2010-06-14

談話室沢辺 ゲスト:TBSラジオ「Dig」プロデューサー・鳥山穣「ラジオは変わるのか」

TwitterUstreamなどのリアルタイム・メディアが、日常に入り込んで来ている。
また、3月15日にはインターネットで地上波ラジオの生放送が聴ける「radiko」の実用化試験がスタートした。
新しいツールの登場は、ラジオ番組にどのような変化をもたらすのだろうか?
4月に「ニュース探究ラジオ Dig」をスタートさせ、Ustreamやニコニコ動画での同時放送を行なうなど、ラジオ番組の可能性を探っているTBSラジオのプロデューサー・鳥山穣さんに話を聞いた。

(このインタビューは2010年5月26日に収録しました)

プロフィール

鳥山穣(とりやま・じょう)
1979年、ロサンゼルス生まれ。2003年、TBSラジオ&コミュニケーションズ入社。2010年4月より、「Dig」プロデューサー。
Twitterアカウント(@joetoriyama)
TBSラジオ「Dig」
「Dig」のTwitterアカウント(@dig954)

●ラジオは一度殺されたメディア

沢辺 今日は、ラジオの現状と、その状況の中でどういう気持で「Dig」を始めたのかを聞かせてください。
なぜ鳥山さんなのかを先に種明かししておくと、この前「本はどこへ行くのか?出版業界の今と未来」という特集に出演させてもらったときも話したように、ラジオだけじゃなくて、新聞も出版も、メディア全体が変化の境目じゃないですか。現状を危機と呼ぶかは見方によって変わるかもしれないけど、メディアの有り様が大きく変わりそうなのは間違いない。鳥山さんはその変化を、ラジオという場所でどう見ているのか。そして、「Dig」という番組はどうやってその困難を突破しようとしているのかを聞きたいと思ったんです。

鳥山 ラジオは実際、しんどいですね。ただ、テレビや出版、新聞というメディアと違うのは、ラジオはテレビが登場した何十年か前に一度殺されていることです。テレビが出てきた後は細々とやっていて、途中なだらかなアップダウンはありつつ、基本的には低空飛行を続けていたのが、さらに死のうとしている、というのがラジオの現状だと思います。それについては、「だから他のメディアよりさらにヤバイ」と思っているし、一方で楽観視するところもあるし、ちょっと複雑な見方をしています。

沢辺 ラジオってどのくらいの人に聞かれているんですか? 出版業界は、「売上で年間2兆円」と言われていますが。

鳥山 5月24日に、4月に調査した聴取率調査の結果が出ました。東京を中心とした首都圏のラジオの状況なんですが、全局を足した「全局聴取率」は7.1%でした。この数字は、首都圏の人口を3,600万人として7.1%で約260万人になります。これを多いとするか少ないかとするか。全局で7.1%という数字ですが、過去に比べると徐々に下がっていますね。
お金の面でいうと、TBSラジオは2009年度は辛うじて黒字を確保していますが、ラジオ業界は軒並み大変な状況になっています。ラジオ業界の端くれにいるぼくですが、今まで通りの広告収入だけではやっていられない状況が見えています。

※株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ
従業員数は95人(2009年6月24日)。売上高は114億1900万円、経常利益は2億3200万円(2010年3月期)。
ビデオリサーチによる2009年6月の調査では、全局聴取率7.4%のうち、TBSラジオの聴取率は1.4%。
TBSラジオ 954Hz

沢辺 鳥山さんは入社何年目なんですか?

鳥山 今年8年目で、入社は2003年です。

沢辺 その頃の数字がどのくらいだったか覚えてますか?

鳥山 2003年の4月は全局の合計が7.8%でした。その後ゆるやかに減っています。

沢辺 でも、260万人って、俺の感覚では物凄い数だと思いますよ。

鳥山 ぼくは基本的に疑り深い性格なので何かを100%信頼することはなくて、聴取率調査も一つの指標として参考程度にとらえています。260万人という数も、どれだけ妥当性があるかわかりません。
でも、数字がいい番組は聴けばわかるんです。やっぱり、面白いか面白くないかですよ。ぼくは具体的な数字よりも、そういう空気のほうを自分の目安にしています。
たとえばここ最近、首都圏の全ラジオ局の中で一番数字を取っている番組を2つ紹介すると、TBSラジオの「安住紳一郎の日曜天国」という日曜日の朝10時からやっている番組と、これもTBSラジオで平日の朝8時半からやっている「大沢悠里のゆうゆうワイド」。首都圏で一位なので、結果的に日本で一番聴かれている番組になります。「日曜天国」は僕もファンです。面白い。手間も凄くかかっているようですし。

沢辺 たとえばどんなふうに手間がかかってるんですか?

鳥山 自分が作っているわけではないので細かい中のことはわからないですが、メールは全部見るし、お礼状は本人が書くというような喋り手の方の意識の高さに加えて、スタッフもよく準備をしています。構成を考えてブッキングをして企画を練るのにも時間をかけているし、その精度がすごいです。逆に、それだけ時間をかけて作り込むのは週1でないとできないと思いますけど。
中でもオープニングトークがすごくて、長いときは30分くらい喋ります。話している内容は、安住さんの周りで最近起こったこととか身近な話ですが、話の組み立て方、話の変え方、間、抑揚、ボリューム、いろんなことで「喋りのスキルというのはこういうことか」と思わされます。相方の中澤有美子さんとも相性がよくて、二人が喋っているところがすごく楽しそうなんです。人を惹きつける磁場が強い。
ぼくはニュースを扱っているのでアプローチが違いますけど、話が面白く聞こえるというのはすごいことですよね。
「日曜天国」の一部はポッドキャストで聴けますので、ぜひ一度お試しください(にち10ポッドキャスティング)。
平日毎日4時間半放送している「ゆうゆうワイド」も、大沢悠里さんというパーソナリティの力がものすごい。もちろん好き嫌いが分かれますし、僕自身そこまで聴いているわけではないですけど、本当の喋りのプロです。
それから、ラジオは習慣として聴く人が多いんです。「この話をしているから、今何時くらい」と時計がわりにできる作りになっているので、日常生活に入り込みやすいのだと思っています。「ゆうゆうワイド」は特に五十代、六十代の方に支持していただいていますね。

●番組とスポンサーの距離が離れすぎていた

沢辺 ラジオは基本的に、「流している広告で売上を上げている」と理解していいですか?

鳥山 基本的には広告収入です。スポンサーにお金を出してもらって収入にする。あとは番組を地方局に売ったり、コンサートやイベント、物販の収入もありますが、今は広告収入の割合が圧倒的ですね。その割合が今後変わっていくかどうかは、もうちょっと偉い人が考えているかもしれません。
個人的な見解ですけど、改めて広告モデルをブラッシュアップしていくのは「アリ」なんじゃないかと思っています。よく「広告モデルは終わった」と言われていますが。

沢辺 考えてみたら、インターネットって完全に広告モデルだからね。新しい媒体だけど、ラジオと全く同じ。

鳥山 ここからはぼくの誤解もあると思うので話半分で聞いていただきたいのですが、これまでラジオの広告は「番組をプレゼンして売る」ということがあまり機能的に行なわれていなかったと思うんです。新番組の立ち上げの時はプレゼンもするけれど、既に在る番組を改めて代理店やスポンサーにプレゼンして売るよりも、一部の人気番組だったり、強いコンテンツの営業ばかりやっていた時が長く続いたんです。その仕組み・ビジネスモデルを考えた人はある種天才だと思いますが、20年、30年前のアイデアにそのまま乗っかってやってきたのが、今のラジオ業界の状況じゃないでしょうか。

沢辺 強いコンテンツというのは、たとえばナイターとか?

鳥山 ナイターはAMラジオにとって大きな収入源であったし、数字も取れるコンテンツですが、最近は営業物件として効果的なものではなくなりつつあります。数字自体は実は下がっていないんですが、売れない。広告が取れない。「ラジオの中で一番数字が取れてます」というのは決定打にならないんです。

沢辺 本人を目の前にして言うのもあれだけど、ラジオ全体のメディアとしての権威は下がっていますよね。ラジオのトップと言われても「別に」という感じだし、ナイターという狭いセグメントと合うクライアントが少ないということもあるのかな。

鳥山 営業の人間が売り込みに行っても、ほとんど門前払いだと聞いています。そういった状況の中で、いま在る番組を材料に「こういう内容の番組だから、こういうお客に届くはずだ」という仮説をでっちあげて、「こういうスポンサーはどうだろう」というところにアタックしていくサイクルが上手く回っていない。
担当部署の人間が、やっていないというわけではなく、上手く回っていないということ。そして結果的に、スポンサーと代理店に主導権を握られた番組ができていくことになっています。
でも、そうやって取った予算には番組を作るコストは入っていても、番組を面白くするコストは入っていない可能性がある。
それは、スポンサー・放送局お互いにとってマイナスだと思うんです。その悪循環が続いているのは、いろんな放送局のラジオを一日聞いていただければ、わかっていただけるはずですよ。たとえば、とある食品会社にお金をもらって食品会社の食品を食べて、ただ感想を言う番組とか五分で考えたような番組になっちゃう。

沢辺 それに対して、鳥山さんはコンテンツの中身を上げようという考えですよね。それと広告との関係をもう一度整理すると、どういうことですか?

鳥山 ここしばらく、ラジオ番組の現場とお金との距離が開いていたのではないかと。基本的には「営業が持ってきた話に乗るか乗らないか」でした。「Dig」はスポンサーとの打ち合わせに、営業だけじゃなく、プロデューサーのぼくも同席しています。そうすると話が弾むこともあるんですよね。「こういうことはできませんけど、面白くするにはこうしましょう」とか。
営業の力が足りないといっているのではなく、現状を見てみると営業の人間は前々から引き継いでいるものが沢山あって、そういった収入の柱になっているものには煩雑な作業も多い。その作業で手一杯だと。だからそこに「新しいことをやってくれ」と言ってもなかなか上手くいかない。そうすると、制作側に話が来るころにはお金を出してくれるスポンサーの話を飲むか飲まないかになって、「なんだよ営業は」「なんだよ制作は」となる。

沢辺 そのことを単純に「だらしない」と批判していても、何も変わらないからね。

鳥山 そうなんです。すごく偉そうな言い方ですけど、その上で、ぼくらはプロなのでお金を作らなきゃいけないし、面白い番組を作らなきゃいけないというのは大前提です。
4月に「Dig」が始まって、これまで直接話すことのなかった人たちと話してきて、「ここは機能してないな」とか「こういうところもあるんだ」ということがわかってきました。それまでは本当に、代理店ともスポンサーとも没交渉だったんです。既存の代理店がどこまで機能しているかにも注目していますけどね。
営業の現場にいないとわからないこともあるけれど、外から見ると「何でやってないんだろう」ということが沢山ある。その中で、ぼくみたいな立場の人間が打ち合わせやプレゼンの現場に入ってみると簡単に解決するところもあるし、それだけではどうにもならないところも、ちょっとわかってきました。
今「Dig」をスポンサードしてもらっている毎日新聞とNECとトヨタとも直接話をして、お金もらって実験というのは失礼ですけど、これまでにないことをやって、探っているようなところがあります。

沢辺 プロデューサーが営業の人と一緒にスポンサーを回ることは少なかったんですか?

鳥山 あまりなかったですね。制作の現場ではTBSラジオはプロデューサーも何でもやるので、ディレクターとプロデューサーのやることが被ることが多いんです。プロデューサーもブッキングして、現場で原稿書いて、キュー振りもする。メールを印刷して線引いて渡すのもやるし、何でもします。

沢辺 普通はディレクターが現場監督で、プロデューサーはその上に立って全体を整理したり、社内の調整をしたりっていう分担? それが、TBSラジオでは現場のほうに重きがあった?

鳥山 現場で番組を作ってきた人間がプロデューサーになることが多いので。どうしても番組に目がいってしまうのはわかるんですよ。そのほうが楽しいですし、自分が知っていることですから。でもそれだけだと先細りなので、「そうじゃないことをやったらどうだろう」と思って色々やっているところです。

沢辺 今スポンサーとしてついている毎日新聞、トヨタ、NECで「これはDig的です」という企画はありますか?

鳥山 正直、まだそこまで中身に反映させられていない感じです。ニュースの話題が好きな人、「Dig」のような番組に興味を持った人をターゲットにしたいというスポンサーの話をお伺いして、それに乗ることができた、というところです。これまでは、それすらできていませんでした。

沢辺 俺が言葉を継いじゃうと、「ニュースでやるよ」というコンセプトは了解してもらった上で、スポンサーの個別の意向はある意味で無視して、具体的な企画や現場の作り方は、鳥山さんたちが自分たちで徹底的にやるよ、ということに重きを置いているということですか?

鳥山 たとえば毎日新聞は、「ニュース検定」という資格試験を知らしめたいという話だったので、「カンニング竹山さんと竹内香苗アナウンサーとで、こういう内容にしましょう」と提案しました。
トヨタは「F1は撤退したけれども、モータースポーツには力を入れていることをアピールしたい」ということで、脇阪寿一さんというレーサーの方が出てくれることになり、Ustreamとニコニコ生放送をやっている火曜日だったこともあって、そちらも活用しています。
動画も配信することで、これまでTBSラジオを聞いていない人が、脇阪さんを入口にして聴き始めてくれることもあるのかなあ、と思っています。
NECのコーナーは月替わりで出演者が違うんですが、NECサイドからテーマと出演者についての提案を頂き、その人を交えて「こういう話を4回に分けてしましょう」と作っています。

沢辺 鳥山さんが最初に言ったのは、言葉は悪いけど「これまではスポンサーの言いなりに番組を作ってきただけなんだよ」ということですよね。あえて疑った言い方をすれば、「Dig」の現状はそれとはどこが違うんでしょうか。先にぼくの考えを言っておくと、「スポンサーの意見を聞くのも、自分たちのやりたい事をやるのも、両方あり」だということかな?と思うんです。これまでは中途半端にスポンサーに向き合ってきたんじゃないかな。やるなら徹底的にやらないと。

鳥山 そう思います。相手が何を求めているのか、こっちがなにをできるのか、ちゃんと話をしていなかった。だから丸々受け取るか100%断るか、どちらかになっていたんです。そうじゃなく、そのまま飲むことも、そのまま断ることもしない、「今ある材料を使って良くするためにどうするか」という話をちゃんとしてこなかったかもしれません。その手間をかけてこなかったのか、手間が足りなかったのか、手間の方向が間違っていたのかは、わからないですけどね。

沢辺 矛盾って、ないことにするか、「しょうがねえや」のどちらかにしがちだけど、一番大切なのは、断りもせず諦めもせず、矛盾のまま持ち続けていくことだと思うんです。綺麗事に聞こえるかもしれないけど、常に悩みながらやっていくしかない。その中には、鳥山さんにしたら聞き飽きた言葉かもしれないけど「スポンサーに都合の悪いことを伝えることも番組全体の信頼性のためには必要だし、スポンサーが口を出すことも常に悪いことだと切り捨てるのではなく、ギリギリの線を保ち続ける」ということがあると思う。

鳥山 ラジオを聴いている人たちはもちろんバカじゃないんで、わかるんですよね。「いろいろ気にしてるんだな」ということはもちろんわかるし、「ここは頑張ったな」とか「ここは手抜きしたな」とか。

●ラジオ局の社員はいくらもらっているのか

沢辺 出版業界のことで言えば、講談社、小学館のような高給の大手出版社と、ポット出版みたいな低給のところのように、年収は大きく二分化しています。「書店員はジュンク堂、紀伊国屋レベルですら大した給料じゃない中で、どうして出版社はそんなに貰っているんだ。同じ業界の中でやっているんだから、不公平が強すぎないか」と言われることもあります。「リストラなう」というブログで、ある出版社の内情を書いた「たぬきち」さんは率直で面白いんだけど、「そんなに給料もらってたの?」という反応もある。ラジオ局の社員の収入は、どうですか?

鳥山 TBSラジオは、以前は「東京放送」という放送局の一部署だったのですが、2000年に「TBSラジオ&コミュニケーションズ」として分社したんです。ぼくは2003年入社で、大学新卒をオープンで取り始めた最初の代でした。
ラジオ局として分社する前の東京放送の頃に入社した人とは、だいぶ給料が違うようで、分社後に入社したぼくらのほうが平均は低いです。分社したもういっぽうの「TBSテレビ」の人の平均も、東京放送の頃と比べたら低くなっています。

沢辺 鳥山さんの初任給っておいくらでしたか?

鳥山 忘れちゃったな……。当時同級生と比べたとき、他の業種よりは高いけど、放送業界や新聞と比べたら低い、という感じでした。

沢辺 でもそれは高いところと比べるからでしょ。今、30歳になって一千万は超えてますか?

鳥山 ぼくは超えてないです。

沢辺 「一千万なんてとんでもねえよ」という感じ? それとも「まだ超えてません」という感じ?

鳥山 うーん。「Dig」が当たれば超えるかもしれないですね。

沢辺 成績が反映されることがあるんですか?

鳥山 そこまで機能しているとは思ってないですが、一応、「年俸制の評価型賃金」です。「Dig」がそれなりの成果を上げたら、それを持ってカチコもうと思ってます(笑)

沢辺 もう少し出版業界の話をすると、出版業界では、今、下請け化が進んでいます。ラジオ局の場合、たとえば「Dig」のスタッフでは、社員じゃない下請けの比率はどのくらいなの?

鳥山 これまでのTBSラジオではありえなかった話ですが、「Dig」のスタッフで社員はぼくだけです。

沢辺 それは面白いね。狙ってそうなったの?

鳥山 いや、いろんな理由がありますね。大きな動きの中に小さな動きが何個も重なった、という感じです。

沢辺 たとえば会社としては、経費を抑えたいから下請け化を進めたいわけだよね。

鳥山 大人の理論でいけばそうだと思います。

沢辺 いっぽうで、これまでのように「社員だから」とディレクターになるのではなくて、鳥山さんが面白そうだと思うヤツを引っこ抜いてこれるというプラスの面もある。だからマイナスの部分を利用しつつ「しょうがねえや」みたいな顔をして。

鳥山 そうです。もちろん、いま在るワイド番組は社員とプロダクションの人が一緒に作っているのが普通です。社員100%の番組もないし、プロダクション100%というのも、大きな番組ではないです。

沢辺 TBSラジオの社員は何人くらいいるの?

鳥山 100人はいなくて、90何人です。プロダクションなども入れた働く人全体の数は250から300人くらいだと思います。
そうした中でぼくは、プロデューサーは人より高い給料をもらっているんだから、周りのスタッフの人たちができることをわかった上で指揮系統を担当して、判子を押す、責任を負う、ということをやらなきゃいけないと思っています。実際、「Dig」全体の中でぼくは二番目に若いですが、責任を取る立場ですし、おそらくぼくのほうが高い給料をもらっています。もしかしたら違うかもしれないですけど(笑)
いま心配しているのは、今後の制作者たちが現場でのエクササイズを積むチャンスが、外注、外注へと流れるなかで減ってくるということです。現場のことを何も知らないまま大人になってプロデューサーになったとき、果たしてちゃんと指示できるのか。間違ったときに直せるのか、あるいは間違う前に直せるのか。周りのディレクターより面白いものが出せるのかどうか、ということには不安を感じています。
キャリア官僚じゃないですけど、社員がいきなり番組のトップになってもいい仕事はできません。

沢辺 話を戻すと、テレビとラジオがセットの会社から分社したのも、「社員の給料を下げる」というのが大きな理由にあったんでしょうね。出版社でも、正社員の給料に手を付けるのは、やる気もなくなっちゃうかもしれないしビビってできないから、分社して新しい仕組みを作って給料を下げたりする。

鳥山 TBSの場合もそう言われていますし、実際、そうだと思います。ただぼくは、「高いほうを下げるよりも、低いほうを上げる。そのためには、金を稼ぐ」という方向に行ったほうがいいと思うんですよね。

●ニュース探究ラジオ「Dig」は、なぜ生放送なのか

沢辺 鳥山さんがプロデューサーをやるのは、「Dig」で何度目ですか?

鳥山 初めてです。

沢辺 自分から「プロデューサーとして『Dig』をやりたい」とプッシュしたんですか? それとも上の人から「お前そろそろプロデューサーやれよ。何かないの?」と言われた?

鳥山 人それぞれですけど、私の場合は、別の時間帯の月〜金の帯番組の企画書を出していたんです。「今の番組はもう古いから、こっちのほうが面白いですよ」と。その企画書については「その番組を今すぐ終わらせることはないけど、受け取ってはおくよ」ということだったのですが、昨年の末に、「Dig」の前に同じ時間帯でやっていた「アクセス」が終わることが決定したんです。そのときに「夜だけどやる気はあるか」と言われたので、「ありますよ。受けます」と。それが2009年の12月です。

沢辺 そういう風に、自分から「こういう帯番組をやりたいんです」と言うのは、TBSラジオのシステムとしてあるんですか?

鳥山 いや、自主的なものですね。一応、空気としては「出せ、出せ」と言いますけど、「出さなきゃだめ」とか、「この日に出す」ということはないです。

沢辺 実態としてはどうですか? 若いヤツはどんどん企画書を出してる?

鳥山 いや、そういうのは少数派です。おとなしい子が多いし、やる気のあるやつも、どうしたらいいのかわからないという子が多いです。ぼくは直撃が好きなので、紙を書いて直接渡しに行きます。
「Dig」の前に「荒川強啓 デイ・キャッチ!」という番組のディレクターを5年半やっていたときも中身を色々いじらせてもらいましたけど、既にあった番組に入っていったので、できないこともあったんです。だから、「デイ・キャッチ!」ではできなかったことをやりたい、というところから企画書を書きました。それは今の「Dig」とはぜんぜん違うスタイルでしたけど。

沢辺 「Dig」は、どこからが鳥山さんのコンセプトなの? たとえば、ニュースじゃなくても良かった?

鳥山 基本的には全部ぼくです。ぼくはこれまで、すこしだけバラエティもやりましたけど、ほとんどニュースばかりやってきたので、社内でもニュース番組を上手く作れるほうだと勝手に自認して、その能力を活かすのが妥当だろうという判断で、「Dig」はニュースを扱う番組に決めました。
ただ、「前番組の『アクセス』のお客さんをガッカリさせたくない」という会社の意向もありました。
「アクセス」は、一般の方が電話で参加してニュースについて討論する番組で、クロスオーナーシップ、新聞社と放送局の資本の話など、大手メディアではなかなか報道されない話をしたり、比較的硬派な番組をやっていました。

沢辺 「ニュース」の他にはどういうコンセプトを立てたんですか。

鳥山 今、ニュースって、ケータイの画面やパソコンでヘッドラインを見るだけのものになりつつあると思うんです。あるいは、声のデカイ人や乱暴な物言いをする人に引きずられてしまったり。そういう人たちの中には、ぼくの好きな人も沢山いますけど、そればかりになってしまいそうだと感じていたんです。だから、新しい番組はヘッドラインを超える内容にしたい、と考えました。1つのニュースを掘って、とことん話してみたら何かわかってくるし、わかることが増えていったら、わからないことも増えていきますよね。そういう状態をもっと作りたい、というのが最初にありました。
それから、ぼくはこれまで「1時間の中の10分しか時間がない」という番組を担当してきたので、「もっと時間があったら、もっといっぱい質問して、それを放送にしたい」という思いがありました。取材の過程を生放送にしたら面白いし、手間も一回で済む(笑)
予算を削減する必要もあったので、何でもかんでもやるのではなく、ひとつのことをさんざん擦って転がっていくところを見せる方向で考えて。普通の番組だと最初に設定したその日のテーマを途中で変えるのは難しいですが、話が横に転がったり、真下に掘り進んでいったり、変化していく面白さを見せることにしました。出演者の要素としても、取材をすること、質問をすることがうまい人を考えていました。

沢辺 生放送はお金がかからないんですか?

鳥山 生だとやれば済みますが、録音だと「録って、編集して、出す」の三段階になって作業量が増えますよね。30分の番組では録音のものも多いですが、2時間50分の番組をちゃんと編集して組み立て直して出すという作業を毎日やるのは、ちょっと不可能ですね。今の陣容でも無理ですし、あと何人いたらできるのかわからないくらい厳しいと思います。でも生だったら、最低その場に人が集まれば放送できます。

沢辺 番組の企画を出すときに、「生」という要素も入れたほうが提案が通りそうだと思っていたんですか?

鳥山 そうです。帯番組にしたのも理由があって、今は土日はしっかりした番組が沢山あって穴がないんです。だったら帯を狙うほうが成功率は高いんじゃないか、と考えました。でも、自分のやりたいことをそのまま載せるのには週一という周期はとてもいいので、週一の番組の企画書ばかり出す人もいます。

沢辺 長い時間というのも、鳥山さんの考えですか?

鳥山 もともとは2時間で考えていました。2時間50分になったのは、後から言われたことです。「10時から12時50分までやってくれ」と。
だから、「生」はほぼ決定事項ですね。今TBSラジオは9割以上が生放送です。

沢辺 2時間50分というのはすごいよね。

鳥山 ぼくも「長えなあ」って思いますよ(笑)

沢辺 出演依頼をもらったとき、「どうせ5分か10分出て終わりなんだろうな」と思ってたら、2時間50分だったから驚いちゃった。嬉しかったけどね。

鳥山 人によりけりですけど、「長く話せるので」と喜んでくださる方はいらっしゃいます。大変ありがたいことですし、こちらにとっても嬉しいことです。テレビのニュースに呼ばれるような人ほど、そう言ってくださる方が多いですね。
30分録ったコメントを1分にするような使われ方は、コストパフォーマンスの面ではいいかもしれないですが、喋って出す喜びではラジオに分があります。
ニュース番組をやっているときは政治家によく出ていただいたのですが、政治家は自分の発言を切られずにそのまま喋れるので、喜ぶ人が多い。生放送なので、ぼくらにいじられない、と。もちろん、生で出ることはあちらにもリスクはあるし、出ない人はとことん出ないですけどね。

沢辺 ニュースによく出るような著名な人は、ギャラと拘束時間の費用対効果を考えて長時間のラジオには後ろ向きなのかな、という先入観があったんだけど、長時間であることはプラスに作用している?

鳥山 はっきりプラスですね。時間が長いから嫌だという人は、少数派です。むしろ「え、5分なの?」という人が多い。もう収入を得ている人がPleasure(=喜び、楽しみ)の部分で出てくれたり、喋りたいことはあるけど出し所がない方が出てくれたりします。

●死ぬほど準備をして、それが役に立たないときのほうが面白い

沢辺 4月の聴取率調査では、「Dig」の数字はどうだったんですか?

鳥山 夜10時から12時50分までの1週間の平均が、0.6%でした。首都圏の人口が3,600万人として、約21万人の人が聴いてくれたことになります。それプラス、愛知や北海道、熊本、宮城、新潟、富山、静岡のネット局で聴いてくれていた人、ストリーミングやradiko、動画サイトで聴いてくれた人がいる。ぼくはもっと悪いと思っていました。
今、同時間帯の1位はNHK。ニュースと「ラジオ深夜便」ですが聴取率は1.1%です。
「ラジオ深夜便」は50代〜60代の方を中心に聴かれていて、特に60代女性では圧倒的な人気です。30代〜40代の聴取率では負けていないのですが、ラジオの聴取者全体の構成として50代〜60代が多いので持っていかれた、という感じです。

沢辺 調査では年代もわかる?

鳥山 聴取率は12歳から69歳までの男女を、年代別に取っています。「Dig」は40代男性では全局で一番ですが、比較的高い年齢の女性には、あまり好かれていないようです(笑)

沢辺 出版社の場合、紀伊国屋で本を買ってくれた人の男女・世代が「パブライン」というサービスでわかるくらいで、実際にどんな人に本が買われているのかは、すごく不正確にしかわからないんです。最近はTwitterやブログの書き込みで少しわかるようになったけど。

鳥山 でも、ラジオもわからないですよ。ある限られた情報から想像するしかない。Ustreamやニコニコ動画にしても、視聴者の属性はよくわからないですよね。聞いてくれている人のことを知るメインはお便りで、「Dig」には12歳の子から80歳の方まで世代も場所もバラバラの方から、毎日平均で100通のメールが来ています。
ただ、送ってくださることは大変ありがたいことで、本当にすごいなと思いますが、それはあくまでも全体の一部だという認識を、作ってる側はすぐ忘れてしまうんですよね。
たとえば前番組の「アクセス」の、電話によるリスナーの意見が直接放送に反映されるシステムは、できた当初は画期的な仕組みだったのですが、2009年、2010年になって「わざわざラジオに電話してくれる」人は「めずらしい人」になりつつあったような印象があります。そういった方の意見があたかも皆の総意であるようなズレが生じたり、システムとして破綻した部分がある、というのが「アクセス」を終わらせた一番の理由です。

沢辺 今の電子書籍への評判・意見についても同じように感じることがある。ぼくら出版社の人間は、見やすいから、ついついネットで情報を見てしまうんですよ。ネット上では「なんで無料にしないんだ」とか過激なことが書かれていますよね。もちろん、そこに耳をかたむけるべき視点も入っているんだけど、実は世間から均等に100人を取り出してみたら、90何人かは「電子書籍なんてどうだっていいよ」という感じだよね。でもネットだけを見ていると、一握りの人たちが全体であるように錯覚する。

鳥山 だからぼくらに大事なのは、そういう論調がネット上にあると知った上で、そこだけには乗らない、ということです。ネットで語られていることも選択肢のひとつにはあるけど、その他もあることを見ておかないといけない。それは口で言っても若い子には伝わらなくて、自分でネットを死ぬほど見て、わかった上でさらに別の意見を立てていかないと。年寄りみたいなことを言ってますが、ぼくは多分、TBSの中で一番ニコニコ動画を見ている人間だと思いますよ。それでも、コメント欄は話半分で見ています。

沢辺 Twitterはどうですか? これまでTBSラジオの番組の中で使っていたことはありますか?

鳥山 去年くらいから、ライムスター宇多丸さんの「ウィークエンドシャッフル」「小島慶子キラキラ」、ぼくが前やっていた「文化系トークラジオLife」などで使っていました。「Life」は、今のプロデューサーとぼくの二人で立ち上げた番組です。

沢辺 「Dig」は今、FAX、メール、ハガキ、Twitter、それからニコニコ生放送とUstreamもやっていますが、それらのツールを使ってみて、どうですか。

鳥山 新しいツールが出てくると、それを使っているだけで喜ぶ人もいますが、やっぱり、「肝心の放送が面白くないとどうしようもない」というところに落ち着きます。その上で、本当に間口が増えたので「知っておかなきゃいけないことが増えて大変だな」という感じです。
それから、ラジオの電波を持っていることの有利さを感じます。とても安定していて、インフラとしてムチャクチャ強い。ラジオ電波があった上でいろいろ試すことができるのは、なんてラクをしてるんだ、と。

沢辺 番組としての手応えはどうですか?

鳥山 まだまだ、当初考えていたより面白くない。これからです。

沢辺 正直に言うと、俺が出た回は、いくら一般の人を対象にしているといっても、内容を知らせるという点で不十分だな、という印象でした。

鳥山 本当に面白い内容だったら、その話を初めて聞く人も、ずっと知ってる人も、どちらにとっても面白いはずなんですよ。だから、まだ本当に面白い話にたどり着く作業が足りていないと思います。まあでも、それができたら終わっちゃっていいんじゃねえかな、と(笑)
なにがわかっていて、なにがわかっていないのか、それの主体が誰かとか、もっともっと突き詰めて話さないといけません。
作り手の側は自分の思いを設計図にします。その上で、放送は生放送なので、事前に作った設計図がどれだけ予期せぬ方向に面白くなれるかなんですが、今はそこまでマネージメントできていません。もちろんぼくの責任が一番大きくて、スタッフはみんなぼくの無茶な注文に乗って頑張ってくれていて、本当に申し訳ないと思います(笑)

沢辺 自分のUst経験でも、「中身が良かった」とか「質が高い」という点ではなくて、何か揉めたときのほうが見る人が増えるんだよね。

鳥山 死ぬほど準備して考えて、でも役に立たない、というときのほうが面白かったりするんですよね。その準備があったから先に行けた、というアクシデントが起こせたら、作っていて面白いですよ。そういう経験を何回かすると、ラジオが好きになりますよ。いい経験をすれば乗れる。だから、若い子はまだいい経験をしていないと思うんです。「ラジオなんて誰も聴いてねえよ」と思って、誰かに言われてるからやってたり。そういう子に、なるべく早くいい思いをさせてあげて、ラジオを好きになってもらいたいし、リスナーにもいい思いをさせなくちゃいけない。

●パーソナリティはTwitterや2chを見ているのか

沢辺 ぼくが「Dig」に出させてもらったとき、荻上チキくんしかTwitterを見ていなかったのが意外だったんですよ。もちろん、あの程度の書き込み量だからチキくんも見ながらできるけど、スゴイ量の書き込みになっちゃうと追えないし、そうなると、誰か別の人がTwitterを見て、ピックアップしたものをパーソナリティに伝えたりしないと駄目だと思うけど。

鳥山 今はハッシュタグのついた書き込みを印刷して、話に反映させやすいものを抜き出して渡していますね。

沢辺 外山惠理アナウンサーが「私は怖くて見れない」と言っていたのも印象的だったんですよ。俺は「怖くて見れないっていう気持ちはわかるけど、そうしたマイナス情報も受け止めた上でやるしかないだろう」と思うんだけど。

鳥山 出演者がTwitterや2chの早い反応を見るかどうかは、今でも意見は分かれています。ぼくは、スタッフは見たほうがいいと思うけど、出演者はどっちでもいい、という考えです。「知っておいた上でやるかやらないか」という意味では知っておいたほうがいいですが、やりたい事がハッキリあるのなら、まずはラジオの放送を出すだけに徹するのもアリだと思うんです。
かなり驕りも入っていると思いますが、あとは「プラスになる反応かどうか」ですよね。書き込みを見て心が揺さぶられて肝心なパフォーマンスに影響が出るくらいなら、見ないほうがいい。一度、竹内アナがステジオに自分のパソコンを持ち込んでTwitterを見ながら放送したことがあったのですが、本編の放送に支障が出たように思えたので「止めましょう。まずはラジオの進行をちゃんとやりましょう」と言ったことがあります。
どちらにせよ「150kmの直球をイイ所に投げれば打たれない」という考え方も「変化球でちゃんとかわしていくピッチングが必要だ」も、どちらも正しいと思いますけどね。

沢辺 たしかに、現実的に難しいところがあるよね。Twitterに気をとられてラジオのお喋りが疎かになっちゃったら意味がない。

鳥山 「その場にいる人と面白く話をして、それを聴いてくれている人がいる」というのがラジオの一番シンプルな構図なので、ある一人のコメントに左右されて肝心の放送がつまらなくなってしまうようなことは間違っていると思います。
Twitterを見ながら、書き込みに左右されるのではなくて、もう一段上のところで進行できるチキくんや神保さんは特別ですよね。

沢辺 ただ、ぼくは家に帰ってハッシュタグを見直したときに、絶対突っ込み返したいネタもあったので、「その場で見たかったな」という思いがあったのも事実でね。

鳥山 微調整できるとうメリットはありますよね。今、放送中にハッシュタグをつかった書き込みが数百から数千ほどあるのですが、そちらばかりに意識を持っていってしまうのは、ラジオで聞いてくれている21万人に対してどうなのか。どっちも同じリスナーなだけに、一部に目がいってしまう危険性があるものは優先順位を低くしています
ただ、これまでのTBSラジオの番組では目にしなかった名前の方がメッセージを送ってくれているな、という手応えもあります。「デイ・キャッチ!」の頃も、今も、全部のメールに目を通していますけど、初めて見る名前の人がけっこういます。きっかけはTwitterなのか、別のものなのかはわからないです。

沢辺 ポット出版の場合は、意見を届けてくれるのはけっこう決まった人だ、という傾向があるけど、ラジオでも、積極的にメッセージをくれる人は常連になってるんですか?

鳥山 そうですね。どの番組にも送ってくださる方もいますし、この番組にはこの人、という方もいます。
それから、先週の「週刊文春」では小林信彦先生に辛口の批評をいただきまして。

沢辺 鳥山さんは、辛口の批評も平気そうだよね。

鳥山 ぼくは、すごく気にしますけど、大好物です。それに、自分の番組に触ってもらえたことが嬉しいですね。

沢辺 俺は正直に言うと、「批判大歓迎」という自分と、キンタマが小さくて「見たくない!」という自分と、両方いる感じ。

鳥山 ぼくはどちらかと言うと、書いた人を見返したい気持ちが強いですね。「なめんな!」と。それが原動力になりますし。
ラジオのいいところは、生放送ならその場で反応があることで、ものを作っていてこんなにうれしいことはないと思います。文章だと、書いたそばから単行本になることはありえないですが、ラジオは喋った側から放送になる。極端なことを言えば、その辺にある紙を裏返して文字を書いて渡せば、読んで放送に乗りますから。

沢辺 「Dig」のテーマやゲストはどのくらいのタイミングで決めてるの?

鳥山 最長1週間単位で決めてますね。一番短くて前日とか当日ですけど、平均すると3日くらい前。2、3日前に「何やろうか」と話しだして、そのときにざっくりしたテーマと、どの人に話を聞くか、そして全体のトーンや流れはこういう感じ、というのを決めてやっています。

沢辺 その進行は、ラジオのスケジュールとしては一般的ですか?

鳥山 いや、長いくらいです。平日午後3時半からの「デイ・キャッチ!」をやっているときは、朝9時半か10時に会社に来て新聞を全部読んで、テレビのニュースを見て、「じゃあこの人、この人、この人」とブッキングしていました。

沢辺 それはニュースだから?

鳥山 そうです。生ものだから。でも、「Dig」は比較的タイムリーではない話題も扱っている番組なので、2、3日前から準備ができる。ニュースに関係なくやるときは、1週間かけることもあります。

沢辺 「Dig」は各曜日ごとにパーソナリティがいて、1週間に一度担当していますけど、彼らとは、直接会って打ち合わせをするの?

鳥山 日常の連絡はメールと電話が主ですけど、カンニング竹山さんは毎週土曜か日曜に赤坂まで来てもらって、ディレクターと一緒に打ち合わせをしています。最初はぼくも参加して3人で打ち合わせをしていましたが、ディレクターと出演者の関係を作ることも必要と考えて、今は2人だけにしています。

●ラジオの「大きさ」

沢辺 radiko(/2010年3月15日から試験配信が行なわれている、インターネットでラジオ放送を聴くことができるサービス)って画期的だよね。

鳥山 本当にすごいと思います。ぼくや「ウィークエンドシャッフル」を作っている後輩の橋本吉史なんかはよく「なんで放送をインターネットで流さないんだよ」と話していたのですが、ラジオが家にない人やラジオの聞き方がわからない人はたくさんいるんです。
そもそもラジオ本体がなかなかお店で売ってないですし、首都圏では鉄筋の建物が多く、電波が入らない場所もある。実際、横浜のほうでは聞こえにくかったりもする。でも、そういった場所でもradikoがあれば聴いてもらえる。
ただ、まだ試験段階なので、もうちょっと発展して欲しいですね。まだサーバーが強くないので、ラジオのように100万人聞くことはできませんし、今は地域制限があるので、それをどう解消していくか。する必要があるのか。IPで無理やり地域制限をつけていますけど、抜け道はいくらでもありますし、インターネットには地域制限なんか関係ないですからね。
とにかく、今は普通に生活している人の選択肢に、ラジオが入っていないと思うんですよね。ケータイ電話、テレビ、本、雑誌、映画、芝居、いろいろある選択肢の中に入ることが最終目標ですね。その後はもう「選んでください」ですから。
だからこそ、選択肢に入るためには何でもしなくちゃいけません。守るものもそんなにないと思うので。
電波があるのがズルいと言われればそれまでですけど、強みは活かしてやる、というタフさはないといかんです。これからUstreamを始める人と、ラジオがあった上でUstreamを始める人では段違いです。
宇川直宏さんのDOMMUNE(映像作家・デザイナーの宇川直宏が2010年3月1日に開局したストリーミング・スタジオ。毎週日曜〜木曜の19時〜24時まで放送中)のような場合は「オシャレ」というアドバンテージがありますけど。

沢辺 でも、DOMMUNEで数千という規模であることを考えると、ラジオ番組の「関東圏で数十万人」はすごいよね。

鳥山 偉そうな話ですけど、20万部の雑誌を毎日出していると考えれば、すごいことだと思います。

沢辺 本や雑誌の数と比べたら、ラジオですら桁違いで、ましてテレビなんてね。本は『1Q84』ですら100万部だからね。

鳥山 テレビなら、100万ではいい番組とは言えないですからね。ラジオは、一番聞かれている番組で100万人くらいです。
最初の話に戻りますけど、そういった状況の中で、広告でもっとうまくできる方法があるんじゃないか、という熱意のある人を、味方に増やしたいと思うんです。業界内で人がすくないなら、こうやって外でお会いしたり、番組に出ていただいたりして仲間を増やしていけるんじゃないかと。

沢辺 この「談話室沢辺」も、半分、仲間を増やすという目的があるんですよ。いきなり「一緒に飲みませんか」とは言いにくい。

鳥山 そうですね。「いろんな人にあなたの存在を知らしめることができますよ」とか「誰々に会えますよ」ということがないと、なかなか来てくれない。
あと、今は課金への動きがあって、ぼくもそれには期待していますけど、Ustreamは視聴者が1500人とか3000人の世界ですよね。いま在るラジオ番組を運営するには、その人達が継続的にかなりの金額を払ってくれないと回らないんですよ。放送は全部ひとりで用意して、もう一人面白い人をブッキングして、その二人のギャラを払えるくらいだったらできるかもしれないけど、さらに会社の机を買ったり、放送以外の業務をしている人を養うのは不可能ですよ。
ネット上での意見では「全部課金にすればいいじゃないですか。私は払いますよ」と言ってくださる方もいて、それは大変ありがたいことですし、親切で言ってくれてると思うんですが。

沢辺 でも信頼はできないよね。捨てられたらひどい目に合うし。

鳥山 額が違いますしね。「Dig」は経費を削減していると言ってもまとまった金額を使って作っていますから。毎月毎月収入を探しながらでは、それこそ番組のほうに目をかける時間がなくなってしまう。

●「ぼーっと聴く」ことに関してはラジオが最先端

沢辺 ラジオの同時間性についてはどう考えていますか?

鳥山 大変有利だと思います。もともとは後ろ向きな「お金がない」という理由で生放送が多い状況ではあるのですが、今、テレビはオンデマンドが普及していますし、その時間につけたら生放送をやっている、というのは結果的にすごく珍しいことになっていると思います。同じ時間に、同じような話が好きな人がTwitterや2ch、そしてラジオの前に集まっている、という感覚を作れるのは大きな武器だと思います。

沢辺 たとえばテレビの番組を全部サーバー上に保存して、自分の見たい番組を見たいときに見れるよう状況は、近い将来に実現するじゃないですか。
だけど、その膨大なデータベースを俺たちは見切れるのか。本だけで考えても、既にどの図書館に行ったって生涯かかっても読みきれない量の本があるわけですよ。
そうすると、本でいえば今月発行分、Twitterなら小一時間か二時間分という同時間性が、時間を使うことに対して大切な意味を持ってくるんじゃないでしょうか。

鳥山 膨大なアーカイブがあったとしても、前段階の知識がないと、どの番組が面白いかなんて選べないですよね。社会学者の鈴木謙介さんが言っていましたが、だからこそ目利きの存在が必要になってくる。
あとはやっぱり、生放送はアクシデントです。ぼくもそれでいい思いをしたことがあるし、これから聴く人にもそれを提供したいと思います。
音楽もそうで、ラジオで音楽がかかるメリットは、昔は「最新曲がかかる」でしたが、今はむしろ「自分が選んでいない曲がかかる」こと。偶然聴いた曲がいい曲だったら、世界が広がることになる。
たとえばぼくが忌野清志郎さんの追悼番組を作ったとき、募集したリクエストから曲を選んで、ほとんど喋りは入れなかったんです。ラジオは、「そういえば清志郎の曲、こんなのもあった」という感覚を作ることができる。ニコニコ動画やYouTubeは、ぼくもよく使いますが、「見たいものを探してみるもの」ですよね。
「ぼーっと聴く」ことに関しては、もしかしたらラジオが最先端なのかもしれない。

沢辺 ぼくも清志郎好きなんだけど、ぼくの中に清志郎の曲をデータベースとして持っていて、「好きな曲はこれとこれ」と整理しておくことは不可能なんだよね。その漠然とした部分を刺激してくれるのがメディアの一つの役割だと思う。

鳥山 ラジオ局の人間は音楽に詳しくなくちゃ駄目でしょ、というのはあるんですけどね。どういう曲がかかったら喜ばれるのかを意識しなくちゃいけません。ただ単にレコード会社とか出演者に渡されたからかけるというのは、「お金がもらえる」とか正当な理由があればいいですけど、そうじゃなかったら、ただ何も考えていないマヌケ野郎ですから。

●「すべてのラジオ番組で一番になりたい」

沢辺 最後に鳥山さん自身について聞きたいんですけど、お生まれはどちらですか。

鳥山 生まれはアメリカのロサンゼルスです。でも8ヶ月しかいなかったので、ほとんど記憶はありません。その後、一時期ニューヨークにいたこともありますが、ほとんどは千葉県の市川市で育ちました。

沢辺 小中高は公立?

鳥山 小学校と中学校は地元で、高校は松戸にある専修大学松戸高校でした。大学は一浪して早稲田の第一文学部に入りましたけど、ジャズのサークルに入って朝の9時から夜の9時まで楽器を弾いていたので、ぜんぜん勉強しませんでした。ずっとウッドベースを弾いていて、それで食っていこうと思ったこともありましたが、TBSラジオに受かったので、楽器は後でもできると思ってサラリーマンになりました。

沢辺 なぜラジオ局を受けたんですか?

鳥山 もともとは新聞志望だったのですが、筆記で落ちました。ラジオは、焼き鳥屋でバイトをしているときにずっとかかっていたので「募集しているのかな」と思ったら募集をしていて、受けたら受かった。

沢辺 音楽以外では、趣味はありますか?

鳥山 漫画を読むことですかね。週刊誌を7、8誌は買ってます。それから、雑誌を読むこと。雑誌は昔から好きですね。

沢辺 最近面白そうだと思った雑誌はありました?

鳥山 「リバティーンズ」(太田出版)は面白そうだったので買いましたね。あとは「ブルータス」の30周年号とか。週間プレイボーイ、サーカスなどを気にしてます。

沢辺 活字の本で記憶に残っているものはありますか?

鳥山 最近は番組用の本ばっかり読んでいて、楽しみの本は読めていないです。好きなもので思いつくのはウィリアム・ゴールディングの『蝿の王』とか遠藤周作の作品などでしょうか。

沢辺 音楽家では?

鳥山 ジャズではニューオリンズのものはだいたい好きです。モダンジャズだったら、レイ・ブラウン、ポール・チェンバース…。エリントンも好きですし。もっと前はパンクが好きで、ピストルズやクラッシュを聴いていました。それからブルースを聴いて、ジャズを聴いて、という感じです。
演奏は最近本当にできていなくて、自分のバンドも休眠状態でメンバーに申し訳ない状態ですし、去年の11月に「やっぱり楽器をちゃんとやろう」と思って憧れだったトランペットを買ったんですけど、その直後に「Dig」が決まってしまって、ほとんど新品のまんま家にあるという……。

沢辺 管もいいですよね。

鳥山 そうなんです。ジャズはトランペットが一番かっこいい。裏方ばかりだったので、やっぱりピッチャーがいいな、と。

沢辺 最後に、「Dig」のことでも、そうじゃないことでも、言い残したことはありますか?

鳥山 ラジオの番組に興味を持っていただいて、話をさせていただいたことはとても嬉しいのですが、一番にならなくては説得力が薄れてしまうので、まずは今ある聴取率調査で一番にならなくてはいけないし、これまでとは違う新しいところでも存在感を出さなければいけないと思います。さらにお金も稼がなきゃいけないと思ってますし、……まあ「みんなついて来い!」と。

沢辺 一番というのは、同時間帯トップの「ラジオ深夜便」を超えるということ?

鳥山 「安住紳一郎の日曜天国」や「大沢悠里のゆうゆうワイド」、「永六輔 その新世界」などを超えて、すべてのラジオ番組で一番になるということです。
だから、聴取率をもっと取らないといけない。夜の10時になったら、「なにしようかな、Dig聴こうかな」と思ってもらえたり、大きなニュースがあったときに「『Dig』ならなんて言うだろうか」と思ってもらえるような状況を作れるように。小さなことからコツコツとやらなきゃいけないと思ってますが、ぼくは昔から大風呂敷なので(笑)
今、ラジオ全体が本当に後ろ向きなんです。それはいかんですよ。やっぱり「ラジオはアリ」という状況を作って、若い人材とか、若くなくても良い人材が集まってくるような環境にならないと、未来がないと思うので。

●おまけ:ラジオの出演料

鳥山 そうだ。この前の出演料ですが、1コマ5000円、3コマなので1万5000円という計算でございます。

沢辺 どうもぼくの記事を読んでいただいたようで(ポットの日誌─ニュース探究ラジオDigに出演して思った)。

鳥山 あそこに書くのは露骨かなと思って、止めたんですけど……。

沢辺 いや、それがあると面白いかなと思って。

鳥山 安くてすみません。

沢辺 いやいや。ギャラを知らないまま受けたのは、ぼくなんだから。