2021-08-02

ポット出版の[出版流通]その2(番外)・版元ドットコムMLに投稿したこと

版元ドットコムの会員と会友のMLに、会員社からの書き込みがあった。
JRC扱いの版元の新刊の書誌情報(すら)、アマゾンに表示されないんだけど、
なにか情報はないか、という質問だった、何社もの会員社が、熱心に返信した。
そのいくつもやり取りを読んでいてちょっと思うことがあったんので
MLに投稿した。
版元をはじめ、取次の人や、書店の人にも読んでもらえたらうれしいので、
この「ポットの日誌」にも公開することにした。
投稿は2021年7月30日(金)。

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MLに書き込んだみなさま

この件に関する直接的な情報ではないですけど、
ちょっと気になったことを書いておきます。

●情報の流れと、物の流れ(本の商流)について
今回のことを考えるにあたって、
◯情報流
・書誌・書影などの情報
・在庫の情報(出版VANの在庫情報)
◯商流(在庫情報/物体の移動/伝票などの記録/支払いなど)
どのような取引経路で仕入れることができるのか?
そして、その仕入れは「信用」できるのかということです。
ここはEDI化がすすんでいて、ココも出版VANが使われています。
本屋からの受注・それへの出版社の出庫の情報を伝え合うということです

ということを分けて・整理してみるのがよいと思います

版元ドットコムが作っているシステムは、
情報流(のうち書誌・書影情報と一部在庫情報を補完)が中心です。
版元ドットコム会員社で、かつJPROを利用している会員社の書誌・書影情報の流 れは、
版元ドットコム→JPROの情報流をつかっていています。
この書誌情報をキャッチできないのは、出版業界では「おミソ」扱いだと思うほど、
太い流れになっています。

情報流のもう一つの在庫情報の太い流れは、
出版VAN(新出版ネットワークというのが現在の正式名称のはず)という流れ・ システムのなります。
出版VANで、在庫情報(在庫あり/品切れ重版未定など)を流す。
これが、出版業界では、太い流れであちこちで活用されます。
逆に言えば、出版VANの流れにのらないと、出版社の在庫の有無をつかめないこ とが多くあります。
今回の、JRCは出版VANの流れに乗っていないはずなので、
「アマゾンがJRC経由の出版社の在庫情報がつかみにくい」というも一つの理由 でしょう。

出版社に在庫があるかどうかの情報が、EDIで対応できないと、
アマゾンとしては扱いづらい。
読者に販売しても、入手できなかった場合に、
読者に「ゴメン」と連絡しなければならないからだとも、言える。

もう一つのの商流です。
出版業界の太いながれは、
やはり版元→トーハン・日販・楽天BNの取次→本屋(ネット書店もふくむ)です。
書誌情報があり、在庫情報が自動的に流れ、取次から仕入れられる本は、
本屋が安心して注文できます。

ちなみに、横道ですけど、この取次を中心にした商流の際の、本屋の受発注は、 現在3つの方法があります
・出版VAN のEDI交換による発注(7〜8割)
・本屋→取次→出版社への紙の短冊での発注(1割弱)
・本屋・取次→出版社へのFAX・電話などの発注(1〜2割前後)
()内はポット出版(取次で流通)への注文の形態別割合です

トーハン・日販・楽天BNが新規出版社との契約に抑制的です(その理由は脇にお いておいて)。
そのため、古くは地方小出版流通、星雲社、などによる補完の努力がなされてき ました。
トランスビューが直取引を始めました(2000年をちょっと過ぎたあたりだったと)。
そして、トランスビューが他の新規設立出版社の本の流通を、
自社商流に相乗りさせる業務を提供しました。
それがキッカケのひとつになって、
新規設立出版社の流通に、鍬谷書店・八木書店・JRCが門戸を開いてきた。
これによって、取次契約が難しかった版元の流通がとてもやりやすくなった、と いう経過を経ます。

しかし一方、こうした取次流通を補完する流通は、取次流通という太い流れに完 全に乗り切れていません。
今回のJRCも、そうした「乗り切れていない」ところを、様々な工夫と努力で 「補完」していますが、
どうしても「補完」しきれないのが現状だと思います。

このことが今回のことにつながった、というのが基本的な構造なのではないかと 思います。

書誌情報・在庫情報・商流(の確実性)の3つに、少しでもモレがあると、うま く本を売ってもらえない
ということが起きるというのが僕の考えです。

◯情報流
・書誌・書影などの情報
・在庫の情報(出版VANの在庫情報)
◯商流
を整理して考えて見る必要があると思います。
今回の例は、情報流の書誌は流れる状態をつくれたけど、
在庫情報・商流が、太い流れに乗れていなかったのでモレがおこった、と思います。

●アマゾンをどのような状態にしたいのか

今回の問題は
①書誌・書影を表示させたい
②注文を可能にさせたい
③24時間発送にしたい(在庫ステータスを良くしたい)
とわけて考えることができると思います
このとき、アマゾン以外のネット書店も視野にいれるほうがいいと思います。
アマゾンは連絡つながらないけど、楽天なら◯◯ができる、とかがあるからです。
また、意識的に、表示状態のいいネット書店に、
ネット・SNSを使って直接読者に告知し誘導することが可能だからです。
これを表にすると、以下になるかと

       アマゾン 楽天BOOKS honto 紀伊国屋 などなど
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①書誌の表示
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②注文可能にする
――――――――――――――――――――――――――――――
③24時間発送にする
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①書誌・書影を表示させたい
これに必要なのは、書誌情報が届いている/確実な入荷/その本を売りたいとい う書店の意思
の3つだと思います。
版元ドットコム→JPROの、書誌情報のながれは、
ほぼ間違いなく、ネット書店と取次と本屋などに届きます。
情報は届いている、ある、としても、確実な入荷/その本を売りたいという書店 の意思
がなければ、そもそも表示させることすらされない場合があります。
自費出版で本をつくり、配布を個人でする場合は、主に確実な入荷がわからないので
多分販売対象にならないでしょう。多くの本屋において。
JRCなどの流通は、そうならないためにあれこれの工夫・努力をして、
なんとか補完しようとしているのです。

②受注可能にする
はまさに、確実な入荷/その本を売りたいという書店の意思、が必要です。
そのために版元のできることは、確実な入荷、という状態をつくるようにするこ と以外にありません。
また遠回りですけど、売りたいと思わせる本をつくること(むずかしくはない) です。

③24時間発送にする
24時間発送の表示になるのは、ネット書店が、自社の倉庫に在庫を持つものだけ です。
アマゾン以外もほぼ同じですし、本屋の棚におさまっている状態とおなじです。
すると、仕入れて24時間表示にするかしないかは、書店の意思=仕入れる意思、 によることになります。
ついでに書くと、トーハン・日販・楽天BNの倉庫に在庫があると、1〜3日表示が 多いようです。
これも、取次が在庫するかどうかを決めることができるものなので、その意思に よります。

だから、
版元ドットコムでは、hontoと交渉して、版元の意思・判断で、honto倉庫に在庫 できるスペースを
1,000冊分買って、会員社に在庫スペースを提供しています。
これは、
・版元の意思で、24hステータスにできる
・hontoには在庫があるので24hで届きますよ、とSNSで宣伝・誘導できる
・アマゾンは交渉できないけど、hontoには版元ドットコムとの交渉の窓口がある。
 もちろん、今後、他のネット書店にも広げることができないか考えています。

なのでアマゾンの在庫状態を改善することと同時に、
ネット上で、他のネット書店に誘導して、アマゾン在庫の弱点を補う、ということも
考えの一部にいれてもらいたいと思います。

●販売店が店になにを並べて売るかは、販売店の意思(権限)

版元はメーカーです。書店・ネット書店は販売店(小売店)
小売店がどんな商品を仕入れて並べるかは、小売店の意思(権限)だと思います。
だから、「書店営業」というのがあって、「うち(メーカー)の本を仕入れてく ださいよ」
という働きかけがある。
仕入れるということは(返品もあるけど一旦は)書店が「買う」ことだからでも あります。
アマゾンも小売店です。ジュンク堂も、街の本屋も。
だから基本的に、アマゾンサイトに、何をどう表示させるかは、
小売店であるアマゾンの意思になるのだと思います。

版元はなにができるのか、すべきかは
書誌情報が届いている/確実に入荷できるというサインを送ること/並べたくな る本をつくる、です。

ですから、JRCは、アマゾンのベンダーセントラル契約して、情報ばかりか、
JRCの商流で出庫できる状態ですよ、とサインを送っているだと思います。
(JRCのベンダーセントラル契約があるのか、どうなっているのかは今回調べて ません)

確実に入荷できる条件とはどういうものか、というのは、
それぞれの会員社の商流形態によって、可能なこと不可能なこと、
また経費をどこまで出すのか、によってさまざまです。
なので、おおきな記述になるので、今回は割愛させてもらいます。
版元ドットコムの「活用入門」基本編・営業編も、一つの回答です。
直球でそう説明するものでもありませんが、
「活用入門」で説明していることは、確実に入荷できる条件
をどうつくるかを目指しているともいえます。
それぞれの会員社の条件を踏まえて。

●アマゾンについて
最後にアマゾンについて書きます。
アマゾンの出版物売上は、出版業界売上全体の1兆数千万のうちの20〜30%と思 われます。
紀伊国屋全店、丸善ジュンク堂全店で、3%とか5%とか、数%のはず。
確かに全体の2割は巨大です。でも逆に言えば、本の70%〜80%は、アマゾン以外の
書店店頭、他のネット書店、などなどで売れています。
アマゾンは目立つけど、出版という商売全体をかんがえると、むしろ大切にすべきは
70%〜80%を売る、それ以外の販売チャンネル、小売店などだと思っています。
だから、それ以外のチャンネルにもっと注目したほうがいい。
では、それ以外のチャンネルに向けてなにができるか。
・読者には、だした本の存在とその内容を認識してもらうこと
→書誌情報・書影を、早く・濃い情報で、業界とネット上に公開すること
・それ以外のチャンネルの多くを占める本屋などに、
書誌・書影/在庫があるのか(注文できるか)/どのような商流で入手可能か
を知らしめること、これがほとんど全てです。

最近の版元ドットコムサイトの改修で、一冊一冊の本紹介ページに「書店員向け 情報」というのを
掲載するようにしました。
これは、8割売上を叩き出す書店員に、
在庫/どうゆう商流なのか、また返品の考え方を提供しようという、こころみです。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784910553009

このページは最近創業して入会した人々舎の最初の一冊目の本の紹介ページです。
情報をきちんと流したので、近刊の予約がアマゾンで始まっています。
でも、hontoでは、書誌情報は掲載されているけど、注文は受け付けていません。
これは、太い流れに乗れていなかったモレです。
新刊が完成して現物があれば、先に説明した、honto倉庫に在庫できるスペース
に入庫して、24hにすることができます。
予約はとってもらえていませんが、発売されたら確実に在庫表示を良くできる確 実な方法が
一つは、あるのです。

このぺーじにある「書店員向け情報」はこのようになっています。
> 取引取次: 鍬谷
> 直接取引: あり
とあるので、書店員は、鍬谷から取次同士の「仲間取引」なんだな、、、、とわ かります。

> 返品の考え方: 代表・樋口了解のもと「返品了解書」を同封の上、各取次さ んへお戻しください。
とあるので、万一売れ残ったら返品できるかという出版社の姿勢がわかります
(本当は、取次の姿勢・考えの問題でもあるのでかんたんに返品できないことも
書店員は想像したりするはずです、訳知りならばw)

> 出版社への相談
> 店頭での販促・拡材・イベントのご相談がありましたらお気軽にご連絡くだ さい。
で、個別の取り組みの際に出版社がたよりになるのかどうかわかります。

近刊なのでまだ在庫はないはずですから、在庫表示はありません。
版元ドットコムシステムから、在庫情報を「あり」にすれば、
ここに、在庫 あり、と表示されます。
(ですから特に出版VANをつかってない会員社はこのステータスのメンテナンス は大事です)

これらは、版元ドットコムシステムの「会員社情報」メニューが各社でいれたも のを表示しています。
つまり、さまざまな版元の「商流はどうなのか」という小売店の不安・疑問に応 えて、
注文の敷居を下げようというこころみです。
まだ「会員社情報」に入力していない会員社が多いのですが、どうか書き込んで ください。

そもそも、書誌・書影/在庫があるのか(注文できるか)/どのような商流で入 手可能か
を知らしめる方法には、書店FAXがあり(書店員の認知と商流の紹介)、
書店営業があり(本屋の店頭は最高のディスプレイ)、
書評掲載依頼(読者・書店の認知)などなどがあります。
個人的には小零細出版社は、書店営業などせずに、情報流と商流を整え、
注文があれば確実に書店にとどける体制づくりに注力するのがいいと思ってます。
書店営業の時間は、本をつくることにそそぐ。

この投稿は、まだまだ食い足りないと思います。
意見・異論や疑問があれば返信ください。
(返信でも構いませんし、直接メール電話でも)

また、この僕のメールは、
ポット出版の「ポットの日誌」にコピペして公開します。
版元ドットコム会員社以外の版元にも、同様な疑問・問題意識があると思うので。
公開したら、MLでもお知らせします。

沢辺