ず・ぼん7●選書基準を考えるきっかけにしたい 岐阜県図書館と利用者・浅野俊雄さんとの図書購入要求を巡るもめ事

選書基準を考えるきっかけにしたい
岐阜県図書館と利用者・浅野俊雄さんとの図書購入要求を巡るもめ事

佐藤智砂

[2001-08-06]

今から約二年半前、岐阜県図書館とその利用者である浅野俊雄さんとの間に、図書購入の要求を巡ってもめ事が起きた。
『ず・ぼん』編集部では、浅野さんの希望を受け、この問題を紹介することにした。
まず、最初に全体の経過説明、次に浅野さんが『ず・ぼん』編集部や日本図書館協会の図書館の自由に関する調査委員会などに送った手紙類を掲載する。
なぜこの問題を誌面で取りあげることにしたのか、その理由は全体の経過説明の最後に書いた。

(なお、ここで述べている意見・感想は、『ず・ぼん』編集部の統一見解ではなく、あくまでも佐藤個人のものであることをお断りしておく)

文◎佐藤智砂
さとう・ちさ●一九五九年生まれ。ポット出版勤務。
『ず・ぼん』の編集担当は、四号から。最初はまったく図書館に興味がなかったが、号を重ねるにつれ少しずつ知識も増え、編集が楽しくなってきたところ。

浅野俊雄さんという人から手紙がきた

 一九九九年三月に、岐阜県図書館を利用している浅野俊雄さんという人から、『ず・ぼん』編集部宛に手紙が届いた。それには、日本図書館協会の図書館の自由委員会(以下、自由の委員会)に出す手紙の下書きが同封されていて、これを読んで、『ず・ぼん』編集部の考えを聞かせてほしいと書かれていた。
 その下書きには、浅野さんが岐阜県図書館に三冊の本の購入を求めたところ、四つの理由から購入を断られ、その理由が納得できないということ。そして、購入を断られた三冊の本をリクエストした一九九八年十一月からの岐阜県図書館とのやりとりの経緯を書き、岐阜県図書館が再三虚偽の説明をしてあしらったことは、自由を守る拠点としての図書館として重大な背信行為である。このことを自由の委員会では、どのように考えるのか検討して返事がほしい。また、自由の委員会は、これまで問題が起きたときに、当該図書館に要望書などを出しているが、今回も同様の措置をとってほしいといった内容が書かれていた。

編集会議で相談した

 『ず・ぼん』の編集メンバーは公立図書館や学校図書館に勤めている者とポット出版の社員だ。毎日顔を合わせているわけではなく、編集会議のあるときに集合する。浅野さんの手紙がきたときは、『ず・ぼん』六号の制作に取りかかっているときで、その編集会議の際に浅野さんの手紙をみんなで回覧した。
 記録をとっていないので、すべてが記憶だが、「浅野さんの主張が本当だとしたら、岐阜県図書館の対応はひどいよね」という感想はほぼ全員に共通していたと思う。同時に、「浅野さんて、図書館側からすると、やっかいで困った利用者だという可能性もあるよ」という意見もあった。制作中の『ず・ぼん』六号で、取りあげようかという意見も出たが、もし取りあげるなら浅野さんと岐阜図書館に取材したい。では、誰がその担当になるか、というところで名乗りを挙げる者がいなかった。その時点で進んでいる『ず・ぼん』六号の企画だけで手一杯ということと、浅野さんがすでに自由の委員会に働きかけていることもあり、さらに『ず・ぼん』独自に取り組みたいという熱意を持つ者がいなかったということだろう。

 結局、編集委員の一人、堀渡が個人的に浅野さんに連絡をし、この場で出た意見を伝えることにして、『ず・ぼん』への掲載についての検討は、これでいったん終わりにした。

再び浅野さんから連絡がくる

 それから約一年半ぐらいが経った。二〇〇〇年の夏、浅野さんから『ず・ぼん』編集委員の手嶋孝典のもとに、岐阜県図書館との一件を『ず・ぼん』で取りあげてもらえないかという主旨の電話が入った。手嶋は『ず・ぼん』編集会議の際にその報告をした。そこで、もう一度浅野さんと岐阜県図書館の問題を検討しようということになって、浅野さんが最初に『ず・ぼん』編集部に送ってくれた手紙から新しく入手した手紙・資料類をすべてを読み返してみた。
 新しい資料の中には、自由の委員会が浅野さんに出した「岐阜県図書館予約・リクエストに関わる問題 報告とまとめ」(以下、「報告とまとめ」)もあった。これは、浅野さんの要望を受けた自由の委員会が岐阜県図書館と浅野さんに直接会って事情を聞き、双方の主張をまとめ、最後に自由の委員会の考えを述べたもの。私は、この自由の委員会の考えに何点か疑問を持った。他のメンバーも同様だった。共通して違和感を持ったのは、岐阜県図書館が選定基準を根拠に浅野さんの購入要求を拒否したことは正当であり、浅野さんの要求は「図書館の自由に関する宣言」の第四の検閲に該当し、特に副文の第二項「個人・組織・団体からの圧力や干渉」に相当する、という見解の中の「検閲に該当する」と判断している点だ。
 また、新たに入手した浅野さんの手紙には、一九九九年十月滋賀県で行われた図書館大会の分科会「図書館の自由」で、浅野さんと岐阜県図書館の事例が発表される予定だったが、岐阜県図書館が日本図書館協会に圧力をかけて発表を中止させたそうだと書かれていた(詳しくは後述するが、岐阜県図書館に直接聞いたところ、圧力をかけた事実はないと否定している)。また、自由の委員会が浅野さんに送った「報告とまとめ」と同じものを岐阜県図書館に送ったところ、岐阜県図書館長が回答の内容が裁判官的だからといって、自由委員会に返却したそうだ、とあった(これも、直接岐阜県図書館に聞いたところ、そもそも自由の委員会からの文書自体送られてきていないという)。

『ず・ぼん』で取りあげようと決めた

 浅野さんが『ず・ぼん』編集部に最初に手紙を送ってきたとき、浅野さんが述べている経過をそのまま無条件に信じることはできないが(一方だけの主張だけで判断はできないという意味)、私は岐阜県図書館の体質にかなり問題があるのではないかと想像した。でも、この程度の問題がある図書館なんてきっといっぱいあるのだろうし(だから、いいというわけではないが)、今回の浅野さんの訴えを『ず・ぼん』に掲載すれば、いくら小さな媒体とはいえ、岐阜県図書館にとっては真相がどうであれ面倒でイヤな事に違いない。それを押してまで『ず・ぼん』で取りあげる意味を見つけ出すことができなかったのだ。
 でも、あらたに入手した文書を読んで、自由の委員会の見解に対する疑問や、真偽は不明だが岐阜県図書館による図書館大会の事例発表への圧力があったらしいなど、「そこのところどうなっているのでしょうか?」と当事者たちに質問・確認したいと思った。自由の委員会の母体である日本図書館協会には、多くの公立図書館・学校図書館および、その職員たちが会員になっていて、図書館界への影響は少なくないはずだ。だから自由の委員会の考えはとても重要だと思った。
 また、岐阜県図書館が日本図書館協会に圧力をかけて図書館大会での事例発表を中止させたのが本当だとしたら、それをのんだ日本図書館協会は、「図書館の自由」とかいってられないと思った。こうしたウワサがある以上、はっきりさせておくべきだと思った。そして、『ず・ぼん』編集会議で話し合った結果、浅野さんの今回のケースを『ず・ぼん』七号で取りあげることを決めた。

岐阜県図書館と自由委員会に原稿依頼

 今回の問題を取りあげるにあたって、まずは浅野さんに了解を取って、浅野さんの手紙類をそのまま掲載することを決めた。次に、岐阜県図書館と自由の委員会にも原稿依頼の手紙を送った。編集部サイドの解釈が入らないようにするためには、一番いい方法だと考えたからだ。しかし、どちらからも断られてしまった。
 私は、三者の発言が掲載できないのなら、浅野さんの主張のみ載せることになるので、この企画自体とりやめにしたほうがいいかもしれないと迷ったが、浅野さんの手紙だけでも掲載することにした。その理由は以下の通りだ。

選書基準について考えていきたい

 まず、第一の理由は、浅野さんと岐阜県図書館の間に起こった出来事を『ず・ぼん』に載せることで、オープンにしたかったということ。
 そして、この一件をきっかけに、選書基準について『ず・ぼん』編集委員たちと考えていきたいと思ったからだ。

 公立図書館の本は税金で買われている。各図書館にはそれぞれ予算があり、発行されているすべての本を買うことはできない。だからどの本を買うのか・買わないのか、選書する。選書基準は、税金をどんな本に使うかの基準なのだから、公開するのは当たり前のことだ。たとえば、図書館の目立つ場所に「こういう基準で、買う本を選んでいます」と書いたものを貼っておいたりするといいと思う。
 でも、その選書基準は、実際に一冊一冊を選んでいるときに本当に基準になっているのだろうか。箇条書きにできるような基準だけでは、実際の選書は不可能なのではないだろうか。例えば、岐阜県図書館の「著しく公序良俗に反する恐れのある資料」という基準はそれ自体納得できないが、さらにこの基準で買う買わないという具体的な選択はできないと思う。エロ・グロにしてもそうだ。図書館職員によって、「エロい!」と感じるものはまちまちでしょう。基準に沿っても、選ぶ本・選ばない本は変わってくる。誰もが同じような判断をできる基準は、「陰毛が見えないこと」など、即物的な基準になってしまう。そして、そういう基準は嘲笑を誘いがちだ。でも、人によって違いが出ないようにするには、こういった目に見えるような基準しかつくれないだろう。
 これは想像だが、図書館の人は、自分たちが選んだ本・選ばなかった本について、その理由を聞かれるのを恐れているのではないだろうか。恐れているというのが大げさなら、面倒でイヤなことなのじゃないかと思う。なぜならば、選書基準に対して、自分たちの中に確信が持てないから。
 実際の選書は、箇条書きにできるような基準ではなく、たくさんの要素を入れた総合的で漠然とした判断で決めているのではないだろうか。でも、そういった曖昧な根拠を許してくれない人達がいるから、「選書基準に沿って選んでます」と、あたかも基準が機能しているように振る舞ってしまう。そして、後ろめたさのようなものを感じるから、硬直した対応になってしまうのではないかと思う。でも、それは図書館の人にもちっともいい状態ではない。そこで、次号の『ず・ぼん』八号の企画会議で、選書基準および図書館で本が選ばれ蔵書になっていく実際の流れについてぜひ取りあげようと提案するつもりだ。
 以降、浅野さんの手紙、自由の委員会の「報告とまとめ」、私が書いた岐阜県図書館と自由の委員会への原稿依頼書、そしてそれぞれの断りの理由の要約を掲載する。浅野さんと岐阜県図書館と自由の委員会の方、反論があればぜひ『ず・ぼん』編集部までおよせください。

浅野さんの手紙を軸にしたこれまでの経緯

■1■
一九九九年三月八日
●浅野さんが書いた『ず・ぼん』編集部への手紙

拝啓前略
 貴誌を愛読させていただいている者ですが、今年、岐阜県図書館より別紙コピーのような対応をうけました。

 コピーは図書館協会の自由調査委員会に出すつもりの下書きですが、取捨推敲して出そうと考えています。
 つきましては、お手数ですが、御一読下さって、是非貴誌としてのお考えをお伺いしたく存じます。よろしくお願い申し上げます。
敬具
ず・ぼん編集長殿 浅野俊雄拝
三月八日
〈住所・電話番号、省略〉

〈自由委員会への下書き、省略〉

■2■
一九九九年三月十八日
●浅野さんが書いた図書館の自由に関する調査委員会 への手紙

平成11年3月18日
日本図書館協会

図書館の自由に関する調査委員会 様
浅野 俊雄
 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
 私は、浅野俊雄ともうします。常日頃、岐阜県図書館を利用している者です。県図書館の予約・リクエスト制度を利用させていただいています。
 過去に
「萬朝報」縮刷版 日本図書センター……高価である。

「禅の語録」19冊(筑摩書房・絶版・京都古書店其中堂にあるもの)……古書店は購入できない。
医学の専門書……専門書である。
「マンガと同人誌のすべてがわかる」(KKベストセラーズ)……KKベストセラーズのものは買いたくない。
 等ほか数冊をリクエストして、上記の理由等で断られたことがあります。これらの本については、特に、強くは苦情をもうしませんでした。また、他の本ではリクエストに良く応えてもらってもいます。
 しかし、今年に入って、次の3冊を断られました。
(1)フリンジ・カルチャー 周辺的オタク文化の誕生と展開 宇田川岳夫著 水声社(平成10年11月25日リクエスト、著者は東大西洋史専攻、サブカルチャーの周辺文化の研究をライフワーク。本書はその評論集)

(2)マンガゾンビ 宇田川岳夫著太田出版(平成10年11月17日リクエスト、商品として計算されたマンガからはずれたマンガを正当に評価しようとした解説書)
(3)トラウマ・ヒーロー総進撃!マンガ地獄変3 植地毅ほか編著 水声社(平成10年12月19日リクエスト、埋もれたマンガの軽いタッチの紹介書)
*(1)(2)については、恐らくこの分野では最初の本ではないかと思います。
 (1)(2)については1月27日、(3)については2月24日に「購入できない」旨伝えられました。その理由が
(1)カバー・図版が刺激的でエロ・暴力をあおる。
(2)公序良俗に反する。

(3)子どもに見せられない。
(4)他の利用者から苦情があったら困る等です。
 なお、当該図書はそれぞれ数分見せてもらいました。
 私が調べたところ、近隣の主な図書館ではいくつかのところでそれぞれの図書を所蔵していることがわかりました(詳細別添)。他の図書館で購入していて、なぜ岐阜県図書館で購入できないのか理由が納得できません。「所蔵している館から借りてもらって読む方法もある」との意見もありますが、今回の件は借りたり、小生が購入してすむことではないと考えております。ひとつには、これからも同様の選書問題が起こると考えられるからです。それは、利用者に対して経過のような説明が許されるなら、図書館人としての誇りも見識も全然うかがえないこと。司書は専門職ですから、現体制はこの後も続くことなどです。次に、当該三書は、一度読むだけでなく、資料として必要なときに参照したいのです。
 また、子どもに見せられないのであれば、大人にだけ見せる方法はあると思います。例えば、閉架書庫にしまっておくなどです。
 図書館の自由の観点からいって、それぞれの図書をどう読むかは私たち市民の判断にゆだねられていると考えます。図書館員が検閲官となって資料の中立性を判断したり、収集範囲の普遍性を侵すのは図書館の使命を放棄することです。

 また、別添の経過で明らかなとおり、リクエストした者に再三虚偽の説明をしてあしらったことは、自由を守る拠点としての図書館として重大な背信行為です。日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」とか「図書館と自由」なども読ませてもらいましたが、ますます納得できません。
 そこで、「図書館の自由に関する調査委員会」では、この事をどのように考えるか検討して、ご返事をいただきたいとお願いする次第です。また、過去に問題が起きた際、当該図書館に対して要望書等をだしておられますが、今回も是非同様措置をとっていただくようお願いいたします。
連絡先 浅野俊雄〈住所・電話番号、省略〉

■3■
●浅野さんが書いた問題の経過問題の経過(概略)

10.11.17 (1)マンガゾンビをリクエスト

10.11.25 (2)フリンジカルチャーをリクエスト
10.12.19 (3)トラウマ・ヒーロー総進撃!マンガ地獄変3をリクエスト
11.1.22 資料収集委員会開催。
11.1.27 T職員より(1)(2)は購入できない旨伝えられ、当該図書を数分見せられる。理由が納得できないので、責任者の説明を求める。
11.1.28 T職員立ち会いのもと、資料課長説明。(理由は本文(1)〜(4)の通り)館長以下10名全員の賛成で購入不可決定と説明。なお、収集方針のコピーを受け取る。
11.1.28 顔見知りの委員談

私はフリンジカルチャーという言葉を初めて知った。こういう本も、いれた方がいいという委員もいた。採決はとらない。しかし、私は最後まで委員会にいなかった。(後日、T職員は他の委員に聞いたらしく10対0ということはないと語った。)
11.1.29 館長に面会を求めるがかなわず。
資料課長、人文情報課長(前年度まで資料課長)、T職員の3名が話を聞く。22日と同じ返答を繰り返す。
同日 直接事務室へ行き館長に面会を求める。館長は在室しないとのことで、副館長応対。両課長も同席。副館長は相槌のみ。
議事録は見せられない。細部は記録していないとのこと。
10対0ということはないの発言者探しになったので、「委員全員を呼んでくれ。」「できない。」等のやりとりがあった。

また、面会の席で当該2書を求めたところ、資料課長は「あんな本持ってきていいのか」と言いながら同席へ持参。
11.2.16 T職員に「閉架書庫で所蔵すれば問題ない」との理由で、再検討を求める。
11.2.17 T職員に再検討がされるのかと質問。
資料課長とS職員が説明。「今日9時から会議で検討した。13対0で購入不可を決定」とのこと。経過記録の求めに対して13名の役職名簿を私に提示する。
同日 館長、副館長と面談。(資料係長との話は伏せる。)
最近の選書会議はいつ開かれたのかとの質問に対して、16日午前中開催。会議は通常通りとのこと。前記2書の再検討の要望に対して、「一度決定したものは再検討できない」とのこと。同席に資料係長の同席を求め、先ほどの説明を詰問する。

資料係長返答できず。館長、副館長も語らず。館長に虚偽の説明について上司としての見解を求める。
「後で資料係長に詳しく聞いてみる」との返答のみ。
館長に2書の購入不可の理由を糺す。「子どもに見せられない。公序良俗に反する」等同じ説明。
収集方針にない理由なので、館長にそのことを糺すと「選書基準がある」とのこと。私の閲覧請求に対しては「決裁をとる必要があるので申請書を提出すれば1週間後位に見せられる」との返答。
11.2.24 T職員より(3)が注文して到着したが、購入不可になった旨通知される。当該図書も数分見せてくれた。
資料課長に説明を求める。来客中と資料課職員が説明。その上で「決定理由は言えない」との説明。この後、「課長の応対の終わるのを待つ」「今日はずっと来客」「課長のところで待たせてもらう」「困ります」等のやりとりがある。

11.2.26 館長に面会を求める。資料課長、人文情報課長、資料係長の3名が応じる。
(3)も前2書と同理由とのこと。
「蔵書構成と図書選択」(河井弘志)の「読者への悪影響を理由に収集から排除されることは望ましくない」の箇所を示して再考をうながすが「できない」の一点張り。
11.2.28 A委員に電話で相談。その中で「所蔵している館から借りてもらって読むと言うことではだめなのか」と言われたが、前述の通り今回の件は借りたり、自分で購入したりしてすむことではないと考えている。
11.3.2「選書基準」「理由書」の閲覧申請書を副館長に手渡す。
11.3.4「選書基準」「理由書」の閲覧を請求する。

総務課長、資料課長が応対。「後日、閲覧日時を連絡する」とのこと。
11.3.11「資料選定基準」開示。筆写(別添)。資料課長はこれまでの話し合いで「資料選定基準」はないと発言している。
月日不明 東京から大阪までの主な図書館の所蔵を調査。
(1)は、横浜市立、静岡県立、静岡市立、滋賀県立、京都市立、大阪府立、大阪市立図書館で所蔵。
(2)静岡市立、金沢市立、名古屋市瑞穂図書館で所蔵。
(3)都立中央、静岡中央、金沢市立、名古屋市立2図書館で所蔵。

なお、東京区立、小田原、清水、浜松、豊橋市立図書館等は未調査。

■4■
一九九九年三月二日
●浅野さんが岐阜県図書館に出した文書の閲覧申請書

平成11年3月2日
岐阜県図書館長 篠田和美殿

〈住所、省略〉浅野俊雄
下記の文書の閲覧を求めます
一、フリンジ・カルチャー(水声社)、マンガゾンビ(太田出版)、マンガ地獄変3トラウマヒーロー総進撃(水声社)
以上3冊の購入不可の理由を記載した文書
一、岐阜県図書館選書基準

■5■

一九九九年三月五日
●岐阜県図書館が浅野さんに出した閲覧についての文書

平成11年3月5日
浅野俊雄様
岐阜県図書館長
文書の閲覧について

平成11年3月2日付けで請求のありました件については、下記のとおり行いますのでお越し願います。

日時 平成11年3月11日(木)14:30から
場所 岐阜県図書館事務室

■6■
一九九九年三月十一日

●浅野さんが筆写した岐阜県図書館の「資料選定基準」

資料選定基準 平成8年4月1日
岐阜県図書館資料収集方針(昭和51年3.25施行)・収集対象資料に基づく、収集資料については、次のとおり基準を定めるものとする。
1.次の各号に掲げる資料は収集しないものとする。
(1)著しく公序良俗に反する恐れのある資料
(2)著しく青少年に悪影響を与える恐れのある資料

(3)著しく個人の人権及びプライバシーを侵害する恐れのある資料
(4)営業、勧誘を目的として刊行された資料
(5)著しく利用者が限定される専門資料
(6)学習参考書
(7)漫画・コミック
2.前項に該当する資料についても、郷土資料、重点資料、児童図書研究室資料等については、収集することができるものとする。

■7■
一九九九年四月三十日
●浅野さんから図書館の自由に関する調査委員会 Aさんへの手紙

昨年秋には再び諸君、新潮45、週刊文春、図書新聞を依頼しましたが、4月末現在入りません。
 断られた件ばかりではなんですから、こゝ数年にリクエストして購入して頂いた本を思い出して列記してみます。
 遠い朝の本たち、夫婦茶碗、赤目四十八瀧心中未遂、日本警察の現在、警察が狙撃された日、最終講義(中井久夫)、易経講話(公田連太郎)、総合仏教大辞典(法蔵館)、図説仏教語大辞典(中村元)、市川白絃著作集(岐阜県出身)、久松真一資料集(岐阜県出身)、国訳一切経和漢選述部の一群、南伝大蔵経の一部(以上2集は一冊も所蔵なし)、ぼくの採点表(双葉十三郎)、南山堂医学大事典(18版)、内科診断学(西村書店)、医療薬日本医薬品集、メルクマニュアル、大蔵経全解説大辞典、書評年報、内科学書(中山書店)、等これで全てではありませんが、調べるのに必要なため依頼したものです。「浅野さんはリクエストが多いから」と再三言われましたが、県立図書館クラスとしては、リクエスト以前に所蔵していて当然の本が殆どだと考えますが、購入してくれたことには感謝しております。トラブル続きのようにみえるかも知れませんが、建物は新しく、その他快適に利用させて貰っていますので、一利用者の背景として記させていただきました。今回は、図書館界という仲間のようなものなのに、面倒なことを依頼し恐縮に思っていますが、大局的な御立場からよろしくお願い致します。書きなれないため意を尽くせませんが、御判読下さい。 敬具

四月三十日

■8■
一九九九年九月二十一日
●図書館の自由に関する調査委員会が書いた浅野さんへの回答書の要約

九月二十一日付けで浅野さんに送られてきた自由の委員会の回答書は、A4サイズの用紙四枚に書かれており、(一)経過、(二)利用者浅野氏の言い分、(三)県図書館の対応、(四)自由の委員会の考え方、の四部構成になっている。
 一番目の経過の部分では、一九九九年二月二十八日に浅野さんから自由の委員会のメンバーであるAさんに電話で相談が入ってから、岐阜県図書館に事情を聞きにいくまでの経緯が簡単に書かれている。

 五月八日に自由の委員会のメンバー三人が岐阜県図書館に赴き、岐阜県図書館側は、館長、総務課長、資料課長の三人が面談に出席している。自由の委員会は、そのあと場所を変えて浅野さんにも事情を聞いている。
 二番目の利用者浅野さんの言い分では、浅野さんが自由の委員会に宛てた手紙に書いた内容が要約された形でまとめられている。
 三番目の岐阜県図書館の対応では、岐阜県図書館では利用者の予約リクエストには、蔵書、購入、相互貸借によって必ず応えるようにしていること。購入の場合は、収集方針と選定基準によって選書会議で決定していること。浅野さんの今回のリクエストは装丁や引用画が見ただけでもグロテスクなので入れたくない。知る自由にエロ・グロまでは認められない。『週刊ポスト』や『週刊現代』などひどいヌードが載っているものは入れないなど、浅野さんに直接関係する対応から、岐阜県図書館の基本スタンスが伺えるものまで、十一の箇条書きにまとめられている。
 そして最後の四番目に、自由の委員会の考えが九つの箇条書きによって述べられている。まず、岐阜県図書館は、県内市町村立図書館からの資料要求には、資料選定方針に関わらず必ず購入して提供する方針を表明しているので、県立図書館としての役割遂行に欠けるところはないと見受けられること。そして、今回の問題については、岐阜県図書館側がとった姿勢は正しいと書いている。浅野さんの要求は「特定の資料」の購入要求であり、それは「図書館の自由に関する宣言」の第四の検閲に該当するからというのがその理由だ。特に副文の第二項の「個人・組織・団体からの圧力や干渉」に相当すると判断している。
 そして、今回の問題は、予約リクエストとは切り離して資料収集方針や資料選定基準の問題として、浅野さんが岐阜県図書館側に検討を要求するのが妥当だろうとしている。
 一方、岐阜県図書館に対しては、「資料収集方針」が多様な資料を受け入れる姿勢で一貫しているのに対して、「資料選定基準」は排除の論理で作成されていて、
これは知る自由を保障する図書館にふさわしくないと批判している。特に「公序良俗に反する恐れのある資料」という選定基準については、判断する人の感性や思惑に左右されるものであり、利用者が見る前に価値判断してしまうのは図書館員のおごりではないだろうか、と岐阜県図書館に問いかけている。

〈以上が自由の委員会の「報告とまとめ」の要約だ。次に、なぜ「報告とまとめ」を全文掲載せずに要約を掲載したのか、その理由を説明する〉
 当初の予定では、ここに日本図書館協会の自由の委員会が浅野さんに宛てた「岐阜県図書館予約・リクエストに関わる問題報告とまとめ」(以下、「報告とまとめ」)を全文掲載する予定だったが、日本図書館協会から掲載許可をもらえず、それができなくなった。「報告とまとめ」を引用するのであれば、日本図書館協会の許可は不要だが、今回の掲載のスタイルは「引用」ではなく(そもそもこの「報告とまとめ」は公表されていないので、引用が成立する条件を満たしていないのだが)、「使用」に当たる。そこで「使用」の許可を与える権利をもっている日本図書館協会に許諾のお願いをして、断られたという経緯だ。
 日本図書館協会の常務理事・事務局長の酒川玲子さんが電話で話してくれた断りの理由は、この「報告とまとめ」が、日本図書館協会の正式な文書ではないから、というもの。自由の委員会は五月八日の面談を終え、その「報告とまとめ」を浅野さんと岐阜県図書館に送った。ところが、岐阜県図書館から内容に納得のいかないところがあると言われ、日本図書館協会は確かに不十分な点もあると岐阜県図書館の言い分を認め、「報告とまとめ」を撤回したのだそうだ。浅野さんの元にも「報告とまとめ」が送付されていたが、日本図書館協会は、「報告とまとめ」の撤回を浅野さんに電話で伝えたそうだ(それに対して浅野さんがどんな返事をしたのか確かめていないが、浅野さんはこの文書を日本図書館協会の見解としてとらえ、疑問点・反論を日本図書館協会に手紙で送っている)。
 以上のような理由で、日本図書館協会の「報告とまとめ」という文書は、正式な文書ではないため、掲載許可は出せないというのが日本図書館協会の見解だ。

■9■
一九九九年十月十二日

●浅野さんが書いた図書館の自由に関する調査委員会への手紙

図書館の自由に関する調査委員会様
平成十一年十月十二日 浅野俊雄
 このたびは私の面倒な依頼に対し、岐阜までお越しになって調査して頂き、心から御礼申し上げます。またそのご報告を戴き有難うございました。報告を読ませていただき、委員会の御誠意を充分感得し、また感謝しております。
 私の主張が認められた点もありますが、疑問点もいくつか感じましたので、その点を率直にお尋ね致したいと思います。
1. 利用者の言い分2の(3)で、図書館側が四つの理由を挙げているが、報告書で言及されている公序良俗以外の三つの理由についての委員会の見解をお伺いしたい。

2. 2の(10)に「図書館の蔵書の欠落を補っているつもりである。」とあるのは、必要とした書物が所蔵されていなかったからリクエストしたもので、それが結果的に欠落を補ったと考えている。自身、必要がないのにリクエストはしていない。蔵書の欠落を補うためにリクエストした訳ではない。
3. 県図書館の対応3の(3)で、「マンガでも質よくまとめられているものは購入する。」とある。私が、「坊ちゃんの時代」「ぢるぢる旅行記」「鳥頭紀行ぜんぶ」をリクエストしたが断られた。書簡に書評を添付したが、これらは現在最高水準のマンガではないか。「鳥頭紀行ぜんぶ」については前篇の「鳥頭紀行」は所蔵されている。矛盾していないだろうか。
4. 3の(4)で「三書は装丁や引用画など見ただけでもグロテスクなので入れたくない。」とあるが、これは単なる個人的好悪ではないか。小学校の図書館ならいざ知らず、県立図書館の十人からなる選書委員会の見解とは思えない。これでは蔵書は時代に迎合した無難な本ばかりになる。
5. 3の(6)の「知る自由にエロ・グロは認められない」とあるが、この考えは問題だと思う。また「この種の図書の内容は人権問題だと思う」とあるが、この種の図書には本件の三書を含むのであろうか。「人権問題」とはどういう主張なのか。
6. 3の(10)「そういう決め方はしていない」とあるが、どういう決め方であろうか。
7. 4(1)は私が該当三書のリクエストを出したところ、二ヶ月ぐらいたって該当書を見せて、2(3)の理由で購入できないと断られたが、その理由は図書館の自由に関する宣言に反すると主張したものである。その時収集方針を手渡されたが、前記理由に該当する条文はないので、質したところ、委員の考えであって他に文書はないとの返答であった。最初から選定基準に反するから購入できないとは言っていない。このあたりの事情は私の提出書類と書簡を厳密に読んでいただければ、また収集方針、選定基準の制定日等からも、選定基準は、私と館長との面談以降に作られたものとわかると思う。これは館長とのやりとりの状況から断定していると考える。「齟齬が生じ、感情的な要素……」云々については、勿論感情は発生するが、それにより当方は事実を曲げていない。

 今回の問題につき、第三者の図書館研究者にも、県図書館が「言わなくてもいいのに理由を言ったために」問題が発生したとの考えもあるが、これは開かれた図書館という観点からして全くうなずけない。むしろ充分に理由・経過等は、情報開示制度以前に、説明すべきと思う。
8. 4(2)「基本的姿勢は明確……」とあるが、3(6)で「知る自由にエロ・グロにまでは認められない」と主張しており矛盾している。
9. 4(4)で「県図書館の主張が正しいとすべきである。」として、私の購入要求は検閲に該当するとあるが、これは宣言の「第1」の各項の解釈としてはいささか無理ではなかろうか。宣言は4の(7)に記しておられるように排除の論理をとっていない。宣言第1は「あらゆる資料要求にこたえなければならない。」また第4は「検閲は権力が……」とある。子どもに見せられない、他の利用者からの苦情、公序良俗に反する等の理由は、第1の(4)「紛糾をおそれて自己規制したりはしない」に反する。私の購入希望を「検閲」や「圧力や干渉に相当する」というのは、宣言制定時の主旨から考えても条文を裏から解釈した感がする。図書館側の不購入の理由は自由に関する宣言に反するから購入してほしいというのが、検閲や圧力・干渉に相当するという解釈は理解しがたい。「検閲」の歴史的語義から考えても当を得ていないと思う。治安維持法下の図書館のように公序良俗に反するから購入できないというのは、自由に関する宣言から考えて不当だから、資料として購入してほしいと主張するのが検閲や圧力・干渉になるならば、自由に関する宣言の眼目はどこにあるのかと疑問に思う。
10. 4の(6)に「感情的な相互の関係について……裁定を求めている。」とある。県図書館の現状を知ってもらうため実状を報告したが、裁定は求めていない。委員会の役割も、またいわば仲間を調査するという難しさも存知している。ただ「リクエストを再検討した」という答弁や選定基準の作成経過等については図書館側のいいのがれを真としたかたちでの報告になっている。それでは私が虚構を記したことになり、そうでないことは提出文書や書簡を注意深く読んで頂ければ判明すると思う。不購入と決定したときは、リクエストした者に理由・決定日・経過等は説明するよう図書館側に要請してほしいということは依頼した。
 図書館側からすれば面倒な利用者だと思うだろうが、書物というもののもつ意義や図書館の重要性を考えればこその主張である。戦前の、御上の言うことはだまってきけというような考えの延長線上にあるような対応では駄目だと思う。
以上

■10■
一九九九年十月十五日
●浅野さんが書いたNさんへの手紙

拝啓前略
 面識のない者が突然手紙を差出す失礼をお許し下さい。ず・ぼん誌にて先生の「自主規制の増殖は図書館の自死に及ぶか」を拝読させて戴き大変感銘を受けました。私は別紙のように岐阜県図書館へリクエストした3冊の本が、公序良俗に反する等の理由で購入を断られました。(それらは各該当分野では唯一の資料といってよいもので、それほど過激なものではないのですが)
 そこで、日図協の図書館の自由に関する調査委員会に調査を依頼しました。別紙の回答が9月末に当方と岐阜県図書館へ送られました。委員のお一人と電話にてお話ししたところ、館長より日図協へ電話で、回答の内容が裁判官的だから受取れない旨の連絡があり、その後、日図協では回答書の返却に応じたそうです。それに対する委員のお一人のお考えは、

・2001年に日図協全国大会が岐阜の予定になっているから角つき合わせて喧嘩したくない。
・岐阜県図書館は協会に加入しているから理不尽な言い分でも呑まざるを得ない。
・調査委員会も日図協内部の一委員会である。
・説得できる感性の相手でない。
以上のような御説明でした。
なお、「資料選定基準」の原本のコピーの送付を依頼しましたが、日図協が県図書館から入手したものだから送付はできないが、私が筆写して、委員会へ提出したものと同一である(当然のことですが)との返事でした。購入を断られた理由がいかにも前時代的で納得できません。御多忙のところ恐縮に存じますが、別紙文書を御高説戴けませんでしょうか。

敬具
十月十五日 浅野俊雄〈電話番号、省略〉
N先生

■11■
一九九九年十二月一日
●浅野さんが書いたNさんへの手紙

前略、お手紙を戴き本当に有り難うございました。
 最近判明したのですが十月に行われた全国図書館大会の第九分科会「図書館の自由」で、「A県立図書館のリクエスト対応について」と題して調査委員会のお一人が発表される予定で「大会要綱」にも掲載されていました。(コピーを同封しました。)
 ところが参加者【原文ママ】した図書館員の方々にお聞きしたのですが、当日発表はとりやめになり、別の調査委員の方が別の題で話をされたとのことです。
 その方が調査委員のお一人に個人的に尋ねたところ岐阜県図書館の要求によりとりやめざるを得なかったとの返事だったそうです。
 なお、事例発表の文中、利用者と図書館との間に資料選定に関する考えにすれ違いがある旨とありますが、当方は相互貸借制度を否定しているのではなく、その前の段階のリクエストに対する非購入の理由を問題としている訳です。
 県の受取り拒否、事例発表取止め等と続き、さてどうしたものかと思案していたところへ、御手紙を戴き大変嬉しく思った次第です。

 御多忙のところまた御邪魔致しました。
まずは御礼まで
十二月一日 浅野俊雄
N先生

■12■
一九九九年十月

●図書館大会で浅野さんと岐阜県図書館の問題を事例発表するという予告

『平成11年度(第85回)全国図書館大会要綱』の51頁より抜粋
事例発表
◎A県立図書館のリクエストへの対応について
〈名前・勤務図書館名省略〉
 今月2月末、A県立図書館の利用者からこんな相談がありました。

 常日頃、県立図書館の予約・リクエストを利用しているが、おおむねリクエストに応えてもらっている。これまでにも「高価である」「専門書である」等の理由で断られたことがあるが、今回の3冊についてはその理由が、「公序良俗に反する。カバー・図版が刺激的でエロ・暴力をあおる」といったもので納得できない。
 それぞれの図書をどう読むかは私たち市民の判断に委ねられている。図書館員が検閲官となって資料の中立性を判断したり、収集範囲の普遍性を侵すのは図書館の使命を放棄することになるといった内容です。
 県立図書館の姿勢は、予約リクエストされたものには必ず応えるようにしている。この利用者にも資料提供しないとは言ってなく、購入できないと回答している。この事例の場合も「資料収集方針」「資料選定規準」により選書委員会議で購入・非購入が決められています。
 問題のひとつに、利用者はリクエスト即ち蔵書としての購入を希望しており、県立図書館は購入以外の資料提供を考えているというすれ違いがあります。もうひとつは、「選定規準」の「著しく公序良俗に反する恐れのある資料」の項に基づいた非購入の決定です。利用者が「これからも同様の選書問題が起こる」と危惧するところです。

■13■
二〇〇一年一月十一日

●『ず・ぼん』編集部・佐藤が書いた岐阜県図書館への原稿依頼文

岐阜県図書館長
赤尾健二 様
■原稿執筆のお願い
はじめまして。
私は、『ず・ぼん』という図書館向けの書籍の編集をしている佐藤と申します。

現在、『ず・ぼん7号』(2月発行予定)の制作を進めております。この『ず・ぼん7号』の中で、貴図書館の利用者である浅野俊雄さんと貴図書館の間で起こった、図書購入希望をめぐる出来事を掲載しようと考えています。
つきましては、当事者である貴図書館にもぜひ原稿を書いていただきたく、このたびお手紙をお送りした次第です。
少し長くなりますが、『ず・ぼん』で取りあげようと決めるまでの経緯を簡単に説明します。
この一件を知ったのは、昨年のことです。浅野さんご自身からポット出版に電話があり、「こういうことが起こったのだが、ず・ぼんの編集者の意見を聞かせてもらいたい」ということでした。ず・ぼん編集委員のひとりが「個人の意見」として、電話で話しました。
当時、『ず・ぼん6号』を制作中だったこともあり、編集委員でこの問題を『ず・ぼん』で取りあげるかどうか相談しましたが(浅野さんから、そうした希望が出されたわけではありません)、取りあげるのはやめようという結論を出しました。理由は、貴図書館の対応はまずいと思うが、浅野さんも「ちょっと困った利用者」である可能性もある。もっと情報を得るためには、直接、浅野さんや貴図書館の方々にもお会いして話しを聞く必要がありますが、そこまでの労力をかけて取りあげようと考える編集メンバーがいなかったためです。
浅野さんが自由に関する調査委員会(以下、自由の委員会)に連絡をして、自由の委員会が貴図書館と浅野さんに話しを聞きに行った、ということは、図書館関係の知人から聞き知っていました。

また、別の知人から、自由の委員会が浅野さんに送った「回答書」のコピーが送られてきました。
そして今年の夏に、浅野さんからず・ぼん編集メンバーに連絡がありました。自由の委員会が浅野さんに出された回答書の内容に納得のいかない点がある。それに対して、どのように考えますか?という主旨の電話でした。
私たち編集メンバーにとっては、ずいぶん前の出来事なので、記憶も薄れていたため、もう一度手持ちの文書類を読み直してみました。
その結果、この一連の出来事は、公共図書館の資料購入について非常に重要なテーマを含んでいる問題だと思い、現在制作中の『ず・ぼん7号』で、この問題を取りあげようという結論になりました。
掲載のスタイルとしては、まず、浅野さんがず・ぼん編集部や自由の委員会、その他の人に出した手紙・文書類を掲載しようと考えています。
あわせて、貴図書館の原稿と自由の委員会の原稿(貴図書館と同様に今回原稿依頼をしています)を掲載したいと考えています。

お忙しいと存じますが、浅野さんだけの見解に止まらない視点が必要だと思っています。ぜひご検討ください。
以下に、私が疑問に感じていること、わからないことなどをまとめました。もしご執筆いただけるなら、ぜひこれらの点を盛り込んで書いていただきたいと存じます。
(1)今回の出来事の経緯と総括。
(2)貴図書館は自由の委員会の報告書の受け取りを拒否したと聞きました。それは本当ですか? 本当であれば、受け取りを拒否された理由を教えてください。
(3)1999年の滋賀県で開催された図書館大会の自由の委員会分科会で、今回の問題が事例発表されるとプログラムに印刷されていましたが、発表されませんでした。その理由は、2001年の岐阜県開催に配慮したと、聞きました。この件について、貴図書館が知っていることがありましたら、教えてください。
長々と書きました。

以下に原稿料の目安を書きました。薄謝で恐縮ですが、あわせてご検討ください。
この手紙が届く頃に、こちらからお電話します。その際に、ご返事をいただければ幸いです。
■原稿料の目安
「ず・ぼん」の原稿料は、印税計算です。
定価×部数×0.1÷総ページ数×執筆ページ数=印税額
6号は、以下の数字でした。

1800円×2900部×0.1÷160ページ=3263円(1ページあたりの原稿料)
1ページの文字量は、1800〜2000字です。
〈連絡先、省略〉

■14■
二〇〇一年一月十一日
●『ず・ぼん』編集部・佐藤が書いた図書館の自由に関する調査委員会への原稿依頼文

社団法人 日本図書館協会
図書館の自由に関する調査委員会
委員長 三苫 正勝 様
■原稿執筆のお願い
はじめまして。
私は、『ず・ぼん』という図書館向けの書籍の編集をしている佐藤と申します。

現在、『ず・ぼん7号』(2月発行予定)の制作を進めております。この『ず・ぼん7号』の中で、岐阜県図書館の利用者である浅野俊雄さんと岐阜県図書館の間で起こった、図書購入希望をめぐる出来事を掲載しようと考えています。
つきましては、この問題を調査された三苫様にぜひ原稿を書いていただきたく、このたびお手紙をお送りした次第です。
少し長くなりますが、『ず・ぼん』で取りあげようと決めるまでの経緯を簡単に説明します。
この一件を知ったのは、昨年のことです。浅野さんご自身からポット出版に電話があり、「こういうことが起こったのだが、ず・ぼんの編集者の意見を聞かせてもらいたい」ということでした。ず・ぼん編集委員のひとりが「個人の意見」として、電話で話しました。
当時、『ず・ぼん6号』を制作中だったこともあり、編集委員でこの問題を『ず・ぼん』で取りあげるかどうか相談しましたが(浅野さんから、そうした希望が出されたわけではありません)、取りあげるのはやめようという結論を出しました。理由は、岐阜県図書館の対応はお粗末なものだが、浅野さんも「ちょっと困った利用者」である可能性もある。もっと情報を得るためには、直接、浅野さんや岐阜県図書館の職員にもお会いして話しを聞く必要がありますが、そこまでの労力をかけて取りあげようと考える編集メンバーがいなかったためです。
浅野さんが貴委員会に連絡をして、自由に関する調査委員会が岐阜県図書館・浅野さんに話しを聞きに行った、ということは、図書館関係の知人から聞き知っていました。

また、別の知人から、貴委員会が浅野さんに送った「回答書」のコピーが送られてきました。
そして今年の夏に、浅野さんからず・ぼん編集メンバーに連絡がありました。貴委員会が浅野さんに出された回答書の内容に納得のいかない点がある。それに対して、どのように考えますか?という主旨の電話でした。
私たち編集メンバーにとっては、ずいぶん前の出来事なので、記憶も薄れていたため、もう一度手持ちの文書類を読み直してみました。
その結果、現在制作中の『ず・ぼん7号』で、この問題を取りあげようという結論になりました。それは、以下の理由からです。
(1)貴委員会の回答書を読む限りでは、岐阜県図書館は予想以上にお粗末な体質だった。
(2)利用者のリクエストを巡る今回の問題は決して人ごとではなく、公共図書館で働く人間にとって、まじめに考えてみる必要のある問題だ。

(3)貴委員会の回答書の内容で、疑問に思うところがある。
(4)岐阜県図書館が貴委員会の報告書の受け取りを拒否した、と聞いたが事実を確認したい。
(5)滋賀県での図書館大会で、この事例が発表される予定だったが、2001年の岐阜県開催に配慮して、発表を取りやめた、と聞いたが事実を確認したい。
掲載のスタイルとしては、まず、浅野さんがず・ぼん編集部や貴委員会、その他の人に出した手紙・文書類を掲載しようと考えています。
あわせて、三苫様の原稿、岐阜県図書館の原稿を掲載したいと考えています。
お忙しいと存じますが、浅野さんだけの見解に止まらない視点が必要だと思っています。ぜひご検討ください。

以下に、私が疑問に感じていること、わからないことなどをまとめました。もしご執筆いただけるなら、ぜひこれらの点を盛り込んで書いていただきたいと存じます。
(1)浅野さんからの訴えから岐阜県図書館への調査、回答書・報告書を書かれるまでの経緯と総括。
(2)浅野さんへの貴委員会の報告書「4.自由委員会の考え方」の(4)に、[なぜなら「特定の資料」の購入要求は「自由宣言」第4の検閲に該当すると考えるからである。]と書かれていますが、利用者が特定の図書を購入してほしいと要求することが、検閲に該当するとの判断は無理があるのではないでしょうか?
(3)同じく報告書「4.自由委員会の考え方」の中の(3)で、[県内市町村立図書館からの資料要求には、「資料選定方針」にかかわらず必ず購入して提供する方針も表明していて]とあります。県内市町村立図書館からの資料要求に対しては、「資料選定方針」に沿わないものでも購入するのに、なぜ個人が直接岐阜県図書館に購入要求をすると、「資料選定方針」が非購入の理由として出てくるのでしょうか? 浅野さんが他の図書館を通してリクエストすれば、岐阜県図書館は、[「資料選定方針」にかかわらず必ず購入して提供する]ということにもなるわけです。これは、おかしなことではありませんか?
(4)浅野さんは、図書館が選書基準を根拠に、利用者の購入を断ることを問題にしているのではなく、その根拠を質問しても回答がなかなか得られなかったこと、催促のすえ、ようやく根拠として出された選書基準の内容に対する疑問(この点は、貴委員会も言及されていますが)です。
報告書「4.自由委員会の考え方」の(5)に[浅野氏の要求は、予約リクエストとは切り離して、資料収集方針および資料選定基準の問題として、図書館側に検討を要求することが妥当であろう。]とあります。浅野さんが仮にそのように要求して、岐阜県図書館が対応してくれればいいのですが、これまでの岐阜県図書館の対応を見ると、そうした要求に応えてくれるとは思えません。図書館側に対応する態度がない場合、利用者が次に取る手段としてはどんな方法がよいと思われますか?

(5)貴委員会の報告書を岐阜県図書館は受け取りを拒否したと聞きました。それは本当ですか?本当であれば、このことをどのようにお考えですか?
(6)2001年の図書館大会岐阜県開催に配慮して、1999年の滋賀県大会での事例発表を取りやめたと聞きましたが、本当ですか? 本当であれば、自由の委員会としては、開催県がどこであろうときっちりと発表すべきだったのではないでしょうか。もし、岐阜県への配慮ではない理由であるなら、それを教えていただけますか?
長々と書きました。
この出来事は、公共図書館の資料購入の考え方において非常に重要なテーマを含んでいる問題だと思っています。どうか、ご検討ください。
なお、岐阜県図書館にも原稿依頼の手紙を出しています。
以下に原稿料の目安を書きました。薄謝で恐縮ですが、あわせてご検討ください。

この手紙がお手元に届く頃に、こちらからお電話します。その際に、ご返事をいただければ幸いです。
■原稿料の目安
〈省略、岐阜県図書館への提示と同様〉
〈連絡先、省略〉

■15■
二〇〇一年一月十二日

●岐阜県図書館の資料課長からメールが来た

岐阜県図書館の資料課長からメールで、原稿依頼の手紙を受け取ったと返事が来た。私が書いた手紙の内容には、かなり偏った情報が流れているということと、資料購入というテーマについては、ぜひとも協力したいと考えているが、一度、詳細について聞きたいので連絡をほしい、という内容だった。
 数日後、資料課長に電話をかけた。依頼文に書いた内容をもう一度説明し、ぜひ原稿を書いていただきたいとお願いしたが、その件については、利用者のプライバシーに関わることなので、浅野さんとのことについては、図書館としては書けないということだった。私は、すでに浅野さんの手紙を掲載することが決まっていて、そこには購入希望を出した本のタイトルも、経過も書かれているし、岐阜県図書館側に原稿を書いてもらうことを浅野さん自身も望んでいることを伝えたが、それでもやはりできないのと返答だった。浅野さんのことを離れての資料購入についての原稿であれば引き受けられるとのことだったが、今回はそれでは意味がないのであきらめることにした。
 その上で、二つ質問した。まず、一つ目は、滋賀県での図書館大会での事例発表を岐阜県図書館が日本図書館協会に圧力をかけてやめさせたという話を聞いたが本当なのか。答えはノー。事例として発表されるのは構わなかったのだが、日本図書館協会の物事の進め方にクレームをつけた、とのこと。どういうことかというと、日本図書館協会の内部で、第九分科会の事例として岐阜県図書館の件を発表するという話が出たときに、誰かがそのことを岐阜県図書館は知っているのかと聞いたところ、「了解を得ている」と誰かが答えたそうだ。後日、日本図書館協会の人が別件で岐阜県図書館に連絡をした際に、事例発表の話が出た。岐阜県図書館は、了解を出すどころかそんな話を聞いていなかったので、クレームをつけたということだそうだ。
 二つ目は、自由の委員会からの回答書を送り返したという話について。これについては、送り返すも何も、そもそも自由の委員会からそういった類の文書は送られてきていないそうだ。この話を聞いたときは、浅野さんによる情報とあまりにも違うので、「どういうことなの?」と不可解に思ったが、日本図書館協会に「報告とまとめ」の使用を断られたときの説明で合点がいった。岐阜県図書館は、日本図書館協会から「報告とまとめ」を一度は受け取ったのだ。でも、それを返した。そして日本図書館協会はそれを書き直して送り直すことはせず、「撤回」だけした。だから、岐阜県図書館の人は「報告とまとめ」という文書は送られてきていない、と言ったのだろう。

■16■

二〇〇一年一月二十六日
●自由委員会委員長の三苫さんから返事が来た<

三苫さんから、封書で断りの手紙がきた。理由は、浅野さんと岐阜県図書館の間の件については、浅野さんへの説明などで意をつくした、とのこと。納得していない浅野さんには、図書館問題研究会(調査に加わっていたそうだ)から、『みんなの図書館』に意見を書くように勧めたけれど、書いてもらえなかったそうだ。
 一住民である浅野さんの購入要求に対して「検閲」という言葉で決めつけたことについては、礼を欠いたが、基本的には同じだと考えているそうだ。
 また、岐阜県図書館の事例発表への圧力や、回答書の返却については、何も書かれていなかった。