投稿者「舞 山根」のアーカイブ

ライターのギャラについての話〜その1〜 [下関マグロ 第5回]

この原稿は北尾トロと僕が交互に書いているわけだけど、僕自身、北尾トロの原稿を読むのが楽しみである。あの頃は知らなかった新事実というものが、わかるからだ。

北尾トロの前回の原稿にあったイシノマキでのアルバイト料が月に11万円から12万円に騰がったという記述。これにはけっこう驚かされた。

すでに書いたが、僕はオナハマという会社で15万円の給料で雇われ、イシノマキに出向するというおかしな雇用関係だったが、北尾トロより僕のほうがたくさんもらっていたとは夢にも思わなかった。 続きを読む

編集プロダクション「イシノマキ」は天国か地獄か [下関マグロ 第4回]

編集プロダクション「イシノマキ」に籍は置いたものの、いったい何をどうすればいいかまったくわからなかった。

まあ、事情というのは、あとからわかってくるのだが、これは伊藤秀樹(のちの北尾トロ)がイシノマキを辞めたため、その穴埋め要員として僕が雇われたのである。

そんなことはまったく知らない僕だったが、とにかく何をどうしていいのかわからない。一応、イシノマキへは朝10時くらいに顔を出すのだが、ほとんどの人は出社していなかった。何がどうなっているのかがよくわからない。というより、僕個人として、社会人感覚が身についた段階でなく、「空気を読む」とか「気を利かせる」ということがまったく不可能だった。

社長の姫路さん(仮名)はいつもいる人ではなかった。仕方がないので、経理の女性の厳原さん(仮名)なんかと無駄話をして一日を終えるなんてことが何日か続いた。何日間そんなことをしていたのか記憶があいまいだが、とにかく最初のうちは退屈で居づらくてしょうがなかった記憶がある。 続きを読む

名刺を作ればライターというけれど [下関マグロ 第3回]

1983年の年末から1984年の正月。僕はひとりで中野坂上のフレンドマンションにいた。スーさんは年末から栃木の実家に帰っていたが、僕は山口の実家には帰省しなかった。理由は、単純に金がなく、電車賃が払えなかったからだ。

部屋にはスーさんがクリスマスに買ったファミコンがあった。正式名称はファミリーコンピュータで、その年の夏に出たヒット商品であった。まだソフトはドンキーコングくらいしかなかったけれど、年末年始の間ずっとそれをひとりでやっていたのだ。

年が明けて帰ってきたスーさんにそのことを言うと、彼は苦笑いをしていた。そんなことより、僕らはそのころ、会社を辞め、自分たちで仕事をやろうという話で盛り上がっていた。写真集を作るような編集プロダクションをやろうというのだ。 続きを読む

初めて出会ったフリーライター [下関マグロ 第2回]

大阪から東京へ来て、雑誌『スウィンガー』を発行する会社に勤務することになった1983年の春。東京駅から中央線に乗って驚いたのは、窓から見える桜の美しいことだ。飯田橋あたりから四谷にかけての線路脇の土手には、桜の樹が植えられている。

初出勤の日、会社で新入社員歓迎会を兼ねた花見が催されることとなった。場所は電車から見た土手だった。

小さな会社で、新入社員といっても僕ひとりだけである。それでずいぶんと飲まされ、いつしか酔いつぶれてしまった。生まれて初めて、前夜の記憶がないほど飲んだ。そして、気がつけば、まったく知らない家で目が覚めた。

「増田くん、増田くん」 続きを読む

序章 [下関マグロ 第1回]

「せっかく受かったんじゃから、そこへ行きなさい」

母親は、唯一合格した大学に行けと言う。もっともなことだ。僕は、一浪しており、その年に受けた大学もほとんど落ち、たったひとつだけ合格した大学なのだ。しかし、この唯一合格した大学は、たまたま予備校で試験があったので、受けただけで、まったく行く気がなかった。だいたい東京の大学に行きたいと思っていたのだが、その大学は大阪にあった。僕はどうにも気が進まず、母親の言葉にも黙っていた。

「おばあちゃんも心配して、どこでもええから、行きなさいって言うちょったよ」
と母親が言う。祖母は、病気で入院していた。そんな祖母に心配をかけちゃいけないなと思い、この大学へ行くことにした。

大阪の大学とは桃山学院大学であった。入学してもやる気は起こらず、僕は5年間も大学生活を送ることになった。1年留年したのだ。

つまり一浪一留で、僕は社会に出るのに通常の人よりは2年多めにかかったことになる。これだけ、時間を費やしたにもかかわらず、僕は自分がどういう仕事をしたいかとか、何をやりたいかということはさっぱりわからなかった。

でも、とりあえず東京へ行こうという考えはあった。不思議なことに東京に行けばなにかあると思っていたのだ。

就職活動というものはほとんどせず、とりあえず上京。高校時代の同級であった岡本くんの下宿先へ転がり込んだ。 続きを読む