ニューヨークの思い出(2)……ラクダつかいを夢見る……

ニューヨークに行くたびに必ず足を運ぶところがある。
マンハッタン郊外にある動物園だ。日本の動物園以外では、オーストラリアやチュニジアの動物園に足を運んできたが、郊外にあるその動物園は自分にとって最高の場所であり、愛しい動物であふれている。
メトロにゆられ(本を読んでいると酔ってしまうくらいに電車は揺れたのだ)、ついた最寄りの駅を降りると、目の前にダンキン・ドーナツがあった。村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」をちょうど読んでいて、何度も主人公がダンキンドーナツで食事をするシーンが出てくる。これも何かの縁とおもい店に入り、ドーナツふたつ(シナモンとチョコレート)と珈琲のセットを頼んだ。ブラックといったのに英語の発音が悪かったのか、ミルクたっぷり、口の中がべとーとするんじゃないかと思えるほどに甘ったるい珈琲を出された。こんなの飲みきったらアメリカ人みたいに太ってしまう、と思った。四年前にここにきたときはたしか、近くのマクドナルドに入ったっけ。ドーナツをふたつ食べてから、珈琲を片手に店を出る。さて、どうやって動物園に行くのだったか。微かな記憶を頼りに、歩き出すと、自動車向けに掲示されている表示が目に付いた。動物園の方向を示している。それに従い、誰も通行人のいない道をひとり進んでいった。
動物園につくと、窓口の女性が「Fuck」のかまえを右手でしている。なんじゃこれは、と思ったら、私の傍を通った同僚にむけてやったようだった。10ドルを受け付けでだすと、その日はタダだから、必要ないという。何とラッキーなのだろう。そして、愛する動物園へと入った。わたしはこの動物園に 14歳の時にも来ている。11年前の夏、中学二年生のころだった。もっとも一番最後に来たのは、大学2年から3年へと進級する春休みだった。園内を歩くたびに、中学生のころの記憶と、大学二年生の頃の記憶が甦ってきた。頭の中で園内にあるアフリカ村や高い階段の下に広がる駐車場の光景が頭の中にひろがる。そうだ、室内に象さんが二匹いったけか。しかし、かつて象がいた場所にはラクダが二匹、展示されている。
動物の中でもっとも愛するラクダとひさびさに対面できて(その前に対面したのは、チュニジアの南部の都市、トゥズール近辺の砂漠で野ラクダにあったのが最後だ)、彼らの顔・動作をじっと眺めた。あぁ、東京でラクダを飼えたらどんなに優雅なことだろう、と妄想をする。買い物にいくときに、ラクダにまたがり、ゆっくりと都内の道を歩く。買った品物をラクダの背にのせて、帰り道を行く。きっと東京砂漠といわれることもある殺伐とした生活に潤いがもたらされるだろうな。ラクダの性質について説明があったので、じっくり読んでみた。華氏で書かれているので、具体的な数値まではよく分からないけれど、昼は暑く夜は寒い砂漠の気候も堪えられうる生命力を持っているそうだ。冬になるとあつい毛が生えてくるんだって。氷点下になっても大丈夫なそうだ。ラクダというとあつい砂漠のイメージがあったので、東京の冬は越せないのではと思ったけれど、きっとヘーキなんだろうな。あぁ、ラクダが欲しい。将来はラクダ使いになりたい。そんな妄想・夢に取り憑かれた。
園内には虎がいた。ひろびろとした敷地に放し飼いされている虎はちょうど生肉をたべているところで、ガラスのすぐ真ん前にいるものだから、子ども連れの人々がその前に群がり、写真を撮る。野性的でどう猛な虎を見ていると、へんな妄想が思い浮かんだ。もしも、ここでガラスが壊れて虎が野に放たれたならば、この辺いったいはどうなるのだろう。皆まっさきに逃げるにちがいない。そして、次々と人を襲っていく虎。その悲鳴・子どもを抱きかかえ恐怖で引きつった顔をして逃げていく人々の様をありありと思い浮かべることができた。そのとき、なぜか大仁田厚が去来した。彼がこの場にいて虎と闘うとしよう。どうなるんだろうか。血を流しながらも、ファイヤーと叫びながらガチンコ勝負するのかな。叫んでいる大仁田厚の顔と白のランニングにプロレス・パンツをはいた彼の勇士が想像された。
虎を見てから、暗いところに生息する鼠や、全長10m近くはあるんではないかと思える大蛇を見た。このどでかい蛇を食べたら、きっと大味だろうなんて思った。
かつてきた場所を訪れるというのは、不思議なものだ。かつての記憶が突然頭の中であらわれ、少しの混乱をきたす。動物園内にあるアフリカ村にきたとき、かつて夏きたときの暑い11年前の風景が眼前に甦った。

カテゴリー: 及川健二のパリ修行日記 | 投稿日: | 投稿者:

及川 健二 について

ジャーナリスト/研究者。 それまで一分もフランス語を学んだことがなかったのに、 フランス留学を決断。2002年UCLAエクステンションセンター・ 夏期英会話講座・修了、グランゼコールの一つ、2004年 リール政治学院・夏期特別セミナー修了(European Summer University Program at Institut d’Etudes Politiques de Lille)。 フランス国立パリ第九大学・Dauphine修士課程に2004-05年に在学。 多国籍企業の経営戦略が研究テーマ。大学では”英語”で講義を 受け、語学学校でフランス語を勉強するというチョット変わった留学生活をおくる。2004年7月3日から2006年3月25日までフランスに滞在。リール、トゥール、パリにて生活する。数々の政治家にインタビューする。 共著『オカマは差別か』(ポット出版)、2002年1月。 編集・共著『常識を超えて』(ポット出版)、2002年6月。 単著『ゲイ@パリ 現代フランス同性愛事情』(長崎出版)、2006年10月。 単著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)、2006年10月。 単著『フランスは最高!』(花伝社)、2007年6月。

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