2006-07-05

日記(その2)

6月29日、木曜日。ぺトラが朝7時20分に我が家到着。申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、とても優しく慰めてくれて、本当にありがたかったです。「大丈夫よ、淑子。気をしっかり持って。体育はちゃんと診断書も出して欠席していたのだし、実際運動していない時は見学していたんでしょ。どこかに行って遊んでいた訳じゃないんだし、何かの誤解よ。でも、大人に対して失礼な態度をすることは私もわかってはいるけれどもね・・・。」そう、ぺトラともすったもんだしたことがある息子。それは、私に対してあまりに態度が悪かったので、ぺトラが息子を注意したところ、ものすごい勢いでくってかかってきたことがあったのです。ぺトラは基本的には子どもが嫌い。だから、私のことを必要以上にかばうのです。それは悪いことではないのだけれど、息子にとっては「どうせお母さんの友達はみんなお母さんの味方。俺のことはいつも悪くばっかり言う。」という図式になってしまう。実際悪いのは息子なのですが、いかんせん思春期なので手がつけられず、自分が変なのはわかっているのでしょうが、どうしても暴走を止められないという感じがします。

でも、とにかく3人でバスに乗ってギムナジウムへ。途中でぺトラがいろいろ息子に質問し、話すことをまとめていました。息子の言い分は、ちゃんと診断書を出したということと、見学の時も先生の用事をしたし、体育をした時はまじめにしっかりと運動していたと。それは友達がみんなで証明できると言うのです。さらに、診断書の提出の仕方ですが、先生に提示するだけで、そのまま戻ってくるのだそう。「それは本当なのね?それが正しいのね?」と聞くと、「だってブルーノの時もそうだったから、同じようにしていたんだよ。そうしたら戻ってきたもの。」でも、診断書を全てまとめて手元においているのかあやしい感じ。1枚くらい紛失している可能性もありますが、でも持っていたものは全て校長先生に提示しようということになりました。

ゲリラ的に行ったので、待たされること30分。先客がいて、どこかの子どもの両親がお願いに来ていたようです。そのお子さんの結果がどうなったかはわかりませんが・・・。

そして私たちの番。校長先生は、私の耳のことをぺトラが話して付き添いとして同行した旨伝えたところ、そこまでは好意的でしたが・・・その後はかなり厳しい感じになりました。
「昨日の成績会議で、あなたの息子さんは落第となりました。それは免れませんよ。」ときっぱり。
「でも、体育はどうしても納得できないのですが。診断書も提出していて、本来ならば6週間以内しか授業を受けていないので、成績がつかないと聞きましたし、ついても落第にはならないと考えますが。」と言ったところ、意外な言葉が返ってきました。

「その診断書を、2回あなたの息子さんは体育の先生に提示していないそうなのです。それは駄目ですよ。」

え〜〜!!!!! それは!!!

息子はびっくりして、「そんなことはありません。ちゃんと見せました。」と言ったのですが、こればっかりは証明することができません。とにかく持って行った診断書を全て見せてお伺いしました。「見せた見せないは、授業の始まる直前にちょこっと提示するだけで、はっきりとしたことはわかりませんが、こうして診断書は全てあるのです。」と見せました。

すると、校長先生は厳しい顔で全てチェックすると、
「この1枚は無効ですよ、日付けがおかしい。」とおっしゃるのです!!!

そ、そんな馬鹿な! 息子が偽造でもしたというのでしょうか? そうではなく、ドクターが診断書を書いた日付けがおかしいと言っているのでした。

「でも、そんなこと私たちにはわかるはずもありません。何を基準に日付けが間違っているのかなどもわからないし、そもそもドクターのミスなのであれば、息子に罪はないと思うのですが・・・。」そう言うと、

「いや、これは診断書をあなたの息子さんがとても遅くにドクターのところから持ってきたことの証明です。診断書はその都度速やかに提示する必要があるのを、あなたのお子さんはそれを怠った。だからこれは無効。体育の先生も、会議で息子さんの授業態度が悪いと言っているし、良いところがない、したがって落第は決定ですよ。」と冷たくおっしゃるのでした。「でも、それにしても日付けが違うことを、そしてそれを息子があまりに遅くに提出したとのことですが、もしもそれが間違ったことなのであったら、前もって伺っていれば私たちは正しい方法を聞いてちゃんと対処していました。」と必死にぺトラと私でフォローをしました。

「そういうことはね、生徒達はあらかじめ知っているはずであり、知らなかったのだったらそれは生徒の責任である。どうすればよいのかなど、担任がいちいち生徒に知らせる義務もなければ、それは担任の課題ではない!」と言って、机をこぶしでドン!とたたいたのです。「まぁとにかくね、体育の先生とお話なさるのは自由ですよ、でもこの診断書を認めるわけにはいかない。そしてここまで成績が悪かったら、助ける必要などないし、しっかりともう一度8年を繰り返せばいいのだ。」とのことでした・・・・。どうして・・・・どうしてこんなことに!!!
息子は確かに今回、とても成績が悪かったのです。でもそれは、息子の場合、大人や先生に意味もなくおろかにも反抗して、思春期丸出しの状態になっていたからで、それに息子が気づいて勉強しようというモチベーションさえ上がれば、しっかりとできるようになると私は信じていました。なので、この厳しい状況は息子の反省材料にもなるので、ポジティブにとらえ、やる気になって欲しいと思いました。先生や私の言うことを聞かず、人生をなめている息子。でも、今やっと自分にとって何が大切なのかつかみかけているのです・・・。

でもそれにしても・・・・・
校長先生がおっしゃっているロジックが理解できず、実際息子は骨折で休んでいたにもかかわらず、落第点をつけられてしまうのは、遅い提出だったからと???それが本当にそうだったのかどうか、そしてそれならその時点で無効であると、なぜ体育の先生が指摘してくださらなかったのか???? 疑問はどんどんふくらんでいきました。

でも、止まっていられない! 7月4日にはもう成績表が出てしまい、終わってしまう。そうなったらもう変更は不可能です。とにかく体育の先生と話さないと!!

校長先生と別れてから、息子が体育の先生をさがしましたが見当たらず・・。でも、7時間目に体育があるとのことなので、とにかく明日にアポをいただけるかどうか息子が聞くことにして、ぺトラと私は帰宅しました。

「淑子、まぁね、この際落第させてみるのも手じゃない?ドイツでは落第は問題ないし、悪いことではないのよ。ヴェンダース事務所のアシスタントのカロも言っていたでしょう?弟さんが2度落第したって。その後ちゃんと大学で医学を学んでいるって言っていたじゃない。復習は意味あることだし、いい薬になったと思えば。」とさばさばしています。確かに、そういう選択肢もある。でも、それは体育が落第点ということによって引き出される結論であってはならないと感じていました。そうしてしまうと、息子はいつまでたっても他人の責任にしてしまい、自覚できなくなるからです。他の科目てちゃんと点数が出て、それが落第点なのだったらはっきりします。でも診断書のミス、しかもドクターの日付けの問題で落第になるのは、私自身も解せません。だったら本人の息子がいつまでもその不条理をかかえてしまう可能性が高い。

とにかくぺトラにそのように伝えたところ、「わかったわ、では追試だけでも受けられるところまで頑張りましょう。あとは本人が勉強して合格するかどうかだけだもの。」

体育の先生とは、翌日の金曜日11時半に会うことになりました。でも・・・アンゲリカの50歳の誕生日を祝うパーティに招待されていて、金曜日は午後に電車でミュンヘンに行くことになっています。もちろん間に合いますし、パーティは土曜日なので問題ないのですが、その後2日間ある学校を休ませて、ミュンヘンからパリに行く予定になっていました。私の仕事も兼ねてのことだし、息子にとってはパリは初めての場所。とても楽しみにしていたのですが、もうそれどころではありません。

仕方がないので、パリを全てキャンセル。安い飛行機のチケットだったので、払い戻しはありません、ホテルをキャンセルし、ミュンヘン行きだけ切符を変更しました。金曜日の夜中に出て、つまり夜行でミュンヘンに行ってパーティ当日に到着するというもの。そして予定では月曜日の夕方までミュンヘンでしたが、それも日曜日のうちにベルリンに戻る便に変更しました。これでパーティだけは週末ですから出席できます。アンゲリカの大事なお祝いですし、ほぼ主賓である私が行かないわけにいかない。100人も来る盛大なパーティですし、ちゃんとしないといけません。仕事のこともあります。

でも、なによりも息子が一番大事。特に今は最も難しい局面を迎えていますから、気を引き締めてこの問題にとりかからないと大変なことになってしまいます。悶々と考えていましたが、パリはもう捨てるにしても(ナイヨン、ごめんね!)、なんとかミュンヘンまでは行こうと思っていました。その時はまだ、息子も何とかなると思っていたらしく、ミュンヘンで自分の誕生日も祝ってもらえることを楽しみにしていたのですが・・・・・。

木曜日の夜、YさんとOさんご夫妻の家に行って、夕飯をいただきながら今後の対策を練りました。やはり、会議後に成績を変更するのは難しいとのこと。でも体育の誤解で、それにより落第が追試もできずに決定してしまうなどということはあまりありえないことであり、体育の先生さえオーケーしてくれれば、問題はなくなるはず、と言ってくれました。それにより、息子は絶対に試験に合格するべく頑張る必要があるのは当然です。そのことについて、ご夫妻はやんわりと息子に自覚するように伝えてくれました。さすがに息子もここまで来たら、自分の愚行を反省し始めて、先生を無意味に敵にまわすおろかさを感じたようです。それで、息子としてはどうしても友達と同じクラスで勉強したいし、アビ(卒業試験=大学入学資格試験)も合格したい、だからチャンスが欲しいと言っていました。今までずっと怠けていた報いが来たわけですが、その重大さに気づいたのです。ちょっと遅い気もしますが、こんなことでもなければ、いい加減に進級してそれでおしまいってことだったでしょう。本当に息子にとっては苦いけれども良い経験になったと思います。

息子がトイレに立った時、自身も2人の息子さんを育て上げたOさんが私に言いました。「淑子、ありゃあ典型的な思春期のパターンだね、頭は子ども、体は成長してすっかり大きくなったけれども、バランスが悪いんだよ。あの子の場合は、大人や勉強に反抗心が向けられてしまってこんなことになったけれども、どの子も思春期にはクレイジーなことがある。あの子が勉強ができない子だったら、もうギムナジウムなんてやめてしまえばいいけれども、やればできる子なのはわかっているんだから、追試が最も効果的だろうな。受けさせてもらえるところまで、母親として頑張るのは意味がありそうだね。」とにっこり。Oさんは、常識で考えたら体育は本当に欠席していたのであり、診断書の日付け云々は、正直言えばかなりの言いがかりだから、そんなことで落第になるはずはないと。だから追試の勉強にとにかく励むべき、と息子を叱咤激励してくれました。

このエントリへの反応

  1. 「助ける必要などないし、しっかりともう一度8年を繰り返せばいいのだ。」
    というお言葉に驚きを禁じ得ませんでしたが、
    最後まで読ませて頂いて、「ドイツ流の教育はドラマティック」と感じています。

    【親の足りないところを補ってくれる】のが教育ですから、淑子様のご家庭にとって先生方のとられた行動は「天の助け」のような役目を果たしました。
    総てが淑子様がいつもおっしゃる「よい方向」に進み始めているようです。
    油断は禁物ですが、あと一息。

    才能も思いやりもある息子さんの社会生活に新たな指針が提示されました。
    やはりお母様のお友達や先生のおっしゃることは、
    息子さんにとって「貴重な忘れえぬ社会教育」になっていると実感しております。

    ご自身のお体のほうも抜かりなくご自愛ください。

  2. さとっち28号さま

    いつもあたたかいコメントをありがとうございます!
    そうですね、思春期というのは、本当にいろいろありすぎて、子どもも親も心身共に疲れます。でも、子どもは親に甘えてはいるけれども、心の中の爆発しているものを、受け止めて欲しいのですね。常に子どもに対して親としての愛情があり、見守っていることが伝われば、自ずと道は開かれるのだと信じています。
    過保護もよくないですが、無視はもっとよくありません。母として日々学びながら、自分にできることは何なのか、毎日考えています。