2005-12-18

お部屋1097/先週のつまらなかった原稿26

11月あたりからオツムの具合が少々悪くなりまして、「マツワル」の配信本数も文字数も減らしてました。減らしたと言っても、一日一本平均では配信してましたけど。

ポット出版経由の仕事で沖縄旅行に行ったことで、かなり安定はしたのですけど、まだ完全復調にまでは至ってません。

このところ、「マツワル」では、その沖縄の話をずっと書いてます。たった4泊5日だったのに、どうしてこうも沖縄について書くことがあるのか不思議です。精神的に弱っているがために気持ちが沖縄に向かうのかなんてことも考えたりします。これもすでに配信したことですが、「怠け者と精神が弱っている人は南に向かう」という説もあります。

そのためもあって、しばらく更新を忘れてましたが、「『マツワル』を購読する気はないが、『黒子の部屋』は読んでいる」という方々もいらっしゃることなので、たまには更新しておかなくちゃね。

この「脳内汚物」で取りあげた「週刊文春」の記事を読むと、今の時代の「大人」たちはみんなバカになってきていると確信できます。それはゲームのせいではなく、ネットのせいでもなく(それらも関与している可能性は否定しませんけど)、考えなくても生きていけるこの社会全体のありようと関わっているのだと思えます。

そのことをこれっぽっちも考えようともしないで、ゲームに責任を押しつける安直極まりない発想をして安心できてしまう程度のチープな精神科医が存在し、それを出して金儲けを狙うチープな出版社が存在し、そんなものを買って納得するチープな消費者が存在すること自体が、私の主張のはっきりとした証拠でしょう。

以下は、冒頭についている購読者向けのコメントを省略した本文のみです。

< <<<<<<<<<マッツ・ザ・ワールド 第459号>>>>>>>>>>

< 脳内汚物>

「週刊文春」12月8日号を読んでいたら、「広島あいりちゃん事件 殺人犯が現場に残した『XI』のメッセージ」という記事が出ていました。容疑者が捕まってない段階のもので、ガムテープの貼り方が「X・I」になっていたそうで、これは「少年ジャンプ」に連載している漫画に出てくる「X・I」という強盗殺人犯に影響されたものではないかと書いてありました。

この号は沖縄から帰ってきてから読んだため、なおのことこの記事のひどさが目立ちました。犯人はオタクという思いこみが如実に出てますな。メッセージを残すなら、もっとわかりやすくやると思うぞ。これを書いた記者は漫画の読み過ぎちゃうか。

その2週あとの12月22日号では「TVゲーム・ビデオが蝕む『脳内汚染』の恐怖」という記事が出てました。文藝春秋から出た岡田尊司著『脳内汚染』という本の宣伝をかねた内容紹介の記事です。バカ丸出しの「ゲーム脳」を凝りもせずに繰り返して商売しようという悪質な本であることは一目瞭然。

この岡田尊司という人物は「京都医療少年院に勤務する精神科医」とのこと。何があってもここには入りたくない。入れないけどさ。

とてもじゃないが、『脳内汚染』を読む気になれないので、この記事の範囲で、これを批判しておきましょう。無署名なので、筆者は「記者」ということにしておきます。

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 世界的権威の科学誌「ネイチャー」は、一九九九年、テレビゲームが人間の脳に与える変化についての論文を掲載した。イギリスの研究者が、脳内における、快感や興奮に関係する神経伝達物質・ドーパミンンの放出量を測定したところ、テレビゲームで遊んでいる時、顕著に増加することがよかった。
 テレビゲームによるドーパミン放出量は、脱法ドラッグ「スピード」のような覚醒剤や、「リタリン」という中枢刺激薬を投与した時の増加量に匹敵すると、別の研究者は追認した。

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この記者は、なーんもわからず書いているのでは? 【脱法ドラッグ「スピード」のような覚醒剤】ってどういうこと? 脱法ドラッグ? スピードはシャブそのものですぜ。

権威を借りて中身のない記事にハクをつけようとしたのでしょうが、これを見る限り、「ネイチャー」掲載の論文は、テレビゲームによって、ドーパミンが増加するってことしか書いてないようですよ。

セックスをしたり、恋をしたり、スポーツをしたり、カラオケをしたり、タバコを吸ったりすればドーパミンが出るわけですが、それと同様のことが起き得るってことしか引用された文章からはわかりません。要するに「テレビゲームはそれらの行為と同様に気持ちがいい」ってことですね。

そりゃそうだべさ。ゲームをやっている自分の状態を考えれば、「ネイチャー」なんぞ読まなくてもドーパミンが出ていることくらい想像できるってもんです。当然思いつくその想像の裏を科学的にとったのがこの論文の内容ってことでしょう。

その程度のことも想像できなかった頭のチープなこの記者は、これに続いて、『脳内汚染』から、以下の文章を引用します。

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< 毎日長時間にわたってゲームをすることは、麻薬や覚醒剤などへの依存、ギャンブル依存と変わらない依存を生むのである>
< 若者たちが寝る間も惜しんで、何時間もゲームに夢中になる理由が、これで明らかになったのである。ゲームをやりだしたら止まらなくなり、やめようとすると大喧嘩や暴力沙汰にまでなってしまうのも、そのわけが納得できたのである>

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こりゃまた見事に無理矢理な展開。

スポーツがやめられない、酒がやめられない、タバコがやめられない、セックスがやめられない、恋がやめられない、テレビがやめられない、読書がやめられない、ギャンブルがやめられない、買い物がやめられない、仕事がやめられない人たちはいっぱいいますね。私も歌がやめられません。

考えごとをしていると、気持ちがよくなってやめられないことがありますが、あの時もドーパミンが出ているのだと思われます。私がよく言う「マゾ汁」というのもドーパミンです。ドーパミンは辛い時も出るわけです。ランナーズハイもマゾ汁が出た状態ですから、これを私はスポーツマゾと呼んでいるわけです。

それらと同じで、ドーパミンが出ていれば、ゲームに依存する状態になることは当然ありましょう。だから、そんなもんは「ネイチャー」を読まなくてもわかろうて。

この記事によると、日本のゲーム利用者は、2004年で2723万人、人口の2割強だとのこと。そんだけいれば、中にはおかしいのがいますってばさ。自分で数字を書いているんだから、そのくらいわかれよ。

これ以上、引用するのもアホくさいのですが、この記事は「では、ゲームをやることによって生起する脳の状態が、子どもがテレビを見ている時、子どもがスポーツをしている時、子どもが読書をしている時、子どもが思索している時、子どもが恋をしている時、子どもがセンズリこいている時、子どもが亀甲縛りをされてムチで叩かれている時、子どもが酒を飲んでクダまいている時などと比較してどう違うのか」についてまったく何も書かれておりません。

このことを書かない限り、テレビゲームをすることが特別にそれらの行為に比して危険だということは一切言えないでしょうが。それとも子どものスポーツやテレビ、思索、恋愛、読者、センズリなど、ドーパミンが出そうなものをすべて否定するつもりか。

にもかかわらず、あたかもテレビゲームやインターネットをやると、ことさらに「メディア依存症」になって【反省しない、キレやすい、無感情】になるかのようなことを岡田氏は言い、記者も【人を奴隷にし、理性さえ奪うのだ】と断じています。

この人たちの脳内には汚物でも詰まっているんじゃなかろうか。ついでに、「XIのメッセージ」なんて理性のない記事を大々的に書いておいて反省しているそぶりのない「週刊文春」編集部もゲームのやりすぎかもよ。

暇で暇でしょうがなく、金が余って余ってしょうがない人がいたら、読んでおいて欲しいのですが、おそらく『脳内汚染』もこの調子の杜撰な話満載の駄本でしょう。

この岡田氏は、遂にはメディア規制までを呼びかけています。

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 そして、岡田氏は「今すぐ対策を」と訴える。
「メディア依存症は、脳に仕掛けられた時限爆弾と同じです。大切な子どもを、凶悪犯罪や性犯罪、不登校や引きこもり、虐待や家庭内暴力、自殺や自傷に陥る危険から守らなくてはなりません。国は未成年者及び学生に対して、有害で嗜癖性の高いコンテンツを含むゲーム、ビデオ、サイトなどの利用を禁じる法制度を確立し、メディア依存症の指導やケアを行なえる体制を整える必要があります」

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この人、どうかしてます。今私が一番心配なのは、京都医療少年院に入っている子どもたちです。こんな精神科医にかかったら、論理的思考ができなくなってしまいましょう。今すぐ対策を。

私は毎週「週刊文春」を読んでいるわけですが、この習慣性はたぶんドーパミンが出ているメディア依存なんだと思うんですよ。私が反省せず、キレやすく、理性がないのは、「週刊文春」のせいだったみたいです、「ネイチャー」掲載の論文によると。子どもたちを「週刊文春」と岡田尊司から守れ!

< <<<<<<<<<マッツ・ザ・ワールド 第459号 mat@pot.co.jp>>>>>>>>>>

このエントリへの反応

  1. 「AERA」で斎藤孝がこのトンデモ本を大評価。

    斎藤孝も知的退廃化加速中ですねw

  2. コメント、ありがとうございます。斎藤孝は雑誌の文章しか読んだことないですけど、記憶に残るようなものは何もなくて、いかにも論理的思考力が弱そうに思います。今後誰が褒めるのか監視していましょう。

  3. 今日(1月14日)の毎日新聞の書評でこの本が大絶賛・・・。評者は鹿島茂という方で、検索してみると、「共立女子大学文芸学部教授であるフランス文学者」とのこと。で、この書評、初っ端からいきなり「書評のルール違反は覚悟の上で、本書が大ベストセラーになって一人でも多くの人に読まれることを強く願いたい」です。今の日本のネガティブな現象の「犯人が誰であるかをかなりの精度で突き止めたと信じるから」なんですって。
     書評の本論部分は子供の読書感想文と同じ「内容の写し」です。それによって「脳内汚染」がどういう主張をしている本かは、おおよそは掴めるのですが、鹿島氏が、この本が「精度が高い」と評した理由はさっぱり判りません。内容の論理性だとかデータ的な裏づけがどうだとか、そういう評価は全然してくれてないんですよね。
     でも、書評の締めくくりの部分は非常に素晴らしかったですよ? 
    「一時大騒ぎされたノストラダムスの大予言の解釈に地球崩壊は日本発だというのがあったが、アンゴルモアの大王というのがゲームだったとすれば、予言はまさに当たっていたことになる。子ども部屋からゲームやネットを取り除かない限り、亡国は必至である。」
     大笑いさせていただきました。単にゲームに偏見持ったオヤジかと思ったら、この人自身が本質的にかなりトンデモさんなんですね。

  4. http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060115ddm015070135000c.html
    鹿島茂のあまりにもイカれすぎた書評はこっちで見れます。完全にお花畑に旅立ってますね…

    http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/news/648/1134890029/59
    後、信州大の寺沢宏次という教授もほぼ好意的に書評。なんか深刻な状況だぞ、インテリ層の知能の下硫化が進行してるのではないか。

  5. セックスをすれば子孫ができる。
    恋をすれば人生の彩りだ。
    スポーツをすれば体が鍛えられる。
    読書は想像力を養う。
    カラオケは友達との交流に役立つだろう。
    じゃあゲームには、ドーパミン猿になっちまうという代償に見合うような、どれだけの有益な価値があるのか?

    何か役に立つなら、それでいいけど。
    役に立たないのにドーパミンのせいで止められないって程度の代物なら、ガキにやらせておくのは時間の無駄、そんな暇あるなら恋愛やスポーツや読書やせんずりしてろ。ゲームばかりやって育ったら生きるのもままならない大人になるぞ。

    という話だと思います。
    でも大事なのは、ゲームや何やらに本当に有益性は無いのか、それとも有害なのか、検証するところから始めることだと思います。できるのか知らねえけど。

    個人的には、特定ゲームを崇拝する引きこもりだのネトゲ廃人だのを何人か見た事があるので、全否定はできない気分です。

  6. それいったらゲームも友達との交流に十分役立つし
    想像力や創造力も十分養える

    また脳内活動を節約する訓練ができて思考力や記憶力が高まるという説や、空間認識能力を向上させるという米国の研究結果も。癒しになると主張する精神科医もいたっけな。

  7. 役に立たないから規制していいという発想はとても危険です。そんなことになったら、テレビ番組のほとんど、映画のほとんど、印刷物のほとんど、ネットのほとんどは規制されていいことになってしまいます。

    有害性の立証がなされて初めて規制することが検討されてよく、その段階に至って有益性とのバランスが考慮されるってことであり、有害性が立証されないうちに、有益性を提示する必要などないでしょう。

    有害性があると言いたい人は、ゲームであろうとネットであろうと、どしどし研究して発表すればいいのですが、説得力のある立証はなにひとつなされていないというのが現状じゃないでしょうか。

    皆さんも調べてみるとよろしいかと思いますが、テレビが登場するまで、大正時代から戦後まで、ずっと映画が「犯罪を助長する」として悪者にされてました。次はテレビになった。つまり、何かに責任を押しつけて事を済ませたい人たちがいるのですよ。

    引きこもりが増えているのは親のせいかもしれないし、教育のせいかもしれない。それを検討すると、自分の責任になってしまうかもしれない人たちや、込み入ったことは考えたくない人たち、考えられない人たちが、「ゲームのせい」「ネットのせい」という、わかりやすい論に飛びつくのでしょう。

  8. 逆にゲームなどが犯罪抑止的効果があるのではないか、と表明するサイトを紹介しときますね。
    http://kogoroy.tripod.com/hanzai.html

  9. 「TVゲーム批判キャンペーン」をやっていただろう痕跡が、宮台真司トークイベントから垣間見れます。

  10. すっごい返事が遅くなりました。すいません。

    「少年犯罪は急増しているか」
    http://kogoroy.tripod.com/hanzai.html
    はとてもよくまとまっていますね。

    少年犯罪、凶悪犯罪、性犯罪が激増しているようなことを言う人がいたら、今後このサイトを教えることにします。

  11. プログ版『えらいこっちゃ!』(35)
     「SOS SOS カシン カシン カシン」…と、ながいけん「スーパーエレビエン」に出てくる六平直政に似たハゲのようにマグマ大使の主題歌の一節を言いたくなる事態が発生し…

  12. すこし、冷静になれば、年相応の考えすべき、やや 批評が短絡してるよ
    セックスとちがって最近の若いもんはよく知らんが・・(?) 
    TVゲーム、ネットとかは小学生で簡単に入り込めるでしょ・・
    やっぱ子供をもつ親としては
    考えさせられるしょ
    ちなみに この著者は いろんな本書いているよ それと
    小笠原 慧というペンネームで小説書いて、 第20回横溝正史賞とか書いている
    俺は、その小説もなにも読んでないが 小説は 相当キワモノらしい OZ
    なんと 岡田はおれちの高校の同期だそうだ 
    やつは その高校(一応地元じゃ名門)で 1,2番の秀才だったよ 
    まあそれがどうしたんだ・・・の世界だけどね