2008-01-24

過熱する米国大統領選挙の舞台裏(民主党編)

オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

主題:過熱する米国大統領選挙の舞台裏(民主党編)
副題:ヒラリー候補とオバマ候補が熾烈な争い

【本文】
 アメリカ大統領選挙の予備選挙が1月3日のアイオワ州党員大会を初めに、幕が開き、激戦がスタートした。民主党も共和党も誰が勝利するか分からない混戦状態のため、米国メディアは大統領選報道に過熱している。

 民主党からは大統領になれば黒人初となる、バラック=オバマ上院議員が台風の目になっている。議員歴4年という政治的経験の乏しさが非難されているが、政治の裏の駆け引きとは無縁な1期目の議員だからこそ、イメージはとても新鮮・さわやかで、キャンペーンで全面に掲げる「変革」をオバマ氏ならば成し遂げるのではないか…… と期待が集まる。

 民主党からは大統領になれば女性初となる、ヒラリー=クリントン上院議員が当初から本命視されてきた。1993~2001年までファーストレディーを務めた政治経験と2001年からニューヨーク州選出で務めている上院議員の実績をアピールする。

 両氏の陰に隠れて目立たないが、民主党で根強い人気を誇るのがジョン=エドワーズ前上院議員だ。同氏はルックス抜群で、弁護士出身とあって弁舌もさわやか、若々しくフレッシュなイメージを前面に出す。2004年にも大統領選挙予備選挙に出馬した同氏は当初、メディアからは泡沫候補扱いだったが、選挙戦が始まるや予想外の大善戦で、各候補が続々と戦線離脱する中、終盤まで選挙戦に残った。国民的な人気を買われ、2004年大統領候補のジョン=ケリー上院議員によって副大統領候補に選ばれた。

 共和党が候補者に色彩を欠くために、メディアの視線は民主党へといっている。

ヒラリー神話の崩壊

 民主党の大統領選レースは、2006年12月26日にエドワーズ氏が出馬表明したことで始まった。初めから本命馬と目されたヒラリー氏は2007年1月20日に自身のウェブサイトで立候補を表明した。再選をかけた2006年11月の上院選ではニューヨーク州で共和党候補に得票率で67%対31%という大差をつけて勝利していた。オバマ氏は2月10日に立候補表明した。2004年にジョン=ケリー上院議員を大統領候補として選出した民主党大会で、オバマ氏は新人候補ながら演題に立った。

 「リベラルのアメリカも保守のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ。黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン人のアメリカもアジア人のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ」

 「イラク戦争に反対した愛国者も、支持した愛国者も、みな同じアメリカに忠誠を誓う“アメリカ人”なのだ」

 格調高い基調スピーチを行い、たいへんに評価を受けた。同年の上院選ではオバマ氏は共和党候補に得票率70%対27%という大差で破り、イリノイ州選出の上院議員に初当選した。

 FOXニュースが2007年7月17~18日に全米で行った世論調査では、ヒラリー氏が39%、オバマ氏が23%、エドワーズ氏が9%と、ヒラリー氏は独走状態だった。初戦のアイオワ州でも党員大会の数ヶ月前では、ヒラリー氏がオバマ氏に10%以上の差をつけ、有利に戦いを進めていた。

 ところが、初戦が近づくにつれ、ヒラリー氏の人気は急落していき、オバマ氏が急速に支持を伸ばしていった。そして、1月3日、いざ、党員集会のフタを開けてみると、オバマ氏が得票率を38%獲得してダントツ1位、第2位はエドワーズ氏で30%、ヒラリー氏は29%で第3位に終わった。誰の目から見ても惨敗だった。「本命」「無敵」「圧倒優位」というヒラリー神話はもろくも瓦解した。8日のニューハンプシャー州で連敗すればヒラリー氏は窮地に立たされると報道される中で、アイオワで旋風を起こしたオバマ氏が風に乗り、直前の世論調査ではニューハンプシャー州でヒラリー氏を10%以上、引き離した……とメディアは報じ、誰しもがヒラリー氏の連敗を予想した。

流れを変えた「ヒラリーの涙」

 しかし、流れを変える事件が起きた。投票の2日前に同州内のカフェテリアで女性支持者と懇談している際にヒラリー氏は「私は米国が後退するのを見たくないの」と声を詰まらせ目を潤ませたのだ。この一瞬の涙は米全土へと一斉に報道された。

 そして、8日の選挙、奇跡は起きた。ヒラリー氏が39%を獲得して、37%のオバマ氏をわずかな差で破り、勝利した。「ヒラリーの涙」が流れを変えたとメディアは論評した。ヒラリー氏は「あなたたちが私をカムバック(復活)させてくれたように米国を取り戻しましょう」と呼びかけた。難破しかかったヒラリー選対はかじを取り戻した。

 ヒラリー氏はネバダ州の演説で「共和党に7年間も政権を任せてしまったわ。今回は私たちがホワイトハウスを取り戻す時です」と訴えた。19日のネバダ州・党員集会ではヒラリー氏が51%を獲得し、45%に終わったオバマ氏を下した。2連勝したヒラリー氏はこのままの勢いで26日の南部サウスカロライナ州での予備選や、20州以上の予備選・党員集会が集中する2月5日のスーパーチューズデーで圧勝して、一気に民主党予備選を制するつもりだ。