。

沢辺 俺は、余力を使い切って自転車操業を続けてるような出版社を買って得られるメリットは、取次口座くらいだと思うな。

永江 その取次口座も最近では、資本関係が変わると条件見直しになったりもするらしいね。古い出版社って滅茶苦茶取引条件がいいんだけど、それを狙って買ったら、実体が変わっているからといって、また歩戻しがついたりね。

沢辺 でも、新刊洪水の原因がニセ金化を利用した自転車操業なんだったら、出版社がつぶれていくことによって新刊が減っていくという面もありますよね。
 点数に関しては、日本の新刊は8万点で、アメリカの23万点と比べると少ないと言う人もいますが。

永江 それは単純に比較は出来なくて、日本の場合の8万という数は「取次経由」の数字ですから。だから、実はジュンク堂なんかが扱っている同人書籍だったり、大手町にある農業書センターが扱っている専門的な本だったり、あるいは自治体とか独立行政法人とか学校が作っているものも全てカウントしていくと、アメリカの20万点には及ばないかもしれないけれど、10万点は突破しているかも、と言われてますね。
 出版社でも、ミシマ社みたいに取次を使わないところもあるし、書店でも、神保町の南洋堂みたいに、大取次を使わずに神田村だけでやっていて、しかも定価で売らない、割引して新刊本を売っているようなところもあるんです。だから、やろうと思えば今だって出来る。

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●応援したい書店をえこひいきする方法

沢辺 永江さんがミシマ社や南洋堂、あるいはイハラハートショップなんかを取り上げるのは、書き手としてのエールだし、「こんな面白いことをやってますよ」というのを広めていっている、ということだよね。頑張っている店は生き延びて欲しいな、ということに対する具体的な行動として。

永江 ポット出版の具体的な行動として「面白い本屋は正味を安くする」というのはどうですか? 「沢辺ポイント」とかつけて、沢辺ポイントが高いところは、正味を安くする(笑)
 出版社がお気に入りの書店は優遇するくらいはあっていいと思うんですよ。あからさまに正味だとあれだから、見本をどんどんつけちゃいますよ、とかさ。それも現行制度でも出来ることだし。ただ沢山売ってくれる本屋を優遇するのではなくて、「ここは応援したいなあ」というところに高いポイントを付けて、良い本屋と悪い本屋を数値化するのはいいと思うな。

沢辺 うちでやっているところで言えば、お客が急いでいるとか、注文したのにまだ来ないとか、そういう連絡を直接ポットにしてくれた本屋さんには、送料無料、受領書の返送用封筒(切手付)を入れて送ってる。つまり、書店には一円も出してもらわなくていい、というようにしてるのね。
 それは、「何かあったときに直接電話して言ってくれる」というのを、嬉しい行為だと考えてるからですよ。ケチな話かもしれないけど、送料とかはこっち持ちで「とにかく今日中に送りますよ」という「特別扱い」をしているつもり。永江さんが言ったみたいに予めポイントをつけるのとは違うけど「こういう行動をしてくれたら、ありがたいのでおまけをつけます」という形にしてね。

永江 専門書店をはじめとして、面白い本屋は全国に沢山あるんですけど、どんどん閉店している。専門書店が成り立ち難いのは、どんなに児童書を揃えてもジュンク堂の児童書売り場には負けてしまう、ということがあるからです。でも、ジュンク堂の2千坪に行くよりも、60坪の児童書店に行くほうがいいことが一杯ある。その60坪の書店の意味を出版界も認めているのだったら、そういうところをえこひいきしたっていいじゃん、と思うんですよね。

●「直取り>取次ルート」の可能性は?

沢辺 それをやるとしたら、今のところは直取りしかないかな。

永江 そこなんですけど、何で直取りをもっと増やさないんですか? やっぱり面倒だから? 事務経費がかかり過ぎる? でもミシマ社の三島くんに出来るんだから、出来そうですよね。

沢辺 ポット出版も、全てではないけど直取りもしていて、取次と取引のない書店とも、積極的に取引をしていますよ。たとえば中野のブロードウェイにあるタコシェだったら、一度に合計30部以上注文してくれたら、60%で卸してるんですよ。その代わり、買切りだけど。

永江 まあ、その正味で返品されたら辛いよね(笑)

沢辺 他の書店でも、買切29部までが65%、30部以上は60%で卸すのを基本スタンスにしています。

永江 いま取次経由で取引している書店を直取りに変えていくのは難しいんですか?

沢辺 ひとつは、返品で取次に迷惑をかける可能性が怖い。例えば、直取りで卸した本が取次経由で返品されても、現状の取次のシステムではチェック出来ないと思う。そういうことはどうでもいいよ、とやってしまうのもアリだと思うんだけど、今の取次とつき合っている以上、細かな条件設定を書店毎、タイトル毎にやっていくのは、とても難しいんですよね。
 ちょっと話は変わるけど、今度中小出版社8社でやろうとしている35ブックスは、ある種「このタイトルは特別だよ」という処理を取次にしてもらうんです。全部の商品が一本正味で入っちゃう大型書店なんかにも書店の取り分35%で卸せるように、取次がシステムを改変してくれた。最初は「初回に配本するときは特別扱いでやれるけど、通常の補充の時には、いちいち特別扱いしてられないから、無理だ」と言われたのを「なんとか補充も特別正味でやってくれないか」と交渉したんです。これはつまり、商品によって特別扱いが出来るようになったということだから、今後ポット出版が出す本は全部時限再販でポットの出し正味65%にするとか、やろうと思えば出来る。
 で、「なんで直取りをやらないんですか?」ということについて言うとね。最初は直取りなんて発想にもなかったのが事実。でも、トランスビューが直取りをやりはじめて、そういうことも出来るということがわかった。そのときに、トランスビューのマネをするのは嫌だなって思ってさ。俺、あまのじゃくだから(笑) あとはさっきも言ったけど、既存の制度をもう少し引っ掻き回したいな、というのもあるかな。

永江 別に海外の制度が優れているとは思わないけど、アメリカでもイギリスでも直取りがメインじゃないですか。その上で、直取りでフォロー出来ないところは取次がやる。
 日本の場合それが逆で、メインが取次ルートで、取次がフォロー出来ないところは直取りでやる、ということになっている。それは必然的にマイナーな出版社とマイナーな書店にとっては厳しい戦いを強いられることになりますよね。だから、版元ドットコムが出来たり、地方・小出版流通センターが出来たりしたんだと思うんですけど。
 版元ドットコムとして直取りをやるっていうのはどうですか?

沢辺 ふーむ。版元ドットコムとして直取りをやるのは趣旨と違うかな。版元ドットコムは「私たちの趣旨は本の情報を出版社自身の手で発信していこう」って言って集まっているものだから。やるとしたら、版元ドットコムとは別の団体を立ち上げるかな。

永江 でも、版元ドットコムが取次機能も持って、「うちは流通までやります」って言えば、インパクトはあるよね。

沢辺 版元ドットとコムは、この前、出版社と取次の間の流通を請け負っている大村紙業と提携したので、直取りが出来る条件は整いつつあるんだけどね。発送は会員社140社分の本を集めて段ボールに詰めてもらえて、伝票も一個で済む。一社一社で伝票を作らなくて済むので効率的だし、版元ドットコムがやるのは集金機能だけ。でも、クレジットカード決済か何かを書店が選択してくれないと嫌だな。書店の支払いは常に課題だからね。

永江 確かにね。流通の話を色々してても、結局は金にまつわる仕事を取次におっ被せている以上は変わらないんですよ。

沢辺 でも、お金のことに関しては、技術革新でガラッと変わると思うよ。

永江 そうかなあ。あの金払いの悪い書店のオヤジにどうやって払わせるのか、難しいですよ。

沢辺 でも、金払いの悪いオヤジはポットの本を扱ってくれないと思うよ。

永江 業界全体での話をしようという時になかなか動かないのも、その辺ですけどね。

沢辺 出版社でも「支払い悪い問題」ってあるんだよね。版元ドットコムでは会費を4ヶ月滞納したら自動的に退会処理をするようにしている。版元ドットコムに参加するような、比較的新しい出版社は元々キチッと支払うところが多いんですけど。

永江 それは書店もそうですよ。新しいところは、取次にお金を支払わなくていいなんて想像もしていない。払うのが当たり前だと思っている。まあ、当たり前なんだけどさ(笑)

沢辺 でしょ?

永江 しかも、新しい書店だと歩戻しもなかったりする。日書連の集まりとかで歩戻しの話になると、新参の書店は「それって何のことですか…?」って感じなんだよね。で、「100%払うと取次からご褒美でお金がもらえるんだよ」って説明すると「うちは今までちゃんと払ってるのに、一回ももらってない!」ってことになる。取次は書店同士をあまり仲良くさせたがっていなくて、それはタレント事務所がタレント同士をあまり仲良くさせるとギャラの話をされるから、個別管理したがってるのと一緒だよね。

沢辺 さっきの話に戻ると、ポットにつき合ってくれるようなところは、支払いとかそういうところをちゃんとやってくれる書店なんだよね。小さい書店からすれば、ポットの本を並べるってことは、ちょっと工夫してみようとか、チャンレジしてみよう、っていうことじゃん。だからポット単体で考えたら、実は直取り自体にそんなに心配はないのかもね。

永江 最初の話と言うか、今回のテーマに戻すと、再販じゃなきゃいけないとか、委託じゃなきゃいけないとか、「なきゃいけない」っていうのを外せば結構自由に出来るわけですよね。
 今回の『本の現場』だって、単にノリで「希望小売価格」にしたんだけど、あれは加賀美(アルメディア)さんだったら怒るよ。加賀美さんは、「希望小売価格が当たり前」という人だから、わざわざ希望小売価格とか非再販って表示すること自体がおかしいってね(笑) 「定価」の方がイレギュラーなんだからって。

沢辺 それはあまりにも原理主義だな〜。

永江 あとは今回トーハンの広報誌の担当編集者が、「永江さん、やっぱり『書店経営』に『本の現場』を紹介出来ませんでした。ごめん」って謝りに来て。「室長もぴりぴりしてたもんで」って。「でも、昔出した『菊地君の本屋』(アルメディア)も非再販なんだけど、あのときは別に何もなかったけどなあ」って言ったら「誰も気がつかなかったんです」って(笑)
 実際はそれくらい別にどうってことないことですよ。非再販にしたって。
 委託制だってしなくていいんだし、本当の委託である、売れた時清算の委託だって、取次を通さなければ出来るわけで。取次だけが本を書店に並べるルートじゃないですから。

沢辺 何か俺、挑発されてるなあ(笑)

永江 ははは。でも、現にミシマ社とかトランスビューとか、やれてるところはあるわけで。それに、やってみて失敗して潰れたら、また別でやればいじゃない。アメリカのリーダーズ・ダイジェストが破産法の適用を申請してたけど、あれは日本でいう民事再生みたいなもんだから、要するに死んだフリして借金チャラにして、またゾンビのように甦れるということ。法律がそれを認めてるんだから、どんどんやればいい。まあ、取引先は泣きますけども。

沢辺 その他現実に出来ていることは、新刊委託をしないで、最初から注文だけ受けるということ。
 全部を注文だけにしているわけじゃないけど、最近ポットが出した本でいうと『羯諦』(山中学、定価6000円+税)は新刊委託をしなかったです。

●次回へ続く

次回、「談話室沢辺 ゲスト:永江朗 第3回『紙の本の値段、電子書籍の値段』」は、10月16日(金)に更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします!

●プロフィール

永江朗(ながえ・あきら)
フリーライター。1958年、北海道生まれ。法政大学文学部卒。
1981年〜1988年、洋書輸入販売会社・ニューアート西武勤務。
83年ごろからライターの仕事を始める。
88年からフリーランスのライター兼編集者に。
1989年から93年まで「宝島」「別冊宝島」編集部に在籍。
93年からライター専業に。ライフワークは書店ルポ。
現在、『週刊朝日』、『アサヒ芸能』、『週刊エコノミスト』、『週刊SPA!』、『漫画ナックルズ』、『あうる』、『書店経営』、『商工にっぽん』、『この本読んで!』などで連載中。

●本の現場─本はどう生まれ、だれに読まれているか

本の現場
著者●永江朗
希望小売価格●1,800円+税
ISBN978-4-7808-0129-3 C0000
四六判 / 228ページ / 並製

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