子供がケータイを持ってはいけないか?

発行:ポット出版
小寺 信良 著
定価:1,600円 + 税
ISBN978-4-7808-0169-9 C0037
B6判 / 240ページ /並製
[2011年09月刊行]
印刷・製本●シナノ印刷株式会社
ブックデザイン 和田悠里
書籍のご購入は右側から ⇒


●『子供がケータイを持ってはいけないか?』は電子版もあります。電子書籍販売サイト「Voyager Store」でご購入いただけます。

内容紹介

子供のケータイ所持率…
小学生=20.9%
中学生=49.3%
高校生=97.1% (内閣府「平成22年度青少年のインターネット利用環境実態調査」より)

いずれは持たせるケータイを、いつ、どうやって持たせるか?

学校が生徒に持たせる「制ケータイ」から、ケータイ規制の問題点、災害時のケータイの可能性まで、子供とケータイにまつわる最新事情を取材。
現場の声と多くの資料をもとにして、「先延ばし」にしないケータイ/ネット教育のあり方を、親と子、先生、行政、それぞれの立場から考える。

「ITmedia +Dモバイル」での連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加して単行本化しました。

目次

子供たちとケータイの関係

第1章●親が知らないケータイ・コミュニケーション
 チェーンメールの何が「悪」なのか
 コミュニティサイトは、言われているほど問題か
 一億総スマートフォン化で親に問われる自衛の意識

第2章●学校のIT活用最前線
 技術科の先生に学ぶ、情報と技術のあり方
 校務のIT化で得られるメリット・デメリット
 インタビュー
  柏市立田中小学校 西田光昭先生 校務のIT化はどこまで可能か
 5年先を行く須磨学園の「制ケータイ」
 インタビュー
  須磨学園理事長 西泰子氏 制携帯で生徒の環境はどう変わるのか
  須磨学園 保護者 家庭の中の制携帯
 先生が変わる、授業が変わる、iPadがもたらす変化
 今から始まる、「失われた50年」後に生きる教育

第3章●ケータイ規制条例の現場
 ケータイ規制の何が問題なのか
 「ケータイ持たせない」運動 石川県の実態
 インタビュー
  石川県議会議員 宮元陸氏「全国で初めてやるということが大事」
  石川県議会議員 盛本芳久氏「今の社会の感覚とは言えない」
  石川県県庁「あくまでも努力義務」
  石川県野々市町町長 粟貴章氏「野々市町でできたことが、石川県でできるのか」
  石川県野々市町 保護者「子供たちと一緒に環境づくりを」
 ケータイ活用に舵を切り始めた日本PTA
 規制か教育か、今すぐ対応が求められる“ケータイ以外”
 コミュニティサイトの出会いの実態

第4章●震災時のケータイの可能性
 震災でわかったネットのポジション
 災害時のITの信頼性
 携帯電話網以外の通信手段
 災害時でも使える情報端末
 明日の災害に備えて

あとがき
プロフィール

前書きなど

◎子供たちとケータイの関係

●光り輝く情報社会のはずが……
 年頃の子供を持つ親として、筆者も皆さんと同じように多くの悩みの中にある。大人への階段を登らせるにあたって本人の意思も尊重してやりたいし、かといって全部任せてほっぽり出すわけにもいかず、いかにしてさりげなく生き方の指針を示してやるべきか。日々そんなことを考えながら、なかなか上手く伝えられないでいる、娘2人の親である。
 今の子供たちが我々の子供時代と大きく違うのは、現代はすでに情報社会に突入してしまっているところである。情報〝化〟社会ではない。情報化はオフィスでパソコンが使われ始め、多くの紙の資料がデータベースに吸い込まれていった時代にすでに完了した。今は最初から情報がデジタルデータの形で存在し、インターネットの普及によって誰でもそれにアクセスすることができる時代だ。
 我々大人は、少しずつそれを実現してきた課程を体験してきた。だからそんな世の中が突然現われたわけではない事を知っている。しかし子供たちは違う。コミュニケーションということに興味を持ち始めた小学校中学年のあたりでは、もうすでに両親ともに携帯電話を持ち、どこにいても外の人と直接繋がる様子を目の前で見てきた。
 今から10年ほど前は、小さい頃から早めに情報機器に慣れさせておくことはいいことだと言われてきた。どうせ大人になったら使うのだから、と。Windows98やWindowsXPの時代に、多くの家庭がインターネット回線を引き、パソコンを購入した。子供がパソコンで調べ物をしたり、絵を描いたり、マルチメディア教材で学習をすることは、理想だった。
 携帯電話もそうだ。塾や習い事など、離れていても子供の安全を見守るために、それらは必要だった。共働き家庭のいわゆる「鍵っ子」たちは、普通の子よりも早く、首からケータイをぶら下げて公園で遊んでいた。
 ところがある時期を境に、「子供にケータイを持たせるなんてとんでもない!」と言い出す人々が現われた。「子供にインターネットを使わせるな!」なんてことを言い出す人も出てきた。積極的に情報機器を与えてきた親の立場からすれば、突然はしごを外された格好だ。

●正解なき世界
 子供とケータイの関係で、影の部分が大きくクローズアップされはじめたのは、2004年から06年あたりにかけての事である。この頃から徐々に携帯電話は、インターネット端末としての色彩を強めていく。NTT DoCoMoではmovaからFOMAサービスへの移行が顕著となり、06年にはiモードの普及により、世界最大のワイヤレスインターネットプロバイダとしてギネスブックに載った。そんな時代である。
 まず子供たちが違法・有害情報に触れているのが問題だとされた。無修正のヌード、誤った性情報、覚醒剤・睡眠薬の販売情報、爆弾の作り方、自殺の方法、家出の方法などなど。また出会い系サイトで大人と性交渉を持つ、ネットいじめが横行しているといった指摘がなされた。さらにサービス料の使いすぎで突然親のところに高額請求が届く、いわゆる「パケ死」問題が勃発したのもこの頃だ。
 悪の根は絶たねばならない。多くのまじめな大人はそのように考える。当然である。悪の根とは一体何か。ケータイである。そんなことになった。
 インターネットが自由な情報の公開場所である限り、子供にとって悪い影響を与えるかもしれない情報が存在するのは、仕方がないことである。だがそもそも情報とは、誰かにとっては悪でも、誰かにとっては善となるのではないのか。
 悪影響を与える情報がないほうがいいのは、当たり前である。これを悪意でやっているやつが誰かわかっているのなら、対処はしやすいのだ。しかし文化も宗教も異なる人たちが一同に集まる場所で、どれが善でどれが悪かを、誰が判断するのか。いやそもそも情報に、善や悪があるのか。こうした混沌の中でどうしようもなく生まれたのが、子供から携帯を取り上げる運動の本質ではないかと、筆者は思っている。
その一方で、有志によるネットを健全化するための動きも起こってきた。子供とケータイの関係は、この2つの綱引きの中で進んできている。ケータイ禁止派、推進派(ネット健全化派)の動きを追ってみると、下図のようになる。
 客観的に見れば、文科省は学校への携帯電話の持ち込みを禁止する方向に、総務省はネットの健全化を行なう方向に動いていると言える。しかし携帯を学校に持ち込ませないだけでは、何一つ問題は解決しない。家で使う時はどうするのか。誰が指導するのか。
 当然これは、「親」ということになる。我々だ。
 筆者は同志と立ち上げたインターネットユーザー協会の活動の一環として、ネットの情報を正しく扱えるよう、学校現場で使うための教材を制作して無償公開し、さらに学校での特別授業を通じて子供たちにリテラシー教育を行なってきた。別に性善説支持者ではないが、その活動の中で感じるのは、子供は正しい情報を入れてやれば、正しい答えを返す、ということである。誤った答えを出すなら、入れた情報が間違っているか、そもそも情報など誰も入れていない可能性が高い。
 これから本書をお読みいただく皆様に、子供とケータイについて筆者の仮説を明らかにしておこう。

1.子供からケータイを遠ざけることは、間違いである。
 なぜならば、それは何の解決にもなってないからである。どうせ大きくなったら持つからいいのだと言うが、それは問題を先延ばしにしているだけにしか過ぎない。体が大きくなったら、ドーンとネットの海に突き落とすつもりか。
 我々が段階を踏んでインターネットや携帯電話のあり方を把握してきたように、子供たちにも段階を踏んで徐々に接し方の教育をする必要がある。こちらの痛手が軽くて済む程度の小さな失敗をさせながら、少しずつ経験として学ばせるには、大きくなってからでは遅い。
2.規制より先に教育があるべきである。
 電子機器の発達を見ていれば、携帯電話だけが情報端末でありつづけるはずがない。新しいデバイスが出てきたら、それらに対していちいち立法化して利用を規制していくのか。それはあまりにも非効率である。それよりも子供たちに悪質なものも含めて、情報の接し方を教育した方がいい。なぜならば最終的なゴールは、規制派も推進派も、青少年の健全な育成のはずだからだ。教育なくして、それはなし得ない。

 この考えは本当に正しいのか。それを検証するために様々な場所へ調査に赴き、多くの資料をひっくり返して考察した結果が、本書である。
 国民全員が情報を発信し、情報を使いこなせる能力を持つこと。最終的にはみんなでそこへ行かなければならない。これほどまでに子供がマルチユースな情報端末を持っている国は他にない中で、これは日本が背負うべき課題である。みなさんと一緒に知恵を束ねて、次の高度情報社会への橋を架けなければならない。

著者プロフィール

小寺 信良(コデラ ノブヨシ)

1963年、宮崎県生まれ。テクニカルライター・コラムニスト。テレビ映像の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、94年にフリーランスとして独立。以降映像・音楽を軸に、AV機器からパソコン、放送機器まで、幅広く執筆活動を行う。2008年より一般社団法人インターネットユーザー協会(MiAU)の代表理事として、子供と情報社会の関係を調査・研究している。Twitter: @Nob_Kodera

●初出
本書は「ITmedia +D Mobile」の連載「ケータイの力学」(2010年4月5日〜2011年7月5日分)と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成し、加筆・修正を加えたものです。