2005-10-09

お部屋1081/先週のつまらなかった原稿20

購読者の受付が始まったことなので、今週も更新しておくとしましょう。

ここに転載する場合、続きものは避けてしまうのですけど、たまたま先週の「声の復権・言葉の復権」シリーズは一回読切に近い内容だったので、これを出しておきます。

この春、「風俗ライター」を廃業して「歌手」と名乗るようになった私ですが、このシリーズは「人間にとって歌とはなんなのか」「歌を奪われていた時代があったのではないか」「その歌を奪還することにおいてカラオケはどういう役割を果たしたのか」「カラオケはどんなルールに基づいているのか」「歌はどのようにコミュニケーションを促進するのか」なんてことを論じつつ、私の「ライブレポート」や「歌詞の深読み講座」を入れ込んできまして、今回もライブレポートと歌詞の分析です。

早ければ、今週中にはいったんケリをつけて、間もなく新シリーズを始める予定です。この「声の復権・言葉の復権」は原稿用紙換算で軽く200枚を超えてまして、シリーズものは、一度始まるとなかなか終わりませんので、早めに購読を申し込み、新シリーズは一回目から読むことをお勧めします。

なお、今回から、「先週のつまらなかった原稿」にはコメントをつけられるようにしました。ずっと「黒子の部屋」は短期間で消す方針にしていたのですが、「先週のつまらなかった原稿」は原則出しっぱなしにしようと思っていて、となるとコメントをつけられないようにしていた意味がなくなりましたので。

以下は購読者用の全文をカットした本文のみです。

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< 声の復権・言葉の復権 13>

「まつわる便り」にも書いたように、先週は久々の飲み屋ライブでした。今回は三才ブックスの編集者二名を観客に迎えてのライブだったのですが、「ラップは歌えない」という編集者にケツメイシの「さくら」を二度も歌わせて、かなり歌えるようになってました。ラップ最大の敵は「照れ」です。照れさえなくせば、歌えたも同然です。

これでCDを聴き込めば、彼はケツメイシならなんでも歌えましょう。オレンジレンジもイケます。だからといって、湘南乃風やRIP SLYMEをすぐに歌えるようにはならないでしょうが、これも練習次第です。

二軒目の店では、店の女の子を私の歌で泣かせてしまいました。彼女は前に別の店にいて、その時にアフターでカラオケに行った時も私の歌で泣いてます。涙もろいってだけか。

そこから泣ける歌を歌おうということになったのですが、最近の曲で泣ける歌を思いつかなかったので、伊勢正三の「22歳の別れ」を歌ったら、ケツメイシを持ち歌にした編集者じゃない方の編集者が「今日松沢さんが歌った歌の中で一番よかった」とヌカしやがりまして、ラッパーあるいはパンクスに対してなんと失礼なことを言うのかと。日々歌詞カードを見て最新曲を練習している私の努力はどうなるのかと。どうもこういうことを言われることが多いのが納得できない。

さすがに飲み屋の女の子は「松沢さんは全然悲しいと思ってないでしょ」と見抜いてました。こういう歌を歌う時の私は心がこもってないですから。

この日も私はdragon ashの最新アルバム「Rio de Emocion」から何曲か披露しまして、マスターするまでにどれだけの時間がかかっているのかと(たいしてかかってないけど)。歌っている時にどれだけ心を込めているのかと(言葉を追うのに精一杯で、心を込める余裕がないけど)。

さて、以前書いたように、飲み屋ライブ用に練習しようと思っていたミスチルの最新アルバム「I♥U」はやっぱり中止しました。何度聴いても好きになれんのですよ。ちゅうか、聴き込むほどに歌いたくなくなります。

前にチラリと書いた生中だしの曲ですけど、これもよく聴くとイヤな曲なんですわ。タイトルは「隔たり」です。

こういう歌詞です。

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たった0・05ミリ
合成ゴムの隔たりを
その日 君は嫌がった
僕はそれに応じる
恐いのは病気じゃない
君が胸に秘めた思い
だけど嫌な気持ちじゃない
僕はそれに応じる
柔らかい体温が
今 夜を包む

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要するに女としては「あなたの子どもが欲しい」ってことですな。それを「恐い」「秘めた思い」と表現しているってことは、夫婦でも恋人でもない間柄であることが類推できます。子どもができていい間柄であれば、「ねえねえ、そろそろ子どもが欲しくない?」「そうだね。君もそろそろ生理がなくなる頃だからな」なんて会話があってしかるべきですから(いくつだ、この女)。

となると、たとえば男は結婚していて、不倫相手が「たまには生でしてよ。今日は安全だからさあ」と言い出したといったようなシチュエーションが考えられます。それに男が応じるのは、先のことを考えてねえだけだろ。

「ねえ、デキちゃったみたい。もう三ヶ月も生理が来ないの」
「えっ、そんなこと言ったって、産むわけにはいかないだろ。オレには女房がいるんだしさ」
「ひっどい」
「だって、おまえが“生がいい、今日は安全だ”って言ったんだぞ。早く病院に行ってこいよ、金は出してやっから。そろそろCDの印税が入るし」

桜井和寿ともなると、印税が入って来なくても10万やそこらの金くらいはあるのか。桜井和寿じゃなくても、たいていの大人はあるか。

とまあ、そういうことになりますわね。あるいは、もし「僕」が「子どもができてもいいや」と覚悟しつつ「応じた」のだとすると、以下のようなことが妻との間に起きましょう。

「あのさ、別れて欲しいんだ」
「えっ、どういうこと? 女ができたんでしょ。なんかヘンだと思っていたんだよね。時々パンツや靴下が裏返しだし。私は絶対に別れないからね」
「でも、彼女に子どもができたんだよ。僕には堕せなんて言えない。彼女が子どもを産んで、それでも君との生活を続けることも僕にはできない。君に対しても失礼だと思うんだ」

桜井和寿が書く歌詞の傾向を把握しているが故の想像です。どこまでも「僕」はいい子なんですよ。そこがズルい。

「ズルさや弱さを秘めつつ、自分の前ではカッコつけてくれるのがいいところ」とミスチルを評価する娘っ子がいることは「ロック画報」の連載に書いた通りです。よくわからん心理ですけど、現にああも売れているのですから、この世の中は、そういうズルくさい男がモテるような仕組みになっているらしい。

私であれば「ねえ、今日は生でしてよ」と言われたら、「よっしゃ」と応じながらも、最後はしっかり抜きます。あるいは出しません。そんなことを言われなくても出さないことが多いし。

「えー、たまには中で出してよ」
「バカ、よく考えろ。おまえが子どもを産んだところでオレは結婚なんてしないぞ。認知はするけど、自分一人で産んで育てていけるのか。堕すくらいなら中出しさせんなよ。おめえは、去年だって、彼氏の子どもを堕してんだから、たいがいにしておけよ。とりあえずチンコでもしゃぶって頭を冷やせ、ほれ」

こういう私の行動を歌にしたところで、誰も共感してくれませんわね、そりゃ。

この「隔たり」という曲では、生ですることが愛だのなんだのとつながる行為であるだなんてことをはっきりとは言ってませんけど、この歌詞から見えてくる世界観は、327号「SEXリポート2」に書いた「僕たち愛し合っているから浮気なんかしないよね。だったら、一緒に検査に行って、二人とも陽性だったら、生ですればいいね」と約束して、生でずっとやっていて、1年後に検査したら、二人ともHIVに感染していたという実例に通じると思うのですよ。生ですることに過剰な意味合い、たとえば愛、たとえば信頼みたいなものを投影しているのです。くだらないです。

生中だしセックスを歌ったことに対しては評価できるとは言え、その内容はつまらなさすぎます。だったら、コンドームをした上でセックスをやりまくることを提唱する湘南乃風の「これが一番大事!」の方がはるかに私は共感できます。そう思って、先週のライブでは久々にこの歌を歌いました。

でも、アホなババアどもは、わかりやすい湘南乃風の「これが一番大事!」は「風紀を乱す」「青少年に悪影響を与える」と非難して、ミスチルの「隔たり」は歌詞もよく吟味しないで「まあ、きれいな曲ねえ」なんて言うのでしょうし、意味がわかったところで「桜井さんは少子化対策まで考えているのね」なんて曲解しましょう。どうせミスチルが売れるような世の中なんて、そんなもんですわ。

で、そういう世界観が私の思想とは相容れないという問題以前に、歌詞の冒頭でひっかかりました。「0・05ミリの合成ゴム」のコンドームってあるのか? ラテックスは天然ゴムですから、合成ゴムってことは、ポリウレタン製品だと思うのですが、「サガミオリジナル」は0・02ミリです。

ポリウレタンのコンドームって「サガミオリジナル」以外にあるのでしょうか。あったとしても、今時、0・05ミリってことはないんじゃなかろうか。ポリウレタンのコンドームは薄さが売りですから。でも、海外だったらあるのかな。

なんて私は検討をしてしまうのですが、これって、単に桜井和寿がラテックスを合成ゴムだと勘違いした歌詞ではなかろうか。

広義では、化学製品でもラテックスと呼ぶようですが、狭義では天然ゴムのことであり、コンドームのラテックスも天然ゴムです。だから、ポリウレタン以外のコンドームは燃えるゴミの日に捨てていいのです。

思想的に歌いたくないだけでなく、化学的にも私はこの曲を歌うわけにはいきません。

この曲では、もうひとつ気になる歌詞があります。

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君は美しきスパイダー
羽虫が僕
あえて飛び込んで行くんだ

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妊娠して女房と別れさせようとする女の罠であることを知りながら生中だしをすることをこのように表現しているわけです。

数ヶ月前に同じトイズ・ファクトリーからリリースされたplaneのミニアルバム「seat22」に「スパイダー」という曲が入ってます。ドラムがえれえカッコいいので、私の持ち歌にしようと思っていたのですが、全然カラオケで配信されません。

「私が蝶で あなたはクモ」といったように男をクモに喩え、あるいは女をクモに喩えて歌い込むことは大昔からあったでしょうから、それ自体珍しくはないにしても、続けてこのタイミングで「スパイダー」が歌詞に出てくるもんかなと。

これに限らず、最近気になることがあるのですよ。あるミュージシャンが出した曲からアイデアをパクッたんじゃないかと思われることが非常に多いのであります。RIP SLYMEが「黄昏サラウンド」「朝焼けサラウンド」とやったら、dragon ashが「夕凪ユニオン」「朝凪Revival」とやったり。

オレンジレンジや浜崎あゆみのような著作権侵害になり得るパクリではなくて、法的にはなんら問題にならないアイデアの拝借ですけど、せめて一年くらい寝かせてはどうかと。

もちろん偶然かもしれず、偶然じゃなくても、この程度はいいとして、このフレーズでどうしても気になることがあります。

歌詞カードでは、「羽虫」に「はねむし」とひらがながついていて、実際に「はねむし」と歌ってます。羽虫は「はむし」です。「はねむし」って歌う私までが頭が悪そうです。

ゴロが悪かったのかもしれませんけど、だったら、違う言葉を探してはどうかと。たとえば「羽蟻」だったら、「はねあり」「はあり」のどっちもありで、どっちかというと「はねあり」の方が多く使われるのではないでしょうか。「はあり」だと「あ」が「は」のA音とくっついて「ハーリ」になって、デボラ・羽蟻ってカンジになりますから(ふる)、たぶん「はねあり」がより使用されるのでしょう。

これでは日本語的にも私はミスチルを歌うわけにはいきません。私が歌手になるまで、ミスチルの曲をちゃんと聴いたことがなかったので気づいてなかったのかもしれませんが、言葉に無頓着すぎないか? 

「I♥U」の一曲目「Worlds end」という曲で、桜井和寿は「旅客機」を「りょきゃっき」と歌ってます。旅客機は「りょかっき」だべ。

「旅客」は「りょきゃく」とも読みますから、「りょきゃくき」でも間違いではないようにも思えますが、「りょきゃくき→りょきゃっき→りょかっき」と転じたのではなく、「りょかく」に「機」がついて「りょかくき」になり、それが「りょかっき」になったのでしょうから、「りょきゃっき」はやはり間違いでしょう。言いにくいしさ。「とうきょうとっきょりょきゃっき」みたいな。

昭和14年版の新村出編纂『辞苑』(博文館)を確かめたところ、「りょきゃく」の項には「→りょかく」となっていて、「りょかく」という読みがこの段階でも一般的ですから(「過客」といったように「かく」という読みは古くからあります)、それほど古い言葉のはずがない「旅客機」はやはり「りょかく」に「機」がついた言葉であろうことが推測できます。

なんにせよ耳障りです。頭が悪そうなだけじゃなく、語感としても「りょきゃっき」は汚いです。レコーディングの現場にいる人たちは誰も気づかなかったのかな。

それに、「Worlds end」じゃなくて「World’s end」だべ。「world’s end」の「world’s」を複数形だと思ったんか、桜井和寿は。でも、worldに複数形はないだろ。世界をひとつの基準でまとめあげられるのはさすが英語の思い上がりって気もしますけど。

このendは動詞で、あえて世界を複数形にして、「すべての世界が終わる」ということと思えなくもないですが、歌詞に「どんな世界の果てへも」という言葉があるので、「Worlds’ end」にしたかったのな。でも、それなら「Worlds’ ends」じゃないか。どちらにせよ、英語にない表現でしょうが、「あえて」ということなら、そこまでやるべきです。

どこをとっても私にとっては苦手なバンドです。なのに、先週は飲み屋ライブだったため、大衆に媚びて、シングルで覚えた「and I love you」をまた歌ってしまった私は何者でしょう。コマーシャルで皆さん聞き覚えがあるもんですから、受けがいいんですわ(続く)。

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このエントリへの反応

  1. 元風俗ライター、現歌手:松沢 呉一オン・ステージ
    カラオケ仲間(?)の”松沢 呉一”さんから電話で歌舞伎町へ。 元風俗ライター(今…

  2. なんで!?ミスチルの歌は最高ですよ!!あなたは歌の良さ分かってなさすぎ。全国のミスチルファンから一気に嫌われましたね。

    頭の良さそうな事言っちゃってますが、実際聞き間違いしてますよ〜。桜井さんはちゃんと、「worldsend」で「りょかっき」って歌ってますし。勝手な事言わないで下さいよ。タイトルについてもちゃんとした配慮があるはずです。

    ・・・というか、「隔たり」についてだって、桜井さんがエロいやらなんやら言ってくれちゃってますが〜。あなたのが100倍エロいですから!!桜井さんが歌えばかっこよくなるんですよ(>皿<)

    もっとちゃんと聞いてみればどうですか??まあ〜あなたがミスチルをなんと言っても、どんなに悪く評価しても、ミスチルファンは永遠に不滅ですから☆

    最後になりますが・・・・・・・・・これだけは言っておきますね。「・・・あんたみたいに、モラルもセンスも無い人からミスチルを分かったような口調で述べられるってカナリ頭にくる・・・はっきり言ってムカつくんですよ!!二度とミスチルを語んな!!失せろこのハゲ!!エロおやじっっ!!」

  3. worlds endは地名なんだけどw

  4. うーんと、隔たりですけど、
    これは不倫とかじゃなく
    単なる付き合いの長いカップルの情景を歌ってるんじゃないすかね
    なんとなく結婚に踏み切れない男に対して
    このままずるずる続きそうだと内心焦りだした女が
    遠回しにプロポーズを促しているってだけじゃないですか。
    女がこれを打算と思い後ろめたさを感じているなら「秘めた思い」という表現は妥当だと思いますが。
    桜井の過去がこう想像させるんだから仕方ない、とおっしゃるならまあ仕方ない(笑

  5. マンコの臭そうなうしおさん、ハゲのオジサンを「桜井より100倍エロい」なんて褒めすぎじゃないですか。10倍くらいじゃないかな。

    それはそうと地名なんか。知らなかった。http://www.dcnr.state.pa.us/stateparks/parks/worldsend.aspx

    なぜこういう表記なのか、外語大出身のポットの日高君もわからないとのこと。

    shinさんの解釈も十分ありそうですね。結婚に踏み切れないだけではなく、男は単なる遊びで、はなっから結婚する気がないということもありましょう。でも、過去がさ。

  6. どんなことを想って桜井さんがこの歌詞を書いたかは私にもわかりませんが、どちらにしろ一方的な解釈だけで非難するのはいかがなものでしょうか。
    「旅客機」の聴こえ方にしても、聴いただけで本人がどう言おうとしていたかは判断できないのではないのですか。
    私個人の意見としては、「0.05ミリの合成ゴム製コンドーム」が実在するとかしないとか、「羽虫」がはねむしとは読まないとか読むとか、そういうことは音楽としての本質からあまりにも離れた問題ではないかと思います。桜井さんはミュージシャンであり、彼が書いたのは論文ではなく歌の歌詞なのですから、そのようなことで彼の曲が歌えないなどとおっしゃるのは音楽をしている人としてあるべきことでないと思います。

    いきなり失礼しました。

  7. 松沢呉一に指摘する事自体ナンセンス。
    有名なキチガイに何を言おうが無駄な事よ。

  8. バカみたいに悪いところばっかり
    書いてんじゃねーよ!!!お前みたいなヤツに
    ミスチルの悪口言う資格ないから!!!
    お前は桜井さんじゃないんだから桜井さんの考えてること全部わかるわけないだろ?全部自分が正しいとか
    思ってるんじゃねーよ!!!

  9. DragonAshとRIP SLYMEは仲良いんで
    RIPに対するアンサーソングとまではいかなくても
    リスペクト或いは遊びってカンジでわざと夕凪~朝凪をやったんだと思うんですが…
    アイディアパクりってwwwwwwwww

  10. あなたのミスチルに対しての発言は、ただのあなたの自分勝手な解釈に過ぎない。音楽というもの、ロックというものは、自由な表現が象徴されているんですよ。そもそもミスチルをあまり好ましく思わない人に分析やらされるのは彼らとしても望んでいないし、それを良いと思ってるリスナーが何百万人もいるから現に120万枚の売り上げを誇っているわけですよ。
    それに生だしの曲だというのは貴方の解釈で、本当はセックスをやろうとしたけど、相手が断ってきた事を歌っているのかもしれないじゃないかですか。桜井氏が雑誌か何かで生だしの曲だって言いましたか?根拠のない発言は控えた方が貴方の身の為ですよ。

  11. やさんへ

    以下に詳しく返事を書いておきましたので、参照してください。

    http://www.pot.co.jp/matsukuro/20101124_224520493921124.html