2007-05-09

だから、サルコジは嫌われる(番外) 内相として風刺ポスターを強制撤去

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オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。フランス政治や大統領選挙に関するディープな情報は拙著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)に掲載していますので、御関心のある方はお手におとりください。

タイトル:だから、サルコジは嫌われる(番外)
サブ・タイル:内相として風刺ポスターを強制撤去

 2005年晩秋の話である。同年秋は「内戦」「インティファーダ」と形容されるほどに激しい叛乱・暴動がフランス全土で起きた。抵抗者の中心は移民系若者で、差別に対する日ごろからの怒りや警察による弾圧に対する憎悪が積年の怨みとなって、爆発した。

 このとき、治安担当のニコラ=サルコジ内務大臣は暴動参加者を「社会のクズ、ゴミだ」と若者をさらに挑発する一方、「寛容ゼロで臨む」と述べ、暴徒を容赦なく逮捕していくと宣言した。

 そもそも暴動は、アフリカ系移民の15歳と17歳の少年が警官の職務質問から逃げるために、潜伏すべく変電所へ入って感電死する……、という痛ましい事件に端を発する。パフォーマンが好きなサルコジ内相(当時)は亡くなった2人の少年の家族に面会を求めた。だが、家族は申し出を拒絶した。

 「力による解決」をサルコジ氏が目指すのとは対照的に、ドミニク=ドヴィルパン首相は対話を重視した。移民が多く暮らすパリ郊外の若者を首相府に招いて意見を聞き、亡くなった少年の家族とも面会した。貧困地区への支援策を実施すると約束した。イラク戦争の開戦前に外相として「力は何も解決しない」と強調した氏の姿勢は暴動でも変わらなかった。

 首相に呼応して、ジャック=シラク大統領は国民に向けた演説の中で暴徒を含め、

 「みんな共和国の子ども達だ」

 と語りかけた。「建前に過ぎない」という批判も当然あろうが、大統領-首相は内相の強硬路線に距離を置いた。

 暴動がまだ鎮火していなかった11月12日に大手世論調査・イプソスが有権者958人、電話調査を行った。「サルコジ内相の手法に賛成か?」という設問に対し、フランス共産党の支持者は43%のみが支持すると回答した。フランス人を驚かせたのは、「極右支持者」のうち97%が内相を支持すると述べたことだ。

 サルコジ氏の強硬路線は極右から熱烈な支持を集めた。2007年大統領選挙で勝つために、サルコジ氏が極右層への浸透を狙っていることは誰の目からも明らかだった。暴動時に強硬路線を一貫したのは、極右を意識してのことだという推測がフランスで広がった。

 そんな中、フランスで最も大きな人権団体の1つ「アクト・アップ」が、サルコジ内相の顔写真をアップにつかい「ルペンに投票せよ」という文句が書かれたポスターをつくり、パリを中心にフランスで貼りだした。風刺に怒ったサルコジ内相は、「肖像権を侵害している」という理由で同ポスターの掲示を禁止した。

 「政治家を風刺するのはフランスの文化だ」

 と「アクト・アップ」は反発したが、同ポスターはお蔵入りとなった。

 風刺すら許さないサルコジ氏の不寛容さが、一部のフランス人から嫌われる理由の1つだろう。

写真脚注:サルコジ氏の写真を使い、「ルペンに投票せよ」と書かれたポスター(作成:アクト・アップ)