2011-10-31

ゲバラ主義者で郵便配達員の新党党首・オリヴィエ=ブザンスノ

ヨットパーカ姿の男が、経済危機対策を求めるデモの人波からすっと離れた。たちまちメディアが群がり、支持者の人垣ができる。男はちょっと戸惑った表情を見せた後、滑らかに語り始めた。「われわれは皆、壁に直面している。抗議行動の激化は理解できる」

 オリビエ・ブザンスノ氏(34)。フランスの極左政党「反資本主義新党」(NPA)スポークスマン。「サルコジ大統領のライバル政治家」を尋ねた二月の世論調査で、左派政党党首らを抑えトップに躍り出た。失業者が続出する暗い世相の中、反資本主義の旗印にじわりと支持が広がる。フランスで今、最も注目を集める若手政治家だ。
 ブザンスノ氏は「大政党は資本主義の道徳的運営が解決策だと主張する。だが、結局は少数の株主を救うために公的資金が使われ、解雇が横行する。逆のことを実行すべきだ」と強調する。

 「富の分配を徹底的に見直さなければならない。賃金や年金を引き上げ、富裕層と企業に重税を課す累進課税を復活させることが必要だ」

 二月、それまでスポークスマンを務めていた極左組織「革命的共産主義者同盟」をNPAに改組した。知識人らの集まりにすぎなかった組織を、より開かれた政党に脱皮させ、党員も二千五百人から九千人に急増した。

 「遺伝子組み換え作物への反対運動や不法移民の支援運動、エコロジー、同性愛者の権利擁護など市民運動の現場で活動を続けてきたことが、彼の強みだ。単なるマルクス主義者の枠を超えている」とパリ政治学院のバンサン・ティベリ研究員は指摘する。

 一九八九年、ベルリンの壁が崩れ東西冷戦が終結したとき、ブザンスノ氏は十四歳。「政治に目覚め始めたころだ」と振り返る。

 人種差別反対運動に飛び込んだブザンスノ氏にとって、ソ連崩壊は社会主義や共産主義の失墜というより、抑圧体制国家の最期と映った。

 「それより、私は資本主義者たちの言説の欺瞞性を確信していた。『資本主義の勝利、歴史の終わり』。二十年後、全部偽りだと証明された」

 今回の世界経済危機を通じて得られる教訓は「少数者が決定権を握ることの誤りだ」と言う。「資本主義体制では、膨大な資本を握る少数の者が富の行方を決める。ソ連や東欧圏でも官僚組織の頂点に立つ少数者が決定権を握っていた。われわれが、まだ試していない唯一のシステム、それは市井の多数派が自らの運命を決める社会だ。私自身が考える社会主義や共産主義の定義に近い」

 それは権力者と民衆という縦の関係ではなく、人々が横へ横へとつながるイメージだろうか。

 ブザンスノ氏の本業は、パリ郊外の富裕地区ヌイイシュルセーヌの郵便配達だ。くしくも、サルコジ大統領がかつて首長を務めた町でもある。デモの最中に握手を求めると、握り返してきた手はざらりと荒れていた。汗を流して、現場で働く者の手だった。(軍司泰史共同通信記者)