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イベントレポート●『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー 丸尾末広×吉田アミ

2010年6月6日(日)、有隣堂ヨドバシAKIBA店にて『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー「丸尾末広が語るリビドー、マゾヒズム、家畜人ヤプー」を開催しました。
丸尾さんは同書に解説文を寄稿しています。
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トークショーには約50人のお客さんが来場。前回のヴィレッジヴァンガード下北沢店でのトークショーとはまた違う、マニアックなSM、ヤプー話が中心に語られ、『奇譚クラブ』の話など、若いお客さん(十代の人もいました)も興味津々で聞き入っていました。
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トーク終了後は、丸尾末広さんのサイン会を開催。聞き手の吉田アミさんもサイン入りポスターを購入していました(笑)。

みなさま、ありがとうございました。感謝!です。

以下、トークショーの模様です。


吉田「前回の下北沢のトークショーでは初心者向けだったんですが、今回はちょっと突っ込んだ話をしたいと思います。丸尾先生は、今回復刻された『劇画家畜人ヤプー』で解説を書かれていますね」
丸尾「ええ」
吉田「小説版の『家畜人ヤプー』は70年に発売されましたよね」
丸尾「はい。持っています。カバーの村上芳正さんの絵が好きでね。でも下手くそで(笑)。見ればわかるんだけど、宇野亜喜良がヘタクソになったような。もっとリアルでわかりやすく書くべきですね。下品になってもいい。マゾヒストの人が見たら興奮するようなものを描くべき。これはそそられないと思う(笑)」
吉田「丸尾さんが描かれるとしたら、全然べつのものに?」
丸尾「ぜんぜん。もっとどぎつくなると思う。この絵は、ちょっとソフィスティケートされてますよね」

吉田「そして71年に石ノ森章太郎さんの『劇画家畜人ヤプー』が発行される」
丸尾「石ノ森さんが一番脂が乗り切っていたのが70年頃。ちょうど一番頑張ってたころですから」
吉田「丸尾さんも解説で指摘されていますが、普通の漫画とは逆の左開きでセリフも横書きですね。内容が白人女性に家畜化されるという話なので、アメコミ風を意識されたのかと」
丸尾「書下ろしですから、そのへんも自由だったんでしょうね。雑誌ではできませんから」
吉田「あと、ルビが多いですね」
丸尾「そうですね。ルビが非常に面白い。原作者が英語ドイツ語フランス語ができる人なので。相当語学の堪能な人です」
吉田「原作者、沼正三は天野哲夫さんだと言われていますが……」
丸尾「文春かなにかが、沼正三の正体は最高裁の判事の倉田卓次さんだと書いたんです。でも倉田さんは社会的な立場がありますからね。だから天野さんが名乗り出たということもあるかもしれない。でも、解説文にも書きましたが、沼正三というのはバンドのユニットのようなものですからね。正体がわからないというのが、また魅力的ですよね」

吉田「『家畜人ヤプー』は連載当時、三島由紀夫とか、錚々たるメンバーが褒めていますよね」
丸尾「大阪にあった(連載誌)『奇譚クラブ』編集部には川端康成、寺山修司なんかも来たみたいですね。そこは須磨敏行という人がほとんど一人でやっていて。雑誌で発表された時点ではマイナーなものでしたよ」
吉田「それがメジャーになっていく過程が面白いですよね。決して一般受けする内容ではないのに。最初、『奇譚クラブ』に発表されたのが56年で、都市出版社から単行本が出たのが70年。結構経ってますね」
丸尾「最初は中央公論社から出るという話だったみたいですけどね。三島が中央公論に持っていったとか」
吉田「でも、内容が内容だけに発行出来なかった。都市出版社は出した後に右翼に襲撃されたりもしてますよね」

吉田「石ノ森さんにはSM的な趣味はあったんでしょうか」
丸尾「ちょっとわからないけど、背の高い人が好きですよね。みんな観月ありさみたい(笑)。170cmくらいあるでしょう。顔が童顔なのがちょっと残念ですけどね。もうちょっと西洋人女性をリアルにしてほしかった」

吉田「初めて漫画化したのが石ノ森さんで、江川達也さんも2000年代に出されてますね。今回復刻されたのは『家畜人ヤプー』のすべてが入っているのではなくて、この後、石ノ森プロのシュガー佐藤さんが描かれた続編もありますね」
丸尾「漫画のボリュームと小説のボリュームと違うので、全部漫画化するのは難しいでしょうね」
吉田「小説全体の一部しか漫画化されていませんね」
丸尾「やっぱり、まずは小説、原作を読んで欲しいですね。両方見たらいいと思いますが」
吉田「石ノ森版を見ると、ユーモアがあって笑っちゃうところもありますよね。あんまりエロい感じではない。石ノ森さんは、本当に原作が好きで、惚れ込んで出したようですね。ただ、「文字を絵にする難しさ」というのを自分で言っていて、それが面白い」

吉田「先ほども聞きましたが、もし丸尾さんが漫画化されるとしたら?」
丸尾「もうちょっとどぎつくやりますね。あと、わかりやすくすると思います」
吉田「ハラキリのシーンとか、ストーリーが逸れるところを削ってやることもできますよね」
丸尾「ヤプーはストーリーというか部分部分が面白いですからね。それをSFということでまとめているけど。字面として肉便器というのが出てくるとそれだけで嫌だという人もいると思いますけど、絵にしたいものはいろいろあります」
吉田「もし丸尾さんが描かれるとしたら、(登場人物を)もうすこし人間っぽく描かれるかと思ったんですが」
丸尾「そうですね。あと、日本人と白人の書き分けをもっとすると思います。日本人の顔をリアルに書きにくいということはありますけど、そこはリアルにやるべきでしょうね」
吉田「当時の時代的に、あまり生々しく書けなかったということもあったかもしれないですね。当時ヤプーって、子供も読んでいたんですかね」
丸尾「その頃、永井豪のハレンチ学園とかが話題になってたんですよね。だから、そういったノリで中学生くらいでも読んだかもしれません」

吉田「丸尾さんも、原作のあるものを漫画化されるじゃないですか。最初に小説を全部読んで、その中から描きたいところを抽出していく感じでしょうか?」
丸尾「いや、最初からきちんと描きますけどね。でも、文章と絵はちがうんですよ。文章だと簡単ですむけど、漫画にすると枚数の計算が上手くいかないんですよ」
吉田「『パノラマ島奇譚』とかも」
丸尾「あれも計算できなかったです。最初に思っていたよりも長くなってしまった」
吉田「見開きのパノラマ島のシーンとか、ずっと見ていたいですからね。それから、思ったよりはセリフが少なくなっていますけどね。使う言葉と使わない言葉を丁寧により分けている。一方『劇画家畜人ヤプー』は原作を全部入れているのが特徴ですよね。原作があるものをコミックにするのはテクニックが必要ですよね。ただ漫画化すればいいものでもないし、あまりにも歪曲しすぎるとそれも違うし」
丸尾「映画とか見ると全然違ってたりして、がっかりしますよね」
吉田「その点では、石ノ森版は原作に忠実ですよね。漫画と原作を行き来する楽しさもありますよね。『パノラマ島奇譚』も漫画と原作を行き来すると楽しいと思います」
丸尾「でも、劇画の方には郭公手術法(クックー・オペレーション)のシーンが出てこないですよね。白人女性が妊娠の苦痛を持たなくていい。雌ヤプーの子宮に胎児を移植して帝王切開で生ませる。妊娠するためのヤプーがちゃんといるわけです。それは非常に面白いところですが、ただ、絵にするとなるとのんきに言ってられない」

吉田「他に、好きなシーンとかありますか? 私が好きなのは、最後の方、月の羊羹(メンス・ゼリー)をリンが完食するシーンです」
丸尾「メンスゼリーは、最初違和感があるけど、馴らすために(日本の伝統食である)タクワンを混ぜると。タクワンによって日本人の味覚に近づける。すこしずつタクワンを減らして行って、最終的には純粋なメンスゼリーにする、と。タクワンを英語風にしているのが面白かったですね(笑)」
吉田「『家畜人ヤプー』には言葉遊びみたいなのがたくさんありますよね」

吉田「あと、知らない人はSM=縄みたいになるけど、『家畜人ヤプー』ではそういう世界は描かれない」
丸尾「そうですね。それから、ヤプーにはセックスシーンが出てこない。ポルノだけど、セックスはない。天野哲夫も告白しているけど、女性に対して興味はあるけど、セックスの興味はないと」
吉田「縄とかにも興味がなかったみたいですね」
丸尾「そういうのは平凡ですからね」
吉田「かといって、西洋的な責めでもなく」
丸尾「ムチ打ちは出てくるけどね。黒人奴隷を撃ち殺して遊ぶ黒色猟獣(ブラック・ゲイム)とか、もっとハードだよね。しかも、そういう荒っぽいことをやるのは男性じゃなくて女性。男性はむしろ綺麗にしている」
吉田「男に向かって『おてんば』という言葉を使ったりしてますよね」
丸尾「なにからなにまで徹底してますよね」
吉田「あと肉体改造がすごいですね」
丸尾「それもマゾヒストの願望なんでしょうね。自分を改造されたいと」

吉田「今日は『家畜人ヤプー』の話ばかりしちゃったんですが、今後丸尾さんが漫画化したいものはありますか?」
丸尾「いろいろ考えてはいるんだけど、まだ、実現するかどうか自信がないんだよね。だからあんまり軽くは言わない方がいいかもしれない」
吉田「では、最後に丸尾さんのこれからのご予定を聞かせてください」
丸尾「この先は何もないです」
吉田「今、LIBRO池袋本店で原画展を開催していますよね。個展はけっこうやったりしていますか?」
丸尾「いや、漫画家ですから、そうしょっちゅうやれるものではありません」
吉田「原画はやっぱり美しいですよね」
丸尾「カラーはそうですね。漫画は印刷の方がきれいだったりもするけど、カラーはやっぱり原画を見ないとわからないですよ」
吉田「ありがとうございました」


■出演
丸尾末広(まるお・すえひろ)
1956年生まれ。漫画家。『薔薇色ノ怪物』、『夢のQ-SAKU』、『DDT』、『少女椿』、『ギチギチくん』など著作多数。近著に『パノラマ島綺譚』(2009年第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞)、『芋虫』がある。

吉田アミ(よしだ・あみ)
(よしだ・あみ)1976年生まれ。音楽・文筆・前衛家。1990年頃より音楽活動を開始。
マンガに関する著作も多数あり、2009年5月よりウェブマガジン「WebDICE」にて「マンガ漂流者(ドリフター)」の連載を開始。

劇画家畜人ヤプー【復刻版】

作●石ノ森章太郎

原作●沼正三

定価●2,200円+税

ISBN978-4-7808-0143-9 C0979

A5判 / 288ページ /上製

[2010年03月刊行]

内容紹介や目次など、詳細はこちらをご覧ください。

「劇画家畜人ヤプー」と小説「家畜人ヤプー」

「劇画家畜人ヤプー」と小説「家畜人ヤプー」の発行された順番をまとめます。

まず、小説「家畜人ヤプー」は、1950年代後半、『奇譚クラブ』というSMマニア向けの雑誌で連載されました。三島由紀夫が「すごい小説だ」とか、いろんなところで紹介したのもこのころのことです。

1970年に小説版「家畜人ヤプー」が都市出版社から発行されます。
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1971年に、石森章太郎が描いた「劇画家畜人ヤプー」が同じく出版社から発行されます。*小説版、劇画版のストーリーは対応。
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その後、小説版ヤプーは角川文庫版→角川限定愛蔵版が発行されます。
*角川限定愛蔵版では「続家畜人ヤプー」として発表された増補部分が収録されます。

1983年に、都市出版社から発行された「劇画家畜人ヤプー」が、辰巳出版から復刊されます。
*今回、ポット出版が復刊したのはこのバージョンの「劇画家畜人ヤプー」です。
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続いて1984年、「劇画続・家畜人ヤプー」が辰巳出版から発行されます。
*このバージョンから石森章太郎は監修にまわり、実際の作画はシュガー佐藤が担当しています。
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1992年に、太田出版からさらに増補された小説版「家畜人ヤプー」(全三巻)が発行されます。
それを追って辰巳出版からは、1993年「劇画家畜人ヤプー 快楽の超SM文明編」、
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1994年「劇画家畜人ヤプー 無条件降伏編」が発行されます。
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*ともに監修・石ノ森章太郎/作画・シュガー佐藤です。

なんで、主人公・リンの家畜化っぷりにご興味のある方は、ぜひ続きを。アマゾンなどで、古本はいっぱい売られています。

今週末、6.6(日)は有隣堂ヨドバシAKIBA店で丸尾末広×吉田アミさんのトークショーを開催します。
もう予約は締め切ってしまいましたが、後日レポートをアップするのでそちらもお楽しみに。

2010.6.6(日)有隣堂ヨドバシAKIBA店にて丸尾末広×吉田アミトークショーを開催します(※予約締め切りました)

2010年6月6日(日)、有隣堂ヨドバシAKIBA店にて、
『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』の刊行記念トークイベント第二弾として、
漫画家・丸尾末広氏のトークショーを開催します。
戦後最大の奇書と言われる、小説『家畜人ヤプー』への思い、
石ノ森章太郎氏のこと、そして丸尾氏自身の漫画家としての歩みを語ります。
聞き手は多数の媒体に漫画批評を発表し、自身も丸尾末広氏の大ファンである吉田アミが務めます。

※第一回は4月22日(木)にヴィレッジヴァンガード下北沢店で開催しました。詳細はこちらをごらんください。

『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー
「丸尾末広が語る リビドー、マゾヒズム、『家畜人ヤプー』」

●日時
2010年6月6日(日)
開場:13:15 13:00
開演:13:30
※開場時間が変更になりました。開演時間は変更ありません。
定員数に達したため、予約を締め切らせていただきました。(5月31日追記)

●定員 50名(着席30名)
●入場料 無料
※入場には事前予約が必要です。詳細は同店のホームページをご参照ください

●場所 有隣堂ヨドバシAKIBA店
住所● 東京都千代田区神田花岡町1-1 ヨドバシAKIBA7F
電話● 03-5298-7474

●参加ご希望のお客様は、有隣堂ヨドバシAKIBA店へお電話でご予約ください。
電話●03-5298-7474(9時30分〜22時)
※電話予約は5月14日(金)から受け付けます。
※整理券の受け取りはイベント当日でも可能です(5.10追記)
■出演
丸尾末広(まるお・すえひろ)
1956年生まれ。漫画家。『薔薇色ノ怪物』、『夢のQ-SAKU』、『DDT』、『少女椿』、『ギチギチくん』など著作多数。近著に『パノラマ島綺譚』(2009年第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞)、『芋虫』がある。

吉田アミ(よしだ・あみ)
(よしだ・あみ)1976年生まれ。音楽・文筆・前衛家。1990年頃より音楽活動を開始。
マンガに関する著作も多数あり、2009年5月よりウェブマガジン「WebDICE」にて「マンガ漂流者(ドリフター)」の連載を開始。

●特典として、石ノ森章太郎氏が原画を描いたポストカード3枚セットをイベント当日にプレゼント致します。

劇画家畜人ヤプー【復刻版】

作●石ノ森章太郎

原作●沼正三

定価●2,200円+税

ISBN978-4-7808-0143-9 C0979

A5判 / 288ページ /上製

[2010年03月刊行]

内容紹介や目次など、詳細はこちらをご覧ください。

『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー●「丸尾末広に聞くマゾヒズムの世界」 レポート

2010年4月22日(木)、下北沢ヴィレッジヴァンガードにて『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー「丸尾末広に聞くマゾヒズムの世界」を開催しました。
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ヴィレッジヴァンガードに来てくれたお客さんは55名。店内の什器を移動し、イベント用スペースを作ってもらいました。
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ちなみに配布した整理券は108枚(電話での事前予約含む)。約半数の55名でもけっこう満員だったので、残念なような、ホッとしたような……。
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丸尾末広さん。

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聞き手を務めてくれた吉田アミさん。

来場してくれたお客さん、ご出演いただいたお二人、そしてイベントを担当してくれたヴィレッジヴァンガードの担当・守谷さん、本当にありがとうございました。

以下、トークショーの模様です。

吉田「今回復刻された『劇画家畜人ヤプー』の解説を引き受けた経緯はどういうものなんでしょうか?」

丸尾「まあ、僕も沼正三のファンの一人ですから、断る理由はなかったですね。僕は沼正三さんに自分の本を送ったこともあったし。返事は来なかったですけど。」

吉田「『DDT』に書かれてましたよね。沼さんには『夢のQ-SAKU』を送ったんですか?」

丸尾「そうです。天野哲夫さんのもとに行ったと思います。ただ、天野さんは「私が沼だ」と言ったけど、私はどうも信用できない。あの人一人じゃなくて、他にも一人二人いたと思う。中心は裁判官の倉田卓次だと思っています。堅い仕事の人だからあまり正体を明かせなかったんだと思う」

吉田「丸尾さんが今回の解説で、「天野哲夫はリードボーカル」と言っていましたけど、それは上手いたとえだと思いました」

丸尾「『家畜人ヤプー』は天野さん一人ではないと思いますよ。澁澤龍彦もそう書いてましたね。倉田さんは本当に博識で、法律はもちろん、日本の古典、映画、ドイツ語フランス語英語も出来る。そういう人ならヤプーも書けるでしょう。あと、三島由紀夫が匿名でけっこうアイデアを提供していたふしがありますね。だから三島もバンドのメンバーの一人に加えても良いと思います。三島が一番最初に『家畜人ヤプー』を見出したということにもなってますし」

吉田「家畜人ヤプーは『奇譚クラブ』という雑誌で連載してたんですよね?」

丸尾「『奇譚クラブ』は大阪にあった雑誌で、須磨利之という人が絵も文章もいろんなペンネームを使い分けて一人で全部やっていた。その須磨利之が舞台を作って、沼正三が投稿してきた、ということです。沼正三はプロの作家ではなく、素人ですから」

吉田「そして都市出版社から『家畜人ヤプー』の小説が出た。初めてヤプーを読んだときはどうでしたか?」

丸尾「こういう人がいたのかと驚きました。マゾヒズムの一筋で他の要素がないですから。私が18歳くらいの頃だったと思います。今回の『劇画家畜人ヤプー』に関して言うと、三島由紀夫がなくなる少し前に、寺山修司との対談で、ヤプーには気取った絵は合わなくて、少年雑誌のリアリティが必要だと話していました。石ノ森章太郎さんが書いたのは、その三島の一言がきっかけだったのではないかと思います。でも、当時少年雑誌のグラビアには漫画ではない、リアルな画風のものがあって、三島はそれをさしていたと思います。石原豪人とかですね。その人たちがヤプーを書いていたら、また違ったんじゃないかと思う」

吉田「でも、石ノ森さんが書いたことでヤプーがメジャーになりましたよね」

丸尾「当時、子供は読まなかったかもしれないけど、中学生くらいだったら読んでたじゃないでしょうか。ポルノだけどセックスシーンは出てないし」

吉田「ホラーとか怪奇趣味の要素もありますよね。石ノ森さんの絵はとっつきやすいし」

丸尾「あの時代(『劇画家畜人ヤプー』初版発行は1971年)、まだ大人向けの漫画が定着してなかった時代ですよ。そんな時代に描いたんだから、石ノ森さんは先取り精神がありますよね。ただ、『仮面ライダー』と同じ作者だとは思えないですよね(笑)」

吉田「あと、売れていた、というのがすごいですよね。今売られているのは2,200円ですけど、当時はもっと手に取りやすかったわけですから」

丸尾「でも、当時子供向けのものは漫画は400円くらいだったけど、『劇画家畜人ヤプー』は800円くらいしたと思います。サイズも大きいから、ちょっと特別だったかもしれません」

吉田「丸尾さんは解説で、石ノ森さんが多忙な中書かれたことにねぎらいの言葉を書いていますが」

丸尾「忙しい間をぬって、描きたくて描いたんだから。よっぽど描きたかったんじゃないでしょうか。やっぱり、絵にするのは難しかったと思いますよ。締め切りもあるし(笑)。でも、日本が滅びた場面など、文章で説明してしまうのではなく、もう少し画にしてほしかったですね」

吉田「原作についていた挿絵に引きずられている部分もありますよね」

丸尾「そうですね。あと、女性が非常に大きく描かれているんですよね。石ノ森さんは十頭身くらいの背の高い人が好きなんでしょう」

吉田「石ノ森さんの後に、江川達也さんも描いていますよね。二人の方が漫画化するというのはめずらしいですよね」

丸尾「僕のところにも依頼が来たけど、描き下ろしだったので断わっちゃった。部分的には描きたいと思うけど、丸ごとやるとなると、3年くらいかかるかもしれないし、自分がまいっちゃうかな。江戸川乱歩の『芋虫』だって、一年かかっちゃいましたから」

吉田「でも、みんな見たいだろうなーと思います。丸尾さん自身も原作のあるものを漫画化していますけど、原作を漫画にする際に気をつけていることはありますか?」

丸尾「気をつけているというか、小説では1行で書いてあるところを、漫画にすると3ページになったりするのがしんどいです(笑)。30ページくらいだと考えていたのが70ページになっちゃったり、ページ配分が狂ってきちゃう。その違いでまごつくわけです。何でもない場面にやたらページがかかったり」

吉田「『パノラマ島奇譚』はご自分から漫画化を提案したんですか?」

丸尾「あれはずっと狙ってました(笑)。最初は200ページ以内でまとまると思っていたんですけど、実際には280ページまでいってしまった。それでももうちょっと欲しいくらいです。描いているうちに、どんどんふくらませたくなっちゃうし」

吉田「原作を読んでいるときに、映像が浮かんでいるんですか?」

丸尾「そうです。でも、漫画は手作業ですから。石ノ森さんにしても、宇宙船の内部の描き方とか、大変だったと思いますよ」

吉田「丸尾さんはアシスタントはいらっしゃるんですか?」

丸尾「全部一人でやってます。気が遠くなりますよ(笑)。自分が30ページ書くあいだに、同業者は本を一冊出してますよ」

吉田「言葉を映像化するときにイマジネーションを刺激されるものが、原作として魅力的ですか?」

丸尾「そうですね。イメージが浮かぶものと浮かばないものがある。乱歩は浮かびますね」

吉田「会場から質問とか聞いてみますか?」

会場「ヤプーは関係ないんですけど、丸尾先生が好きな映画を知りたいです」

丸尾「いろいろ好きですけど、『ブリキの太鼓』が好きですね。あと、『2001年宇宙の旅』」

会場「影響を受けたものはありますか?」

丸尾「中川信夫の『東海道四谷怪談』です。影響を受けたというか、こういうものを一本形にできたら、その仕事をやっていてよかったと思えるんだろうな、と。自分もそういうものを形にしたいと思います」

吉田「漫画より、映画のほうが好きなんでしょうか」

丸尾「そうですね。3Dのものは一通り見てますよ。ティム・バートンの『不思議の国のアリス』も見てますし。ティム・バートンは一度会いましたけど、あの人は面白いと思いますよ。あとはデヴィット・リンチとか。リンチにヤプーを見せたら、どう反応するか知りたいですね。

吉田「最近の漫画はどうですか?」

丸尾「人の漫画はあんまり見ないんですよね。最近、朝日新聞から手塚治虫賞の推薦作を出してくれと言われて、あんまり読んでないのに、と困っちゃったから、自分が好きな人を推薦したんだけど」

吉田「ちなみに誰ですか?」

丸尾「荒木飛呂彦です。『スティール・ボール・ラン』を推薦しました。あの人は賞にふさわしい実力だと思います。あと、楳図かずおさんは子供の頃から好きです」

吉田「最初の漫画体験って、覚えていますか?」

丸尾「『少年画報』を読んでいました。大友克洋も同世代なので、同じようなものを見ていたと思います」

吉田「17歳のときに、初めて自分の漫画を編集部に持ち込んだんですよね」

丸尾「『ジャンプ』編集部に持ち込みました。そのときに見てくれた編集者と、この前偶然スペインのマンガフェスティバルで会いましたよ(笑)。向こうは覚えてなかったけど、全然変わってなかった」

吉田「どういうマンガを持ち込んだんですか?」

丸尾「中途半端な怪奇マンガでしたけど、そういうものはジャンプはお呼びでなかったですね。それで少年漫画は自分には向いていないな、と」

吉田「描いて気持ちいいということはあるんでしょうか? 特に丸尾さんのは、線の気持ちよさがあるじゃないですか」

丸尾「どうでしょうか。自分は緊張して描いていますから。下書きはきっちり描いて、その上をきちんとなぞりますね。他の人とは違ったやり方かもしれません」

吉田「ほとんど独学でやられたんですよね?」

丸尾「そうです。確か中学の頃に、石ノ森さんの『マンガ家入門』を買って読んだ気がします」

吉田「あれはでも、マンガの描き方というより、漫画家のなり方でしたよね」

丸尾「あれは抽象的で、高尚といえば高尚ですけど。今はわかりやすいのが出てますよね。当時はスクリーントーンもなくて手描きでやってたし。だから、トーンを買ったときも貼り方は分かるけど、ぼかし方がわからなかった。削ればいいんだけどね」

吉田「今はデジタルでトーンなんか関係ない人もいますけどね」

丸尾「そうですね。地方で描いて、編集部にデジタルで入稿したり」

吉田「私は中学生の頃に初めて『ガロ』で丸尾さんのマンガを読みました。修学旅行のときに抜け出して、原宿のラフォーレで丸尾さんの単行本を買ったのが武勇伝、みたいな(笑)。丸尾さんの漫画のファンには、女子が多いですね。フリークスでグロテスクなんですけど、絵が美しくて入りやすい。一コマ一コマじっくり見てました」

丸尾「ただ、80年代は今より遥かに急いで描いていましたよ。人物だけ書いて、背景は真っ白だったり」

吉田「単行本にするときに加筆もしていますよね?」

丸尾「けっこうしてますね。『少女椿』なんて全然違いますよ」

吉田「版を重ねるときも修正されてますよね」

丸尾「そうですね」

吉田「私は『少女椿』がドンズバで、美容室に持っていって「この髪型にしてください」って言ったり(笑)。あと、丸尾さんがパロディにしているのを読んで、原作を読んでみたり」

丸尾「よく、本を読まなきゃと思っても、何読んでいいか分からないでしょ。萩尾望都さんが、自分が読んでいる本を気まぐれに背景に書き込んだりするでしょう。それを買いにいく人がいたりして。マンガにはそういう影響力がありますよね」

吉田「今だとインターネットもあって、漫画家さんがどういう人なのかを発信する場もありますけど、当時はそんなのなかったから、描かれたものの中からその人がどういう人なのかを一生懸命読み取ろうとしていました」

丸尾「パロディはやけくそになってた部分もありますけどね。締め切りが近かったり」

吉田「でも、そこにユーモアというか、あまり深刻になりすぎないでギャグが入っているのがいいなあ、と」

吉田「では、最後に丸尾さんが漫画という表現にこだわっている理由を聞かせてもらえますか」

丸尾「一人で出来るでしょ(笑)映画も演劇もお金もかかるし。誰かと一緒にやると、その人が出来ないとイライラする。自分は半分くらいまで書いて、そこからまた考えながら買いて、ということが多いです。楳図かずおさんなんて、けっこう即興的に描いていくんじゃないでしょうか。『わたしは真悟』とか、『おろち』とか、好きですよ」

吉田「私も好きです。親がゾンビマニアだったので、ゾンビに関しては英才教育でした(笑)。『おろち』も親が買ってくれて。丸尾さんの作品に触れる前に、楳図かずおさんなどのホラーマンガを読んでいたので、入りやすかったのかもしれないですね。今後はどういうものを描かれる予定ですか?」

丸尾「夢野久作の『犬神博士』と、西条八十という人の詩に、『トミノの地獄』という、サーカスに売り飛ばされた子供の悲しい話があるんですけど、それをなんとか漫画化できないかと思っています」

■出演
丸尾末広(まるお・すえひろ)
1956年生まれ。漫画家。『薔薇色ノ怪物』、『夢のQ-SAKU』、『DDT』、『少女椿』、『ギチギチくん』など著作多数。近著に『パノラマ島綺譚』(2009年第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞)、『芋虫』がある。

吉田アミ(よしだ・あみ)
(よしだ・あみ)1976年生まれ。音楽・文筆・前衛家。1990年頃より音楽活動を開始。
マンガに関する著作も多数あり、2009年5月よりウェブマガジン「WebDICE」にて「マンガ漂流者(ドリフター)」の連載を開始。

劇画家畜人ヤプー【復刻版】

作●石ノ森章太郎

原作●沼正三

定価●2,200円+税

ISBN978-4-7808-0143-9 C0979

A5判 / 288ページ /上製

[2010年03月刊行]

内容紹介や目次など、詳細はこちらをご覧ください。

『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』発売中!

『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』の発売が開始されました。

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写真はヴィレッジヴァンガード下北沢店のコミックコーナーです。
文芸書のコーナーでも展開していただけるそうです。
粋な手書きポップも作ってもらいました。
ありがとうございます!!
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4月22日(木)には、同店にてトークショーも開催します。

●参加ご希望のお客様は、ヴィレッジヴァンガード下北沢店にて『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』(ポット出版/2,200円)をお買い求めください。先着90名様に参加整理券をお渡ししております。

●3月18日(木)よりヴィレッジヴァンガード下北沢店にて電話での事前予約も受け付けています。(10時〜24時/03-3460-6145)

大学に入学したて(10年以上前ですね)のころから、このお店にはよく通っていました。
トークに出演してもらう丸尾末広さんのマンガも、いくつかここで買ったおぼえがあります。
なんだか感慨深いです。

2010.4.22 (木)ヴィレッジヴァンガード下北沢店にて丸尾末広×吉田アミトークショーを開催します

2010年4月22日(木)の20時30分より、ヴィレッジヴァンガード下北沢店にて、『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』の刊行を記念し、同書に解説文を寄稿した漫画家・丸尾末広氏のトークショーを開催します。
近作『芋虫』をはじめ、マゾヒズムを描いた作品を多数発表している氏が語る、『劇画家畜人ヤプー』の魅力、そして自身の考えるマゾヒズムの魅力とは?
聞き手はマンガソムリエを自称し、丸尾末広氏の大ファンでもある吉田アミが務めます。

●『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』刊行記念トークショー
「丸尾末広に聞くマゾヒズムの世界」

■日時
2010年4月22日(木)
開場:20:15
開演:20:30

■出演
丸尾末広(まるお・すえひろ)
1956年生まれ。漫画家。『薔薇色ノ怪物』、『夢のQ-SAKU』、『DDT』、『少女椿』、『ギチギチくん』など著作多数。近著に『パノラマ島綺譚』(2009年第13回「手塚治虫文化賞新生賞」受賞)、『芋虫』がある。

吉田アミ(よしだ・あみ)
(よしだ・あみ)1976年生まれ。音楽・文筆・前衛家。1990年頃より音楽活動を開始。
マンガに関する著作も多数あり、2009年5月よりウェブマガジン「WebDICE」にて「マンガ漂流者(ドリフター)」の連載を開始。

■場所
ヴィレッジヴァンガード下北沢店

住所●東京都世田谷区北沢2-10-15マルシェ下北沢
電話●03-3460-6145

●参加ご希望のお客様は、ヴィレッジヴァンガード下北沢店にて『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』(ポット出版/2,200円)をお買い求めください(※販売は3月18日(木)からです)。先着90名様に参加整理券をお渡ししております。

●3月18日(木)よりヴィレッジヴァンガード下北沢店にて電話での事前予約も受け付けます。(10時〜24時/03-3460-6145)

●特典として、石ノ森章太郎氏が原画を描いたポストカード3枚セットをイベント当日にプレゼント致します。

劇画家畜人ヤプー【復刻版】

作●石ノ森章太郎

原作●沼正三

定価●2,200円+税

ISBN978-4-7808-0143-9 C0979

A5判 / 288ページ /上製

[2010年03月刊行]

内容紹介や目次など、詳細はこちらをご覧ください。

『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』予約受付開始しました

2010年3月18日刊行予定の近刊『劇画家畜人ヤプー【復刻版】』(石ノ森章太郎作・沼正三原作)の予約受付を開始しました。

2000年後の未来社会では、白人女性が全国民の頂点に君臨し、黄色人種はその家畜として養殖、飼育されている──。
原作、『家畜人ヤプー』は、1950年代後半に『奇譚クラブ』誌に連載され、1970年に「都市出版社」から刊行されました。
石ノ森章太郎によるコミック化は、1971年のことです。
肉便器(セッチン)、畜人犬(ヤップ・ドッグ)など、奇妙極まりないキャラクターが登場する原作を、石ノ森章太郎はどう解釈し、コミック化したか。
ぜひ、昨年刊行した『懺悔録─我は如何にしてマゾヒストとなりし乎』(著・沼正三)と併せてお楽しみください。

目次など、詳細はこちらをご覧ください。

ご予約希望の方は本が出来次第、送料無料でお送りします(代引の場合は代引手数料300円[代金1万円以下]のみご負担いただきます)。

本のタイトル/冊数/お名前/郵便番号/住所/電話番号/メールアドレス/お支払い方法(郵便振替または代引がご利用できます)をお書きのうえ、こちらへメールをお送りください。折り返しご確認のメールを差しあげます。

また、Amazonでも予約を受付中です。

劇画家畜人ヤプー【復刻版】


作●石ノ森章太郎
原作●沼正三
定価●2,200円+税
ISBN978-4-7808-0143-9 C0979
A5判 / 288ページ /上製
[2010年03月刊行]

内容紹介や目次など、詳細はこちらをご覧ください。