投稿者「伏見 憲明」のアーカイブ

伏見 憲明 について

作家。 1963年生まれ。 著書に『魔女の息子』(第40回文藝賞受賞/河出書房新社)、『さびしさの授業』(理論社)、『ゲイという[経験]増補版』(ポット出版)ほか多数。 編集長として『クィア・ジャパン vol.1〜5』(勁草書房)、『クィア・ジャパン・リターンズ』(ポット出版)を刊行。 詳細なプロフィールへ→

QJw「会社で生き残る!」7

vol.2.jpg環境分野の企業●43歳
自分を虐めてやろうと営業職に
[名前]しげ
[居住地]東京
[業種]環境分野の企業
[職種]水質分析・主任
・昭和の田舎ゲイ
ぼくはある意味、典型的な「昭和の田舎のゲイ」だったと思います。生まれたのは昭和37年で、比較的保守的な土地柄の山口県宇部市で育ちました。父親は11人兄弟の長男だから、とにかく親戚縁者の多さは普通じゃありませんでしたね。その親父の長男だから、家を継ぐという意識は自然に植え付けられました。当時はセクシュアルマイノリティに肯定的な「ゲイカルチャー」なんてものはかけらもなかったから、思春期に入って自分の性癖に気づいてからの葛藤は、半端じゃなかった。小学6年のころにはもう薄っすらとその自覚があったし、中学の時分には「このままずっとここにいたら、いつか殺されるんじゃないだろうか」と本気で危惧していました。 続きを読む

QJw「会社で生き残る!」その6

vol.2.jpg大手不動産●36歳
ホモ嫌いの上司が実はホモだった!
[名前]吉田武志
[居住地]大阪
[業種]大手不動産
[職種]営業
・営業が自分に向いている
勤めているのは、一応名前の知られている大手不動産会社です。自分は営業でチーフをしています。営業という仕事は、すでに顧客になってもらっているところをまわるものと新規開拓の2種類あります。今回は仕事で東京に来ています。
勤続して13年……その前は事務系の仕事をしていました。その会社には新卒で入って約2年いました。転職した理由は仕事が面白くなかったから。かといって自分のしたいこともわかっていなかったので、再就職の活動は大変でした。次に不動産業を選んだのは、営業が自分に向いているのではと思ったからです。実際、いまは営業の仕事を面白いと思っています。ひとと話をする仕事じゃないですか。その中でいろんな考え方を聞けるし、どの業種の景気がいいとか世の中の流れもわかる。対人関係の面白さもあるし、それに居心地は悪くありません。 続きを読む

QJw「会社で生き残る!」その6

vol.2.jpg美術工芸品制作●35歳
心霊現象で退職
[名前]瀬尾公太
[居住地]関東
[業種]サービス業
[職種]美術工芸品制作
美術工芸品の制作と販売をしている会社で働いています。従業員は正社員が10人くらいで、あと、扱いはアルバイトやパートになりますが、職人さんが数名います。ぼくは社員として営業で入りましたが、いまは制作を中心に働いています。みんな横並びなので、役職はないですね。社長がいて、各部署で独立しています。母方の祖父が始めた会社で、現在は兄が社長をしています。働いて8年になります。
20代は、大学を卒業してから1年半くらい老人保健施設で相談員の仕事をしていました。できたばかりの民間施設で理事長が同じ大学を卒業したひとで、誘われて就職しました。働きやすい環境でしたが、古戦場跡に建っていた施設だったせいでしょうか、オープンして3ヵ月で施設長が倒れたり、職員が交通事故にあったり、職員の家族が亡くなったりしまして、ぼくも車での通勤途中に追突事故にあってしまって、怖くなって(笑)、辞めてしまいました。 続きを読む

QJw「会社で生き残る!」その5

vol.2.jpgメガバンク●42歳
オカマはノンケの2倍働く必要がある
[名前]西本潔
[居住地]東京
[業種]メガバンク
[職種]事務管理
・デビューしてすぐサセコになる
勤務しているのは、某メガバンクです。入行してちょうど20年弱といったところですね。支店での融資などの経験を経て、本部の商品開発等に関わり、現在は事務管理部門に所属しています。エリートかどうかですか? うーん、中の上という感じですか(笑)。同期入社の連中と比較して、昇進が遅れたときなどは、心が乱れ、ひどく悔しい思いをした時期もありましたが、現在は、気持ちに折り合いをつけるすべを身につけ、適当にやり過ごしています。出世するためにこれから費やすエネルギーと、その見返りとしてのサラリーアップを比較した場合、「もうしんどいことは嫌。いまのままで十分満足」というのが本音かな。 続きを読む

QJw「会社で生き残る!」その4

vol.2.jpgトレーダー●32歳
運用資金は400万円→6千万円
[名前]藤井貫太郎
[居住地]東京
[業種]金融関係
[職種]トレーダー
・「結婚したら一人前だ」
投資家といわれると歯痒いですが、ぼくがやっている株の売買は、「システムトレード」と呼ばれているもので、決められたタイミングで、機械的に売買を繰り返していくという投資法です。大きなドローダウン(含み損)をかかえることもしょっちゅうあるため、それに耐えられる精神力と、ある程度の資金力がないと真似のできない投資法かもしれません。 続きを読む

QJw「会社で生き残る!」その3

vol.2.jpgシステムエンジニア●41歳
お姫様抱っこのためにマンションを購入
[名前]永山雄樹
[居住地]東京
[業種]コンピューター関係
[職種]システムエンジニア
・ニ丁目デビューとともに店子に
コンピューター会社でSEをしています。内容は、たとえばパソコンでもそうですが、本体があってプリンターやカメラがついていたりしますよね。そこでプリンターがおかしいと、プリントできません、というメッセージが画面に出ます。それが大きなシステムになると、もっと大きなコンピューターにそれぞれのパソコンやいろいろな機器がネットワークでつながっていて、何かがおかしいと情報が上がってくる。それをどこが悪いのかを切り分けて、直せるものは自分で直したり、専門家が必要なときは状況を伝えて必要なひとや部品を調達する仕事です。 続きを読む

QJw「会社で生き残る!」その2

vol.2.jpgサービス業●30歳
彼氏と暮らすために上京
[名前]大阪しんじ
[居住地]東京
[業種]サービス業
[職種]事務
・パートナーと出会って大阪から東京へ
情けない話ですが、転職歴は激しいです。地元の大阪で、高校を卒業してすぐに働きに出ました。当時はまだ幼くて何をしたいのかも考えずに就職したので、わりとすぐに辞めてしまって、それと前後して働きはじめたゲイバーで2年ほど店子をしていました。そのあと、24歳のときにフォークリフトの免許を取って横浜の建築現場に働きに行ったりしていましたが、そこも半年ほどで辞めて、また大阪に戻って来て建築資材の販売会社に就職しました。それあたりからですかね、先のことをゆっくり考えるようになったのは。それで、このままいくのかなあ、と思っていたらいまのパートナーと出会ってしまいました。彼は東京に住んでいて、遠距離のお付き合いをしているうちに、一緒に住んでもやっていけるかもしれないと思えるようになって、大阪を離れて東京に出てきました。いまの仕事はこっちに引っ越してからなので、はじめて1年弱くらいですね。事務の仕事をしています。 続きを読む

QJw「会社で生き残る!」その1

ikinokoru.jpg会社で生き残る!
取材●伏見憲明 構成●茶屋ひろし・川西由樹子
芥川賞を受賞した絲山秋子氏の『沖で待つ』に、
こんな言葉がある。
「事実は現場にしかないのですから」
──まさにその通りだ。
本当のことは一人ひとりの生活の中にしかない。
一方で、理論は理念の自己弁護に終始しているし、
アンケートや統計で出てくる数字にも
時代のリアリティを感じられなくなっている。
だったら、「現場」に話を訊きにいこう。
一般社会で生きるゲイたちはいったいどんな思いを抱いて働いているのか、
どんなふうに社会生活を生き抜こうとしているのか。
そしてそこにあるリアリティとはどういうものなのか。
業種、職種、年齢などを異にする
13人のゲイたちに、インタビューを試みた。
みなさん、語りにくいことをいっしょうけんめい言葉にしてくれた。
そこに浮かび上がってきた、06年のゲイたちの時代がここにある。
続きを読む

クィア・ジャパン・ウェブ(QJw)公開

vol.0.jpgこれからQJシリーズをネット上で展開します。
バックナンバーの記事の再録ほか、今後、新たな記事を制作して、QJwのカテゴリーにアップロードしていく予定です。
第1弾として「クィア・ジャパン・リターンズ」vol.2の特集「会社で生き残る!」のルポルタージュ記事を公開することにします。昨年、伏見が13人のゲイ社会人に取材して、職場、社会生活におけるゲイをめぐるリアリティを浮き彫りにしようとしたものです。「ゲイたちの現在」をいっしょに考えていければ、と思います。

私信・上野千鶴子さまへ

yoku.jpgご無沙汰しております。
朝日新聞で鶴見俊輔さんと対談をなさっている様子を拝見したばかりです。相変わらずご活躍のようですね。
先日、ポット出版から拙著をお送りさせていただきました。編集者がぶしつけな書評の依頼をしたようで、大変失礼いたしました。お忙しくてご執筆いただけないとのことで、残念でしたが仕方ありません。
ただ、私としましては、今回の本だけは上野さんにお目通しいただいて、ご批判をもらえればと切に願っております。上野さんがご多忙なのは重々承知しておりますが、『欲望問題』は、学恩がある(と勝手に私が思っているだけですが)上野さんへの手紙、あるいは、「自主上野ゼミ」をやってきた私なりの「博士論文」として書いたものです。長い間、私なりに上野さんから多くを学び、また自身の活動を通して切実に考えてきたことを自分の言葉で誠実にまとめてみました。そして、この本は上野千鶴子思想への根本的な疑問にもなっていると思います。もし上野さんに私の「問い」にお応えいただけるのなら、それ以上のことはありません。
もちろん上野さんがもっと重要なお仕事を抱えていらっしゃること、私ごときの願いに応える義理も関係もないことはよく心得ております(それはそうでしょう!)。が、私は今度の本では自分の抱いた問いを上野さんに真摯にぶつけてみたいのです。すごく、ずうずうしい、あつかましいことを書いているのはわかっています。けれど、このことは、たぶんもうこういった本を書くこともない私の、活動家としての、理論家?としての最後の願いです。自分がとりあえずたどり着いた場所が本当に間違っていないのか、どこに問題があるのか、何か勘違いがないのかを、上野さんの胸をお借りして確認したいのです。
すでに、ポット出版のサイト*では、多くの論者の方々からこの本についての書評をご寄稿いただいております。橋爪大三郎さん、中村うさぎさん、遥洋子さん、小浜逸郎さん、藤本由香里さん、竹田青嗣さん、吉澤夏子さん、赤川学さん、黒川創さん……など40名近い人たちからご意見、ご批判をいただいております(これから、田中美津さん、伊田広行さん、加藤秀一さん……などからもご寄稿いただけるようです)。それぞれ考えさせられる内容なのですが、それらを読むにつけ、益々、上野さんのお考えを聞かずにいられない気持ちになっております。
*http://www.pot.co.jp/pub_list/index.php/category/promotion/yokuboumondai/
思えば、私が文章を書く人生になるきっかけを作ってくださったのは、上野さんです。セクシュアリティを考える言葉を与えてくださったのも上野さんなら、「ニュー・フェミニズム・レビュー」という場を与えてくださったのも上野さんです。私自身は、勝手に「上野千鶴子の一番弟子」を自称してきましたが、それは冗談ではなく、いったい上野千鶴子の弟子で私以上の仕事をしているやつがいるのか? という自負を(ひどく生意気にも)秘めてまいりました。と、泣きを入れても、戦略的な上野さんが私の誘いに乗るようなことはないと思いますが、あるいは、市井のオカマなど相手にするのもバカバカしいでしょうが、これは正直な気持ちでもあります。
今回、私がこの本を執筆しようと思ったのは、ジェンダーフリーなどをめぐる上野さんのご発言を遠くから見ていて、何か、とても不誠実なものを感じたからでした。それは、これまで上野さんのことを尊敬し、青春時代からアイドルとして敬愛してきた私には、ひどく残念で、一冊の本を書かずにはいられないほどの焦燥を与えました。本当に上野さん、それでいいのか?と。私がこの本を書かざるを得なかったのは、自分の信じていたものを(たとえ意見の違いがあっても)信じていたい、という一心からです。
と、すっかりファンレターになっていました。とにかく、私の気持ちを伝えたく思いました。振り返ってみれば、これまで何度かお目にかかったことはありますが、そのときはインタビュアーとしての私でしかなく、伏見憲明として同じ高さの目線で上野さんと向い合ったことはありません。知り合ってもうずいぶん経ちますが、どうしたわけか公開の場で対話したこともただの一度もなかったですね(まあ、身分を考えれば当然ですが)。
べつにストーカーになるつもりはありませんが(笑)、今後、場合によっては「性別二元制」をめぐる公開シンポジウムなども呼びかけさせていただこうかとも考えております。高見にのぼられた上野さんが象牙の塔から降りてきてはくれないかもしれませんが、新宿二丁目のようなふつうの人が集まるところにお迎えして、ジェンダーやセクシュアリティ、「性別二元制」をめぐって本当に私たちがどこに向かっていけばいいのか、差別をなくすにはどうしたらいいのかを議論する機会などあったら意義深いと、ひそかに構想しております。
長くなりました。ご多忙のところお付き合いいただきまして、ありがとうございした。たくさんの重要なお仕事を抱えて大変だとは思いますが、体調に留意されて、益々ご活躍してください。また遠からずご連絡さし上げます。いい年をした中年オカマが「お姉様、もっとかまってぇ」とだだをこねているような気持ち悪い文面になってしまいました。お許しください。でも拙著にお目通しいただければ幸いです。
2007.3.26
伏見憲明
*これは3月の末に上野千鶴子さんへ送ったお手紙です。「個人的なことは政治的なこと」ということで、私信を公開します。ちなみに他人の私信を公開する趣味はありませんが、上野さんからは音沙汰なしです。彼女のリクエストに応えて版元が2冊も献本したのですけどね……。献本には必ず「取り急ぎ御礼まで」と律儀にはがきを返される上野さんにして、いったいどうしたことか。まだ都知事選を闘っているんでしょうかねえ。