2007-01-21

『ゲイ@パリ』を語る②

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拙著『ゲイ@パリ 現代フランス同性愛事情』に関連して、歌川泰司さんからインタビューを受けました。

そのやりとりを紹介します。

歌川さん:貴著を読んで、パリの同性愛者が持つ経済力は、やはり各企業でも無視できないものになっているように思えました。東京にもたくさんのLGBT が暮らしていて、それなりに経済力も持っています。それなのに、日本の大手企業の中では「性的少数者への差別の禁止」をCSR で謳っている企業は2社(富士通と資生堂)だけ。積極的に LGBT市場に働きかける動きは見られません。日本って、どうしてこうなんだと思いますか?

及川:同性愛者の声が小さいのと、日本の政党で同性愛者の人権を重要な問題として取り組んでいるところがないからだと思います。フランスでは雇用・労働において同性愛を理由とした差別は禁止されています。社会党が提案し成立させた政策です。企業が同性愛者を「良い顧客」としてターゲットしているように、政党も同性愛者を「良い有権者」(つまり、票になる)と捉えています。社会党、緑の党、共産党では、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)担当の委員会が党内に存在します。そして、同性愛者の団体との交渉窓口となっています。日本では社民党がLGBTに関する政策を提唱していますが、他党への波及効果はいまのところゼロです。

「緑の党」が存在しないのも同性愛者にとっては不利な事実です。ヨーロッパでは緑の党はもっともLGBTの人権に熱心に取り組み、政策として実現させていく政党です。拙著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)で『赤毛のダニー』という愛称を持つダニエル=コーンベンディット欧州議会議員にインタビューしました。ダニーはフランスやドイツでは超有名人で、ヨーロッパの環境運動の先駆け的存在・大御所的存在であり、欧州議会議員を務め、現在、欧州25ヶ国から選出された『緑の党』出身の議員で構成された会派『ヨーロッパ緑の党』の代表をつとめています。ダニーはフランスで生まれ、大学までフランスで育ち、両親はドイツ人です。だから、ドイツ語とフランス語を話せます。彼を一躍有名にしたのは、1968年に起きたフランス版全共闘・学生運動の『パリ五月革命』で、学生の指導者でした。ドイツへ国外追放になり、10年間、フランス入国を禁止されました。

なぜ、緑の党が同性愛者の人権に熱心なのか、緑の党のドンに訪ねてみました。
ダニーの答えは明快でありました。緑の党は人々を抑圧する全体主義・ファシズムと闘っている、そして、その国が全体主義であるかどうか同性愛者をとりまく状況を見れば分かる。つまり、ナチス・ドイツであれ、キューバであれ、イスラム同化主義の国であれ、全体主義は必ず同性愛者を問題視し排除・抑圧する。ブッシュ政権が唱える「自由」というものがいかにイカサマ・インチキ・ウソ八百であるかということも、同性愛者に対する態度から分かるといいます。ブッシュは同性愛を「罪」とみなし、同性愛者の権利を認めていません。アメリカで全体主義的運動が盛り上がったのが、1950年代にふきあれたマッカーシズムという「赤がり」の時代です。マッカーシー上院議員という狂信的な人物が先頭になり、あらゆる人を「赤」扱いして検挙します。性科学の先駆け的存在だったアルフレッド=キンゼイ博士など性的リベラリストや同性愛者も「赤」だといって摘発されます。同性愛者の権利擁護は「全体主義に対する闘いだ」というダニーの回答に私は心打たれました。日本でも『緑の党』が存在し、一定の政治勢力を持っていれば、同性愛が政治的課題として扱われているのではないか……と思います。

歌川さん:パリのLGBT シーンを深く知った及川さんから見て、もっと暮らしやすい社会を作っていくために日本のLGBTたちが日々心がけなきゃいけないことって、どんなことだと思いますか?また、日本の LGBTメディアがするべきことってなんでしょうか?

及川:まず、獲得すべき権利は何であるのか明確にする必要があります。

フランスではLGBTの共通目標は主に次の5点です。
1 :同性カップルの結婚を合法化する。
2 :ホモフォビア、レズフォビア、トランスフォビアを取り締まる法律の制定。
3 :同性カップルが子どもを養子縁組する権利を認める。
4 :レズビアンが人口生殖を利用して受精・出産する権利の確立と手術の保険適用。
5 :トランスジェンダーが戸籍変更できるための法制度をつくる。

3 に関して説明すると、同性カップルに育てられている子ども達は20万人いるといわれています。片方のパートナーに親権が認められても、異性カップルであればカップル両方に親権が認められるのに、同性カップルの場合、パートナー両方には認められません。同性カップルが二人で育てた子どもなのだから、二人に親権を認めましょうよ……というのが3の議論です。

4 に関して説明すると、既婚の不妊症の女性であれば、体外受精など人口生殖を利用して受精・出産する権利が認められ、手術費用は保険が利きます。ただ、独身であったり、女性同士のカップルであったりする場合、生殖手術は認められていません。子どもが欲しいレズビアン・カップルは国境を越え、手術を認める国・ベルギーで人口生殖しています。

さて、以上5つの事柄は、日本のLGBTも同様に目標とすべき課題なのではないかと思います。政治家に働きかける無力さは重々承知しています。しかし、LGBTの団体が定期的に政治家と交流し、理解を深めていく……ということも重要なのではないかと思います。2006年のパリのゲイ・プライドには、社会党や緑の党の党首、幹部クラスの政治家が参加しました。日本でも議員に参加を呼びかけていくのもよいかもしれませんね。

このエントリへの反応

  1. >日本でも議員に参加を呼びかけていくのもよいかもしれませんね。

    札幌はすでに市長が何回か出席して挨拶し、道知事もメッセージを寄せています。去年スタートの大阪でも府知事・市長がメッセージを寄せているし、現役の国会議員(民主党)も参加したと聞いています。

    要するに、東京がダメすぎるのです。

  2. >tn様
    コメントありがとうございます。
    都知事をかえろってことですね。