2007-11-17

フランスの準結婚制度「パクス」って何? 同性間もオッケー!──成立8年で28万カップル

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オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

主題:フランスの準結婚制度「パクス」って何?
副題:同性間もオッケー!──成立8年で28万カップル
写真脚注:パクス制度の創案者・パトリック=ブローシュ下院議員(2006年3月)=撮影:及川健二

【本文】
 8年前、1999年の11月15日、フランスでパクス法(連帯民事契約法)が成立した。

 日本には馴染みのない概念だが、パクスとは結婚を緩くした「準結婚制度」と考えればさしつかえない。パクスと結婚を比較すれば、その違いが分かる。

・結婚は「男女カップルのみ」に限定されるが、パクスは同性カップルも締結できる。
・結婚は原則として「両者の合意」があって解消されるが、パクスは片方の意志だけでパクスを解消できる。
・結婚には貞操義務があるが、パクスにはない。

 パクスでは財産を一方から他方へ贈与するなどして共有の形にすることができる。別れるときは財産を分けることになり、一方が亡くなった場合は、残った者が財産を譲り受けることも可能だ。

 「同性カップルの権利を保障する制度の確立」をマニフェスト(政権公約)に銘記した社会党が1997年6月の下院選に大勝すると、同党リーダーのリオネル=ジョスパン氏を首相とする左派連立内閣が発足した。そして、1998年に同性愛者の人権問題に精通している社会党のパトリック=ブローシュ下院議員にジョスパン首相はパクス法の創案を指示する。

できあがった同法案は右派の猛烈な抵抗があり、下院議会で一端は否決されたものの、120時間も審議した末に、1999年10月13日に下院で、賛成315票、反対249票で成立した。

 同法の条文を作成したブローシュ下院議員は、2006年3月、記者(及川)に対してその意義を次のように語った。

 「パクスによって民法で初めて同性カップルの権利を認められました。『同性愛』がタブーでなくなったのも、パクスのお陰です。パクス以前は、同性愛という言葉を発するのさえ嫌がるような人々もいました。パクスが国民的な議論になり、同性愛の問題が自由に議論されるようになりました。『私たちはパクスする』という単語が日常用語として定着し、テレビの番組や映画のセリフで当たり前のように使われています。

 また、パクス以降、同性カップルは自分たちの性的指向を隠さずにすむようになり、道で手をつないで歩くというようなことも当たり前になりました。同性愛者であることを両親や友人に公言できるようになったということは、解放と認知という効果があったことを示します。これまで差別され、戦時中には迫害さえされてきた人々が、パクスによって人間としての尊厳を取り戻すことができたのです」

 司法省は11月、パクスに関する報告書を発表した。それによれば、パクスしたカップルの数は次の通りだという。かっこ内のパーセンテージは前年比に比べた増減率だ。

1999年   6211組
2000年 2万2276組
2001年 1万9632組(-11.87%)
2002年 2万5311組(+28.92%)
2003年 3万1585組(+24.78%)
2004年 4万0093組(+26.94%)
2005年 6万0473組(+50.83%)
2006年 7万7362組(+27.93%)

 これらには当然、男女の組み合わせも含まれている。パクスしたカップルの中で同性間の占める割合は1999年には全体の42%だったが、2000年には24%へと下がり、2006年には7%まで落ちている。

 当初、何の社会的保障もなかった同性カップルに異性カップルと同等の権利を与えることが法律の目的だった。今では異性カップルが結婚前のお試し期間としてパクスしたり、堅苦しい結婚は嫌だけれど、緩やかなパクスならばオーケーという異性カップルが採用したりすることが多い。必ずしも同性カップルだけの制度にはなっていないのが現状だ。

 一方、結婚数は、年々減少傾向にある。2000年が29万7922組だったが、2006年は26万8100組と、2万9822組減少した。この間、年間パクス数は5万5086組増え、パクスと結婚を含めた法的パートナーシップの成立数は増加しているのだ。パクスする人々の平均年齢は1999年が37.6歳だったのに対して2006年は31.5歳へと下がり、男性の平均初婚年齢(31.1歳)にかぎりなく近づいた。1999年から2006年の間にパクスを解消したカップルは3万8000組、全体の14%を占める。

 次のステップとして、同性カップルによる結婚を合法化すべきだ、と前出のブローシュ議員は、語る。

 「現在、フランスでは、結婚したいと望む同性カップルが数多くいるわけではありません。それはパクスの方が、結婚よりも拘束力が弱いからです。とりわけパクスの解消と離婚のあいだには大きな差があります。離婚するためには、しばしば長期間の裁判が必要になります。これに対してパクスは、同性愛の文化ないし慣習に適しているという側面もあります。

しかし、現在フランスにおける同性カップルが不満をもっているのは、彼ら彼女らが、将来、結婚を選択するかはともかく、結婚が『禁じられている』という点です。人々は誰しもが平等であるべきなのですから、同棲、パクス、結婚のあいだでの選択を同性カップルも可能にする権利の平等を実現しなければならないのです」