2009-06-12

お部屋1874/部数と印税 8・ネット時代の本の買い方【追記あり】

どうしてもとは言いませんが、読んでない方は先に以下に目を通してください。

「1864/部数と印税 1・印税さまざま」
「1865/部数と印税 2・刷部数と実売」
「1866/部数と印税 3・下がる印税率」
「1868/部数と印税 4・上製にする理由」
「1870/部数と印税 5・本のみてくれ」
「1871/部数と印税 6・部数と定価」
「1872/部数と印税 7・上製の経費とアマゾンの順位」
 
 
思いのほか、「部数と印税」シリーズが長くなってしまってます。あと1週間程度で、『エロスの原風景』は店頭に出るため、そこまで続けてしまおうかとも思ったのですが、昨日になって、ポットから発売延期を知らされました。箱にミスがあって、刷り直すことになったそうです。ガックリざんす。

発売は6月27日前後になり、そこまで続けるわけにもいかないので、今回でいったんこのシリーズはストップします。

さて、「1872/部数と印税 7・上製の経費とアマゾンの順位」のコメント欄に、ポット出版の沢辺さんが面白い数字を出してくれました。

秘密主義のアマゾンは数字を一切公開していないため、あくまで概数ですが、出版物の総売上に占める紀伊国屋のシェアは5%、ジュンク堂は3%、アマゾンは2%と言われているそうです(数字が古いのではないかと思わないではない)。

紀伊国屋全店の5%という数字は、しばしば出版物の売り上げを概算する基準にされます。正確に本の売れ部数が出るまでには時間がかかり、その前にザックリとした数字を知ろうとする場合は、紀伊国屋の数字を20倍すればいいわけです。当然誤差は生じるのですが、メドにはなります。

対して、ポット出版では、紀伊国屋が10%、ジュンク堂は13%、アマゾンは20%なんだそうです。たったの3社で本の半分近くを売っています。

出版物全体とは数字が全然違っていて、ポット出版の場合は、紀伊国屋の数字を10倍にすればいい。たしかに紀伊国屋の数字を20倍すると、数字が大きくなりすぎます。「この本はすぐに品切れだぞ」とぬか喜びをしたことが何度かあります。以前、どこかに、自分の実感として「文庫は5%、単行本は7%から8パーセント」といったことを書いたこともあったのですが、10%に達しているのですか。

ポット出版のものに限らず、部数が少ない本は、少数の大型書店に集中します。小さな書店に回らないのですから、当然ですね。

ジュンク堂の方が紀伊国屋より強いのは、客層の違い、取り扱い書籍の傾向の違いかとも思うのですが、よくはわかりません。中を吟味してくれた方が無名の出版社、無名の著者は有利ですので、本をジックリと読めるような環境になっていることもちいとは関係しているかもしれないですが、こうも数字には出ないでしょう。

なにより、ここで注目すべきはアマゾンです。数年前にアマゾンの売り上げは紀伊国屋本店の売り上げを超えたと言われ、今では紀伊国屋全店を超えていると私は思っていたのですが、まだそこまでは至っていないらしい。

しかし、ポット出版では、とっくにアマゾンが紀伊国屋を大きく超えている。大阪屋や日販から、どのくらいアマゾンに流れているのかわからないので、この数字自体、確かなものではないのですが、すでにアマゾンが20%に達しているかもしれないことには驚きました。

なぜこうなるかと言えば、やはりポット出版の本は全国の書店に回らないからです。近くの書店になければネットで購入するしかない。書店からの取り寄せは時間がかかるのに対して、ネット書店は1日か2日で届く。出版社から取り寄せしなければならない本でも、書店に注文するより早い。返本ができないため、客注を嫌がる書店もありますしね。

今まで使っていた駅前の書店が潰れて、ネット書店を利用するしかなくなったということもありましょうが、ポット出版の本に関して言えば、そういった小さな書店には入荷してなかったのですから、ほとんど関係がない。

ネット書店の率が高いのは、ポット出版が出している本の特性にも関係しているはずですが、説明すると長くなるので省略。

では、ネット書店が登場するまで、その2割に該当する客たちは、欲しいのに買えないでいたのでしょうか。そういう人も少しはいつつ、それ以上に、ネット書店によって生み出された需要によって20%もの数字になっていると私は思っています。

大手出版社であれば、新聞広告を出し、自社の雑誌にも広告を出します。自社の雑誌の書評にも取り上げられ、著者インタビューが掲載され、時には記事扱いになります。ラジオやテレビに出ている著者であれば、自分で宣伝もします。知るべき人は黙っていても情報は得られる。

対して小さな出版社は新聞広告を出せない。出せても小さい。自社で雑誌は出していない。金もなければ、人もいないですから、宣伝活動は書評用に本を送るだけでおしまい。

これでは知るべき人が知ることができない。書店に行っても本はない。存在を知る機会さえないのでは、注文を出すこともできない。

ところが、ネットの登場で、今まで知り得なかった本を知ることが容易になってきました。ネット書店で、自分の興味のあるテーマに関するワードを入れて検索すれば複数の本が出てきます。

この時に大事なことは、大手の本も中小の本も、3万部の本も3千部の本も、同じ扱いで並ぶことです(並ぶ順には売れ行きが影響しますが)。

あまり理解されてないのですが、「ぴあ」は、ハリウッドの大作も、8ミリの自主映画も同じ扱いでスケジュール表に並ぶことに意義があります。創刊スタッフの一人が言っていたことですが、「ぴあ」の作り手はそれこそを狙っていました。

「個々の映画に対する評価をせず、漫然と情報を並べている」とマイナスにしか評価しなかった人たちもいたのですが、作品に対する評価を加味して扱いに差をつけると、宣伝力のある作品が大きな扱いになって、宣伝力のない作品は掲載さえされなくなるのが常です。話題になるものは連鎖的に紹介されて、いよいよ話題になる。現に映画でも本でもCDでもそうなっています。

メディアが作品の是非を判断することなく、読者に委ねることによってこそ、金のない作品、無名の作品にチャンスが巡ってくる。

それと同じことがネット書店でやっと出版物でも実現しました。近所の書店ではなく、「ネットで探す」「ネットで買う」という人たちが増えれば増えるほど、あらゆる本に機会が訪れます。

では、どの中小出版社でも同じことになっているのかと言えば、そうではない。もしそんなことになっていたら、とっくに紀伊国屋全店の売り上げを超えているはずですから。

ポット出版はこういう時代に対応して、ネット利用者をアマゾンに誘導する作業をやっています。このシリーズ自体そうであるように、私もやっています。漫然と構えていて本が売れるはずがないです。

このシリーズは、『エロスの原風景』の発売間近に復活予定です。それまではアホな左翼やアホや右翼、中村克や唐沢俊一の話の続きをやろうと思ってますが、締切に追われているので、飛び飛びになりそうです。

追記:すでに版元は自社のデータをアマゾンから得られるようになっていました。そのため、20%という数字はかなり確度の高いものです。よって、該当部分を削除しました。このデータは「デタおた」にはたまらないです。気が向いたらまた詳しく書くとします。

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