同性愛は劣等!? 偏見と闘う仏・地方圏議員 エイズで逝ったパリの恋人(下)

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オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。
主題:同性愛は劣等!? 偏見と闘う仏・地方圏議員
副題:エイズで逝ったパリの恋人(下)
【本文】
 フランス共和国の首都パリ市を含むイル=ド=フランス地方圏議会議員を務めるジャン=リュック=ロメロ氏は、恋人の死を無駄にしないために、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの人権問題に取り組む一方で、HIV予防の活動に心血を注いでいる。
 「エイズと闘う地方議会議員の会」の代表を務め、積極的にロビー活動を行っている。同会が毎年、世界エイズデーに合わせて開いている全国集会には、時の保健相やイル=ド=フランス地方圏知事は欠かさず参加する。
 しかしながら、HIVとの闘いはなかなか成果が上がらない。
増えるHIV感染者
 保健相の監督下にある国の公共機関であり、HIV・AIDSの監視に当たる保健衛生監視研究所が,2004年11月に発表した年次報告書は、2003年に発見されたHIV新規感染者を約6000人と試算した。前年より1000-1500人、新規感染者数が増加したことになる。
 HIV感染者は、依然、増加の傾向にある。ジャック=シラク大統領(当時)は世界エイズデーを前にして、2004年11月30日、国民に向けた演説で、
 「フランスにおいてHIVが拡大しているのに、この病気に対する警戒心が減じていることは、疑う余地がない」
 と国民へ警戒を呼びかけた。
 2003年に仏全土でHIV抗体検査を受けた人の数は約470万人。1万900人が陽性反応を示し、そのうち約6000人が新規感染(検査数の0.13%)と認められた。
 2002年の検査数は、435万人(1万200人が陽性)で新規感染は4500-5000人(0.10%-0.11%)、2001年の検査数は430万人(1万人が陽性)で4500人が新規感染と認められた。
 日本とて、これを対岸の火事とみることはできない。2004年に報告されたHIV感染者は780人とフランス(6000人)に比べたら遙かに少ないのだが、保健所等におけるHIV抗体検査の件数も、日本では6万8774件(人口約6000万人のフランスでは470万人!)と桁違いに少ない。検査総数に占めるHIV感染の割合は1.13%だ。
 フランスでは、2003年に陽性が新たに判明した1301人を調査したところ、男性のうち36.0%が同性との性接触による感染と判断され、異性間性接触による感染は37.2%だった。異性愛者と比べたら同性愛者の人口などはるかに少ないのに、HIV感染の数では両者ともほとんど変わらないのだ。
 2003年の調査では女性に限っていうと、同性間性接触による感染と判断されたケースはゼロであったので、HIVは何よりゲイにとって、未だに大きな問題といえる。
政治家として活躍するジャン=リュック=ロメロさん。(撮影:本人提供) ロメロ氏をはじめとするアクティビストの働きかけにより、フランスは国をあげてHIVとの闘いをすすめている。しかし、2005年の新規感染者が前年の7000人より300人下回った6700人だったものの、感染の拡がりはとどまっていないとの指摘は根強い。虚しくなることも時にあるのだろうが、
 「それでもね、HIVとの闘いは続けなければならないでしょう」
とロメロ氏はさっぱりという。しかしながら、ロメロ氏はHIVとの闘いだけに専念していられない。フランスで根強く蔓延(はびこ)るホモ嫌い(ホモフォビア)とも闘っている。
「同性愛は人類の脅威」と発言した下院議員
 ロメロ氏が所属する政権与党「国民運動連合」にクリスチャン=ヴァネスト氏という同性者を公然と差別する下院議員がいる。
1947年7月14日、ヴァネスト氏はフランス北部の街で生まれた。政治家であると同時に、カトリック系の高校で哲学を教えた経験を持つ哲学者でもある。
 1983年にパリ北部の市の助役として政界入りし、1993年に下院議会議員選挙で初当選する。97年の選挙で落選したものの、2002年の選挙で再び下院議員に返り咲き、2007年6月の選挙でも再選を果たした。
 カトリックの伝統を重視する保守政治家として知られるヴァネスト氏は、同性愛に対する差別的発言を繰り返し、しばしば人権団体や社会党から辞任要求を出されているが、本人は一向に気にしていない。
 差別を取り締まる官庁設置が、2004年12月に下院で審議されたとき、彼は同性愛者に対する差別は差別にあたらないとして、官庁が規定する差別に「同性愛者への差別」が含まれることに反対の意志を示した。 
 そして、2005年2月に日刊紙「北の声」で次のような発言を行った。
 「同性愛というものは、人類の存続にとってたいへんな脅威である」「私は同性愛が危険だといってきたわけではない。同性愛は異性愛より劣等だといってきたのだ。地上の人々が同性愛に従うならば、これは人類にとって危険きわまりないことだ」
 ロメロ氏は黙っていなかった。すぐに彼を批判する声明を発表した。そして、次の下院議会議員選挙で、ヴァネスト議員を国民運動連合が公認しないように求める書簡を、知人であるニコラ=サルコジ党首(当時)あてに送った。
今後も続く闘い
 ヴァネスト議員は、後日、差別を取り締まる法律(2004年12月30日施行)に違反したとして市民団体から訴えられ、同氏の発言は同性愛者の人権を侵害するという理由から、2006年1月、一審で有罪判決を受けた。
 ロメロ氏は裁判で証人として証言に立った。そして、ヴァネスト議員の差別発言を非難する陳述を公開の場で堂々と行った。
 格でいえば下院議員のほうが地方圏議会議員より上になる。日本でいえば、下院議員は衆議院議員にあたり、イル=ド=フランス地方圏議会議員は、東京都議会議員のようなものだ。ロメロ氏の行動がどれだけ勇気あるものかお分かりいただけるだろう。
 2007年6月の下院選でロメロ氏はヴァネスト氏の落選運動を行った。だが、成功せずに彼は再選した。ロメロ氏によるHIVやホモ嫌いとの闘いは今後も続きそうだ。

カテゴリー: 及川健二のパリ修行日記 | 投稿日: | 投稿者:

及川 健二 について

ジャーナリスト/研究者。 それまで一分もフランス語を学んだことがなかったのに、 フランス留学を決断。2002年UCLAエクステンションセンター・ 夏期英会話講座・修了、グランゼコールの一つ、2004年 リール政治学院・夏期特別セミナー修了(European Summer University Program at Institut d’Etudes Politiques de Lille)。 フランス国立パリ第九大学・Dauphine修士課程に2004-05年に在学。 多国籍企業の経営戦略が研究テーマ。大学では”英語”で講義を 受け、語学学校でフランス語を勉強するというチョット変わった留学生活をおくる。2004年7月3日から2006年3月25日までフランスに滞在。リール、トゥール、パリにて生活する。数々の政治家にインタビューする。 共著『オカマは差別か』(ポット出版)、2002年1月。 編集・共著『常識を超えて』(ポット出版)、2002年6月。 単著『ゲイ@パリ 現代フランス同性愛事情』(長崎出版)、2006年10月。 単著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)、2006年10月。 単著『フランスは最高!』(花伝社)、2007年6月。