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ポット出版
立ち読みコーナー●ワタシが決めた2
[2003-03-26]
ワタシが決めた2

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ワタシが決めた2
[2001.04.01刊行]
編●松沢呉一

定価●2,200円+税
ISBN4-939015-49-1C0036
四六変形判 /320ページ/上製
印刷・製本●株式会社シナノ
イラスト●祐天寺うらん
ブックデザイン●沢辺 均+小久保由美

在庫有


【立ち読みコーナー】※本書所収原稿の一部を紹介

お姉さんのこと
→PDFバージョン はこちら

著●えりな
えりな●一九七七年生。東京・品川生まれ。高校生の妹とネコちゃん二匹と同居。
母方はほとんどが教員や国家公務員、父方はすべて商売人の家庭に生まれ、何不自由なくわがままに育つ。ピアノ、バレエ、日本舞踊、茶道ほか、お稽古事や塾等数知れず、放課後に友達と遊んだことがなかった。しかし、一〇歳の頃、父の会社が倒産、夜逃げを経験。
現在は大学生であり、渋谷「カリペロ」で働く風俗嬢でもある。
「ワタシが決めた」第一弾では、なりえという名前で執筆)


 一重に「人気風俗嬢」といってもいろいろなタイプがいる。たとえば、きれいに撮れている写真が雑誌のグラビアに出て急激に指名をとる女の子。しかし、この場合は、写真うつりがよすぎてもかわいそうなことになる。会ったあとのサービスや性格がお客様に合うかどうかも重要で、雑誌を見て来た客をそのあとしっかり常連として残せる子もいれば、いつまでたっても雑誌でしかお客様を呼べない子もいる。対照的に、取材を一切受けなくても、お店に出勤すれば休む暇なくお客様がくる女の子もいる。広い範囲のお客様に受けのいい子、数は少なくても熱心に通ってくれるお客様を確実につかむ子などなど、いろいろなタイプの女の子がいないと、お店は成立しない。
 私が最初に働き始めた店(「ワタ決め」参照)でのこと。ある日、突然、お客様の電話が鳴らなくなった日があった。人気のある子もない子も暇になり、皆がフロントに集まってきた。その店は明るい女の子ばかりで、意地悪な子は誰一人いないかったので、その時も、暇にまかせて話に花が咲いた。しかし、客はやってこず、店の入口はシーンとしたままだ。
 おしゃべりすることで客の来ないストレスを発散し、各々、部屋に戻っていった。私も緊張がなくなって、毎日の仕事の疲れが出てきたようで、仮眠をしに部屋に戻った。少しすると、トントンと戸を叩く音がした。
 「入っていい?」
 ○○○お姉さんだ。
 「どうぞ」
 緊張した。なぜなら、このお姉さんは他の女の子達とは別格の存在だったから。こちらから話しかけると、いつもとても気軽に話をしてくれるが、目はジッと風俗雑誌に向いている。暇があると何かを探し、この仕事のことを考えているのだ。そして、思いつくとすぐに社長のところに行き、「社長、こういうのはどうかな?」と相談をしたり、提案をする。こういう人だから、取材は受けていないのに、出勤すると、お客様がひっきりなしでつく。二人きりでゆっくり話をする暇もないくらいなのだ。
 私はせっかく二人だけになれたこの機会にと思って、ドキドキしながらも、聞いてしまった。
 「私、素股ができないんです……教えてくれませんか」
 すると、お姉さんは笑顔で惜し気もなく、自分のやり方を教えてくれた。
 「お客様がこう寝ているでしょ…そしたらこう乗っかって、ここに体重かけて、こういう風な手つきをするんだヨ。もしこれでだめなお客様にはネ、ここをこうもってこうしてみな」
 そう言って、実際にやってみせてくれた。すごい、本当にエッチしているみたいだ。
 それから私はいろんな研究をし始めた。雑誌や本を読み、お客さんにも協力してもらって新しい技を考えた。一ヶ月くらいの間、両足が熱く、筋肉痛で眠れない夜が続いたのだった。
 ○○○お姉さんは雑誌に出れば、すぐにフードルになれるほど、かわいらしくて奇麗な人だった。社長も「あの子は別格だ」といつも言っていたくらいで、テクニックがあるだけでも、ルックスがいいだけでもなかった。
 隣の個室から「ちょっと待っててネ!」と大きな声が聞こえると、お姉さんは店の裏へ行き、自分のロッカーからプレゼントを取り出して、「お誕生日おめでとう!」と大きな声で部屋に戻っていく。お姉さんは、常連さんの誕生日を全部控えていて、その日はプレゼントを用意して待っているのだ。こういう気遣いを決して忘れない人だから、人気があるのは当然だ。
 こんなこともあった。隣の部屋の様子がいつもと違う。
 「ふざけんじゃないよ!」という声。本番強要らしい。お姉さんを助けに行かなくちゃ、どうしようと私はオロオロしていた。その間にお姉さんはその客を追い出し、「いらっしゃいませー」と次のお客様を迎えていた。
 お客様の要望に、優しく対処しているだけではこちらの身体がもたない。イヤな客にはイヤとはっきり言うことで、自分の身体を守り、気持ちよく仕事ができることもお姉さんから学んだ。
 私もその後、暴力を振るう客、本番をしようとする客、ストーカーなどに何度か遭遇したが、そういった事件がある度、女の子同士で助け合い、店側も私たちを本当の家族のように守ってくれる。そこに信頼が生まれ、私たちは安心して仕事に精を出せるようになる。女の子や店が毅然とした態度をとらないと、質の悪いお客さんを集めることになってしまうのだ。
 私がいいお客様に恵まれているのは、○○○お姉さんのおかげだ。この店は間もなくなくなってしまい、お姉さんは今も別の店で頑張っている。きっとお姉さんにもいいお客様がいっぱいついているはずだ。
 店を移ってからは、お姉さんと会うことはないのだが、私とお姉さんを一ヶ月交替に指名し続けているお客様がいて、いつも様子を教えてくれている。お姉さんが元気でいてくれていることが私の心の支えだ。
 元気をなくした時、自信をなくした時、そんな時はお姉さんの言葉を思い出しては、自分を励ましている。お姉さん、これからもずっと私の手本でいてください。

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