パリ症候群?

 あこがれのパリに留学したのに、生活になじめず、心の健康を壊してしまう。
 日本人女性に多いこの症状を在仏二〇年の精神科医・太田博昭氏は『パリ症候群』と名付けた。にほんのメディアでも取り上げられたし、フランスの新聞でもしばし、この症状は紹介されている。
 期待が大きいぶん、それが裏切られると、深い絶望に落ちるのが人の常だ。日本で紹介されるパリは「華の都」「文化の都市」「おしゃれで歴史ある都市」だ。パリ生活はとっても華やかで文化的で薫り高いに違いない……と思ってしまうのも、無理はあるまい。
日本にいるとき、「パリに留学する」というと、「うらやましいなあー」「遊びに行きたい」と、多くの人が口を揃えていった。きらびやかな都市というイメージしかないようだった。
パリといえば、シャンゼリーゼ通りやルイ・ヴィトン、凱旋門といったことぐらいしか思いつかない人は、おそらく、次のような事実は知らないだろう。
①:移民増加と極右台頭が社会問題になっている。
②:ストやデモが日常茶飯事である。
③:物乞いが多い
④:街娼が多い。
⑤:ピルを服用している人が多い。
 以前、パリを旅行した知人が
「いやあ、黒人や中東系の人が多いのにビックリした」
 と驚いていた。
 今月、パリを旅した友人は
「パリって結構治安悪いですね。物乞いのひともかなり多い印象でした。まあ、ロンドンに行った後だったので余計、不安定に見えたのかもしれませんけど。」
 と私に漏らした。治安のけっしてよくないロンドンに比べても、パリは危険な匂いが強いようだ。
 電車に乗っていると、一日に一回は、車内に物乞いが乗ってきて、お金をせがむのを目撃する。たいてい、車内に入るや自分の名前と窮状を大声で訴え、「ぜひ、お恵みを」といった後、小銭を入れる為の缶や紙コップを片手にもって、車両の端から端まで歩き、乗客一人一人に声をかけていく。
 路上やプラットホーム、駅構内にもよく物乞いが地べたに座っている。
 日本人女性の中には、そういう風景を「不潔」と感じる人もいるようだ。パリらしく、ないとも。しかし、テレビの娯楽番組では取り上げられることのない、それがパリの現状なのだ。
 ヨーロッパでは移民の増加が社会問題になっており、フランスではモロッコ、アルジェリア、チュニジアからの移民が多い。移民が増えると、排斥運動が強まるのが常で、フランスではジャン・マリー・ルペン党首が率いる極右政党『国民戦線』が常に一定の支持を得ている。次期大統領と目されているサルコジ氏が内相の時、移民強化を強めたせいもあり、外国人が就労するのはかなり難しくなった。フランスでの就職・転職を夢見ている人は、パリに来てから厳しい現実を見ることになるかも知れない。
 フランスで生活していると、しばしば郊外電車・地下鉄・バスといった公共機関のストや学生・労働者・市民によるデモに遭遇するであろう。1995年の12月にはほぼ一ヶ月、パリ市内のすべての交通機関がストのため、ストップした。日本でいえば、JR・小田急・京王線・西武線がすべてとまり、バスも走らない状態が一ヶ月、続いたようなものだ。それでも、過半数以上のフランス人はストを支持したという。数分の遅れにもいらだつ人であれば、パリの電車・地下鉄にはたえられないかも知れない。
 フランスでは、自然な快感を堪能するためであろうか、ピルの服用が盛んである。避妊はピルに頼ることが日本より多く、コンドームは主に、HIV予防のために用いられる。フランス人の恋人(♂)ができたら、ピルを服用するようにいわれた……という話もしばしば、耳にする。
 とまあ、「パリ留学」が論ざれるときに、触れられることのない話をいくつか、書いておいた。これをよんで、「フランスってメッチャ、おもしろい国ヤン」と思えるような人ならば、渡仏後も「パリ症候群」にかかることはないであろう。

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及川 健二 について

ジャーナリスト/研究者。 それまで一分もフランス語を学んだことがなかったのに、 フランス留学を決断。2002年UCLAエクステンションセンター・ 夏期英会話講座・修了、グランゼコールの一つ、2004年 リール政治学院・夏期特別セミナー修了(European Summer University Program at Institut d’Etudes Politiques de Lille)。 フランス国立パリ第九大学・Dauphine修士課程に2004-05年に在学。 多国籍企業の経営戦略が研究テーマ。大学では”英語”で講義を 受け、語学学校でフランス語を勉強するというチョット変わった留学生活をおくる。2004年7月3日から2006年3月25日までフランスに滞在。リール、トゥール、パリにて生活する。数々の政治家にインタビューする。 共著『オカマは差別か』(ポット出版)、2002年1月。 編集・共著『常識を超えて』(ポット出版)、2002年6月。 単著『ゲイ@パリ 現代フランス同性愛事情』(長崎出版)、2006年10月。 単著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)、2006年10月。 単著『フランスは最高!』(花伝社)、2007年6月。