2005-04-04

◆ パリ警察はなぜ高校生を狙うのか?

_12_0144.jpg

いつものように、その日もプラット・ホームで電車を待っていた。

3月31日、夜9 :30過ぎ、私はレ・アール(Les Halles)駅の郊外電車B線を待っていた。発/到着を映し出すスクリーンを見ると、9 :35に電車は到着するという。

男の警察官二人と女の警察官一人がゆっくりと、歩いてくるのが見えた。日頃からテロに備えているのか、駅構内を歩く警察官の姿をよく目にする。彼らは電車を待つ人々が座っている椅子の前で立ち止まった。そこには、高校生と思しき男の子と、恋人か女友達なのだろうか、大人しそうな女の子が隣に座って、おしゃべりをしていた。

警察官は男の子に向かって、何かいった。
「立て」だか、「来い」とでもいったのだろう。

男子高校生は立ち、近くの壁に向かって両手をつけされられた。心配そうに見守る女の子のほうを振り向き、脱力した感じの目で見つめて、軽く首を横に振った。「大丈夫だよ」と合図しているように見えた。

警察官の一人が、彼の持ち物検査を始めた。

空港のボディー・チェックのように、ポケットの中にあるものを全部出させ、上半身から下半身まで、両手で触っていく。男の子はずっとだまり、始終、大人しくしていた。別の警官は彼がもっていた鞄の中を開け、中身を調べている。

そのとき、電車が来た。わたしは乗り込み、彼らを再び見た。
男の子が警察官に、身分証明書らしき小さな紙をさしだし、警察官がそれを眺めていた。パリに来てから、何度も見てきた光景が、今日もまた繰り返された。

パリの警官が複数で高校生ぐらいの年頃の男を捕まえ取り囲み、持ち物検査をする光景を、何度も見かけた。いや、高校生だけではない。黒人や中東系の人間もしばし、捕まっているところを見かける。いったい、彼らを突然、取り押さえる理由があるのだろうかと、その都度、疑問に思ってきた。彼らはただ、駅にいるだけであり、駅の中を歩いているだけのようにしか、私には見えなかった。

翌日の新聞で知ったことだが、フランスでは各地域の警察官1300人が毎日、地下鉄、バス、電車をパトロールしているという(日刊『Metro』05年4月1日号)。駅にして1200ヶ所、車両にして1300車両を毎日、見回るという。

そして、高校生が警察官に捕まったその日は、外務大臣時代にイラク戦争反対の名演説を国連でブチ揚げたことで名を馳せたドミニク・ド・ヴィルパン内務大臣、R.A.T.P.(パリ市交通公団)のトップ、アンヌ・マリー・イドラ(Anne-Marie Idrac)氏、パリ警察の警視総監、ピエール・ミュッツ(Pierre Mutz)氏が、パリ市内交通機関の安全を確認・視察するため、パリ郊外電車A線のオーベー(Auber)駅からリヨン駅まで電車に乗ったのだ。政府による治安強化をアピールするこのパフォーマンスと、警察官の横柄な態度は無関係ではなかろう。

フランス映画『L’Esquive』はラストのほうで、中学生が車の中でタバコを吸っているところを、警察官複数が捕まえる場面が出てくる。車中には喫煙する男子学生と、彼が恋する女子学生が乗っていた。

警察官は彼らを外に出すと、車体に体をつけさせ、持ち物検査を始める。遠くでその様子を見守っていた友人三人が近づくと、彼らも車に体を押さえつけられる。少し、反抗的な態度をとったら、そのあと、警察官による暴行が始まった。子どもたちは悲鳴を上げるが、警察官の暴行はつづく。

同映画はドキュメンタリーのようなフィクションである。しかしながら、日頃の警察官の横暴な態度を目の当たりにすると、きっと映画のシーンのようなことは、日頃、行われているのだろうなと思えてしまう。日本の警察官もけっして紳士的とはいえないが、パリの警察官には及ばないであろう。

フランスに死刑制度がないことは周知のことだが、死刑廃止以降に警察官が被疑者を殺すという事件が起きたこともある。

在仏歴20年以上のアメリカ人ジャーナリストは私にこういった。

「フランスの警察官は、市民のために奉仕しているなんて考えは、これっぽっちもないですからね」