せめてキスだけでも ……HIVとあいさつ……


11月26日、フランス国民議会・ブルボン宮の一室にて、『HIV(SIDA)と闘う地方議会議員の会』による記念すべき第十回総会が開かれるというので、私は赴いた。日本の厚生労働大臣にあたる人物も出席するこのイベントにあわせて、政府が作成したHIV年次報告書が発表される。シラク大統領は残念ながら出席せず、メッセージ代読となった。
その日の主役はJ・ロメロ(Jean-Luc ROMERO)さんだ。ロメロさんとは、『クィア・ジャパン・リターンズ Vol.1 ——あなたに恋人ができない理由 関係が続かない原因』に及川健二が寄稿した迫真のドキュメント「エイズに逝ったパリの恋人。生きぬいて愛したい」の主人公だ。
わたしが席について資料を読み耽っていると、ロメロさんが私の前席に座った男性のところにきて何やら話している。カレは私に気がつき、「こんにちわ」という。私も微笑みかえし、「こんにちわ」と応えた。
素っ気ないな……。
自分でそう思った。
なぜかというと、ロメロさんを見つけるなり「Jean-Luc」といって近寄り、両頬にキス(bise)をする人が跡を絶たないからだ。男女問わず、だ。スペインやフランスで生活している人は御存知のように、友達同士、会った最初に両頬キス(bise)をするのがフランスやスペインの慣わしだ。待ち合わせとしてつかわれる場所(スポット)にもし立っていれば、両頬キスを何度も何度も見ることができるであろう、フランスであれば。
いかん、いかん。わしもフランス文化に習って
「ロメロさん、お久しぶりです」
と近づき体をあわせ、両頬にキスをするべきだったな、親しみの念を表現でしめさないといけなかったな。反省しきりだった。
五時間の総会が終わったあと、ロメロさんのところに近づき、届いたばかりの『クィア・ジャパン・リターンズ Vol.1 ——あなたに恋人ができない理由 関係が続かない原因』を渡した。「ご親切にありがとう。こないだのインタビューのやつですね。」といって受け取ったロメロさんは、テレビ局や新聞社のインタビューをその後受けるらしく、慌ただしく人混みから去っていった。
親しみを両頬キス(bise)で表す文化って素敵だなーと思いつつ、相手から受けることはできても、自分からはなかなかできない。ただ「bonjour」だけじゃ、素っ気ないな。
先日、欧州の女性何人かと話していたとき、キス(bise)の話になった。家族とひさびさにあったとき、何をする?と聞かれたので、「お、元気か?」というぐらいかなといったら、「それだけ?」と突っ込まれた。抱き合ったり、キスをしないのか、と聞く。しませんね、何十年ぶりの再会ならば別だろうけど一年ぶりにあったぐらいで、そこまでしない、日本じゃ大げさすぎるよーetc、説明をした。両頬キスしないと素っ気ないものなのかしら。
そうならば、練習してみるとしよう。といっても、日本に帰って男女問わず知人にちかづき、いきなり軽く抱きしめ、「Ca va bien?」(元気だった?)とかいいながら、両頬にキスしたら、間違いなくグーでパンチが飛んでくるな。キスでなく両頬に平手ウチをうけるか、ケリも入るか。
では、犬やネコにでもするか。ひっかかれるな。うーむ。

カテゴリー: 及川健二のパリ修行日記 | 投稿日: | 投稿者:

及川 健二 について

ジャーナリスト/研究者。 それまで一分もフランス語を学んだことがなかったのに、 フランス留学を決断。2002年UCLAエクステンションセンター・ 夏期英会話講座・修了、グランゼコールの一つ、2004年 リール政治学院・夏期特別セミナー修了(European Summer University Program at Institut d’Etudes Politiques de Lille)。 フランス国立パリ第九大学・Dauphine修士課程に2004-05年に在学。 多国籍企業の経営戦略が研究テーマ。大学では”英語”で講義を 受け、語学学校でフランス語を勉強するというチョット変わった留学生活をおくる。2004年7月3日から2006年3月25日までフランスに滞在。リール、トゥール、パリにて生活する。数々の政治家にインタビューする。 共著『オカマは差別か』(ポット出版)、2002年1月。 編集・共著『常識を超えて』(ポット出版)、2002年6月。 単著『ゲイ@パリ 現代フランス同性愛事情』(長崎出版)、2006年10月。 単著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)、2006年10月。 単著『フランスは最高!』(花伝社)、2007年6月。