投稿者「伏見 憲明」のアーカイブ

伏見 憲明 について

作家。 1963年生まれ。 著書に『魔女の息子』(第40回文藝賞受賞/河出書房新社)、『さびしさの授業』(理論社)、『ゲイという[経験]増補版』(ポット出版)ほか多数。 編集長として『クィア・ジャパン vol.1〜5』(勁草書房)、『クィア・ジャパン・リターンズ』(ポット出版)を刊行。 詳細なプロフィールへ→

いただいたご本『排除と差別の社会学』

● 好井裕明編『排除と差別の社会学』(有斐閣)

本書を石井政之さんにお送りいただいた。名著『顔面漂流記』で、痣のあるジャーナリストとして世間にカミングアウトしたご仁である。彼は異形性に対する差別を告発し、社会を分析し、当事者のネットワークを先頭に立って作ってきた。その彼が自身の活動を振り返った文章を寄稿していて、それがとてもいい。単に、自らの運動の軌跡を綴っているのではなく、自己批判的にそれを捉え直そうとしている。

差別と闘うことのみを目的としていたときには、人間関係を含めてさまざま挫折せざるをえなかったが、一度活動を休止し、転居先で結婚し、子供をもうけ、自己肯定的に生きられるようになると、自分の表現自体も変わってきた。「転居してから、ユニークフェイスへの問い合わせの質が変わった。前向きに社会で生活している当事者からのメールが増えてきたのだ。東京にいたときは、差別された当事者のルサンチマンあふれるメールが多かった。私の変化をユニークフェイス当事者はブログを通じて感じ取っていたのだ」。

社会運動、反差別運動などをしていると、自分の痛みや正義に囚われて、自身の理念から周囲を睥睨していることになりがちだ。そういう運動はいまの時代、ルサンチマンを共有する一部の当事者にしか共感されない。自分の人生をそれなりに楽しんでいること、他者との違いをある程度許せる余裕があることが、共感を得るための糊しろになるのではないか。論文ではなく、彼の自身の変化を内面的な言葉で読みたいと思った。

いただいたご本『おみごと手帖』

● 中野翠著『おみごと手帖』(毎日新聞社) 1238円+税

毎年お送りいただく中野翠さんの一年間のコラムをまとめた単行本。「サンデー毎日」の連載はもう二十年以上になると思うが、彼女の残してきた文章は将来、時代の証言として改めて意味を持つことになると思う。今回の本のあとがきで、中野さんはこう記している。

「この一年、さまざまなジャンルで変動があった。何かが終わり、何かが始まるーーそんな気配を多くの人が感じ取ったと思う。たぶん、何年か後には「2009年が、時代の曲がり角だったんだなあ」と思い起こす、そんな年だったんじゃないかと思う」

ぼくも09年はそんな一年だったように振り返る。それは格差社会論のようなわかりやすいことでもないと思うのだけど、時代の色彩自体が変容してしまったのだと感じる。これはぼくの過ごしてきた46年の歳月のなかでももっともドラスティックな変化のように思う。その意味についてはまだ語る言葉を持たないが、甘い時代が終わったことだけはたしかだろう。ま、もう46年も十分楽しんできたのだから、あとの人生が悲惨でもしんどくてもすでに元は取っている気がするんだけど(笑)。

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Perfume DVD をプレゼント!

41azeHhxLHL._SL160_AA115_.jpgアイドルとは何か? ある社会学者の方からもらった年賀状のなかに、年末にアイドルのコンサートへ出かけて、そこには社会学的に考察すべき事柄がたくさんあったと記されていた。たしかにジャニーズをはじめ日本のアイドルってもっと論じられるべき、まさにジェンダーとセクシュアリティの交叉する現象だと思った。

考えてみれば、これまでエフメゾの音楽特集でアイドルというのはやったことがなかった。伏見ママはもともとそんなにそっち方面が好きではなかったのと、やはり音楽としてバカにしているところがあったので考えもしなかった。なので、1/20(水)のエフメゾはひばりから Perfume まで日本の歌謡史を飾ったアイドルたちの音源を集めて、勉強してみることに。

だけど、iPODにそれを入れている間、「でもこの人ってアイドルかなあ」とその線引きに首を傾げることしばし。例えばグループサウンズ。タイガースとかテンプターズ(←古い)っていまでいうところのジャニーズみたいなものだろうか、とか、初期の和田アキ子や竹内まりあはアイドル枠だったのかとか、尾崎豊は社会派ヤンキーのアイドルだったのかもとか、あるいは高峰秀子(←知っている人自体いないかも)などは当時どうだったのか……とか。

伏見はあまり歌謡曲や芸能界に興味を持たずに生きてきたので、謎がいっぱいで関心が尽きない。最近のPerfumeもなんであんなに若いゲイたちに人気なのかよくわからなくて、昨日なんか寒い中、新宿の街頭で上映されていたライブDVDを30分を見て過ごしてしまった(笑)。あとで若い子に聞いたら、彼女たちのライブってもう口パクであることは織り込み済みで楽しみに行くんだってね。つまり観客も「アイドル現象」の一部になることを再帰的に楽しむ空間なのだと。うーん、すごい、そういう時代なのか!

mfmap.gifここ数日聴いていてわかったのは、アイドルが数年で消費されてしまう存在であることはたしかだが、時代を超える大スターは大抵、若いときにアイドル的な存在でもあったという事実。石原裕次郎しかり美空ひばりしかり、ビートルズしかり。アイドルって奥が相当深い……。みなさんのご意見もお店で伺いたいです。

というわけで、1/20(水)のエフメゾのアイドル特集をお楽しみに! そして、今回、伏見の研究用に購入したPerfumeのライブDVD『直角二等辺三角形TOUR』を一名にプレゼントします(太っ腹!←ただのデブではない伏見ママ)。終電前までのどこかで、お客様とママのジャンケン大会で決めますー。

営業はカフェタイム(17:00-19:00)からです。今週もハヤシライス、カレー、おでんを用意してお待ちしております!

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いただいたご本『リハビリの夜』

年末年始なんだかとても忙しくて、いただいたご本の紹介ができなかった。送ってくださったみなさん、申し訳ありませんでした。ぎっくり腰もほぼよくなったことだし、仕事はじめの今日からぼちぼち紹介していきたいと思う。

で、最初の本は熊谷晋一郎『リハビリの夜』(医学書院)。この本については他に書評を二つ書いたので、そちらを読んでもらいたいが、これはちょっとない、とてつもない著作である。すでに伏見の周辺では「驚くべき本」と評価が天井を突き抜けていて、中村うさぎさんなどとも熊谷さんとどこかの媒体で鼎談をしたいと話しているほど(これを読んだ編集者の人、よろしく)。伏見は著者の熊谷さんとは一度お仕事をさせてもらっているし、エフメゾにもお越しいただいたことがあるのだが、こんなにすごい人だとは思っていなかった(失礼)。めちゃくちゃ頭がいい人だという印象はあったし、ときに邪悪な(笑)表情をなさるので毒のある面白い人だと思っていたが(毒がないと人は面白くない)、これを読んで腰を抜かした。

今後マイノリティを論じる上でも、セクシュアリティを論じる上でも、障害を論じる上でも、コミュニケーションを論じる上でも、本書を抜きには何も語れない。自分を賭けて書いている姿勢に強く心を打たれる。

書評『「男らしさ」の快楽』

● 宮台真司ほか『「男らしさ」の快楽』(勁草書房)

八十年代のことであるが、フェミニズムの集会で、「男らしさって悪いところばかりではないと思うのですが……」と怖々発言したことがある。案の定、周囲の活動家から総スカンで、「あんな発言をするなんて、やっぱりあなたもしょせん男ね!」と一緒にいた知人にまで嫌われてしまった。そのように、フェミニズムやジェンダー方面では「男らしさ」というのは親の敵みたいなもので、それを肯定するのはイコ−ル「性差別者」というレッテルを張られかねなかった。

九十年代に入ると、女性学に触発された男性学も誕生し、「男らしさ」は男性自身をも抑圧するもので、そんな性役割りは脱ぎ去って「自分らしく」生きよう! という「脱鎧論」も喧伝された。ここでやっと男性にも性差別の加害者という面だけではなく、被害者の面にも光が当てられるようになり、少しだけ身の置き所が生じた。この辺りまでの議論については男性学を牽引してきた伊藤公雄氏の『ジェンダーの社会学』などでサーベイすることができるだろう。 続きを読む

すっごいパワーをもらいました!

fmfxmas4.jpgエフメゾのクリスマスイベントはおかげさまで大盛況のうちに終わりました! 17:00-の大塚隆史さんを招いたトークイベントは、ご著書「二人で生きる技術」の内容を中心に、パートナーシップと性愛との関係、関係性の「技術」とは何か?……といったテーマに話しが展開しました。コメンテータのノンケ女子、広瀬桂子さんのぼけっぷりもよく、ほどよい緊張感と、暖かい共感の空気のなかで、09年のエフメゾのトークイベントを終えることができました。けっこう「通」の方からも面白かったと感想をいただいて、忙しくてテンぱりながら司会をしていたママとしてはちょっとホッとしました。

19:00-のパーティはもう立錐の余地もない店内のなか、ブルボンヌ先生(写真)の伝家の宝刀、「ナウシカ」「メーテル」「三田佳子」の3本出てのショーで大盛り上がり。初めて見るノンケ客や学生ゲイらも大爆笑で、みんな口々に「面白かったー!」と帰っていきました。ブル先生さすがです。ドラァグクィーンショーもあそこまで行くと名人芸ですね(笑)。場末のバーに来てくださったブル先生に感謝!

パーティにあんなにたくさんの人、それも若い人から大人までが集まってくださり、水曜日だけとはいえ、幸せなゲイバーのママ生活だと心温まりました。不愉快なこともたくさんある毎日だけど、すっごいパワーをもらいました!

エフメゾの年内の営業は来週12/30(水)を残すだけになりました。09年を振り返りながら、年末のひとときを楽しんでください。カフェタイム(17:00-19:00)から店を開けています。地味営業ですが、スタッフ一同心よりお待ち申し上げております。

「東のエデン」事務所にて

eden.jpg本日はエフメゾの「エヴァ部」の「東のエデン」分科会! 

副部長の企画で、一部メンバーで豊洲ららぽーとまで出かけて映画版「東のエデン」を鑑賞。その後、実際にららぽーと内にある、映画版「東のエデン」の事務所モデルとなったカフェのVIPルームを借り切って(といっても安かったけど)会食&会議。窓からはレインボーブリッジなどが見え、沈んでいく夕日に感激しました。豊洲なんて初めて行ったけど、意外とロマンティックなところなんですね。

映画は、おばさんには情報量が多過ぎてついていくことができなかった……。でも会食時に副部長などから講義を受けて、なるほど!

(写真は、「エヴァ部」名誉顧問の中村うさぎ先生と、部活の若者たち)

09年は学生らに大いに触発された!

min.jpg年末なんで、一瞬、09年のエフメゾを振り返ってみる。

総じて、今年は、若い人たちのエネルギーに触発された、という感じでしょうか。先々週も大学生が大挙して朝まで店を占拠し、チンコマンコと口角泡を飛ばして明け方まで某作家らと盛り上がっていたし、8月には、有志が企画してピンクベア長谷川さんを講師に迎えて、エイズや性感染症についての勉強会をしたり(店が埋まるほど学生らが集まった!)、あるいは、錚々たる?顔ぶれが集まった「朝までリブ飲み」のときにも、怖いもの知らずの学生がベテランたちに物怖じせずに自己主張していた。そして、エフメゾが誇る「エヴァ部」の精鋭たちは、某オタク系評論家が来店したときも、エヴァ談義で見事に迎撃し、ママもビックリ仰天!

そういう賢くて元気のいい子たちに囲まれていると、数十年くらい人生経験があることなんて、いかほどの優位にもならないと痛感しますね。もうほんと、教わることばかりです。明日もエヴァ部の活動で『東のエデン』を鑑賞しに行くのだけど、ママは彼らの後をついていくだけです……(笑)。

そして、もちろん、若くない人もエフメゾではいい味を出してくれていて、先日も文学が好きな若い人が経験豊かなご年配のゲイに、折口信夫がどうの、稲垣足穂がどうの、中井英夫がどうの、寺山修司がどうの……と滅多に聞けないエピソードを伺って、その面白さに興奮していました。あるいは、エフメゾはゲイバーとはいえ、ゲイ以外にも門戸を開いているので、ジェンダー/セクシュアリティ、年齢、職種……とさまざまな属性の人たちが集まってきて、気取らない異業種交流会、というか混沌とした異文化交流の渦が生まれます。それが面白い! エロから政治まで、みなさん、ほんと関心が広いこと。お客様は概してフレンドリーで、知らない人に話し掛けられてムッとするような方には、たぶん向かない店だと思うけど、人と言葉を交わすのが好きなタイプとは相性いいかも。

そんな若い人たちのエネルギーの中から来年あたり、新しい「運動」の潮流も生まれるような気がしますが、ママはもう半隠居なので、誘われるなら若い世代の後をえっちらおっちらついていくくらいかな(笑)。ということで、エフメゾ営業も09年は残り23、30日(水曜)の2日! パーティで弾けたい方は23日、まったりと年の瀬を味わいたい方は30日、ぜひともお越しください。もちろん両方でも大歓迎。スタッフ一同、心からお待ちしております!

いただいたご本『カント 信じるための哲学』

● 石川輝吉『カント 信じるための哲学』(NHKブックス)

読むべき本はいっぱいあって、机の上ではいつも献本やら図書館から借りてきて資料やらが積ん読されている。いったいみんなどうやって本を読む時間を捻出しているのだろう? そもそも怠け者なのがいけないのだが、最近では趣味の読書にすら余裕かなくなっている。

そんななかでも、これから絶対に精読しなければと思っているのが、石川輝吉著『カント 信じるための哲学』である。

「どこにも真理はない、と主張するだけなら、懐疑論や相対主義で十分だろう。……これは真理そのものを取り出す哲学ではない。だが、疑うための哲学でもない。この世界を、物の存在や善や美があることを、「わたし」の側から「真じるための哲学」なのだ」

序章に書かれたこの文言を読むだけで、これはいま読まなければならない一冊だ!と思う。ジェンダー/セクシュアリティの領域などはローカルなのでまだ相対主義や懐疑論をやっていれば論文が書け、ポストも獲得できるかもしれないが(←ポストはないか)、やはりいま現実の世界をしっかり生きようとすれば、必ずこの問題に行き当たる。相対化され、多様化され、拡散していく状況のなかで、いかに人と共同できるのか、いかにこの世界を共有できるのか。そうした問題意識を核においたカント論ならば、手に取らざるを得ない。

ちなみに、伏見が昨今こだわっているクィア学会の件も、そうしたテーマに関わっている。あれ、あまりにも卑小な実例ではあるが(笑)、登場人物たちの「キャラ」の問題ではなく、実は、思想性の問題なのではないかと。

関係ないけど、この本の著者の名前と髪型が妙にかわいいね(笑)。

いただいたご本『こんな私が大嫌い!』

978_4_652_07849_5.jpg● 中村うさぎ『こんな私が大嫌い!』(理論社/よりみちパン!セ)1000円+税

良書が数多く含まれている「よりみちパン!セ」シリーズのなかでも、これは最高傑作ではないだろうか。もちろん伏見の本も含めてであるが、ぼくとしては『こんな私が大嫌い!』を「よりみちパン!セ」のベスト1に挙げたいと思う。

理由は、まず取り上げられている題材が、いまどきの思春期の子供たちにとっていちばん琴線に触れる問題であること(大人にとっても重要な問題である!)。その表現方法が、文体、デザインともにちゃんと読者対象に向けて練られたものであること。文章量も彼らにとってちょうどよくコンパクトにまとまっているところ。イラストが内容にあっていて、とてもかわいいところ。そして、文章がとにかく魅力的で、内容が深く説得力があるところ。

これだけそろった一冊はそうそうない。

「「自分が嫌いじゃなくなる」ってことは、「自分への執着から解放される」ってことで、要するに「自分を嫌いでも好きでもなくなる」ってことなんだ」

こんなことなかなか言えません。中村うさぎがこれまでの七転八倒の試行錯誤なかから獲得してきた哲学の、もっとも純度の高い部分を、最高のエッセイで綴っている本だと思う。彼女の作品のなかでも、ぼくはこれがいちばん好きかもしれない。推薦なんてしないでも、ロングセラーとして読み継がれることでしょう。