紅組司会・中居正広クンが見せた一瞬の英断

オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

主題:紅組司会・中居正広クンが見せた一瞬の英断
副題:審査委員の茂木健一郎氏が紅白の舞台裏明かす

【本文】

 第58回目となった大晦日のNHK紅白歌合戦……。ビデオリサーチの調べによると、視聴率は第1部32.8%、第2部39.5%で、2部は2004年に次ぐワースト2とふるわなかった。

 そんな中で話題を呼んだ歌手が初出場の中村 中(あたる)さんだ。10代、20代の間で広く人気をえる22歳の中村さんは精神的性別(性自認)と生物学的性別が一致しない性同一性障害者をカミング・アウトしている。彼女は男性として生まれたが、10代初めの頃から自分の性に違和感を持つようになり、成人してからは女性として生きる道を選択、女性シンガーソングライターとして活躍中だ。

中村 中さんの母からの手紙

 紅白歌合戦で中村さんは胸元の開いたミニスカートの真紅のドレスに身を包み、真紅のバンドで髪をまとめ、紅組司会でSMAPのリーダーである中居正広さんの脇に登場した。

 彼女の歌の前に、性同一性障害を抱えた歌手であることを紹介するVTRが流され、その後、白組司会の笑福亭鶴瓶さんによって、中村さんの母から届いた一通の手紙が読み上げられた。性同一性障害を抱えるに至ったことを詫び、彼女を応援する温かい気持ちが詰まった手紙だった。涙を必死にこらえる中村さんは聞き終えると、

 「いいです。私はこうして生まれてますから。親不孝かもしれないけど、歌を歌っていくことが親孝行かもしれない」

と気丈に返した。そして、彼女はステージの真ん中に立ち、代表曲である『友達の詩(うた)』を歌った。

ブログに記された舞台裏

 私は昨年の紅白歌合戦をすべて見たが、最も丁寧に紹介されたのが中村さんで、彼女の歌や歌う前のやりとりは実に感動的だった。性同一性障害についてちゃんとした説明を入れるとは、NHKも性的少数者への配慮がとても行き届いていると思った。

 だが、実をいうと、この感動的なシーンはカットされる寸前だったことが関係者の証言で明らかになった。脳科学者で紅白審査委員を務めた茂木健一郎さんが自身のブログ(1月1日付)にて、紅白関係者の証言として舞台裏を明かしている。

 茂木さんが記した、現場で制作にかかわった人の証言によると、あの時、紅白は予定より2分半、進行が遅れていたという。そこで、現場スタッフは中村さんの紹介をカットするように指示を出した。しかし、中居さんの態度は毅然としたものだった。首を何度も横に振って、要求を拒否したという。

 「どんなに時間が押していても、中村さんのエピソードだけはきちんと話さないといけない、そんな風に中居クンが判断したんでしょう」

 中居さんの心境を、この現場で制作にかかわる人はこう振り返っている。そして、

 「中居クンの判断は正しかったと思います。あれが、今回の紅白で、一番しびれた瞬間でした」

と茂木さんに語っている。

 コトの真相を知り、中居さんの英断に拍手を私は送りたくなった。

 中村さんの紹介は何があっても削ってはならない……という判断は見識あるものだ。紅白のおかげで、性同一性障害に関する理解は深まったことだろう。

カテゴリー: 及川健二のパリ修行日記 | 投稿日: | 投稿者:

及川 健二 について

ジャーナリスト/研究者。 それまで一分もフランス語を学んだことがなかったのに、 フランス留学を決断。2002年UCLAエクステンションセンター・ 夏期英会話講座・修了、グランゼコールの一つ、2004年 リール政治学院・夏期特別セミナー修了(European Summer University Program at Institut d’Etudes Politiques de Lille)。 フランス国立パリ第九大学・Dauphine修士課程に2004-05年に在学。 多国籍企業の経営戦略が研究テーマ。大学では”英語”で講義を 受け、語学学校でフランス語を勉強するというチョット変わった留学生活をおくる。2004年7月3日から2006年3月25日までフランスに滞在。リール、トゥール、パリにて生活する。数々の政治家にインタビューする。 共著『オカマは差別か』(ポット出版)、2002年1月。 編集・共著『常識を超えて』(ポット出版)、2002年6月。 単著『ゲイ@パリ 現代フランス同性愛事情』(長崎出版)、2006年10月。 単著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)、2006年10月。 単著『フランスは最高!』(花伝社)、2007年6月。