2011-05-21

お部屋2213/今いる場所で [追記あり]

穏やかな小名浜港の様子です。

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前回、「これから福島に行く」と書きましたが、深夜に東京を出て8時間程度いわき市に滞在して、夜帰ってきました。震災以降、福島取材はこれで2回目です。私に原稿依頼をする商業誌はたいてい、エロネタかバカネタで、前回の取材はエロネタ、今回はバカネタです。

「黒子の部屋」だけを読んでいる方の中には誤解しているムキもあろうかと思いますが、エロとバカ以外で原稿を頼まれることがまずないライターです。誤解をしている方を裏切るのは忍びないので、内容は書かないでおきます。次号の「実話ナックルズ」をお読みください。

「ナックルズ」では細かく触れないと思いますが、今回は線量計をもっていって、いわき市の数値を計りました。結果は、新宿区と同じくらい、あるいはいわき市の方が低いくらいでした(新宿は高層ビル街の数値が高いとも言われますが、そこは測ってないです)。0.1マイクロシーベルト/hか、それ以下です。建物の脇が高いとか、道路の脇が高いとか言われますが、それもほとんど変わらず。0.08が0.09になったりするくらい。

東京のホットスポットと言われる葛飾区などでは、0.2から0.4マイクロシーベルト/h程度の数値が出ているので、いわき市より線量がずっと高いです。「東京より福島は危険」なんておおざっぱな行政区分で語ることはもうできない。

0.2マイクロシーベルト/hとなると、バックグラウンドの数値を除いて、一般の人の許容限度量である年間1ミリシーベルトを超えます。ずっと外にいるわけでもないので、大人は気にする必要はないですが、妊婦や子どもは気にするに越したことはない。都内でもそういう場所がある。

以下を見ると、5月15日にいわき市で行われた脱原発のデモでは、マスクをしている人が多いことがわかります。

これは主催がマスクを配布していたためでもあるようですが、中年、老年を除くと、半数以上がマスクをしているかも。いわき市全体がこうではないですが、普段でも、チラホラとマスクをしている人を見かけます。

同じ程度に汚染されている新宿区や渋谷区ではこうもマスクはしていない。もっと汚染されている都内の場所でも同様。

福島県内でも汚染度は全然違っていて、東京の人間が、地域も確認せず、福島県に住んでいるってだけで、「大丈夫なのか」と心配したり、「逃げた方がいい」なんて勧めるのは滑稽です。自分の住んでいる場所の方が汚染されている可能性だって十分あるわけで。

マスクに象徴されるように、いわき市と東京では、住民の意識が違います。

19日に、三鷹市の母親の母乳からセシウムが検出されたニュースが流れていました。この団体の前回の発表では福島県の母親からは検出されず、千葉県柏市の母親から検出されています。サンプル数が少ないのでなんとも言えないですが、チェルノブイリでもそういう傾向があって、遠く離れるほど気を使わなくなるためだと思われます

つまり、内部被曝は個人の意識によって大きく違ってくる。外出を避ける、外出する時はマスクをする、食べ物を選ぶといった方法によって内部被曝を少なくすることが可能です。そういった数字もどんどん明らかになってきてますが、黙って生活している分には、外部被曝より内部被曝の方がはるかに大きい。

場所の危険度は線量だけで推し量られるのではなく、そこの住民がどれだけ危険を意識できているのかも重要。内部被曝については、むしろそちらの方が重要です。住民が原発のことを気にしていない東京に住むより、原発の存在を忘れることができないいわき市の方が安全のように私には思えますし、ここなら東京よりもマスクをしやすく、仲間も見いだしやすく、情報交換は比較的容易でしょう。

もちろん、今なお放射性物質は漏れ続けていますから、一般に遠くであればあるほどいいとは言えますし、季節によって風向きが変化しますから、いわき市の線量が今後も新宿と同程度で収まるのかはわからないですが、風の道はそう多くはないはずで、引き続き東京の高い数値の場所が汚染され続ける可能性もあります。

避難や疎開ができる人たちはした方がいい場合もある一方、できないからと言って悲観する必要はないってことです。むしろその場に居続けながら、どう闘うかの方が重要だと私は思っています。皆が皆逃げたら、福島はもちろん、東京だって終わってしまいますので。だから、いわき市でデモがあったことには大きな意味がある。

私は事故が起きて間もない段階から、避難する人を叩く風潮に抵抗をして、逃げられる人は逃げるべしと言ってきました。その考えは今も変わらないですが、とっとと自分は逃げて、逃げない人を愚弄するような発言を続けているきっこのような人間はサイテーだと思っています。あんな無責任な人間の言うことに耳を傾ける必要はないです。

対して、地元に居続けて活動を続ける「子どもたちを放射能から守る 福島ネットワーク」の人たちこそが手本になります。彼らがいたから、校庭の20ミリシーベルト問題がクローズアップされ、この問題が広く知られるようになりました。彼らの行動は現状を変えつつある。

23日には、「子どもたちを放射能から守る 福島ネットワーク」は文科省に乗り込みます。行ける人は文科省前へ。いつものようにUstの中継がなされましょうから、行けない人はUstで応援しましょう。私はいっつも彼らをUstで観ているので、もう他人のような気がしないです。

「どこにどう避難すべきか」「どこにどう疎開させるか」を何より優先しなければならない人たちもいるわけですが、それよりも、「今いる場所でこの事態にどう向かい合うか」を考えなければならない人たちもいる。その手本になっているのが「子どもたちを放射能から守る 福島ネットワーク」です。

行政に求められるのは、正しい情報を出すことです。それをやらないから、不信感が高まり、行政の言うことを信用しなくなり、無闇に避難しようとする人たちも出てくる。

数字を見る限り、牛乳に危険はないように思えるのですが、きっこのように「牛乳を飲むな」と言う人たちの意見が浸透してしまう。牧草で育てているわけじゃないですから(注)、チェルノブイリの時のようなひどい汚染は起きない可能性が高いわけですけど、私だって、行政による検査結果を信じられるかと言えば信じられない。インチキしているのではないかと思えて、「安全だから飲んでいい」とは断言できないです。

福島であっても東京であっても、あるいはそれ以外の場所であっても、住んでいる場所で、行政に対して、正しい情報の開示や測定をすることを求めるべきです。信頼を取り戻すためにも、行政はそれに応えるべきです。

福島県内の線量がどうなっているのか、あるいは自分の住んでいる場所の線量がどうなっているのかについても、行政の発表は十分ではなく、ここここで確かめて、その場所で何ができるのかを考えていきたいものです。
 
 
注:正しくは「牧草で育てられているウシもいるが、今現在は、汚染された地域の牧草を食べされることが禁じられている」です。

追記:どう読んでいただくのも自由ですけど、私としては「東京は安全、福島は危険」といったように、大雑把なくくりで地域を語るのは無理であり、福島であっても数値はさまざま、東京もまた同じなのだから、それぞれの数値を自分で確認して判断するしかないという趣旨でこれを書いています。したがって、「東京は危険」「福島は安全」と言いたいわけでもなく、事実、そんなことは言えるわけがないんですけど、現実に「東京も危険なのか」と思った人がいて、そういう大雑把なくくり方自体を批判したつもりです。東京だって数字はいろいろであって、0.2マイクロシーベルト/hを超えるのは東京の東側だけです。リンク先の数字をちゃんと確認しましょう。
また、空間線量が0.2マイクロシーベルト/hだからって危険とは必ずしも言えず、文中にあるように内部被曝の方がはるかに重大なのですから、九州に住んでいる人だって何を食うのかによって危険になり得るって話。それを母乳の調査が物語っていて、空間線量を見て一喜一憂するのもどうかと思ったりします。