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[第15章●その他よしなしごと]
16… マクデブルクの半球は青銅か銅か
[2005.07.31登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

シゴトで書いた文章の中に行きがかり上「マクデブルクの半球」について触れざるを得なくなった。本筋とは無縁の部分なんで、どうでもいいっちゃいいんだけど、えーっと、「マクデブルク」と書けばいいのかな、それとも「マグデブルク」だろうかと気になったんですね。

「マクデブルクの半球」ってのは、ま、金属製の中空のボールみたいなのを想像していただきたい。これをスイカみたいにふたつに割る。でもって中の空気を真空ポンプで抜く。そうすると二つの半球は糊でくっつけたわけでもないのに、大気圧に押されて馬でひっぱっても離れないという、とっても有名な実験だ。

で辞書を引いてみると広辞苑と平凡社世界大百科、小学館の日本大百科全書は「マくデブルク」、大辞林は「マぐデブルク」あれ、どっちやねんと悩んでしまったんだけど、Magdeburgという綴りからみて、「マク」でいいんじゃないかと勝手に推測した。だって最後のgを「ク」と読んでいる以上、最初の「Mag」も「マク」でしょうっていう理屈。ま、こんなもんどっちにしろカタカナにするという時点でぐちゃぐちゃなんだから、どうでもいいんである。辞書の多数決もないだろうけど、もし編集者につっこまれてもダイジョブだし。

それはそれで(ぼく的には)解決してしまったんだが、ここで辞書を引いたことで、また別の疑問を抱え込んでしまうことになった。それはこの半球が何でできているか、ということ。

ぼくはずっとこの半球は「青銅製」だと思っていた。ブロンズですね。なんでそういうふうに覚え込んでいたのかはまったくわからないんだけど、そう思っていたのだからしょうがない。おそらく高校の授業の時かなにかに、そう教えられたんじゃないかな。爾来数十年、ずっとそう思い込んできた(のだと思う)。

であるのに、調べた辞書はことごとく「銅製」と書いてある(ただし平凡社は「金属製」とのみ記載)。へえ、銅製だったんか、と驚いた。このことに限らず、間違って覚え込んでしまっていることっていろいろあるし、だからこそ、文章を書いたりする時には辞書をひく意味もあるんだけど、この時はなんだか辞書の方が間違っているに違いないと反発してしまった。定評ある辞書事典が4つそろって「銅」だと主張しているにもかかわらず。

ブリタニカ2005を引いてみるとやはりここでも「two copper bowls」と書いている。ガク。しかし、ここでは「about 35.5 cm (14 inches) in diameter」と、日本語の事典には書いていなかったことがあったのが収穫。なるほどこれくらいの大きさね、とサイズが実感できた。

で、ネット検索。

ここでまた、おもしろい現象を見つけた。Googleで「マクデブルクの半球」で検索するとヒットは16件。おんや少ないなと今度はぼくが最初に悩んだほうの「マグデブルクの半球」。こっちは56件あった。ネット上では大辞林派が優勢なのだ。気になって「マグデブルグの半球」としたところ、一気に225件に跳ね上がる。ま、綴りをローマ字読み(ないしは英語読み)すればそうなんだけど、これってどうなの? 現地音はそっちに近いのかしら。ちなみに「マクデブルグの半球」は1件しかなかった。少なくともネット上では「マグデブルグ」と最後を濁らせるのが主流であるようだ。ドイツ外務省の日本語ページでもそうなっているんだから、そっちのほうが筋がいいのかも。

肝腎の金属の種類は、やっぱり銅製としているところが多い。しかし、金沢工業大学ライブラリの「真空についての(いわゆる)マグデブルグの新実験(あ、ここもグ終わりだ)というページ(ここはゲーリケが書いた本を蔵書しているよということを説明したページだ)には
こうして、1657年マグデブルグで「マグデブルグの半球」として知られる有名な実験を行ったのです。これはブロンズの半球を二つ合わせて内部の空気を抜き、16頭の馬で引張り合っても半球は離れず、空気を再注入すると半球はひとりでに離れるという実験でした。実験は大成功で、ゲーリケはこの成果を本書において出版したのです。
とある。ほおらみてみい、ブロンズって言っている人もいるじゃないか。しかも、これはオリジナルの本を擁している図書館の発言だからな。辞書の編纂者も、きっと原典にあたったわけでもあるまい、と妙に肩入れする。

しかし、同じ本(?)を国立国会図書館でも所蔵しており、そっちのサイト(国立国会図書館貴重書展:展示No.93 ゲーリケ『真空に関するマグデブルクでの新実験』)では
この実験は、二つの銅製半球をあわせて球を作りポンプで中の空気を吸い出すと、両側から数十頭の馬で引かせても引き離すことはできないことを示したもので
となっている。「数十頭」っていうのは誤解を与えかねんよなあとは思うものの、同じ原典を所有しているトコが銅と言っているのだから、このことだけで金沢を信じることはできなくなったわけだ。

MSNエンカルタにも銅って書いてある。ただ、直径約25cmとあるのはどうかなあ。ほんと?

岐阜聖徳学園大学のサイトの中にある物理を発展させた人々  ゲーリケには
直径33.6�僂諒�厚い銅製の半球を用いた
となっており、ここでも銅ではあるものの、直径はちょっぴり違う。まあ2cmくらいどうでもええやんけとは思うものの。

ウィキペディア(マグデブルグの半球 - Wikipedia
には、金属の種類は書いてないものの、
間には濡らした動物の皮をパッキンとして使用した
と、今まで知らなかったプチ情報を教えてくれる。ここにも掲載されている有名な銅版画には右端にお盆のようなものが描いてあり、いままでもなんやろこれ、と思っていたんだけど、これはパッキンを説明する図であったわけだ。

ここから英語版のwikipediaに進む。あいやー、こっちも「copper」だあ。しかし、ここのページの記述により、オリジナルの半球がドイツ博物館に保存してあることがわかった。そいつを検索。

ドイチェ・ミュージアムにはマクデブルクの半球のホンマモンというのがふたつあるようだ。ひとつはボン。もうひとつはミュンヘン。ボンに分館があるなんてことは知らなかった。ボン(Deutsches Museum Bonn: Meisterwerke)のもミュンヘン(Deutsches Museum - Physics)のにも素材は書いていない。ボンの方には金属製とあるだけだ。ボンの方のページから推測するに、ゲーリケはこの実験をいろんなところで披露していたようで、ボンの博物館にあるのは1663年に彼がボンのブランデンブルク選挙候の前で実験した時のもののようである(オリジナルの実験は1657年)。この時は馬を24頭使った由。

なおも。

マクデブルクは旧東ドイツ領内に属するのであるが、そこにはドイツでもっとも新しい大学「オットー=フォン=ゲーリケ大学」(1993年創立)があるそうな。「最新!マグデブルグ大の様子というページにはホンマモノそうに見える半球の写真がある。これもオリジナルであるかもしれない。このページにも素材に関する記述はない。

「Magdeburg hemispheres」でGoogle検索して一番上にヒットするサイトMagdeburg Hemispheres(ここは英語版のWikipediaからもリンクが張られている)にはしっかりと
The hemispheres were made of bronze and were about 1.2 feet across.
つまり青銅製と書いてある。ブロンズ派であるぼくにとっては心強い。他のサイトでの記述が「two copper bowls」みないなのに対し、「made of bronze」っていうのは、どことなく信憑性がありそうじゃありませんか。

ともあれ。

こんな些事を調べるのにずいぶん時間を使ってしまった。で、結局は素材が何かはいまいち判然としない。大勢は「銅」なんだけど、どうも決定打に欠けるようにおもえてならない(往生際が悪いんでしょうか)。ま、いうまでもなく、この実験にとって、それが銅であるかどうかは、文字通りどうでもいい。大気圧に負けてぐしゃっとツブれてしまわない素材ならなんでもいい。素材がなんであろうと実験の本質には何の関係もないのだ。「鉄製」としてあるところも数多いし。

で、ぼくがどうしたかというと、最初「青銅製の」と書いていた部分をこっそり「金属製の」に書き換えちゃいました。軟弱です。

シゴト的に言えば、この探索はほとんど実りをもたらさなかった。結果的にもユーレイカって叫ぶほどの成果もなかったしね。しかし、なんだか久しぶりにすごく愉しかった。ぼくにとっては、またひとつ今後探求すべき課題が増えたってことも嬉しいし、こんなに有名で、なおかつ、現物も今でも残っているし、本人の著作も読める(ドイツ語がわかればなんだけど)ものが、かくもさまざまな情報が流通しているってことも面白い。

で、実際のところ、何製なんでしょうかね。

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takuyaさんより
ご意見いただきました

[2006-04-16]

マクデブルク、銅。

そう言えば、小学生のころ覚えてずっと引きずっているのは「マグデブルク」ですね。ドイツ語を商売にしている今、改めて考えたら、マクデブルクに決まっている(マにアクセント)。ボンのドイツ博物館サイト、英語版では「金属」ですが、ドイツ語版は「銅」になってます。

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