2009-07-22

いただいたご本『エロスの原風景』

● 松沢呉一『エロスの原風景』(ポット出版)2800円+税

世の中には「あっぱれ!」と思わせてくれる人がいるもので、この本の著者、松沢呉一氏もその一人。彼くらい尋常ではない好奇心と、透徹した分析力と、出力エネルギーの過剰さがあれば、もっと社会のメインストリームでビッグになれるはずなのだが、何の因果か出版、それもエロなんぞにハマってしまい、人生をマネー方面とは別のところで走らせているのが可笑しい。こういう業の深い人生をどっぷり生きている人には、ただ「あっぱれ!」と言うしかない。

本書も、そんな「あっぱれ!」な彼の生き様のなかで可能になったもので、エロに関して「国会図書館を越えた男」と呼ばれる松沢氏の稀代のエロ本コレクションのなかから厳選したビジュアルを紹介しつつ、エロ本の歴史を江戸時代から現代まで辿るという資料価値の高い一冊になっている。前近代の風俗本から、ホモ、ビニ本、夫婦生活ものまで、実に多様で豊穣な日本のエロ文化を、一次資料と松沢氏の洒脱なコラムで概観できる。セクシュアリティに関心を持った研究者が、ちょっと資料をあたってフーコーで言説分析しました、みたいな安直な言葉ではない、マニアの凄みがここにはある。少し値段は張るが、エロファンなら十分もとが取れる。