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[第17章●よくわかる十干十二支]
2… 十干の並びと読み
[2006.03.22登録]

石田豊
ishida@pot.co.jp

「十二支の並びと読み」をすっかりマスターしたわけですんで、余勢を駆って「十干の並びと読み」に挑戦します。

十干は
甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸

まず、その音読みから。甲乙が「こうおつ」であることは、ま、ご承知の通り。「甲乙付けがたい」などと使いますよね。「甲乙丙丁」までも、ひとそろいでよく使います。「こうおつへいてい」。問題はその後です。

こう・おつ・へい・てい・ぼ・き・こう・しん・じん・き
となります。甲乙丙丁まではいいとして、後は「簿記更新、仁義」っていうような語呂合わせかなにかで覚えるしかないかもしれません。こうおつへいていぼきこうしんじんき。なんども繰り返していると、そのうち覚えられます。頑張ってくだされ。

こうおつへいていぼきこうしんじんき、という「呪文」を覚えてしまえば、この読みを漢字に直すのは、比較的容易です。甲乙丙丁はともあれよいとして、つぎの「ぼ」は何だ? あ、戊辰戦争の戊がボか、と。

キはコッキシンのキ、克己心ですな。コウは庚申塚ってのがあったか(これは無理筋?)、辛抱しいやの辛がシンで、壬申の乱の壬がジン。癸はムツカシですが、一揆の揆からキかと。

…、……。

覚えました? 覚えていただいてから言うのもなんですが、甲乙とか甲乙丙丁の時は「こうおつ…」と読むのですが、十干十二支では「乙」は「イツ」と読みます。なんでやねんといわれても、そりゃ読み癖だとしか、言いようがありません。すんません。乙はここではイツね、と流していただきたい。

訓読みの方はしばらく置くとして、これで十干の音読みは完了です。

十干の方も十二支と同じように、ひとつずつずれていきます。たとえば、ある年が「甲」の年だとすると、次の年は「乙」、以降、丙、丁、戊、と続いていきます。そしてこの十干と、前回マスターした十二支が組み合わさって干支になります。

この組み合わせにおける味噌は「十干も十二支も独立して動く」ということです。十干に着目すると、「甲」の年の次は「乙」、その次が「丙」。おなじように十二支に着目すると、「子」の次の年は「丑」、その翌年が「寅」という具合になります。つまり組み合わさって「甲子」の年だとすると、その翌年は「乙丑」となります。壬申の乱の「壬申」の翌年は「壬」の次の「癸」と、「申」の次の「酉」が組み合わさって「癸酉」となります。辛亥革命の「辛亥」の翌年は「辛」の次の「壬」と「亥」の次(というか元へ戻って)「子」がセットになって「壬子」になります。

干支を解説した本などでは、この構造がちゃんと書かれていないことが多いので、私は最初混乱しました。「それぞれが独立して次のヤツにバトンを渡しているだけやん」と気づいたとたんに、すっきり理解できました。それとも、そんなことがわかんなかったのは私だけ?

十干は10、十二支は12個ありますから、最小公倍数の60で元へ戻ることになります。数えで60歳になることを還暦というように、60年たつと干支はもとへ還るわけです。

10と12の順列組み合わせは120あります。しかし、60年で一巡してしまうなら、「出現しない組み合わせ」が出てくることになります。十干の奇数番目の「干」は十二支の奇数番目の「支」としか組合わさりませんし、偶数番目のものは偶数番目のものとしか組合わさりません。つまり「甲」(奇数番目)と「丑」(偶数番目)がくみあわさって「甲丑」というような年は存在しないってことです。「乙」(偶数番目)と「子」(奇数番目)がくみあわさって「乙子」というような年は存在しないってことです。

この「法則」は覚えておいてソンはないと思います。

で、組合わさった干支の読み(ただし、音読み)は、先に述べたそれぞれの読みを組み合わせればOKです。乙丑は「いつちゅう」、丙寅は「へいいん」という具合です。ただ乙丑は音便で「いっちゅう」と発音されます。

発音の「例外」という意味では「甲子」もそうです。「甲子園」というような場合は「コウシ」とルール通りに読みますが、干支として「甲子」と書かれている場合は、読み癖として「カッシ」となります。

さて、続いては十干の「訓読み」です。これをマスターするためには「五行説の基礎的な理解」が必要になります(ま、別にわかってなくてもダイジョブなんだけど、わかっているとなお面白い)。

五行説というのは、「木、火、土、金、水」が宇宙の構成要素なんだ、と考える中国の古典的な考え方です。木から火が生じ、火が土を生み出し、土が金になり、水が木を創るという具合に関連しているのだと考えます。また水は火に勝ち(消えますわな)、火は金に勝ち(溶けちまう)、金は木に勝つ。木は土に勝ち、土は水に勝つという具合に、まるでジャンケンのような関係も説きます。

五行説は中国(っていうより「支那」と書くほうが適切かもしれません。つまり中華人民共和国のことではありません)の哲学のいちばん根っこの部分を形成していますので、これをアタマにいれておくと、中国歴史ものやら、場合によっては日本歴史ものが、より理解できたりします。

ここでのミソは五行の並びが木−火−土−金−水という順番であるということです。私は少年の頃にモッカドキンスイと唱えて覚えました。振り返ってみると、爺くさい高校生であったわけです。

モッカドキンスイがわかれば、十干の訓読みは自動的に理解できます。十干は五行に陰陽を組み合わせたものなのです。甲は木の陽、乙は木の陰、丙は火の陽、丁は火の陰です。

古い日本語では、兄を「え」、弟を「おと」あるいは「と」といいます。中大兄皇子とか橘諸兄の兄は「え」ですよね。上の娘を「えひめ」、妹の娘を「おとひめ」って呼ぶのもありました。乙姫さんは末っ子なのか、というと、そういうわけではなく、妹→年下ということから「年若い娘」という意味が出てきたんだそうです。

そこで、甲は木の陽、つまり兄で「きのえ」、乙は弟で「きのと」。この伝で、丙=ひのえ、丁=ひのと、戊=つちのえ、己=つちのと、庚=かのえ、辛=かのと、壬=みずのえ、癸=みずのと、という具合になります。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸と木・火・土・金・水をしっかり掴まえとけば、十干の訓読みは間違うことはありません。

十干の方を訓で読むなら、十二支の方もあわせて、甲子なら「きのえね」。戊辰は「つちのえたつ」、辛亥が「きのとい」。ひのえうまは「丙午」です。

私が干支のことを書こうと思ったのは、昨年末、ある集まりで同席した非常に有名な著述家の方が「現代人には十干十二支を全部ちゃんと読める人なんか、ほぼいないでしょう。ぼくも読めません」って、おっしゃったからです。なんぼ有名でも、はたまたいかにスゴかろうと、知らないことはいくらでもあるのは当たり前です。私はその方が干支を読めなかった、あるいは知らなかったことをあげつらおうとしているのではありません。驚いたのは「普通は誰も読めないだろう/知らないだろう」と思っておられたということでした。

ここまで述べてきたように、十干十二支は非常にシンプルな構造と、しっかりとした論理で組み立てられていますから、知ろうと思えばすぐにわかるし、いったん知ってしまったら忘れません。二十八星宿なんかとは違うのです。

「ね、あなた読めます?」とその方は隣に座っていた人に聞いていました。聞かれた人は黙って答えませんでしたから、「そうでしょ。もう現代人には何のことか、辞書を引かないとわからない知識なんです」。

私はずっと後輩でもあるし、席も少し離れていたので、しゃしゃりでることはしませんでしたが、うーむ、これはユユしきことではあるまいか、などと思いました。同時に、それはとてももったいないとも思いました。干支がわからなければ、ご一新まえの文献は、ほとんどすべて楽しめません。黄表紙のたぐいは大丈夫かもしれませんが、記録とか随筆とかは不可能です。書かれていることの時間関係がまったくわからなくなるからです。なんで? こんなシンプルなことなのに! この時の驚きがこの小文を書かせた理由になっています。

ほら すっかりマスターできたでしょ? 十干十二支。少なくとも、これで読み方はばっちりのはずです。なんも、すげー苦労をしないでも、ちゃんとわかるようにできているんです。干支は現代にあっても、何も、オタッキーな知識ではないんです。

読み方がわかったところで、つぎは「任意のある年が干支で言えば何にあたるか」あるいは「テストの際に壬申の乱は西暦何年?と問われたときすっかり忘れていても大丈夫」ということがカンタンにわかる方法について。

ではまた。

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