2010-06-08

イベントレポート●『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー 丸尾末広×吉田アミ

2010年6月6日(日)、有隣堂ヨドバシAKIBA店にて『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー「丸尾末広が語るリビドー、マゾヒズム、家畜人ヤプー」を開催しました。
丸尾さんは同書に解説文を寄稿しています。
_MG_0180.JPG
_MG_0210.JPG
_MG_0318.JPG

トークショーには約50人のお客さんが来場。前回のヴィレッジヴァンガード下北沢店でのトークショーとはまた違う、マニアックなSM、ヤプー話が中心に語られ、『奇譚クラブ』の話など、若いお客さん(十代の人もいました)も興味津々で聞き入っていました。
_MG_0360.JPG
_MG_0385.JPG

トーク終了後は、丸尾末広さんのサイン会を開催。聞き手の吉田アミさんもサイン入りポスターを購入していました(笑)。

みなさま、ありがとうございました。感謝!です。

以下、トークショーの模様です。


吉田「前回の下北沢のトークショーでは初心者向けだったんですが、今回はちょっと突っ込んだ話をしたいと思います。丸尾先生は、今回復刻された『劇画家畜人ヤプー』で解説を書かれていますね」
丸尾「ええ」
吉田「小説版の『家畜人ヤプー』は70年に発売されましたよね」
丸尾「はい。持っています。カバーの村上芳正さんの絵が好きでね。でも下手くそで(笑)。見ればわかるんだけど、宇野亜喜良がヘタクソになったような。もっとリアルでわかりやすく書くべきですね。下品になってもいい。マゾヒストの人が見たら興奮するようなものを描くべき。これはそそられないと思う(笑)」
吉田「丸尾さんが描かれるとしたら、全然べつのものに?」
丸尾「ぜんぜん。もっとどぎつくなると思う。この絵は、ちょっとソフィスティケートされてますよね」

吉田「そして71年に石ノ森章太郎さんの『劇画家畜人ヤプー』が発行される」
丸尾「石ノ森さんが一番脂が乗り切っていたのが70年頃。ちょうど一番頑張ってたころですから」
吉田「丸尾さんも解説で指摘されていますが、普通の漫画とは逆の左開きでセリフも横書きですね。内容が白人女性に家畜化されるという話なので、アメコミ風を意識されたのかと」
丸尾「書下ろしですから、そのへんも自由だったんでしょうね。雑誌ではできませんから」
吉田「あと、ルビが多いですね」
丸尾「そうですね。ルビが非常に面白い。原作者が英語ドイツ語フランス語ができる人なので。相当語学の堪能な人です」
吉田「原作者、沼正三は天野哲夫さんだと言われていますが……」
丸尾「文春かなにかが、沼正三の正体は最高裁の判事の倉田卓次さんだと書いたんです。でも倉田さんは社会的な立場がありますからね。だから天野さんが名乗り出たということもあるかもしれない。でも、解説文にも書きましたが、沼正三というのはバンドのユニットのようなものですからね。正体がわからないというのが、また魅力的ですよね」

吉田「『家畜人ヤプー』は連載当時、三島由紀夫とか、錚々たるメンバーが褒めていますよね」
丸尾「大阪にあった(連載誌)『奇譚クラブ』編集部には川端康成、寺山修司なんかも来たみたいですね。そこは須磨敏行という人がほとんど一人でやっていて。雑誌で発表された時点ではマイナーなものでしたよ」
吉田「それがメジャーになっていく過程が面白いですよね。決して一般受けする内容ではないのに。最初、『奇譚クラブ』に発表されたのが56年で、都市出版社から単行本が出たのが70年。結構経ってますね」
丸尾「最初は中央公論社から出るという話だったみたいですけどね。三島が中央公論に持っていったとか」
吉田「でも、内容が内容だけに発行出来なかった。都市出版社は出した後に右翼に襲撃されたりもしてますよね」

吉田「石ノ森さんにはSM的な趣味はあったんでしょうか」
丸尾「ちょっとわからないけど、背の高い人が好きですよね。みんな観月ありさみたい(笑)。170cmくらいあるでしょう。顔が童顔なのがちょっと残念ですけどね。もうちょっと西洋人女性をリアルにしてほしかった」

吉田「初めて漫画化したのが石ノ森さんで、江川達也さんも2000年代に出されてますね。今回復刻されたのは『家畜人ヤプー』のすべてが入っているのではなくて、この後、石ノ森プロのシュガー佐藤さんが描かれた続編もありますね」
丸尾「漫画のボリュームと小説のボリュームと違うので、全部漫画化するのは難しいでしょうね」
吉田「小説全体の一部しか漫画化されていませんね」
丸尾「やっぱり、まずは小説、原作を読んで欲しいですね。両方見たらいいと思いますが」
吉田「石ノ森版を見ると、ユーモアがあって笑っちゃうところもありますよね。あんまりエロい感じではない。石ノ森さんは、本当に原作が好きで、惚れ込んで出したようですね。ただ、「文字を絵にする難しさ」というのを自分で言っていて、それが面白い」

吉田「先ほども聞きましたが、もし丸尾さんが漫画化されるとしたら?」
丸尾「もうちょっとどぎつくやりますね。あと、わかりやすくすると思います」
吉田「ハラキリのシーンとか、ストーリーが逸れるところを削ってやることもできますよね」
丸尾「ヤプーはストーリーというか部分部分が面白いですからね。それをSFということでまとめているけど。字面として肉便器というのが出てくるとそれだけで嫌だという人もいると思いますけど、絵にしたいものはいろいろあります」
吉田「もし丸尾さんが描かれるとしたら、(登場人物を)もうすこし人間っぽく描かれるかと思ったんですが」
丸尾「そうですね。あと、日本人と白人の書き分けをもっとすると思います。日本人の顔をリアルに書きにくいということはありますけど、そこはリアルにやるべきでしょうね」
吉田「当時の時代的に、あまり生々しく書けなかったということもあったかもしれないですね。当時ヤプーって、子供も読んでいたんですかね」
丸尾「その頃、永井豪のハレンチ学園とかが話題になってたんですよね。だから、そういったノリで中学生くらいでも読んだかもしれません」

吉田「丸尾さんも、原作のあるものを漫画化されるじゃないですか。最初に小説を全部読んで、その中から描きたいところを抽出していく感じでしょうか?」
丸尾「いや、最初からきちんと描きますけどね。でも、文章と絵はちがうんですよ。文章だと簡単ですむけど、漫画にすると枚数の計算が上手くいかないんですよ」
吉田「『パノラマ島奇譚』とかも」
丸尾「あれも計算できなかったです。最初に思っていたよりも長くなってしまった」
吉田「見開きのパノラマ島のシーンとか、ずっと見ていたいですからね。それから、思ったよりはセリフが少なくなっていますけどね。使う言葉と使わない言葉を丁寧により分けている。一方『劇画家畜人ヤプー』は原作を全部入れているのが特徴ですよね。原作があるものをコミックにするのはテクニックが必要ですよね。ただ漫画化すればいいものでもないし、あまりにも歪曲しすぎるとそれも違うし」
丸尾「映画とか見ると全然違ってたりして、がっかりしますよね」
吉田「その点では、石ノ森版は原作に忠実ですよね。漫画と原作を行き来する楽しさもありますよね。『パノラマ島奇譚』も漫画と原作を行き来すると楽しいと思います」
丸尾「でも、劇画の方には郭公手術法(クックー・オペレーション)のシーンが出てこないですよね。白人女性が妊娠の苦痛を持たなくていい。雌ヤプーの子宮に胎児を移植して帝王切開で生ませる。妊娠するためのヤプーがちゃんといるわけです。それは非常に面白いところですが、ただ、絵にするとなるとのんきに言ってられない」

吉田「他に、好きなシーンとかありますか? 私が好きなのは、最後の方、月の羊羹(メンス・ゼリー)をリンが完食するシーンです」
丸尾「メンスゼリーは、最初違和感があるけど、馴らすために(日本の伝統食である)タクワンを混ぜると。タクワンによって日本人の味覚に近づける。すこしずつタクワンを減らして行って、最終的には純粋なメンスゼリーにする、と。タクワンを英語風にしているのが面白かったですね(笑)」
吉田「『家畜人ヤプー』には言葉遊びみたいなのがたくさんありますよね」

吉田「あと、知らない人はSM=縄みたいになるけど、『家畜人ヤプー』ではそういう世界は描かれない」
丸尾「そうですね。それから、ヤプーにはセックスシーンが出てこない。ポルノだけど、セックスはない。天野哲夫も告白しているけど、女性に対して興味はあるけど、セックスの興味はないと」
吉田「縄とかにも興味がなかったみたいですね」
丸尾「そういうのは平凡ですからね」
吉田「かといって、西洋的な責めでもなく」
丸尾「ムチ打ちは出てくるけどね。黒人奴隷を撃ち殺して遊ぶ黒色猟獣(ブラック・ゲイム)とか、もっとハードだよね。しかも、そういう荒っぽいことをやるのは男性じゃなくて女性。男性はむしろ綺麗にしている」
吉田「男に向かって『おてんば』という言葉を使ったりしてますよね」
丸尾「なにからなにまで徹底してますよね」
吉田「あと肉体改造がすごいですね」
丸尾「それもマゾヒストの願望なんでしょうね。自分を改造されたいと」

吉田「今日は『家畜人ヤプー』の話ばかりしちゃったんですが、今後丸尾さんが漫画化したいものはありますか?」
丸尾「いろいろ考えてはいるんだけど、まだ、実現するかどうか自信がないんだよね。だからあんまり軽くは言わない方がいいかもしれない」
吉田「では、最後に丸尾さんのこれからのご予定を聞かせてください」
丸尾「この先は何もないです」
吉田「今、LIBRO池袋本店で原画展を開催していますよね。個展はけっこうやったりしていますか?」
丸尾「いや、漫画家ですから、そうしょっちゅうやれるものではありません」
吉田「原画はやっぱり美しいですよね」
丸尾「カラーはそうですね。漫画は印刷の方がきれいだったりもするけど、カラーはやっぱり原画を見ないとわからないですよ」
吉田「ありがとうございました」


■出演
丸尾末広(まるお・すえひろ)
1956年生まれ。漫画家。『薔薇色ノ怪物』、『夢のQ-SAKU』、『DDT』、『少女椿』、『ギチギチくん』など著作多数。近著に『パノラマ島綺譚』(2009年第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞)、『芋虫』がある。

吉田アミ(よしだ・あみ)
(よしだ・あみ)1976年生まれ。音楽・文筆・前衛家。1990年頃より音楽活動を開始。
マンガに関する著作も多数あり、2009年5月よりウェブマガジン「WebDICE」にて「マンガ漂流者(ドリフター)」の連載を開始。

劇画家畜人ヤプー【復刻版】

作●石ノ森章太郎

原作●沼正三

定価●2,200円+税

ISBN978-4-7808-0143-9 C0979

A5判 / 288ページ /上製

[2010年03月刊行]

内容紹介や目次など、詳細はこちらをご覧ください。

このエントリへの反応

  1. [...] ・【終了しました→レポート記事】6月6日(日)13時30分〜 『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー 丸尾末広×吉田アミ「丸尾末広が語る リビドー、マゾヒズム、『 [...]

  2. [...] イベントレポート●『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー 丸尾末広×吉田アミ | ポット出版 pot.co.jp/news/20100608_153451493918261.html – view page – cached ・【終了しまし [...]