2010-01-11

読者チャレンジ企画とAVの助監督 [下関マグロ 第16回]

新橋の駅ビルの地下に、ウエイトレスの制服がミニスカートの喫茶店があった。といってもいかがわしいお店ではなく、ごく普通の喫茶店だった。

僕はその喫茶店で雑誌『とらばーゆ』の原稿を書いた。『とらばーゆ』は週刊だったから、最初の頃は毎週足を運んだ。慣れてくると数週間分の原稿をまとめて書けるようになったので、そんなに通わなくなった。

調子よく原稿をこなせるようになり、それでとんとん拍子にライター専業になったかと言うと、答えはノーである。相変わらずエロ雑誌のカメラマンはやっていて、1985年の夏は伊藤ちゃんと鎌倉の由比ガ浜で「オイルぬりぬりマン」を撮影していた

ライターはいくつかやっている仕事のひとつに過ぎなかったが、その年の夏はまた新たな仕事が舞い込んだ。それは「オイルぬりぬりマン」の企画をやった『ムサシ』という雑誌にいた、上川くんからの依頼だった。

「今、集英社の『ビジネスジャンプ』の編集部にいるんですよ」

上川くんは転職していた。

「ダイエットの企画なんですけど、増田さん、出てもらえませんかねぇ。ギャラは3万円と、それから一週間分の食料を差し上げます」

へえ、一週間分食事がもらえて、ギャラももらえるなんて、うれしいじゃ、あーりませんか。てなわけで、さっそくやらせてもらうことにした。読者がいろんなことにチャレンジするというコーナーでの企画だそうだ。

しばらくすると、東中野の僕のアパートに一週間分のダイエット食品が届いた。それを食べ続け、いったいどれくらい痩せるかという実験である。今なら、タレントなんかがテレビでやっているような企画だが、昔はよく雑誌でもこういうのをやっていた。ちゃんとマジメにやったが、中にはまずくて食べられず、半分くらいしか食べなかった食品もあった。しかしとりあえず、提供されたもの以外は食べないというルールを守り、マジメに取り組んだ。こういうのも自分としては仕事のひとつだと思っていたからだ。

そしてもうひとつ、その年の夏に始めたのが、アダルトビデオの助監督である。今では、ADと呼ばれる仕事だが、当時は助監督と呼ばれていた。

それは一回行けば、とにかく1万円がもらえた。撮影が長引いて徹夜になっても1万円、撮影がトントン拍子に進んで半日で終わっても1万円で、当たり外れがあった。

当時のAVは今とはまったく違ったものだった。今はAVとしてきちんとした制作のシステムができあがっているが、その頃はまだできたばかりのメディアである。ピンク映画などから多くのスタッフがやってきていた。ADではなく助監督といわれたのもその流れではないかと思う。今のAVはほとんどが本当にセックスをしているが、当時はそういうことはマレで、ほとんどがお芝居であり、まさにそれはピンク映画の世界だった。

照明や音声スタッフの人たちは、かつてとてつもない大スターに照明を当てたり、声を録音していた人たちだったりした。だから、「そういえば、裕次郎がね」なんてことを現場で話していたりするのだ。裕次郎というのは石原裕次郎のことで、そういったスターの名前がバンバン出てくる。

で、僕の助監督の仕事は、以前いたSESというスワッピング雑誌を発行していた田中社長からの紹介だった。芳友社というAVの会社で、最初は台本を書いてくれと言われていたのだけれど、どういういきさつか助監督をやることになった。

ちなみに助監督の仕事は要するに現場の雑用である。出演者の弁当を買ってきたり、機材の運搬をしたり、とにかく監督が言う通りに、あるいは先回りをして、いろいろなことをする。僕は意外に、この仕事には向いていた気がする。自分の職業として、AVの監督も悪くないなと思い始めていた。

何度かやった助監督の仕事だったが、拘束時間の長短だけではなく、ものすごく楽な現場もあれば、非常につらい現場もあった。そのあたりの話は次回また!

この連載が単行本になりました

さまざまな加筆・修正に加えて、当時の写真・雑誌の誌面も掲載!
紙でも、電子でも、読むことができます。

昭和が終わる頃、僕たちはライターになった


著●北尾トロ、下関マグロ
定価●1,800円+税
ISBN978-4-7808-0159-0 C0095
四六判 / 320ページ /並製
[2011年04月14日刊行]

目次など、詳細は以下をご覧ください。
昭和が終わる頃、僕たちはライターになった

【電子書籍版】昭和が終わる頃、僕たちはライターになった

電子書籍版『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』も、電子書籍販売サイト「Voyager Store」で発売予定です。


著●北尾トロ、下関マグロ
希望小売価格●950円+税
ISBN978-4-7808-5050-5 C0095
[2011年04月15日発売]

目次など、詳細は以下をご覧ください。
【電子書籍版】昭和が終わる頃、僕たちはライターになった