2008-01-28

保革が激突、過熱するパリ市長選挙

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写真脚注:ベルトラン=ドラノエ・パリ市長。(撮影:及川健二)

オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

主題:保革が激突、過熱するパリ市長選挙
副題:社会党市政は継続できるか?

【本文】

 フランスの統一地方選挙が2008年3月9日、16日に行われる。中でも注目されているのが首都・パリ市長選だ。常に右派が市長を制してきたパリで、2001年の選挙ではフランス史上初めて、社会党のベルトラン=ドラノエ氏が現職の保守系市長を破って当選を果たした。

 市政奪還を目指す国政与党の国民運動連合は2006年2月に市内在住の党員で予備選挙を実施し、勝てる候補として、女性で元観光大臣を務め、現在パリ第17区長として活躍中のフランソワーズ=ドゥパナフュー下院議員を選出した。2人の一騎打ちにパリ市民は強い関心を示している。

フランス初のカミング・アウト議員

 ドラノエ氏とはいかなる経歴の持ち主か。1950年5月30日、チュニジアの首都チュニスで生まれ、幼少時をチュニジア北部にある人口約9万人の都市ビゼルテで過ごす。彼が思春期を迎えた頃に、フランス人の家族と共にフランスへ移住。23歳の時、政治の世界に入り、アヴェロン県にある社会党の事務所で事務員として働きはじめた。

 1977年にはパリ市議会議員に選ばれ、81年に社会党本部の広報官になり、93年にはパリ社会党の代表になった。95年、上院議員に選出され国政入りし、上院外交国防委員会に配属される。上院議員とパリ市議を兼務したドラノエ氏は1995年から2001年までパリ市議会の野党代表を務める。

 1998年11月22日、民間のテレビ局「M6」の報道番組『立ち入り禁止地帯』で、同氏は自らが同性愛者であると告白する。フランス初のカミング・アウトした国会議員なので、メディアの脚光を集めた。

 ドラノエ氏は現在、社会党の幹部で、党の看板政治家だ。有権者の好感度調査では常に1、2位につける。今秋の社会党大会ではフランソワ=オランド党首の後継者が選ばれる。ドラノエ氏が再選した場合、党首につくのが確実視されている。そして、次期大統領選挙の社会党候補になる可能性が一気に高まる。ドラノエ氏にとって、今回の選挙は政治生命がかかった闘いだ。

高いパリ市民の支持率

 市長在任中は、徹底した歳出削減による財政の健全化、市民と真摯に対話する車座集会の実施、長く続いた過去の保守系市長の下で決められた無駄遣いの撤廃、情報公開、説明責任が十分に果たされる「ガラス張り」の行政、託児所の増設などの手厚い社会保障政策、自動車優先の見直しによる大気汚染対策、環境政策などなど数々の改革を実行してきた。最新の調査でパリ市民からの支持率は73%で、不支持の23%を大きく上回っている。ドラノエ氏は市民から高く評価されているのだ。

 一方、対立候補のドゥパナフュー氏は下院議員を22年務めるベテラン政治家だ。とても保守的な思想の持ち主である。女性ながらフェミニズムに批判的で、伝統的な女性像を重視している。国政で地方議員の男女同数を目指したパリテ法や、人工中絶できる期間を伸ばす法律、公立の中学・高校で生徒に経口避妊薬を配布する政策、異性カップルのみならず同性カップルの権利をも保障する準結婚制度パクスに一貫して反対してきた。これらにすべて賛成してきたドラノエ氏とは対極的な考え方の持ち主だ。

 パリ市長選挙では、7年間のドラノエ改革の成果が問われる。さらなる改革か、それとも保守市政への回帰か。3月にパリ市民の審判が下される。