2005-09-20

「HIV拡大先進国は日本だけ」説は真っ赤なウソである

フランスでAIDSを「SIDA」(シダ)といいます。HIV・AIDSに関わる社会問題を総称してSIDAということもあります。

HIVがらみの記事を執筆するため、フランス政府が発表したHIVに関する年次報告書と睨めっこをしています。研究論文を仏語で読まねばならず、しかし辞書にもない医学用語が頻出しており、なかなか苦戦しています。年次報告書を簡単にまとめた記事とかも目を通したのですが、原典にあたると記事では触れられていない重大な事実もあり、興味深い。詳しいことは近いうちに発表予定の雑誌原稿に記します。

フランスでは2003年1月からHIV対策では新体制ができております。HIV新規感染者の一部には対面調査をして、感染経路の検討を詳細に行うようになりました。

以前にこのブログでも書きましたが、「先進国でHIV感染者・拡大は日本だけ」というのは真っ赤なウソでありまして、フランスでは感染は急速に拡大しています。欧州各国のHIV新規感染者数を調べてみたのですが、欧州全体でもHIV新規感染者数は増加傾向にあります。

「先進国でHIV感染者・拡大は日本だけ」などという妄説をいったい誰が云い始めたのか。わたしもすっかり騙されていました。まあこういうことなんだと思います。「日本では性教育が進んでいない」(原因)→「HIV感染が拡大」(結果)。よって、処方箋は「性教育」=「HIVの予防になる」と。こう云いたいがために、事実に反する妄説が広がったのでしょう。

フランスでは政府・地方の行政機関をあげて予防キャンペーンをはっているのに、効果が出ていない。それは何故か……、ということも含めて、原稿で触れる予定です。

このエントリへの反応

  1. >欧州各国のHIV新規感染者数を調べてみたのですが、欧州全体でもHIV新規感染者数は増加傾向にあります。

    これだって、実際には怪しいです。

    現実に国民の間にHIV感染者が増えてるのか減ってるのかは、国民全員を検査しないとわからないはずです。当然、検査体制が充実し、より多くの人が頻繁に検査すれば、感染者が発見される率が高くなり、検査にアクセスしにくければ逆になります。国によって検査体制が異なる以上、それに対する考察抜きに単純に感染者数や増減を比較しても意味がありません。

    欧州諸国の事情はよく知りません(及川さんのほうが良くご存知でしょう)が、日本ではいまだにもっぱら同性愛者だけの問題と思っている人が多いように思いますし、検査体制もかなりプアであり、相当多くの感染者が隠れてしまっているのではないかと思います。そんな状態なのに、一部宗教右翼の口車に乗って性教育バッシングなんてしてていいのでしょうか。ホント恐ろしいと思います。

  2. 詳しいことはデータと出展先を明示した上で記事に書きますので楽しみにしていてください。

    欧州連合はHIVに関する情報を共有化するための試みをしています。HIVテストを受けた人の年間総数も提示されております。たとえば、フランスでしたら、テストを受ける人の数は例年ほとんど変わりません。

    テストを受けた人の数とHIV感染者の数を比較して検討した上でも、欧州はHIV感染が拡大の傾向にあるといえます。

    それはさておき、日本では年間にHIV検査を受ける人の数はどれぐらいなのでしょうか。フランスですと、11,12人に1人の割合で検査を受けています(テストを受けた人の年間総数を人口で単純にわるとこの数字になります。ただ、年間に何度も受ける人もいますでしょうから、あくまで目安の数字です)。

  3. ありがとうございます。それではそのときにまた。

    ところで、先週のNYタイムズやル・フィガロなどによれば、保守的と思われているイタリアで、ロマーノ・プロディが、フランスのPaCSタイプの法制度を支持する発言をして波紋を投げかけているようです。

    Italy bristles at hint of gay marriage law
    By Ian Fisher The New York Times
    SUNDAY, SEPTEMBER 18, 2005
    http://www.iht.com/articles/2005/09/18/news/gay.php

    Vatican Fears Gay Nuptials On Its Doorstep
    by The Associated Press
    Posted: September 18, 2005 4:00 pm ET
    http://www.365gay.com/newscon05/09/091805italy.htm

    ITALIE Prodi soutient l’union libre
    Polémique autour du pacs italien
    [16 septembre 2005] Le Figaro
    http://www.lefigaro.fr/europe/20050916.FIG0061.html

  4. こんにちは。死刑の件でのTBありがとうございます。
    エイズ動向委員会の報告では、昨年一気に増加して平成16年、保健所でのHIV抗体検査は約6万8千件、それ以外の場所での検査件数は約2万件でした。

    わたし達が直接関わる機会の多いものでは、総献血者数540万件中HIV感染者が92人、たとえ破棄処分されているとはいえ、出回っている血液製剤の中に検査に引っかからないエクリプス(ウインドウピリオド)期間中のものがいくら潜んでいるかと考えると、仕事柄よく輸血を扱いますので、この数を小さく評価できません。

  5. 2005年9月17日(土) 13時30分〜15時00分に日本テレビ系列で放映された「報道特捜プロジェクト」で急増する日本の若年層のHIV感染の危機的状況が取り上げられましたが、保守系の読売グループが制作したその番組の中でさえも、「日本だけが先進国中で唯一HIV感染者が急増している」といった言い方をしていました。そこでは具体的に他国との数字の比較なども出ていましたが、残念ながらうちは録画できないので、具体的なその数字をお見せできません。ですが文部科学省では高校でも性教育でコンドームや避妊について教えてはいけないと決まったらしく、現場の医師たち(札幌医大の先生とか)も河上和雄・元東京地検特捜部長などコメンテイターの皆様も「これは文部科学省の怠慢だ」「役人は実態を何もわかっていない」「このままではコンドームの使い方もわからず若年層のHIV感染が爆発的に増加し、日本は大変なことになる」と口々に懸念を表明しておられました。問題は、「先進国で唯一」がうそなのか本当なのかではありませんね。それがうそであろうとなかろうと、日本の若年層の中でHIV感染者が爆発的に急増している危機的状況なのは明白な事実であり、それを一体どう食い止めるかが問題なのではないのですか?宗教右派が口にするように「過激な性教育をやめ、性教育の授業でHIV感染に対するコンドームの有効性などは一切教えず、ただひたすらSEXしないことを教える純潔教育をすればHIVの感染は減る」などという机上の空論は全く信じられませんね。及川様が言う「日本では性教育が進んでいない」(原因)→「HIV感染が拡大」(結果)。よって、処方箋は「性教育」=「HIVの予防になる」と。こう云いたいがために、事実に反する妄説が広がったのでしょう(←これも一方的な決め付けではないのでしょうか?):という言い方は結果として、宗教右派による「過激な性教育バッシング」を、あくまで結果としてですが、側面から援護し、日本の若年層におけるHIV感染をかえって拡大させることにつながる危険性もあると思いますが、いかがか?今日本で熱心に「過激な性教育」攻撃をやっている宗教右派の主張というのは「性教育でコンドームや避妊法を一切教えるな!」と同時に「性教育で同性愛を肯定的に教えるな!」というのも入っていますが、これについては及川様は賛成ですか反対ですか?私は同性愛者なのでこんな宗教右派の意見には絶対反対です。いずれにせよ「先進国中日本だけがHIV感染者が急増している」というのは本当に単なる「言説」なのか?それを主張している人々が拠り所とする数値などが実際にはあるのかないのかなど、じっくり時間をかけて検証する必要がありますね。僕の友人にはHIVの専門家なども多数おりますので、自分でもいろいろ聞いて調べてみますよ。詳しい数値や資料が見つかったら別途メールで送りますね!プンプン!!

  6. コメントありがとうございます。

    「日本では性教育が進んでいない」(原因)→「HIV感染が拡大」(結果)。

    旨の言説を、たとえば「性教育の教師」の先生に当たる人がなさっていたのを、日本に先々月帰国した折、新聞で拝読しました。

    性教育バッシングを含む純潔政策に対する懸念はこの頁で何度も指摘してきた通りです。キンゼイ博士の映画については当ブログで何度も書きました。

  7. すんません。いっつもカーッと頭に血が上ってあとで反省ばかりする「じんぺー」です。

    >性教育バッシングを含む純潔政策に対する懸念はこの頁で何度も指摘してきた通りです。
    >キンゼイ博士の映画については当ブログで何度も書きました。

    それは大変失礼をば致しました。あとで及川様の日記を最初から全部読み直させて頂きます。(てゆーかやっぱり日記を最初っから全部しっかり丁寧に読んでる奴だけがコメントしろよ!ってゆー話だよねー恥/でもうちわ「ぶろーどばんど」でわなく「だいあるあっぷ」環境なんで最初から全部読むと1年かかるかもワッハハハ…)

    関連ニュースURLはっつけときます。みてねー!/神戸新聞2005/7/5の記事より「海外の性教育報告に熱視線 エイズ国際会議」
    http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/00017695sg300507050900.shtml

    日本は先進国はおろか、アジア諸国よりも対策が遅れているようで…性教育というよりもエイズ教育というもんが根本から立ち遅れているみたいね。そうした危機感が、確証もないまま、性教育の専門家に「日本は先進国中唯一感染拡大」みたいなセリフを言わせてしまったのかもね…。許してあげて!
    あとNTV報道特捜プロジェクトのURLも!
    http://www.ntv.co.jp/tokuso/

    ま、「HIV感染者の急増は先進国の中で唯一日本が…」とゆーのは間違いかもね。先入観に惑わされず真実を探求しようとするその姿勢はジャーナリストとして賞賛に値しますパチパチパチ。ただそれよりも問題なのは「日本でも仏国でも爆発するHIV感染をどう減らすか」であって、日本よりかはまだ対策が進んでいる筈のフランスでさえなぜHIV感染を減らせないのか原因を的確に考察した詳細なルポを期待してますぜ!(でも進んでる筈のフランスですら感染爆発を防げないなら、日本はもはや絶望的ってことかいな?)