投稿者「ポットサイト 編集部」のアーカイブ

写真・ポスターから学ぶ戦争の百年二十世紀初頭から現在まで

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書誌データ
●写真・ポスターから学ぶ戦争の百年
二十世紀初頭から現在まで(青弓社での紹介はこちら
●発行=2008年8月25日[第一刷] 
●発行所=青弓社
●著作=鳥飼行博
●発行者=矢野恵二
●印刷・製本=厚徳社
●定価=定価2,000円+税  ISBN978-4-7872-2028-8

ブックデザインデータ
●判型=A5判 ●製本=並製本 ●ページ数=376ページ
●カバー=STカバー 白・四六版Y目90kg/プロセス4C/グロスPP
●表紙=アラベール ホワイト・四六版Y目200kg/1C 特色TOYO 0067
●見返し=里紙/栗/四六版Y目100kg
●ブックデザイン=山田信也・和田悠里・沢辺均

マッキンダーの地政学  デモクラシーの理想と現実

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書誌データ
●マッキンダーの地政学 デモクラシーの理想と現実
原書房での紹介はこちら
●発行=2008年9月27日[第一刷] ●発行所=原書房
●著=H・J・マッキンダー
●訳=曽村保信
●発行者=成瀬雅人
●定価=定価3,360円+税  ISBN978-4-562-04182-4
●カバー印刷=株式会社平河工業社
●製本=東京美術紙工業協同組合

ブックデザインデータ
●判型= 四六判 ●製本=上製本 ●ページ数=368ページ
●カバー=Mr B・ホワイト・四六版Y目・110kg/2C 特色TOYO 0893+Y1050/マットPP
●オビ=羊皮紙・きなり・四六版Y目・110kg/1C/マットスミ
●表紙=アラベール・ホワイト・四六版Y目・110kg/1C 特色TOYO 0893
●別丁トビラ=アラベール/ナチュラル/四六版Y目90kg
●見返し=タント Y-10・四六版Y目・100kg
●スピン=伊藤信夫商店 5番
●はなぎれ=伊藤信夫商店 23番
●ブックデザイン=和田悠里・沢辺均

ヒエログリフ解読史

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書誌データ
●ヒエログリフ解読史(原書房での紹介はこちら
●発行=2008年10月25日[第一刷] ●発行所=原書房
●著=ジョン・レイ
●訳=田口未和
●発行者=成瀬雅人
●定価=定価2,520円+税  ISBN978-4-562-04175-6
●カバー印刷=新灯印刷株式会社
●製本=東京美術紙工業協同組合

ブックデザインデータ
●判型= 四六判 ●製本=上製本 ●ページ数=240ページ
●カバー=OKミューズガリバーリラ アイボリー・判T目76.5kg/プロセス4C/マットPP
●オビ=アラベール ホワイト・四六判Y目90kg/2色 K=スミ Y=特色 TOYO 10187
●表紙=OKミューズガリバーリラ アイボリー・菊判T目76.5kg/1色 K=特色 TOYO 10947
●別丁トビラ=OKミューズガリバーリラ アイボリー・菊判T目76.5kg/1色 K=特色 TOYO 10947
●見返し=STカバー/黒/四六版Y目115kg
●スピン=伊藤信夫商店 74番(オレンジ)
●はなぎれ=伊藤信夫商店 19番(黒)
●ブックデザイン=山田信也・沢辺均

第8章 EVとスマートグリッド(長山浩章)

【図表はまだ入れていない】

第8章 EVとスマートグリッド

1.EV(電気自動車)
1-1 EV車のもたらす社会変化
世界中で地球温暖化が叫ばれている中、ハイブリッド車(HEV: Hybrid Electric Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド車(PHEV: Plug-in Hybrid Electric Vehicle)のような低炭素負荷自動車が注目されている。これら自動車は既存のインフラの一部変更で、現在の技術で普及可能な技術であり、充電容量を大型化した蓄電池を搭載し、系統電源から充電をすることでガソリン等の化石燃料の使用を減らすことができる。

運輸部門は我が国の経済セクター別最終エネルギー消費の24.8% を占め、このことから自動車部門において、低炭素負荷自動車の普及は温室効果ガス排出削減に対して大きな効果を与えると期待されている。

     出所:経済産業省/EDMC「総合エネルギー統計」2010
図1 2008年度の分野別の最終エネルギー消費のCO2排出量

2008年度の最終エネルギー消費のCO2排出量のうち、運輸部門が23.7%である。このうち旅客用運輸は15.9%であり、このうち半分でも電気自動車はプラグインハイブリッドに代替できればCO2排出量を大幅に削減することができる。
 EV、PHEVはスマートグリッドの中でも重要な役割を持つことになる。これはEVもしくは
PHEVが各家庭では蓄電池の役割を果たすことになり、これにより送電網の負荷調整ができる
ことである。これはV2G(Vehicle to Grid)とよばれ、PHEV車両に搭載するバッテリーを充
放電することで電力系統の需要バランスをとる考え方である。これがうまくいけばEVやPHEV
の顧客は電力をオフ・ピークの安い時間帯に購入・蓄電することで、夜間充電の負荷を減らし、
ピークの高い時間帯に売電することができるようになる。これによりEVやPHEVを購入した
後、より早い期間で回収することができるようになる。
米国のデラウェア大学等でも研究が進められており、これはEVもしくはPHEVを電力料金に応じてグリッドへ売ったりグリッドから購入したりする需要に対応したシステムに組み込んだものである。
 これら低炭素自動車の将来の普及予測では、各研究機関において予測値は異なる。環境省「次世代自動車普及戦略」によると2020年のHEVは112万台、PHEVは35万台、
EVは25万台としている。
野村総合研究所が2010年5月に発表した2020年までのエコカー販売市場予測によると、2020年度にはHEVが1099万台、PHEVが140万台、EVが75万台と環境省(2009)の予測に比べて大幅に上方修正している。政府支援策等を考慮すると、EV販売市場は2020年に155万台にまで拡大する可能性があるとしている。

  出所:環境省(2009) 「次世代自動車普及戦略」 P154
図2 低炭素自動車の日本における販売予測(環境省)

  出所:野村総合研究所

図3 低炭素自動車の日本における販売予測(野村総研)

表1は環境省の研究会(2009)による2050年までの次世代自動車の普及予測である。2050年には次世代自動車は保有台数ベースでも54%を占めるとの予測を示している。

表1 日本におけるEV及びPHEVの販売・普及予測(環境省)
(万台)

      出所:環境省(2009) 「次世代自動車普及戦略」 P154

 また、橋本その他5名(2007)では2030年の日本においては内燃機関の車は20%に過ぎず、80%はPHEVであると仮定しているが、経済産業省(2010)によると表2のように、2030年には電気自動車とプラグインハイブリッド車を合計しても20-30%としている。

表2 2020~2030年の乗用車車種別普及目標
2020年 2030年
従来車 50~80% 30~50%
次世代自動車 20~50% 50~70%

ハイブリッド自動車 20~30% 30~40%
電気自動車
プラグイン・ハイブリッド自動車 15~20% 20~30%
燃料電池自動車 ~1% ~3%
グリーンディーゼル自動車 ~5% 5~10%
出所:経済産業省(2010) 「次世代自動車戦略研究会 次世代自動車戦略」

表3は世界の主要各自動車企業による低炭素自動車である。各社によってバッテリー搭載量と航続距離は異なることになる。

表3 世界の主要自動車各企業による低炭素自動車
地域 会社 車名 発売日(Q:Quarter) Battery Capacity(kWh) 航続距離
日本 日産 リーフ 2010年3,4Q 24 160km
トヨタ FT-EV 2012年 9 90km
トヨタプラグインHV unknown 2.63 23.4km
三菱 i MiEV 4月10 16 160km
Subaru プラグイン・ステラ 2009年7月 9 90km
慶応大学 エリーカ unknown 31 200km
欧州 BMW ミニE 3rd 7月 2009 35 100miles(160km)
メルセデス
ベンツ Vito 2010 32 130km
プジョー iOn(三菱i MiEVのプジョーver) 2010年末 16 160km
米国 クライスラー GEM 2009年 7.0 (6 sets×12V)
or 10.0 (9 sets×8V) 30miles (48km)
Or
40miles (64km)
GM ボルト 2010年3Q 8 out of 16.0
(理論値) 40miles(64km)
テスラ ロードスター 17th Mar 2008 53 233miles (393km)
出所:トヨタhttp://www.evcar.biz/m/catalog/ft-ev2.php, http://www.toyota.co.jp/jp/news/07/Jul/nt07_037.html
三菱http://vitz1f.ninja-x.jp/ev/EV.htm
富士工業http://www.fhi.co.jp/contents/pdf_53664.pdf
慶応大学http://www.eliica.com/
BMWhttp://www.miniusa.com/minie-usa/
ベンツhttp://www.daimler.com/dccom/0-5-633234-1-1271966-1-0-0-0-0-0-16694-0-0-0-0-0-0-0-0.html
プジョーhttp://www.treehugger.com/files/2009/09/ion-electric-car-peugeot-mitsubishi-imiev-ev.php
クライスラーhttp://www.gemcar.com/quotes/default.asp?ID=455
GMhttp://gm-volt.com/2007/08/29/latest-chevy-volt-battery-pack-and-generator-details-and-clarifications/
テスラhttp://www.teslamotors.com/display_data/TeslaRoadsterBatterySystem.pdf

1-2.EVの普及のインパクト
 低炭素負荷自動車の普及は、自動車自体から排出する炭素量を減少させると共に、これまで使っていた液体燃料(ガソリン等)を電力化するため、全国の(特に夜間の)電力需要量が増え、電力需要構成(電力負荷パターン)を大きく変えることになる。しかし、これに対応するための電源の選択によっては、特に石炭などの化石燃料を増やした場合は、逆にCO2が増加することになる。

1-2-1.先行研究
EV、PHEVの想定される充電パターンは本来、自家用車と商用車(バス、トラック)で異なり前者は1:00-6:00の安い深夜電力を用い(緊急時は町のcharging station)、後者は深夜のみならず昼間でも充電される。ORNL Review (2008)はPHEVの米国での普及について2020年と2030年に対してそれぞれの地域に7つのシナリオを当てはめて予測した。それぞれのシナリオで彼らはPHEV車はpm5時(夕方)かpm10時(深夜)に充電が開始されフルチャージするまで待たれると推定した。また、このためほとんどの地域で追加電気容量を建設しなければならず、もしくはpm5時に充電するシナリオではPHEVによる追加電気需要に見合うように需要応答に頼るしかないと結論付けた。PHEVが車両のうちの多くのシェアを占め、それ故により多くの電気システムが必要となる2030年までには、こうした必要性は危機的なものになるであろうとしている。
Uhrig(2005)は、PHEVの幅広い導入と利用によって、同等の一般車両、軽トラックと比べて性能や操作性を著しく落とすことなくガソリンや軽油を生み出す石油の使用を50-75%削減することができるとしている。また200基の1000MWe規模の原子力なり他の非汚染発電所を建設しなければならないこと、また電力を供給するためには、新たな変換、送電ラインや発電所(substation)が必要になると指摘している。
次世代の自動車システムが普及した場合の日本におけるCO2削減効果及びEV、PHEVがどの程度負荷低減に寄与するかについての研究としては、橋本 他(2007)、篠田 他(2007)、日渡他(2006)等がある。Yamaji et al (2008)では日本におけるPHEV車の導入パターンをより詳細に分析している。これはEV用のバッテリーがまだ高価であろうことを想定している。日渡その他(2006)はPHEVの走行パターンを用いてPHEV導入時の日本における電力需要の算出をしている。日本の全車両約8000万台にPHEVが普及した場合、その充電に必要となる電力は96km電気走行可能なPHEVで年間793億kWh、深夜充電を行うとしてベースロードは30,000MW増加するとした。

1-2-2.低炭素自動車導入によるインパクト計算
(1) 低炭素自動車導入による追加電力設備

日産のEV(リーフ)を以下の事例で、同車が100万台導入された場合の追加必要電力設備を計算を試みる。搭載Battery capacityが24kWhのため、これを5時間で充電するとした場合、充電設備には充放電効率を加味して 6.4(kW)が必要となる。
1km走るのに必要な電力量は0.15kWh (=24kWh/160km)。充放電を含めたEV効率を75%と仮定すると1km走るのに必要な充電電力量は0.2kWh/km= となる。
1日33.3km走るには6.66 kWhの消費電力で、365日(12,000km)では2,400kWhが必要となる。
100万台のEVでは100万台×2,400kWh=2,400,000MWhが必要。深夜(5時間×365日)で充電すると仮定すると1,825時間充電が必要となる。所要電力は、2,400,000/1,825=1,315(MW)必要となる。

ちなみにこれが三菱のi-mieVであると、1km走るのに必要な電力量は0.1kWh (=16kWh/160km)
搭載バッテリーが16kWhで5時間充電を仮定すると、充電設備には充放電効率を加味して =4.3(kW)が必要となる。
1km走るのに必要な充電電力量は先と同様の計算で0.133kWh/km= となる。
所要電力に関しても先と同様の計算をすると所要電力は、(0.133kWh×1000km×12ヵ月×100万台)/(5時間×365日)=875MW必要となる。

 トヨタプラグインハイブリッド車 は1日の走行距離33.3kmのうち、EV-modeでの走行可能距離は23.4km、搭載バッテリーは13Ah x 202V=2.63kWhである。これより、EVモードでのkmあたりの所要電力は充放電効率を75%とすると、0.15kWh= となる。所要電力は(0.15kWh×23.4km×365日×100万台)/(5時間×365日)=702MW必要となる。
ガソリン1リットルの低位発熱量(LHV)は約34,600kJ であるとして、これを電力量に換算すると約9.6kWhとなる [34,600kJ/3,600(kJ/kWh)]。
ガソリン車のエンジン効率を30%と仮定すると、1リットルのガソリンでエンジン出力は9.6kWh×30(%)=2.88kWhとなる。
ガソリン乗用車は1リットルで16km走るとすると1km走るにはガソリン0.0625リットル(=0.96kWh)が必要である。
1km走るのに必要なエンジン動力は0.18kWhとなる (=2.88kWh/16km=0.18kWh/km)。
1日33.3km走るとすると、6.0 kWh/日 (= 0.18 x 33.3)の消費電力となる。尚1台が365日走るとすると、必要なガソリンは750リットル(=1000km/月×12ヵ月÷16km/l=750 liter)で、100万台の場合は750(100万リットル)が必要となる。

(2)低炭素自動車導入のCO2排出量に与える影響
EPRI(2001)は、PHEVは通常のガソリン車に比べて50%以上の燃費の向上が可能であり、かつ環境負荷低減についてもNOxやCO2を大幅に削減できるとしている。

100万台の低炭素自動車が走る際のCO2排出量を計算し比較してみる。
EV車に関しては電気事業連合会の資料で用いている電力の使用端CO2 排出原単位として0.373kg-CO2/kWh という数値を用い、これに年間充電に必要な電力量kWhに0.373kg-CO2/kWhを乗ずることにより算出した。尚本試算ではEVは走行中はCO2排出は無いが、電気自動車であってもその充電を行う電力を作るのに使用するのに伴い発生することから、CO2排出量を求めた。風力や太陽光などの自然エネルギーで充電すればゼロになる。
トヨタPHEVについてはEVモードの航続距離が23.4km であること、また燃費がJC08モードで32.6km/l であることより、トヨタPHEV車100万台が1日33.3km走るのに必要な電力(Mh)及び、ガソリンの消費量(KL)はそれぞれ、(0.15kWh/km×23.4km×100万台×365日)÷(5時間×365日)=702MW、9.9km(これは33.3km-23.4m)×365日×100万台÷32.6km/l=110,000klとなる。
IPCC ではガソリン・軽油のDefalt値として74.1ton-CO2/TJ という数値を用いているので、これから74.1g-CO2/MJとなる。Litreあたりに計算すると74.1g-CO2 x 34.6MJ = 2,546g-CO2/Litre =2.55kg/Litreとなりこの数字を用いた。排出量は年間消費ガソリン量に2.55kg-CO2/litreを乗ずることにより算出した。
1台が1km走る際のCO2排出量を比較してみる。ガソリン車は1km÷10km/l×2.55kg/l=255gとなる。EV車は日産リーフが表1で「1km走るのに必要な電気量」を求めてあるので、0.373kg-CO2/kWhをかけて0.2kWh×0.373kg-CO2/kWh =74.6g、三菱i-mieVについては0.133kWh1×0.373kg-CO2/kWh =49.6gとなる。
 トヨタPHEVはEV航続距離が23.4kmであるので1日に走る距離を50kmとして、50km走る際のCO2排出量を求め、その値に(1km/50km)をかけることにした。まず50km走った際の排出量は23.4km×0.15kWh/km×0.373kg-CO2/kWh(EV)+26.6km÷32.6km/l×2.55kg-CO2/litre=3.39kg。これに1/50をかけると3.39kg×1000÷50=67.8gと求まる。

 (3).車種別費用計算
 次にそれぞれの車種について1km走るのにかかる費用を考えてみる。
ガソリン車については燃費を16km/l、ガソリンが148円/lとすると、1km÷16km/l×148円/l=9.25円となる。
 電気自動車についても先と同様に表1の「1km走るのに必要な電気量」に対し、それぞれ電気代9.17円/kWhをかけることで、日産リーフについては0.2kWh×12円/kWh=2.4円、三菱i-mieVについては0.133kWh×9.17円/kWh=1.22円と求めることができる。
 最後にトヨタPHEVであるが、トヨタPHEVはEV航続距離が23.4kmであるから、まず1日33.3km走った時の費用を算出した後に、(1km/33.3km)をかけることで求めた。1日33.3km走ったときの費用は23.4km×0.15kWh/km×9.17円/kWh(EV)+ 9.9km÷32.6km/l×148円/l(ガソリン)= 32.19円+44.94円=77.13円となる。これに(1km/33.3km)をかけることで77.13円×(1km/33.3km)=2.32円となる。
 このように走行距離が同じ場合、EVはガソリン車(燃費リッター16km)に比べCO2の排出量は20‐30%程度となる。

表4 各炭素自動車が100万台普及した場合の所要追加電力容量(MW)及びCO2排出量及び1kmあたりのコスト比較
トヨタPHEV 日産リーフ 三菱i-mieV ガソリン車 ハイブリッド車
搭載バッテリー 2.63kWh(※注1) 24kWh 16kWh
1回の充電での走行距離 23.4km 160km 160km
充電時間 1.5時間(200V)
5時間(※注3) 5時間(深夜) 5時間(深夜)
充放電効率 75% 75% 75% 30% (エンジン効率)
1リットルのガソリンでのエンジン出力:2.88kWh(9.6kWh×30%) 1リットルのガソリンでのエンジン出力:3.26kWh=1/(0.23/0.75)
(参照表参照)
燃費(km/l) 1リットルでの走行距離:16km 1リットルでの走行距離:35.5km
1日走行距離(km) 33.3
(うち23.4kmがEVモード使用、残り9.9kmがリンモード使用) 33.3km 33.3km 33.3km 33.3km
1km走るのに必要な電力量 (kWh) 0.15=
0.2=
0.133=
1/16リットル×2.88kWh
=0.18 kWh 1/35.5×3.26=0.092kWh
1日分:33.3km走るのに必要な消費電力量 3.51kWh/日
(23.4km)
(ガソリンは0.3リットルが必要) 6.66kWh/日 (33.3×0.2) 4.43kWh/日 (33.3×0.133) 6.0kWh/日
(33.3×0.18 kWh)
(ガソリン2.08リットルが必要) 3.1kWh/日
(33.3×0.092kWh)
(ガソリン0.938リットルが必要)
1ヶ月:
1000km走るのに必要な消費電力 0.15×1000=150kWh
(ガソリンは9.1リットル必要) 0.2×1000=200kWh 0.133×1000=133kWh 0.18×1000=180kWh
(ガソリン62.5リットル必要) 0.092×1000=92kWh
(ガソリン28.2リットル必要)
100万台充電に必要な電力設備(MW) (0.15kWh×23.4km×365日×100万台)/
(5時間×365日)=702MW
(ガソリンは110リットル必要)
(100万台ではガソリン110,000klが必要) (0.2kWh×1000km×12カ月×100万台)/
(5時間×365日)=1315MW (0.133kWh×1000km×12ヵ月×100万台)/
(5時間×365日)=875MW
1台では365×6.0 kWh
=2,190kWh必要
(ガソリン750リットルが必要)
(100万台ではガソリン750,000klが必要) 1台では365×3.1 kWh
=1,131.5 kWh必要
(ガソリン338リットルが必要)
(100万台ではガソリン338,000klが必要)
100万台の CO2排出量 (電力)
702MW×1,825h x 0.373kg- CO2/kWh =477,869t
(ガソリン)110,000kl×2.55kg/Litre =280,500t
(総排出量)477,869t + 280,500+477869
t = 758,369t 1315MW x 1,825h x 0.373kg-CO2/kWh =895,153t 875MW×1,825h x 0.373kg- CO2/kWh=595634t 750,000kl×2.55kg/Litre =1,912,500t 338,000kl×2.55kg /Litrre=861,900t
1台が1km走る際のCO2排出量 1km×(23.4km/33.3km)×0.15kWh×0.373kg- CO2/kWh
+
1km×(26.6km/33.3km)÷32.6km/l×2.55kg/Litre
=0.067798kg
=67.9g 0.2kWh×0.373kg-CO2/kWh =0.0746kg=74.6g 0.133kWh×0.373kg-CO2/kWh =0.0496kg=49.6g 1km÷16km/l×2.55kg/Litre=0.159kg
=159g 1km÷35.5km/l×2.55kg/Litre=71.8g
1km走るのに必要な費用(円) 1km×(23.4km/33.3km)×0.15kWh×9.17円/kWh
+
1km×(9.9km/33.3km)÷32.6km/l×148円/l
=0.97円+1.35円
=2.32円 0.2kWh×9.17円/kWh=1.8円 0.133kWh×9.17円/kWh=1.22円 1km÷16km/l×148円/l=9.25円 1km÷35.5km/l×148円/l=4.17円

(4).低炭素自動車導入の2050年における設備容量、CO2のインパクト

表5は環境省研究会(2009)次世代自動車の普及戦略予測に基づき2020年、2030年、2050年のEV車、PHEV車の保有台数をもとに必要電力設量とCO2排出量を計算したものである。EV軽自動車に関しては必要電力設備量(MW)は0.133kWh/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW、CO2排出量に関しては49.6g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トンで求めた。
EV乗用車に関しては0.2kWh/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW、CO2排出量に関しては74.6g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トンで求めた。
ガソリンPHEV乗用車に関しては0.115kWh/km・台×23.4km/日×365日×(台数)÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW、CO2排出量に関しては67.9g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トンで求めた。
2008年の日本のCO2排出量が1137.5(百万トン)であることから、2050年における低炭CO2排出量12.58(百万トン)は1.1%を占めることになる。これにはEV,PHEVを導入することで使用される電力量の増加分も含まれている。
また、2050年における必要追加電力量(MW)は14,626MWとなり、 2008年度の日本の発電設備能力277,671MW の5%を占めることになる。

表5:各年保有台数による必要電力設備量及びCO2排出量
検討車種 2020 2030 2050
保有台数(万台) 必要電力設備量(MW) CO2排出量(百万トン) 保有台数(万台) 必要電力設備量(MW) CO2排出量(百万トン) 保有台数(万台) 必要電力設備量(MW) CO2排出量(百万トン)
EV軽自動車 i-mieV 140 0.2kWh/km・台×1000km/月×12ヶ月×140万台÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =1224 49.6g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トン=0.83 ¬¬¬¬¬¬¬380 ¬¬¬¬¬¬0.2kWh/km・台×1000km/月×12ヶ月×380万台÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =3323 ¬49.6g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トン=2.3 550 ¬0.2kWh/km・台×1000km/月×12ヶ月×550万台÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =4910 49.6g/km・台×1000km/月×12ヶ月×550万台÷1012g/百万トン=3.27
EV乗用車 リーフ 67 0.2kWh/km・台×1000km/月×12ヶ月×67万台÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =881 74.6g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トン=0.60 210 0.2kWh/km・台×1000km/月×12ヶ月×210万台÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =2762 74.6g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トン=1.9 330 0.2kWh/km・台×1000km/月×12ヶ月×380万台÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =4340 74.6g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トン=2.95
ガソリンPHEV乗用車 トヨタ 130 0.115kWh/km・台×23.4km/日×365日×(台数)÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =913 67.9g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トン=1.06 500 0.115kWh/km・台×23.4km/日×365日×(台数)÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =3510 67.9g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トン=4.1 780 0.115kWh/km・台×23.4km/日×365日×(台数)÷(5時間×365日)÷1000kWh/MW =5476 67.9g/km・台×1000km/月×12ヶ月×(台数)÷1012g/百万トン=6.36
合計 N/A 337 3018 2.49 1090 9595 8.2 1660 14626 12.58

表(参考) 通常車とハイブリッド車の出力比較
通常の車 プリウス
燃費率 g/kWh 260g/kWh 230g/kWh
ガソリン発熱量(KJ) 34600× =12000kJ
346000× =10611kJ
熱効率(%) =30%
=33.9%
(*)エンジン定格出力での最大熱効率で実験の運転時は定格よりもかなり低いところで運転するので、熱効率はかなりおちる。
1litreあたりの出力(kWh) =2.88kWh
=3.26kWh

注1:ガソリン比重は0.75-0.78のため本計算では0.75とした。ガソリン1リットルは750gとなる。
注2:ガソリン1リットルの低位発熱量(LHV)は約34600kJとする
注3:1kWh=3600kJ

1-5 EV普及に関する課題
EV普及に関する最も大きな問題は本格的にEV車が普及した場合の、その急速充電に関わる送電線や変圧器に関わる投資負担であろう。これは日経産業新聞2010年3月16日版でも指摘されているように、東京電力大型発電所は新潟の板崎刈羽原発や、青森の東通原発、福島の第一・第二原発など大型発電所は遠隔地に立地しており、そこから高圧電線で都市に運ばれている他方で、東京都市部は細かい送電線が張り巡らされていることから、一斉に急速充電が始められ、本稿での試算のように東京電力の60,000MWの設備容量のところに、ある時間帯に10,000MW級の最大需要が追加発生した場合、たちまち停電が発生することになるであろう。これについてはまた電力会社と自動車会社、ユーザーの間での本格的な議論がなされていないのが現状である。

1-6 低炭素自動車の競争関係
 図4にあるようにGM、フォードはもとより、HV(ハイブリッド)推進するトヨタ、ホンダ、EVを推進する日産、三菱も足元の収益状況は悪い。リチウムイオン電池など環境技術と、急速に使える新興国市場を確保したメーカーグループがまず生き残ることになる。
売上高下位の目メーカー、マツダはトヨタよりハイブリッド技術の供与を受けるも、三菱自動車はプジョーグループと技術提携を行った。またスズキはVWグループに入り、資本・技術提携を行い、ハイブリッド技術の供与をうけることになった。ダイムラーは日産・ルノーグループと資本・技術提携を行うことになった。
このようにコストのかかる低炭素自動車技術開発のため資本・技術力を持った企業グループ間の競争は、ますます苛烈になるであろう。

換算レート:1ドル=103円、1ユーロ=152円、100ウォン=9円、1元=14円
出所)各社決算短信、アニュアルレポートより(トヨタ・日産・ホンダ・マツダ・スズキ・三菱は2009年3月度。ポ  
   ルシェは2008年7月度。
第一汽車は2007年12月度。その他は2008年12月度。)
注1.ポルシェは株式の取得に関わる収支を除いた数値を使用。
注2.第一汽車は税引き前純利益を使用。
図4 自動車業界の戦略ポジショニングマップ

 
2.スマートグリッド
2-1 スマートグリッドの定義
 経済産業省の定義では「スマートグリッド」とは「電力の需給両面での変化に対応するために、IT技術を活用して効率的に需給バランスをとり、電力の安定供給を実現する次世代型の電力送配電網」とされている。(「次世代エネルギー・社会システム協議会について」平成21年11月 資料4)スマートグリッドでは、従来は電力会社などのエネルギー供給者が担ってきた調整機材の一部を需要サイドで担うポテンシャルが生じる。(「次世代エネルギー・社会システム協議会について」平成21年1月 資料3)

資料:日本経済新聞 2009年12月31日を参考に筆者作成
図4 スマートグリッドの概念図

同資料でも紹介されているが、スマートグリッドの定義は、地域や企業によって狙いは異なるとされている。米国では送電インフラに更新投資をしてこなかったため、更新投資をする必要があった。またEUでは再生可能エネルギーを大幅に拡充するため、その変動に対応するための手段として導入されている。日本型スマートグリッドも再生可能エネルギーが導入されても安定提供を行えるようにすることが目的である。同資料で指摘されているように、太陽光といった再生可能エネルギーは、それが大量に導入されると、配電網の電圧上昇による逆潮流の困難化や周波数の調整力の不足といった問題が生じる。こうした中で系統を安定化することが求められているのである。(「次世代エネルギー・社会システム協議会について」平成22年1月 資料4)米国などの先進国では負荷曲線が変わるのは、デマンド・レスポンスなどによる。他方、日本や欧州は再生可能エネ大量導入による供給曲線の変化を需要側で吸収(蓄電池や需要誘導など)するものという認識である。
 米国の電力会社では停電を減らす信頼性向上を目的として落雷による断線など異常をセンサーで検知して電力を迂回させることのできる制御ネットワークを構築することで停電時間を大幅に減少させることが内容である。米国やイタリアなどの電力会社では電気料金の着実な回収を目的として賢い電力計(スマートメーター)を各家庭に設置し、未払い・不払いの顧客の電気を遠隔操作で自動的に遮断することで電気料金を着実に回収する。Google、IBM、GEなどの米国企業や欧州の電力会社メーカーでは再生可能エネルギーの大量導入と電気自動車充電インフラの整備を目的として供給変動にあわせて自動的に稼働状態を調整できる家電(エアコンや給湯器など)や蓄電装置(電気自動車を含む)を導入することで、太陽光や風力など天候によって発電量が変動する電源を巧みに利用する。日本では家庭の太陽光発電を積極的に活用するため電圧調整装置や変圧器の増設を目的とする。(「次世代エネルギー・社会システム協議会について」平成21年11月 資料4より、抜粋)
表4 欧米、日本、発展途上国のスマートグリッド比較
アメリカ ヨーロッパ 日本 中国・インド
きっかけ 発・送電設備のインフラ不足
大停電事故 風力発電の大量導入
大停電事故 太陽光発電の大量導入 ・電力の安定供給
・電力ロスの防止
・電力品質の向上
対象 需要家を含む配電系が中心(マイクログリッドも含む) 送電系と需要家を含む配電系が別々に管理(マイクログリッドも含む) 発送電系と需要家を含む配電系を一体的に管理 電力系統の拡充
本目的 ピーク需要の削減
蓄電家情報の積極的利用による情報産業育成
・電力ロスの防止
・コスト削減
・供給信頼性と復旧性・修復性の向上 風力発電の大量導入(それに伴う産業育成)安定運用 太陽光発電の大量導入(それに伴う産業育成)安定運用 ・供給信頼性と復旧性
・修復性の向上
・再生可能エネルギーの取り込み
・コスト削減
・電力ロスの防止
・電力消費量の最適化
系統別制御 PMUを用いた広域監視制御 風力発電制御
揚水発電、圧縮空気貯蔵制御 風力発電制御
揚水発電、蓄電池制御 風力発電制御
揚水発電、蓄電池制御
需要家側
制御 スマートメータ、見える化、引き込み線スイッチ制御、デマンドレスポンス、スマート家電、PHEV、EV制御 スマートメータ、見える化、引き込み線スイッチ制御、デマンドレスポンス、スマート家電、PHEV、EV制御 スマートメータ、見える化、太陽光発電制御、蓄電池制御、ヒートポンプ給湯器、PHEV、EV制御
機能・能力 ・安全なユビキタス・コミュニケーション
・リモートセンシングと状態監視
・遠隔操作と自動化
・障害解析と対応
・電力潮流と品質の最適化
・リアルタイムの予防処置
・ネットワーク構造の改善 ・安全なユビキタス・コミュニケーション
・リモートセンシングと状態監視
・遠隔操作と自動化
・モニタリングと予知
・電力潮流と品質の最適化
・ネットワーク構造の改善
・分散電源の識別と系統受け入れ ・安全なユビキタス・コミュニケーション
・リモートセンシングと状態監視
・遠隔操作と自動化
・モニタリングと予知
・電力潮流と品質の最適化
・ネットワーク構造の改善
・分散電源の識別と系統受け入れ ・安全なユビキタス・コミュニケーション
・リモートセンシングと状態監視
・遠隔操作と自動化
・障害解析と対応
・電力潮流と品質の最適化
・リアルタイムの予防処置
・ネットワーク構造の改善
・モニタリングと予知
・分散電源の識別と系統受け入れ
   出所:横山明彦(2010) 電学誌 130巻3号
      日経新聞2009年12月31日
      「次世代エネルギー・社会システム協議会について」平成21年11月 資料4
   WORLD ECONOMIC FORUM COMMITTED TO IMPROBING THE STATE OF THE WORLD
 http://www.weforum.org/pdf/SlimCity/SmartGrid2009.pdfより作成

他方で、発展途上国のスマートグリッドは、中国では超高圧送電網の拡充を中心とする「電力系統の強化」であり、インドでは「電力安定供給」である。
中国政府は3月の全国人民代表大会(全人代)において初めて「知能電網(スマートグリッド)」に言及し、国家電網等を中心とした体制で2011~2015年で2兆元、1016~2020年に1兆7000億元の投資を計画している、としている。(日経新聞2010年3月13日)
中国のケースでは北部、内陸部において風力・太陽発電で作られた電力を工業地帯である沿岸部に運ぶ超高圧送電網(UHV:Ultra-high voltage power transmission)の構築と共に、通信機能を活用し、送電網内の電力の可不足を瞬時に把握し、需給調整を行うものとしている。
China Daily によると国家送電網によると早ければ3,4年後には超高電圧電力輸送ラインの建設に1000億元($14.6 billion)が投資される計画である。上海の長治と湖北の荊門をつなぐ最初のUHVは去年の一月に運行が始まった。ラインは80億kWh近くの電力を2009年の10月15日までに送っているとしている。
国家送電網は2010年全国の27都市にわたり75か所の電気自動車の充電所を建設する計画も持つ。2010年度の投資計画によると、この会社は電力網の建設に2274億元を注ぎ込むとのことである。

表5 主要国企業の中印米でのスマートグリッド展開
中国 インド 米国
米国
企業 ・米IBMと国家電網は新しい電力管理システムの共同開発
・米GEは揚州市(江蘇省)でスマートグリッドの共同開発  コロラド州ホルダーでGrid point社、Xcel Energy社を中心にスマートグリッドの導入テスト、プラグインハイブリッド自動車から系統への充電も含む系統管理システムを導入
・Honeywll社、Elster社などフロリダ州タラハンにて約22万世帯にスマートグリッドを導入
日本
企業 富士電機ホールディングは浙江大学とスマートグリッド向けの新製品開発を提携 日本とインドはスマートコミュニティ及びエコフレンドリータウンショッププロジェクトを行うことで2009年12月にMOUを締結。三菱重工グループ、東芝グループ、日揮グループ、日立製作所グループなどはインド政府がデリー・ムンバイ間で進める4都市のインフラ整備事業を受注し、その中でスマートグリッド事業も手掛ける NEDOは東芝、日立、京セラ、シャープ等31社を委託先として、ニューメキシコでスマートグリッドの実験を行う
出所:日本経済新聞2010年3月13日,http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20100129/207963/,     
   https://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/press/FF/nedopress.2010-01-21.1442552918/besshi.pdf
 「次世代エネルギー・社会システム協議会」平成22年1月19日 資料3、平成21年11月資料4)

2-2 スマートグリッドの普及の問題点
米国においては、Kuhn (2008)ではスマートグリッドの大部分を建設するのにかかる費用は190-270億ドルかかると予測されている。Chupka et al(2008)は2030年までに電気産業はインフラ設備を行うために合計1.5兆-2兆ドル投資する必要がある、としている。Chupka et al(2008)は2030年までに電気産業はインフラ設備を行うために合計1.5兆-2兆ドル投資する必要がある、としている。
しかし、DOE(2009)が指摘するように、各種の再生可能エネルギーのグリッドへの連絡に伴う電力の質の低下の問題に対応するにはスマートグリッドなしでは対応が難しいことから、そのニーズはますます必要となると思われる。

<参考文献>
日本経済新聞2009年12月31日
日本経済新聞2010年3月13日
http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20100129/207963/ (2010年4月10日参照)
日経産業新聞 2010年3月16日
環境省(2009) 「次世代自動車普及戦略」
経済産業省 次世代自動車戦略研究会(2010) 「次世代自動車戦略」       
横山明彦(2010) 電学誌 130巻3号
日経新聞2009年12月31日
資源エネルギー庁「次世代エネルギー・社会システム協議会について」平成21年11月 資料4、平成22年1月 資料3
https://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/press/FF/nedopress.2010-01-21.144255291
8/besshi.pdf
WORLD ECONOMIC FORUM COMMITTED TO IMPROBING THE STATE OF THE WORLD
http://www.weforum.org/pdf/SlimCity/SmartGrid2009.pdf (2010年4月10日参照)
http://www.nri.co.jp/news/2010/100315.html (2010年4月10日参照)
http://www.udel.edu/V2G/index.html”>http://www.udel.edu/V2G/index.html (2010年4月10日参照)
篠田幸男 他3名, 2007,「最適電源構成を考慮したプラグインハイブリッド自動車の導入評価」
   第26回エネルギー。資源学会研究発表回講演論文要旨集 (平成19年)6月
電力中央研究所, 1999,「ライフサイクルCO2排出による発電技術の評価」
   http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/Y99009.html (2010年4月10日参照)
橋本篤樹 他5名, 2007, 「プラグインハイブリッド車普及時の電源構成を考慮したCO2削減効果の検討」第26回エネルギー。資源学会研究発表回講演論文要旨集 (平成19年)6月
日渡良爾 他4名, 2006,「プラグインハイブリッド車導入が日本の電力需要へ及ぼす影響」
   (財)電力中央研究所報告(L05068)電力中央研究所 (平成18年)7月
EPRI, 2001, “Comparing the Benefits and Impacts of Hybrid Electric Vegicle Options”, Palo Alto, CA: 1000349
Marc W. Chupka ,Robert Earle ,Peter Fox-Penner ,Ryan Hledik :The Brattle Group
(2008). Transforming America’s Power Industry: The Investment Challenge 2010-2030 http://www.eei.org/ourissues/finance/Documents/Transforming_Americas_Power_Industry.pdf(2010) 年4月10日参照)
New York Independent System Operator, 2009, ‘Alternate Route: Electrifying the Transportation Sector’, Potential Impacts of Plug-In Hybrid Electric Vehicles on New York State’s Electricity System.
ORNL Review Vol. 41, No. 1, 2008, ‘Plug-in hybrid electric vehicles may have an unexpected value. http://www.ornl.gov/info/ornlreview/v41_1_08/article11.shtml (2010日3月23日参照)
R. Uhrig, 2005, ‘Using Plug-in Hybrid Vehicles to Drastically Reduce Petroleum-Based Fuel Consumption and Emissions’ THE BENT OF TAU BETA PI, Spring, p. 13-19.
 http://www.tbp.org/pages/publications/Bent/Features/Sp05Uhrig.pdf (参照2010年3月20日)
Kenji Yamaji, Atsuki Hashimoto,Hiromi Yamamoto, Ryoji Hiwatari, and Kunihiko Okano, 2008, ”An Analysis of Market Potential and CO2 Mitigation Effects of Plug-in Hybrid Electric Vehicle in Japan,31st IAEE International Conference, Istanbul,Turkey, pp116-118,June 18-20
Kuhn TR. 2008. Legislative Proposals to Reduce Greenhouse Gas Emissions: An Overview.
Testimony before the United States House of Representatives Subcommittee on Energy and Air Quality, June 19, 2008.
http://energycommerce.house.gov/images/stories/Documents/Hearings/PDF/Testimony/EAQ/110-eaq-hrg.061908.Kuhn-testimony.pdf(2010年4月10日参照)
U.S. Department of energy, 2009, “Smart Grid System Report”

第7章 自然エネルギー政策はなぜ進まないのか─封じ込められた地熱・小水力の潜在力(品田知美)

●遅滞する自然エネルギー政策
 政権が交代してエネルギー政策変化への期待は高まっても、自然エネルギー政策に革新的変化はみられなかった。東日本大震災の後に続いた福島原発の崩壊状態が、ようやく政策担当者の目を覚ますだろうか。原子力発電を維持・保護と自然エネルギーの導入政策の遅滞とはコインの裏表である。どの技術的解決が選択されるのか、という問題は科学技術の進歩の度合いや経済性で決まっているわけではなく、狭い利益集団に属するわずかな行為者たちの立ち回りが強く影響する。つまりは、社会の問題なのである。
 本章では、自然エネルギー政策の遅滞がなぜ生じてきたのかについて、地熱や小水力という技術分野でおきていることを手がかりに考えたい。結論から述べるなら、原子力エネルギー利用の必然性を利益集団が保とうとするが故に、これらの自然エネルギー利用は抑制されてきたと考えられる。
 日本政府は2010年6月に「エネルギー基本計画」を閣議決定したが、2020年までに9基の原発増設などを中心にすえ、自然エネルギー(=再生可能エネルギー)は10%程度にとどまっている。政権交代前の長期エネルギー需給見通が、地熱と水力を加えて8%であったので、少し上がったとはいえ、代わり映えしない。むしろ、10年以上に渡って停止状態にあった高速増殖炉の運転が再開されるなど、原子力業界を勢いづかせる機運が高まった。
 一方、ヨーロッパにおける政策の状況をみると、2020年までに再生可能エネルギー(自然エネルギーとほぼ同義)をEU全体のエネルギー消費の20%にするという目標が、2008年9月に政治的合意を終え、国別目標値が掲げられている段階にある。この目標と関連した動きとして、2020年までに自然エネルギー20%の導入をめざそうという「自然エネルギー20/20」キャンペーンが、NPOなどの提唱で2006年秋から繰り広げられた。このように、日本でも市民や専門家に自然エネルギー導入を主張する人々は多いし、熱心に提唱や主張がなされてきた。技術は日進月歩で進んでいるのに、なぜ政府の腰はこうも重いのだろうか。
 2009年の秋には、緊急の駆け込みで「太陽光発電」のみのFIT:フィードインタリフ(固定価格買い取り制度)を導入した。FITは導入すれば効果的というものでもない。すでにEU各国では多彩な導入事例が知られているからだ。太陽光のみのFITという政策を導入した国イタリアでは、運用面が複雑なため、導入が伸びず、失敗例とされることもある。EUの中では自然エネルギーに対して、積極ではない国の1つであるイタリアと、ほぼ同様な制度を日本が導入したことは偶然とは考えにくい。つまり、各方面の声におされて導入したという実績をつくりつつも急激な変化が起こらないような政策に、あえてとどめたということだろう。
 関係者の尽力で、まさに震災が起きた2011年3月11日に、固定価格買い取りを太陽光のほかに、風力、水力、地熱、バイオマスのFITを導入するという閣議決定がなされた。非常事態で法案が提出されなくなってしまったが、変化の方向性が垣間見える。だが、すぐに法案が通過し施行されても遅きに失している上に、買い取り価格が太陽光の半分程度の15-20円/kwhと低く設定されている。しかも消費者に価格転嫁をしてかまわない、という条文とセットで、値上げをしやすくしたのである。
 後に振り返った時に、多くの人が後悔するかもしれない非合理的な意思決定が、自然エネルギーにかかわる政策領域でなされているのではないだろうか。歴史をたどると、現場をよく知る技術者や専門家たちの判断が無視され、既得権益を持つ人々の都合を慮った意思決定が企業の幹部、官僚や政治家たちによってなされるという構図は、日本ではいやというほど繰り返されてきた。
 その最も惨い事例の一つを、水俣病をめぐる紆余曲折と被害拡大にみることができる。水俣病は、公式確認が1956年であるにも関わらず、チッソの排水が原因と政府が公害認定したのは、実に12年後の1968年である。後に原因と確定した有機水銀説は、1959年には熊本大学医学部によって十分に実証的な検証を経て発表されているのに、チッソや化学業界は中央の学者を動員して、農薬説や爆薬説、有機アミン説といった珍説を作り出し、マスメディアはこれを有力な「反論」として取り上げ、原因がわからないという世論を作り上げた2)。また、当時のチッソ工場排水との因果関係がかなり明確になってからも、産業保護を至上命題としていた通産省にとって、操業停止措置などは考慮の外にあったといわれている。その間に患者は拡大し続けた。さすがにごまかしきれなくなってから、最後に公害認定を決断したのは、厚生大臣であった。
 そして、地域住民が被害者集団と一枚岩にまとまっていたわけではないことも事実である。当時の時代背景のもとで、市長をはじめとして地元の有力者たちは企業や官僚など中央の支配層の側についていた。水俣病患者は地域でも差別されていたのである。水俣病の教訓から学ぶならば、事態の進展を遅らせた責任を負うべき関係者は意外に多い。既得権を持つ企業の経営陣、官僚、地元の政治家および有力者、中央の政治家、動員された学者、そしてマスメディアである。
 本章では、この教訓を手がかりとして、自然エネルギーの潜在力を紹介し、過去に環境にかかわる政策の進展を遅らせてきた関係者たちの動向を拾うことで、現在進行中の自然エネルギー政策の遅滞という社会現象を読み解いてみよう。

●日本の風土からみた自然エネルギー
 どこで用いられても同じパフォーマンスが得られる化石燃料とは異なり、自然エネルギーは風土の特性を考えることが必要だ。風土とは、単なる自然環境という意味合いを越えて、文化や歴史性を組み込んで人間を存在させている環境である。やはり、なじまないものは浸透しきれないと考えるならば、欧米で導入が進んでいるために日本で推進されている風力発電よりも、有力な自然エネルギーがあるのではないだろうか。
 日本の自然環境の特徴は、モンスーン気候のために降水量が多く生物資源の生産力が高いことだ。7割が森林に覆われている先進国は多くない。放っておいても草木が繁茂する自然環境とは、すなわち太陽光と水の双方に恵まれた土地であることを示している。つまり、太陽とバイオマス、水力などの自然エネルギーが有望だということになろう。また、日本は地震大国であると同時に、その裏返しとしてめぐまれた温泉という地下からの恵みを存分に活用してきた歴史を持っている。したがって、地熱という自然エネルギーにも十分な期待ができるはずだ。
 ただし、緯度が比較的低いことから強い太陽光が得られるといっても、降水量が多いということは、日照時間が比較的短くなるということを意味する。この特徴は、太陽エネルギーにはあまり有利に働かない。太陽エネルギーの直接利用には日照時間の長さが決定的に重要なファクターになるからである。
 風土の特徴を考えると、世界中で自然エネルギーの導入が拡大しているなかで、日本でバイオマス、水力、地熱という自然エネルギーの利用にあまり進展がみられない現状は、奇異に映る。特に地熱については、2008年に米国の環境学者レスター・ブラウン氏が来日した際の講演で、「日本は地熱発電で国内電力の半分、もしかして、全部を賄えるかもしれない。なぜしないのか?」と発言したことはよく知られている3)。ブラウン氏のみならず、世界の識者は首を傾げている。
 実際に、さほど地熱導入に積極的とは見えない経済産業省の報告書ですら、これらの自然エネルギーの潜在力は十分に高く見積もられている。地熱発電に関する研究会の中間報告書(2009年6月)では、日本が世界第3位の地熱資源量を有し、その値が20,540メガワットであることが示されている。より緻密なGIS地熱資源量評価を重ねた産業技術総合研究所の村岡洋文氏によれば、既存技術で経済性に見合う浅部のみで見積もったとして、23,470メガワットが可能だとされる4)。現時点では540メガワット程度の発電しか行われていないので、控えめにみてもこれだけで、40倍以上に増やせることになる。
 また、水力発電は、すでに大規模なダムなどによる設備を中心に日本の総発電設備容量の8.6%を担っている5)。小規模な水力発電のポテンシャルはというと、全国小水力利用推進協議会の試算によれば、現時点の技術・経済環境のもとでも、3000-5000メガワット程度が利用可能と見積もられている6)。  
 つまり、日本には地熱と小水力だけで、2008年時点の総発電設備容量261570メガワットの10%程度をまかなえる潜在力があると見積もられる。現時点では、ほぼゼロに等しいことを鑑みると、エネルギーの自給率の低さが問題視され続けてきたにもかかわらず、まったく政策が進展していないという現状は明らかだ。
 科学技術的にみて十分な潜在性がありながら、ここまで自然エネルギー導入が遅滞する理由は社会的な問題が疑われる。以下では地熱と水力のそれぞれについて、個別に技術の現状や関係する集団や制度の状況をみておこう。

●地熱技術の最前線
 まずは、ポテンシャルの大きい地熱技術をとりあげたい。日本の地熱発電の歴史は古く、1919年に海軍中将山内万寿治氏が大分県で掘削に成功し、後を引きついだ太刀川平治博士が1925年に成功したといわれている7)。その後初めて発電所が運転開始したのは1966年で、以来18地点で20プラントが運転しているものの、過去10年にわたって新設されなかっただけでなく、設備容量は減少気味である。産業技術総合研究所の村岡洋文氏は、これを「日本の地熱開発の失われた10年」と解説している。政策を振り返れば、1997年には新エネルギー法から除外され、RPS法の対象からもはずされた。政府予算は地熱の技術開発費を削減し続けて、ほぼゼロとなった。政策は地熱を見捨ててきたようにみえる。ところが、その間世界の地熱発電は1985年から2005年にかけて倍増していたのだ。なぜか潜在可能量がある国で地熱開発を進めていないのは日本だけであった。
 地熱発電のしくみは、火力発電と似ている。蒸気の勢いでタービンをまわすところは同じだが、化石燃料を燃やして水を蒸気に変えている火力発電所と違い、地熱発電では直接地下から蒸気を取り出す(蒸気フラッシュ発電)。少し温度が低い場合には、水よりも低温で沸騰する媒体を蒸発させて、タービンをまわした方が効率的になる場合があり、この方式をバイナリー発電という。媒体としては、ブタンやペンタン、アンモニアなどが使われている。日本ほどの地熱資源が豊富でなく蒸気にめぐまれない海外ではこちらが主流となって建設が進められてきた。いずれにしても化石燃料を燃やさないので、二酸化炭素を排出しない。エネルギー源はほぼ無尽蔵と考えてよい地球内部のマグマが源である。
 理論的には深く掘って行けばマグマに近づくため、世界中に地熱資源利用の可能性があるわけだが、天然水はそこまで深く浸透しない。浅いところにマグマが上って来ている日本のような地域では、水と熱が出会う確率が高まることで有利にはたらく。浅ければ掘削や維持管理にかかるコストが抑えられるからである。このため地熱資源では地温勾配という数値が重要とされる。通常は30℃/kmくらいのところ、地熱発電の適地は日本の場合100℃/kmくらいまでが目安にあげられているようだ。ヨーロッパなどでの基準は、50℃/kmまでが優位性のある箇所となる。近年、事前の探査技術が向上し掘削コストが下がってきたため、適地はさらに深部へと広がりつつある。
 天然水が都合よく浅いマグマの近くにたまって吹き出す、というような恵まれた地域は日本にたくさんあり、これが世界に冠たる温泉文化を築いた。そのような風土にめぐまれない世界では、温度勾配のある場所に、水を注入して戻ってきた熱水で発電をしようとする高温岩体発電などの新しい地熱発電の方式がにわかに脚光を浴びてきた。まだ日本ではなじみが薄いが、より発展系として涵養地熱発電(Enhanced Geothermal System)という技術開発が急速に進められている。この方式は、井戸から水を注入して圧力をかけて別の井戸から熱水を取り出すため、基盤が浸透の少ない花崗岩質であることが求められており、日本でも科学調査の結果、有望な候補地も8カ所示されている8)。
 高温岩体発電は、1970年代にアメリカのロスアラモス国立研究所が提唱して以来、世界各地で実験が続けられてきた。日本でも、電中研などを中心に、NEDOなどとともに手厚い研究開発が取り組まれ、実証段階を経てコスト試算などもすでに行われている。電中研の試算では近年の掘削費の下落を織り込むと、発電単価は9円/kWhまで低下する見通しである。この単価は、下落傾向がみられる太陽光発電がまだ40円 /kWh以上の現状にあって、目標が20/kwh円代であるのと比べれば驚異的な安さであるといえる。このように技術的にほぼ確立し、経済性もあるとされるエネルギーの導入が進まない理由はどこにあるのだろうか。

●地熱へ向かう世界と遅滞する日本
 技術的な蓄積が日本に十分あることは、技術者たちが世界の現場でプロジェクトに積極的に関わっていることからも明らかだ。だが、技術が商用レベルに達した後、科学技術の専門家たちにできる仕事はあまり多くない。税金を投入し、技術を蓄積したあと、あろうことに政府は事業をうちきって放置した。電中研が2002年に高温岩体発電の技術マニュアルをすでに作成している段階まできているのに、2009年6月の「地熱発電に関する研究会中間報告」では、新技術として触れられているのはバイナリー発電のことでしかなく、高温岩体発電は議論の対象にすらなっていないのは、奇妙である。
 その間に世界の政府や投資家たちは、新しい地熱技術を用いたプロジェクトの投資に積極的に動いた。オーストラリアでは、政府機関と民間企業が出資して大規模な高温岩体プロジェクトが複数始動している。このうちクーパーベイズンで掘削が行われたプロジェクトには、日本で実証試験を終えた電中研のグループが共同研究契約を結び参画している。また、グーグルは、次世代型の地熱発電に積極的な企業な一つで、2008年に1000万ドルをオーストラリアの地熱システムに投資した。
 村岡洋文氏は、地熱産業を育てるためにはいま政策が集中投資するべきだと主張する。まだ、2009年時点ではまだ世界の地熱タービンの半分は日本製だ。例えば、東芝は、2011年4月にニュージーランドの地熱発電所8.3万kW級のもの2基分にあたる設備を受注した。政策的な支えも国内の新奇需要も得られない中で、日本の企業はよく持ちこたえている。だが、世界の地熱産業はその間に一歩抜け出しつつある。富士電機システムズは、小型バイナリー発電の商品化をすすめきたが、日本でようやく国産第一号のバイナリー発電の実証試験が始まったのは2006年である。そのころには、世界中で商用のバイナリー発電が多数建設されていた。なかでも、有名なのは米国のオーマット社といわれる。その時期に至って、2008年に経済産業省はバイナリー発電を、いまさらながら「新エネルギー」に指定したところだ。
 小型のバイナリー発電は既存の温泉施設などで使われずに捨てられている熱水や蒸気なども利用できるため、新たな掘削もなくすぐに導入できる現場も多い。そこで障害となっているのが、電気事業法で求められているボイラー・タービン主任技術者の常駐義務である。この規制を緩和するよう2009年に政府の規制改革会議に提案がなされたが、却下されてしまった。理由は安全性の根拠が不十分とのことだが、小型バイナリー発電は海外ではユニット化されて販売されていて実績があり、容易に安全性の検証はできるはずであろう。2011年2月末の時点で、まだ「規制緩和の検討中」という状態だ。
 ただし、地熱発電への最大の反対勢力は温泉地の住民かもしれない。2008年、嬬恋村の地熱発電所建設計画が明らかになると、隣町の草津温泉がある草津町議会はすばやく反対決議を採択。大規模な町民集会を開催して、町長は環境省と国交省に陳情に出向いた9)。問題は、科学的な調査などのデータなしに温泉地側が絶対反対姿勢を決定していることだ。専門家は、調査すれば影響が及ぶかどうかわかると主張しているが、嬬恋村は立証をするための調査資金が捻出できない。結局、掘削調査すらできないうちに、NEDOの補助金調査から漏れて嬬恋村の計画にその後の進展はみられない。

●小水力発電の技術と経済性
 では、もう一つの風土になじむ自然エネルギーとして伝統ある水力はどうだろう。
 日本における水力発電の歴史は地熱発電よりも古い。1882年に島津家の「磯庭園の水力発電所」がつくられて以来、1880年代には産業・商業用の水力発電所の建設が進められた。そのうちのいくつかは、100年以上にわたり現在に至るまで電気を供給している。戦後大規模な水力発電所がつくられた一時期、一次エネルギーの4割、電力の7-8割を水力が担っていたこともある10)。化石燃料が入手できないとき、頼れるのは国産エネルギーとしての水力だった。かつて、地方の農山村で自前の小規模な水力発電設備を持っていた地域も多い。放置されて休眠状態だった設備を更新し、運転を再開させるケースも増えつつある。
 古くから確立されてきた小水力発電技術のしくみは単純である。流れる水の力で水車をまわして発電する。水車の形状には様々なデザインがあるが、基本的に発電量は落差と流量で決まるとされる。水力発電機の技術は急速に洗練、発展しており、いまではインターネットの通販で小型の水力発電機を買うこともできる時代だ。流れのある小川や水路などに投げ込むだけで自家発電できたり、ダムや堰をつくらずに設置できる装置も開発されている11)。ただし、100kw未満のマイクロ水力分野では機器の開発が遅れていて12)、産業界も大規模な水力発電設備中心でやってきた時代から、発想が転換しきれていない。
 国土の至るところに滝がある。つまり落差のある水が流れており、流量のある農業用水が田んぼをうるおししている日本では、小水力発電が設置可能な場所には事欠かない。とりわけ有利なのは、里と山が出会うところ、すなわち古くから集落がつくられてきた農山村地域が水力発電の生産地となりうる。
 小水力発電の発電単価には諸説あり、評価が定まっていない。設置場所や設備の選び方いかんによって差が大きいからであろう。日経エコロジー2010年2月号には、12円/kWhという数字が示されている。愛知県東郷発電所の実稼働データで6円/kWhの原価が示された事例もある。基本的には落差と流量によって適切な水車を選んで個別機器を設置する方式がコストを引き上げる。丸紅が2009年2月に稼働させた小水力発電では、汎用品を並べるという手法をとって建設コストを抑えた。風力発電とちがって、現時点では水力発電機が量産体制にないために小規模のものは相対的に高価となっているのだ。
 
●小水力発電の普及を阻むもの
 全国小水力利用推進協議会が2009年11月に経済産業省に提出したパブリックコメントによると、現在1台ずつ生産している発電機を20台程度のロットで生産できれば価格は1/2、90台ずつなら1/3と大幅な価格低下が見込め、石油価格が高止まりしている場合の石油火力発電所と同等レベルの発電単価に近づき、買い取り価格を25円/kWh程度に定めれば大きな普及拡大が見込める、と述べている。現在太陽光のみで実施中の買い取り価格は48円であるから、その半分でもよいという謙虚な要望だ。
 小水力は、バイナリー方式の地熱と同じ2008年に1000kw以下のものに限り新エネルギーに指定され、新エネ法とRPS法の対象となった。初期投資にかかるコストを補助金で補える制度も存在している。だが、問題はここからである。複数の官庁にまたがる認可手続きが煩雑なのである。
 流水の種類によっては、水利権を取得しなくてはならず、設置主体によって河川法の許可を得なくてはならない。また、電気事業法による規制により、1000kw未満なら外部委託が可能だが、1000kw以上になると電気主任技術者の選任が必要となる。10kW以上になると水力発電は電気工作物の指定を受けるため、保安体制の確立や工事計画の届出が必要となり、ダム水路主任技術者は選任する必要があり、こちらは外部委託がきかない。風力は、20kW以上が電気工作物とされていたため、ハードルは水力の方が高かった。
 2009年12月に出された総合資源エネルギー調査会の小型発電設備規制検討ワーキンググループは、規制緩和の要望を受けて検討した結果、電気工作物の指定を20kW未満とし、ダム・堰を有さない20kW~200kW未満の水力発電の場合にはダム水路主任技術者の選任や工事計画の届け出を不要とした。小規模の関連業界団体である小水力発電協議会などが地道に努力を続けた結果、ようやく一歩前進した。けれども、流量が1m3/s未満という追加規則が新たに加わり、この規制撤廃が求められている。政府には積極的に推進する姿勢がみえず、規制を維持しようとする姿勢がかわらない。
 だが、もう1つの関門である水利権を新たに得るためには、多くの関係者と協議して国交省から許可を取得する必要がある上、水利権を保持していても10年以上取水していなかった場合に、「遊休水利権」と見なされ取り直しを求められた事例もある14)。戦後まもない昭和29年につくられた熊本県荒瀬ダムの水力発電所をめぐっては、漁業組合が2010年3月で切れる水利権の延長に同意しなかったので、撤去することが先頃決まった。小水力発電の規模に関わらず水利権の許可を必要とすることが、手続きの煩雑さをもたらしている。

●地熱・小水力の潜在力はなぜ生かされないのか
 地熱と小水力という自然エネルギーにはいくつか共通の特徴がある。初期投資がほとんどのため当初は高くつくが維持費が少ない。発電設備が工場で量産される体制がまだ十分整っていない。しかし、いったん設置されれば設備稼働率が高く、長期間にわたって設備更新を必要とせず、安定した発電量が見込める。古くから人々が親しんできたエネルギーであるがゆえに、権利関係が複雑で合意を得るための手続きが必要となる傾向がある。
 これらの特徴を、化石燃料を代替する他のエネルギーと比べてみよう。初期投資が高くつくのは、原子力や太陽、風力などでも同等で、当初に公共の積極的な支えを必要とする点は同じだ。経済性でいえば、太陽光の方が地熱や水力よりも高くつくことは明らかで、電力会社に買い取らせた余剰電力の費用を、電気利用者すべてに負担させる制度まで導入して実施されている。もし地熱と水力ならば上乗せ負担はいらなくなる可能性もある。つまり政府は、コスト以外の理由で、自然エネルギーの取捨選択をしているのだ。
 地熱と小水力でなく太陽光が重視される理由はどこにあるのか。工場での量産体制が最初の手がかりになりそうだ。太陽電池の生産メーカーは日本のモノづくりを象徴する大企業が名を連ねる。高いということがむしろ歓迎され産業規模の大きい業界団体の意向が、景気対策と合わせて入り込んだということではないか。さらに、太陽光や風力などの不安定な自然エネルギー源の方が優遇されてきた理由は、一見すると系統連携の側面からは不利なようだが、あまり増やせない理由が維持されて、実は電力会社からみれば好都合である。
 地熱や水力は安定した発電量を得られるので、系統連携が不安定になるという理由から拒否することは難しい。また、原子力発電や調整が難しい大規模な化石燃料の発電が余っている夜間にも地熱や水力の電気を供給できてしまうので、原発不要論を助長する。すでに原子力発電の余剰電力が夜間に余っているため、オール電化をやっきになって推進している電力会社にとっては、経営的にも迷惑となる。現在、水力発電所を原子力発電所の電気が余る時間帯に水力発電を揚水発電に変えて運用している場合が多い。つまり、もったいないことに水力発電の設備を十分利用せず原子力発電を優先させているのである。昼間のピーク時の発電が主流の太陽光であれば15)、ベース電源と競合しにくく電力会社に買い取りの合意が得やすい。
 しかし、これでは政府が太陽光発電関連メーカーと電力会社のために制度を整え、消費者に上乗せ料金を負担させるという構図となり、需要側にはなんらメリットがない。また、次世代の産業という視点でも、技術蓄積の強みのある地熱や水力の関連産業を育てず、まっとうな市場競争を妨げて打撃を与えてしまう可能性がある。合理性のない政策決定の連続では、原子力をめぐる利権の存在を疑われて当然であろう。震災後のメルトダウンによって原子力発電の信頼が地に落ちても、原子力がなくては日本がどうにもならない、という姿勢を政府と電力関係者は主張しているが、実はほかの選択肢は十分にあるということが隠蔽されている。原子力発電には、毎年膨大な税金がつぎこまれる。平成23年度の「京都議定書目標達成計画関係予算」で直接の削減効果があるとされたエネルギー転換部門の予算では、原子力は1,179億円に対し、新エネルギーは全部まとめて707億円にすぎないのだ。
 なぜこれほどまでに電力会社の意向が政策に影響を与えているようにみえるのか。第二次世界大戦前後の制度改革が、現在まで尾を引いている可能性がある。国家は、明治以来乱立していた電力会社を戦時体制下で接収し、戦前から戦後の一時期、日本発送電株式会社と9配電会社が統制していた。戦後、GHQは日本発送電を解体することに重きをおき、9配電会社の主張にそった9電力会社分割案を支持した。結果として電力会社は民営化されて、国家統制を免れたが、発電/送電/配電を地域の電力会社1社が地域で独占する体制が構築された。この垂直統合体制は、20世紀後半の産業構造の中で安定した電力供給を可能としたことは確かだが、21世紀で期待されるシステムには弊害が大きい。いまの独占体制では分散型の自然エネルギーを取り込むメリットが、電力会社にもほとんどないからである。原発事故をきっかけに、発送電の分離がメディアの話題にのぼった。実際に進展するかどうか注視したい。この点が極めて重大であることを自覚している当事者たちは、なんとしても独占体制を死守しようと、あらゆる理屈を並べて抵抗するだろう。
 メディアは、この既存の強固なシステムに自覚的であるようにはみえない。残念だが、官僚の発表を横流しする報道が続いている。例えば、2010年2月16日づけ朝日新聞の、「経産省、地熱発電の規制緩和へ」という記事は、政府は先進的に動いているというイメージを与えている。ガス抜き程度の規制緩和策をようやく今後検討する、というガラパゴス化した政府の状況に対して、遅きに失すると批判的にとらえている様子はない。今回の事故時に明るみに出たとおり、記者や多くの専門家たちは原発関連の潤沢な予算で実際に潤おっており、飼いならされてしまっている。
 そして、水力や地熱施設の導入は、温泉業者や水利権を有する農業組合や漁業組合などの地域住民の同意に阻まれることもある。原子力発電のように立地に際して交付金が出ている訳ではないなかで、気候変動のために自然エネルギーを導入することへの重要性は、人々に浸透していない。
 既得権益を守ろうとする企業、官僚、地元の政治家および有力者とその関連団体、そしてメディア。水俣病の解決を遅滞させた関係する行為者たちと同じような顔ぶれが、ここにも出そろった。原発の事故時には大量の御用学者が動員され、批判をする専門家たちはマスメディアに登場しない。
 しかし、この利益集団による蜜月は地球温暖化による甚大な影響を私たちが被る前に、未曾有の大震災という形で終わりを告げられた。世界がティッピングポイントにあることを認識できていなかった日本社会に、自然は手ひどい殴り込みを入れてきた。原子力発電所が最も得意としていたはずの電力の安定供給が、実際にできなくなるという非常事態が起きてしまった以上、エネルギー政策は根底から揺らいだはずである。2011年3月11日を日本の戦後にたとえて再出発するなら、電力会社の発送電独占状態を解体することから始め、自然エネルギーの導入を思いきって促す好機である。支払った代償は極めて大きいが、この災いを転じて、日本が世界最先端の自然エネルギー立国となることを期待したい。


1)経済産業省が使い続けている日本独特の用語、2008年以降の定義では自然エネルギーのうち大規模な水力と地熱を除いたものとほぼ同義。
2)財団法人水俣病センター相思社, 2009, 『ごんずい』113号,p.5
3)レスター・ブラウン氏(Lester R.Brown・アースポリシー研究所所長)2008年6月6日,上智大学における講演
4)村岡洋文,2009,パラダイム転換としての地熱開発推進,Gate Day Japan シンポジウム講演資料
5)エネルギー白書2010年版による、2008年度のデータ
6)日経エコロジー,2010.2,特集:ニッポンの自然エネルギー
7)地熱学会HP(http://wwwsoc.nii.ac.jp/grsj/index.html
8)電中研レビューNo.49
9)日経エコロジー,2009.2,インサイドアウト
10)小林久,小水力発電の可能性,世界2010.1
11)シーベルインターナショナル(http://www.seabell-i.com/stream.html)
12)山田茂登,大和昌一,2009,V.新エネルギー 5)地熱発電/マイクロ水車,火力原子力発電,Vol60.No10
13)小林久,前掲.
14)日経エコロジー,2010.2,特集:ニッポンの自然エネルギー:小水力
15)産業技術総合研究所HP:太陽光発電の特徴
(http://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/feature/feature_3.html)

第5章 排出権取引制度と技術(鈴木政史)

5章「日本は排出量取引制度を導入するべきか」

5.1. はじめに

2010年3月、「地球温暖化対策基本法案」が閣議で決定された。この法案の一つの柱は排出量取引制度である。排出量取引制度の導入に関してはここ数年に限らず10年ほど前から検討されてきた。それにも関わらず2010年3月現在、この法案の中でも欧州連合の排出量取引制度(EU ETS: European Union Emissions Trading System)型の総量規制方式を取るか産業界の主張する原単位方式を取るか決めかけている。

本章は排出量取引制度を取り上げる。まず排出量取引制度は経済的に負の効果をもたらすかという問いを考えたい。総量規制方式に対しては、日本の産業の国際競争力を損なうという恐れがあるという立場からエネルギー集約産業を中心とした日本の産業界は反対をしている。しかし、国際競争力の定義も定まっておらず、どのような損失が考えられるかという分析は進んできないというのが現状である。排出量取引制度が経済的に負の効果をもたらすかという点に関して、経済協力開発機構(OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development)/ 国際エネルギー機関 (IEA:International Energy Agency)が行った研究をもとに考察を深めたい。

次に排出量取引の経済的な負の観点から排出量取引制度に関する欧州と米国の動向を簡単にレビューする。欧州や米国の排出量取引は制度設計において経済的な負の効果や国際競争力の懸念をどのように取り扱っているのであろうか。欧州では2005年から欧州連合域内排出量取引制度が導入され、過去5年間様々な経験を生み出している。米国に関しては下院におけるワックスマン・マーキー修正法案の可決及び上院におけるケリー・ボクサー法案の審議を経て排出量取引制度のかなり踏み込んだ制度設計が進んでいる。その他、オーストラリアとカナダでも排出量取引制度の設置に向けた動きがみられるが、欧州と米国の2010年3月現在の動向をレビューする。

上記の議論を踏まえた上で、最後に排出量取引制度は日本に必要かという問いを考察したい。やはりその中で大事な二点は、排出量取引は経済的に負の効果をもたらすかという点と排出量取引は温室効果ガス削減に向けた技術普及・技術革新につながるかという点である。後者の質問に関しては紙面の制限上考察を避けるが、一点目の質問に答えながら本章をしめくくりたい。

5.2. 排出量取引は経済的に負の効果をもたらすか。

日本で排出量取引制度が導入された時の経済的な負の効果はなにか。エネルギー集約産業を中心とした産業界は、中国の企業等に対する日本企業の国際競争力が低下するという懸念を表明している。排出権取引制度が導入された時に日本の企業の間にどのような費用が発生し、ひいては国際競争力の低下につながるのか。

OECD/IEAが発表した数点の排出量取引制度に関する報告書はこの費用をうまく整理している。まず温室効果ガスの削減に向けた技術の導入にかかる費用である。総量規制の場合、企業は政府によって決められた排出量を上回った場合、自ら温室効果ガスを削減するか排出権を市場または他の企業から購入しなければならない。経済理論に従えば、排出量取引制度の下において、企業は限界削減費用が排出権価格より低い場合には自ら削減を行い、排出権価格より高い場合には排出権を調達する。

次に電力価格等の上昇が費用になるケースがある。電力会社が排出量取引制度で温室効果ガスの削減目標を定められたときに電力会社は削減目標を達成する費用を電力価格に転嫁する可能性がある。この場合、電力の大型消費者であるアルミ製造工場や電炉にとっては大きな費用となる可能性がある。実際に欧州においては電力企業が排出量取引にかかる費用を電力価格に反映させてため電力価格が上昇をした。この他の費用として投資家が排出量取引制度をリスクとしてとらえた時の費用及び低炭素型エネルギー関連の価値または価格の上昇等が考えられる。

排出量取引制度を導入したときこれらの費用は企業の収益を圧迫するものになるのであろうか。この問いに対する答えを導くにはいくつかの要因を考えなければならない。第一に総量規制の場合には政府によって決められたキャップの厳しさによる。キャップが厳しければ厳しいほど企業は温室効果ガスの削減の費用を出すか排出量を購入しなければならない。

第二の要因として企業が排出量制度取引にかかる費用を製品価格に反映できる度合いである。理論上は排出量取引制度にかかる費用すべてを製品価格に反映させれば企業にとっての費用は全く発生しない。しかし製品価格に反映できる度合いは競争相手の存在や代替商品や物質の存在などそれぞれの産業構造に大きく関わっており簡単にできるものではない。例えば日本の製造拠点と中国の製造拠点の費用比較をする必要が出てくる。日本と中国で製造するものの質に違いがないのであれば、日本で導入された排出量取引制度の費用を日本の製品に価格転嫁してしまえば中国の商品の価格が魅力的になるため、日本の企業は価格転嫁できない。また代替商品や物質の価格とも比較する必要があり、例えば、素材産業の場合には鉄・アルミ・プラスチックなど一つの製品価格が上がった場合他の素材で代替し費用を削減しようという動きも出てくる。

排出量取引制度は企業に費用上の大きな負担となり経済的に負の効果をもたらすか。この問いの答えに参考となると思われるのが前述したOECD/IEAが発表した数点の排出量取引制度に関する報告書である。この報告書は欧州連合の排出量取引制度を参考に経済的なインパクトを産業ごとに分析している。この分析はアルミ産業以外のエネルギー集約産業(高炉鉄鋼、セメント、製紙、電炉鉄鋼)の負のインパクトはそれほど大きくないという結果が出ている。

エネルギー集約産業を中心とした産業界は、排出量取引制度の日本国内の導入によって中国の企業等に対する日本企業の国際競争力が低下するという懸念を表明しているが、そもそも国際競争力はどのように定義されるのか。国際競争力という言葉は頻繁に使用されるが、その意味は論者によって異なる。前述したOECD/IEAの報告書によれば、国際競争力とはある地域におけるある産業が他の地域に対して利潤と市場におけるシェアーを維持することができる能力と定義されることができる。しかしその能力とは製品の製造に関わる費用、価格、賃金水準、為替レート等によって大きく左右される。更には、製品の品質、熟練労働者の能力、マーケティングの能力等、数値化の難しい要因もある。排出量取引制度の導入が日本企業の国際競争力の低下につながると結論するのは難しい。しかし排出量取引制度の導入の判断は国際競争力に十分配慮することが大事であり、最終的には政治的な判断が求められる。

5.3. 欧州・米国の動向

ここで排出量取引の経済的な負の観点から排出量取引制度に関する欧州と米国の動向を簡単にレビューする。欧州や米国の排出量取引は制度設計において経済的な負の効果や国際競争力の懸念をどのように取り扱っているのであろうか。欧州では2005年から欧州連合域内排出量取引制度が導入され、過去5年間様々な経験を生み出している。米国に関しては下院におけるワックスマン・マーキー修正法案の可決及び上院におけるケリー・ボクサー法案の審議を経て排出量取引制度のかなり踏み込んだ制度設計が進んでいる。欧州と米国の排出量取引制度の概要と詳細に関しては様々な論文が出されているので、本稿においては制度設計において経済的な負の効果や国際競争力の懸念をどのように取り扱っているかという観点に絞って解説をしたい。

欧州は2005年に排出量取引制度を実施し、2005年から2007年までを第1フェーズ、2008年から2012年を第2にフェーズ、2014年から2020年を第3フェーズと定めている。排出量取引制度に関して第1フェーズは試行期間、第2フェーズは京都議定書第1約束期間への対応、第3フェーズは新たな国際枠組み制度への対応と位置づけている。

特筆すべき1点目はこのように時間をかけて制度設計を行っている点である。排出量の割当方式に関しても産業界の負担を考慮しながら無償割当から徐々にオークション型への移行を進めている点である。上記の通り、排出権取引の負の経済的な効果は制度導入の事前予測(ex-ante)は非常に困難である。欧州はLearning by doingの精神に乗っ取り、排出権の割当方法、対象とする温室効果ガスの種類、対象とする産業部門といった制度設計の根幹に関わる部分に関してフェーズを経るごとに得られた学習を制度設計に生かそうという精神がうかがえる。一例として第2フェーズにおいて、電力部門を除いた産業部門に対しては国際競争力への配慮を示しており、緩やかな割当を実施している。一方、電力部門に対しては排出量取引に関わる費用を電力価格に転嫁することが比較的容易であることから厳しい割当を行っているようである。

2点目は第3フェーズにおいて鉄鋼やセメント等の国際競争力の低下の懸念がある部門に関してはベンチマーク方式による無償割当を考慮している点である。鉄鋼に関しては利用可能な最善の技術(BAT: Best Available Technology)に基づく暫定的数値を提示し(高炉は1.286t-CO2/t-製品)、セメントに関してはEU域内のクリンカー施設の上位10%(780kg-CO2/t-クリンカー)を基準として設定する事を検討しているようである。国際競争力の低下の懸念が制度設計に組み込まれている。

米国においても排出量取引制度の設計において経済的な負の効果や国際競争力の懸念が制度設計に検討されている。下院におけるワックスマン・マーキー修正法案と上院におけるケリー・ボクサー法案の内容は主要部分において大変似通った内容になっており、両法案とも欧州の排出量取引制度同様に段階的な無償割当型からオークション型への移行を目指している。また、国際競争力の低下の懸念がある部門に関しては排出権の無償割当を考慮している。特筆すべきは、ワックスマン・マーキー修正法案においては米国と同等の温暖化対策を実施していない主要貿易相手国からの輸入品に関しては、2025年からその輸入者に排出枠の提出を求める点である。また、ケリー・ボクサー法案においては、国際貿易ルールに整合的な国境調整措置を追加することを検討している。

5.4. 排出量取引制度は日本に必要か。

以上、排出量取引が日本の産業に経済的に負の効果をもたらすのか考察をした。排出量取引の導入に関してもう一つ大事な問いは、排出量取引は技術普及や技術革新につながるかという問いである。排出量取引の趣旨は、排出量取引に参加する企業に対して温室効果ガス削減に向けた技術の革新と普及を促す経済的な手段を提供する事である。排出量取引を導入しても温室効果ガスの削減が進まず、金融取引またはマネーゲームとしての側面だけ残るのであれば排出量取引の意味がない。この問いに十分に答える研究結果が出されているだろうか。

著者は本問いに答えられる十分な文献調査を行っていないが、排出量取引と技術普及や技術革新につながる研究は進んでいないという印象を持っている。2005年より始まった欧州連合の排出量取引制度(EU ETS)がある程度、非効率な発電所(主に石炭)の効率化または天然ガス等への燃料転換を促進したという意見が聞かれるか果たしてそうであろうか。本分野における実証研究の進展が求められる。

排出量取引が日本の産業に経済的に負の効果をもたらすのかという問いには対しては、必ずしも負の効果をもたらすとは考えられないという答えを出した。一方、排出量取引制度の導入の負の効果の議論がある中、正の効果の議論は進んでいない。経営学で論じられるポーター仮説によれば、規制にうまく対応または取り組んだ企業は技術革新という産物を得る事ができ、その結果、市場における「First mover advantage」に伴った利潤を一定期間享受することができる。ポーター仮説の実証というは非常に難しいテーマであるが、排出量取引制度の導入によって正の効果がある可能性があることも考慮すべきである。

上記で欧州と米国の動向をレビューしたとおり、これらの地域では国際競争力への配慮を行いながら排出量取引の導入を検討している。そこには排出権取引の負の経済的な効果は制度導入の事前予測(ex-ante)は非常に困難であると認識しながら制度設計を行う姿勢がうかがえる。日本もLearning by doingの精神で独自の排出量取引制度を設計する必要があるように考える。

参考文献

-International Energy Agency, Emissions Trading and its Possible Impacts on Investment Decisions in the Power Sector, Paris, 2003.
-International Energy Agency, The European Refinery under the EU Emissions Trading Scheme – Competitiveness, Trade flows and Investment Implications, Paris, 2005.
-International Energy Agency, Industrial Competitiveness under the European Union Emissions Trading Scheme. Paris 2005.
-International Energy Agency, Issues Behind Competitiveness and Carbon Leakage, International Energy Agency, Paris 2008.
-環境省地球環境局市場メカニズム室 諸外国における排出量取引の実施・検討状況 2010年2月.

第4章 低炭素社会への途 ─日本は炭素税から始めよ─(池田和弘)

[2011年7月19日]

●京都議定書の迷路
 1997年12月に開かれた地球温暖化防止京都会議と、そこで採択された京都議定書は、日本の都市の名前「京都」が刻まれたことによって、国際的な舞台における日本の誇るべき成果となった。結果としてアメリカが離脱したとはいえ、京都議定書には世界経済に影響を与える多くの先進国が参加し、しかも数値目標をいれることができた。ほぼ歴史上初めてと言ってよい画期的な出来事であった。
 だが、今から振り返ってみれば、京都会議と京都議定書は、日本が低炭素化に向かう途を幾重にもはばむ迷路をつくりあげてしまったのかもしれない。
 たとえば、京都議定書で約束した1990年比6%減は達成できるのか、できないのか。
 環境省の「2009年度(平成21年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」によれば、国内における2009年度の温室効果ガス排出量は二酸化炭素換算で12億900万トン、京都議定書の基準年に比べて4.1%の減少になっている。経年変化で見た場合には、京都議定書の第一約束期間の前年である2007年の排出量が13億6900万トン(基準年比にして、+8.5%)、2008年が12億8200万トン(同、+1.6%)、2009年が12億900万トン(同、−4.1%)と、第一約束期間に向かって急激に減少している。仮にこのままのペースでいけば、2008年〜2012年の第一約束期間の間に、国際公約である1990年比6%減も夢ではない。
 だが、これは必ずしも日本が低炭素化したことを意味するものでも、意識的に排出削減を実行した結果とも言えない。イギリスがリーマンショックの影響を受けたのと同じように、不況から立ち直りつつあった日本経済も大きな打撃を受けた。内閣府が発表している「平成21年度国民経済計算」によると、この間における日本の実質GDP成長率は2007年度に前年度比で+1.8%、2008年度が−4.1%、2009年度が−2.4%と大きく低下し、温室効果ガス排出量の減少と軌を一にしている。
 よく言われるように「経済と環境は両立しない」などと考える必要はまったくないが、経済活動の低迷が温室効果ガスの排出を低減させることは間違いない。しかし、日本ではこのことをはっきりと主張する人はあまり多くない。特に、産業界も取り込んで開催されている各種の審議会ではむしろ、2007年以降の温室効果ガス低減は企業の自主努力の成果だと読み解く傾向が強い。
 2009年12月に開かれたコペンハーゲン会議の前にさかんに報道されたセクター別アプローチという考え方にも同じ傾向が表れている。コペンハーゲン会議は京都議定書の第一約束期間の次の枠組み、いわゆるポスト京都を決める重要な会議で、そこで日本は独自の戦略としてセクター別アプローチを提唱してまわった。
 セクター別アプローチの考え方はそれほど難しくはない。世界中の省エネ技術を調べて、その時点の最高水準の技術を基準に現実的にどのぐらいの削減可能性がどこにあるのかを求めていく考え方だ。京都議定書の枠組みでは基本的に1990年を基準として各国が総量をパーセントで削減する方法が主になっているが、セクター別アプローチは各国の削減パーセントを経済効率的に可能なところから積み上げて科学的に決定しようとしている。その意味でよりスマートなやり方だと言える。
 だが、セクター別アプローチは国際的にはあまりうけがよろしくない。少し考えれば分かるように、この考え方は省エネ技術が進んでいる日本に有利、というよりは、事実上、日本の技術を基準に世界の技術水準を測るということだからだ。そのため、低炭素化に積極的なヨーロッパでさえも、あえて否定はしないが賛成もしないという態度をとった。
 セクター別アプローチは全体の総量を規制するという観点からするとたしかに欠陥があるが、効率の悪いものをよいものに置き換える、言いかえれば、温室効果ガスをたくさん出すものを市場から排除する、という考え方自体は基本的に正しい。だが、国際政治力をすでに失いかけている日本が自国に有利に映る「正しさ」を主張しても、それは無理というものだ。正しいことを言えばいいのではない。正しさを言いながらも、相手が譲歩しうるラインで交渉するしたたかさが必要だ。
 日本はたしかにすぐれた省エネ技術をもっている。金融危機以降の世界不況の中では、結果として温室効果ガスの排出量も減少した。しかし、いずれにしても日本が温室効果ガスを大量に排出していることもまた事実だ。外交技術に長けたヨーロッパやアメリカ、そして中国を相手にするためには、日本の国として低炭素化に向けた国造りに着手したという事実が必要だ。迷路に迷い込むのでも、迷い込ませるのでもなく、国際交渉に耐えうるだけの確固とした意志が求められている。

●日本版気候変動法
 日本が最初に手本にしようとしたのが、かのイギリスの気候変動法である。民主党は政権交代を成し遂げる前から、日本版の気候変動法である「地球温暖化対策基本法案」を用意しており、政権交代時の2009年衆院選マニフェストにも政策インデックスの中で環境政策のトップ項目に挙げている。この法案は政権交代後の2010年5月18日に衆議院を通過して参議院に送られたが、当時の鳩山首相の辞任、管首相による組閣の流れの中で通常国会が閉会して廃案になっている。その後の臨時国会でも原案のまま再提出されるが継続審議のまま現在に至っている。
 およそ1年以上もの間議論されていることになるが、残念ながら国民の注目を集めることはなかった。しかし、2011年3月11日の東日本大震災とそれに端を発する原子力危機の中で、今後はエネルギー政策とセットになって集中的に議論されるものと予想される。民主党はどのようなプランを描いているのか、まずはその中身をみてみよう。
 地球温暖化対策基本法案は次のような構成になっている。

  第1章 総則(第1条−第8条)
  第2章 中長期的な目標(第9条・第10条)
  第3章 基本計画等(第11条〜第13条)
  第4章 基本的施策
   第1節 国の施策(第14条〜第30条)
   第2節 地方公共団体の施策(第31条)
  第5章 地球温暖化対策本部(第32条〜第41条)
  附則

 一見して分かるように、先のイギリスの気候変動法と見比べると違いが歴然としている。イギリスの気候変動法は「第1部 温室効果ガス排出量削減目標と炭素予算」「第2部 気候変動委員会」と、目次を見ただけで政策の中身がはっきり分かるように組み立てられていた。目標を立て、炭素予算を組み、気候変動委員会がチェック&アドバイスをする。それがイギリスの気候変動法だ。それに対して日本は、中長期的な目標のあとには基本計画と基本的施策が並び、政府が具体的に何をしようとしているのか、まったく伝わってこない。注意を喚起するような仕組みもなく、何かが変わるという匂いがまったくしない。あるのはいつもと同じ法律の文言だけだ。
 国民に伝える意識がまったくないこと自体が重大な問題であるが、ここではひとまず置いておこう。主だった具体的な政策はこれも12行に渡るとても日本語とは思えない長い一文で表現されている。適宜割愛しながら紹介しよう。

  第1条
   …温室効果ガスの排出量の削減に関する中長期的な目標を設定し、国内排出量取引制度、地球温暖化対策税および固定価格買取制度の創設、革新的な技術開発の促進等について定めることにより…。

 まず、中期目標2020年25%減と長期目標2050年80%減を設定する。それを達成するために、国内排出量取引制度、地球温暖化対策税(炭素税)、固定価格買取制度の三つを主な政策とし、技術革新を促進するとする。おおざっぱに言えば、この法案で重要なことはこの部分に集約されている。その後に続く条文を読んでも、制度どうしがどう関係し、具体的にどう動くのかはまったく書かれていない。はっきりしているのは、目標を設定したという法的事実と、横並びに三つの政策オプションがあるということだけだ。
 イギリスの気候変動法と日本の地球温暖化対策基本法案のあいだには明らかに温度差がある。イギリスは具体的な制度設計がすみ、実際に走らせ、トライアル・アンド・エラーで設計上の難点を回避する方策を考えている段階だ。一方、日本は根拠のない目標値を国際舞台で宣言するわりには、政策オプションが列挙されているだけにとどまり、審議未了を繰り返している。周回遅れどころか、少なくとも2周は遅れているのが実情だ。
 その理由ははっきりしている。日本にはまだ低炭素化が経済の外部制約条件になるということ、すなわち、低炭素化という大きな流れの中で一国の経済を舵取りしていかなくてはならなくなったという意識がほとんどないのである。これでは低炭素化が進展しないのもあたり前だ。
 たとえば、先に引用した第1条には「地球温暖化への適応をすることができる社会の構築を図るため、環境基本法の基本理念にのっとり…」という文言がある。環境基本法は地球環境問題が政治の舞台に出現したころ、1993年に作られた法律だが、政府は今のところこの環境基本法の延長程度にしか認識していない。つまり、地球温暖化をいまだに地球環境問題の域内でしか考えていないということだ。現実に即して言えば、地球温暖化はすでにいわゆる「エコ」の域を超えて、言葉の上でもGlobal WarmingからLow Carbonへと重心が変化しつつある。このことにもう少し敏感になるべきだろう。グリーン・ジョブにしても同じだ。グリーン・ジョブが生まれて経済効果があるということではなく、グリーン・ジョブにならないと生き残れないということなのだ。低炭素化は炭素を大量に排出する産業化のあり方そのものを問い直す大きな流れであり、すでに日本も否応なくその流れに巻き込れている。そこから認識を改める必要があるだろう。

●新成長戦略
 このように大枠の議論は必ずしもうまくいっているとは言えず、また、法案成立のめどもまったく立っていないが、それを構成していた個別の三つの政策、国内排出量取引制度、地球温暖化対策税、固定価格買取制度は別の大枠の元に組み込まれて議論が続けられている。「新成長戦略」というのがそれだ。
 新成長戦略は政権交代後の2009年12月に基本方針が出され、翌2010年6月18日に閣議決定された政権交代の目玉ともいうべき大型の経済政策である。「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」というキャッチフレーズの元に、7つの戦略分野と21の国家戦略プロジェクトが組み込まれており、7つの戦略分野には「グリーン・イノベーション」という名前で低炭素化がトップ項目に配置されている。
 この新成長戦略を具体的に実行するための「成長戦略実行計画」にはそれぞれの戦略分野ごとに工程表がついている。グリーン・イノベーションの場合には「環境・エネルギー大国戦略」がそれにあたる。ここには実にさまざまなものが、環境とエネルギーと技術に関係しそうなものはほぼすべて組み込まれている。「基本施策」とされているものだけを列挙しておこう。(このほかにも15を超える施策が「業務・家庭」「運輸」「産業・エネルギー」「技術開発・投融資」に分類されて展開されている。詳しくは「新成長戦略」をみていただきたい。)

  ・再生可能エネルギーの普及拡大・産業化(全量買取方式の固定価格買取制度の導入、規制の見直し(発電設備の立地に係る規制等))
  ・太陽光、風力(陸上・洋上)、小水力、地熱、太陽熱、バイオマス等の再生可能エネルギーの導入目標の設定、ロードマップの策定
  ・地球温暖化対策のための税の導入
  ・国内排出量取引制度の創設
  ・「環境未来都市」構想(環境未来都市整備促進法(仮称)の検討)
  ・スマートグリッドの導入、情報通信技術の活利用、熱等のエネルギーの面的利用等環境負荷低減事業の推進

 先ほどの国内排出量取引制度、地球温暖化対策税、固定価格買取制度の三つの政策もしっかりと組み込まれているのがみてとれるだろう。各種再生可能エネルギー、スマートグリッドなども入っていて、最新低炭素技術の粋が集められたようでもある。これらの技術革新によって、50兆円超の環境関連新規市場を創設し、140万人の環境分野の新規雇用を生み出そうというのが政府の目論見である。
 7つの戦略分野にある多くの施策の中から特に国が集中して取り組むプロジェクトを、政府は「21の国家プロジェクト」として指定している。環境・エネルギーからは三つのプロジェクトが推進される。

  ・「固定価格買取制度」の導入による再生可能エネルギー・急拡大
  ・「環境未来都市」構想
  ・森林・林業再生プラン

 すぐに分かるように、気候変動政策で謳われていた国内排出量取引制度、地球温暖化対策税、固定価格買取制度の三つの主な政策のうち、国内排出量取引制度と地球温暖化対策税は国家プロジェクトから外されている。その理由については後ほど考察することにして、まずはプロジェクトの中身をみてみよう。

●三つの国家プロジェクト
 固定価格買取制度Feed-in Tariffは再生可能エネルギーの普及を拡大するために作られた制度である。今のところ太陽光発電にしか適用されていないが、太陽光発電によって自宅で使う電気を上回る発電をした際に、その上回る分の電力を住宅用の場合1キロワット時あたり48円で電力会社に売ることができる(余剰買取)。買い取りにかかる費用は電気料金に上乗せする形で電気利用者全員で負担することになっている。これをさらに風力、中水力、地熱、バイオマス発電に拡大し、利用種別も自家消費用から発電用にまで拡大することで(全量買取)、2020年までに再生可能エネルギーの国内一次エネルギー供給に占める比率を10%にする目論見だ。
 新しい制度の変更点として注目すべき点は、500キロワット以上の発電用の設備について全量で買い取ることが検討されている点である。これまでの固定買取制度のイメージでは、自家消費を主目的として作られた発電設備に限って余剰分を買い取るものだった。これを自家消費を目的としない発電設備にまで広げることによって、新たなビジネスの成立が見込まれる。たとえば、住宅の屋根を一区画大規模に借りて、発電業を営むような事業も生まれてくるだろう。これまで看板貸しぐらいの経済価値しかなかった住宅の屋根が、これからは発電所としての価値をもつようになる。こうした意味の転換という点で、環境関連の新規市場を創るということがどのようなことを起こすのか、そのイメージを理解する上で、固定価格買取制度の拡大は分かりやすいモデルケースを提供することになるだろう。
 このようにうまくいきそうな政策がある一方で、ほかの2つの政策、環境未来都市と林業再生プランはどうグリーン・イノベーションを起こすのか、何が新しくうまれるのか、まったくはっきりしてしない。先に森林・林業再生プランから述べると、実はグリーン・イノベーションと銘打たれた20以上の政策群の中に森林・林業再生プランは入っていない。この政策の出自は「環境・エネルギー大国戦略」ではなく、「観光・地域活性化戦略」にある。そのため、その目的も「木材自給率50%」であり、たとえば、木材資源を利用したバイオマス発電のように低炭素化が目指されているわけではない。
 こうした試みは既存事業をそのまま延命するために緑色の看板に架け替えているにすぎず、時代の流れにまったく逆行している。林業で言えば、そもそもの問題は輸入材との価格競争に勝てないことと、それによる慢性的な人材不足である。はっきり言えば、すでに事業として成立していないし、する見込みもない。それならばむしろ、林道の建設によって無用な自然破壊をすることなく、新しい人材はこれから成長する可能性のある分野に積極的に流していくべきだ。地域活性化はその流れの中で考えていけばよい。
 その意味で、もうひとつの国家プロジェクトである環境未来都市構想は、地域を活性化する新しい試みとして大いに期待される。しかし、ここにもまた落とし穴がある。

●環境未来都市構想
 環境未来都市構想は2008年に自民党政権下で実施された「環境モデル都市」をベースにしている。大都市からは横浜市、小規模都市からは水俣市、東京からは千代田区といったように都市の性格の違いも考慮にいれて13の自治体を選び出し、そこで先端的な低炭素技術の実践と都市構造の構築が実験的になされた。たとえば、人口42万人で中規模都市に該当する富山市では、路面電車Light Rail Transitのネットワークを拡充することによって、自動車依存度の低減しながら、歩いて暮らせる「コンパクトシティ」の構築を試みている。
 2008年の環境モデル都市では次のような目的がたてられていた。

  ・我が国を低炭素社会に転換していくためには、ライフスタイル、都市や交通のあり方など社会の仕組みを根本から変えることが必要。
  ・今後目指すべき低炭素社会の姿を具体的にわかりやすく示すため、国は、温室効果ガスの大幅削減など高い目標を掲げて先駆的な取組にチャレンジする都市を「環境モデル都市」として選定し、その実現を支援。
  ・市民や地元企業の参加など地域一丸となった底力の発揮により低炭素型の都市・地域モデルを構築し、地球環境の負荷の低減と地域の持続的発展を同時に実現することにより、地域の活性化を実現。

 「社会の仕組みを根本から変える」「低炭素社会の姿を具体的にわかりやすく」「地域の持続的発展を同時に実現」など、グリーン・イノベーションを具体的に都市空間で実現する上で必要な要素がコンパクトに表現されている。
 ところが、これを受け継いでさらに発展させるはずの環境未来都市構想では、まだ構想段階という限界があるとはいえ、環境や低炭素化の話がどこにあったのか分からないほどに混沌とした状態に陥っている。2010年10月から開かれている環境未来都市構想の有識者検討会で描かれている将来ビジョンは次のようなものだ。

  将来ビジョン:環境・超高齢化対応等を追求した人間中心の都市
  ・「誰もが暮らしたいまち」、「誰もが活力あるまち」を実現
  ・人、もの、金が集まり、自律的に発展できる持続可能な経済社会システムの構築
  ・ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の充実等により、社会的連帯感の回復
  ・人々の生活の質を向上させることが究極的な目的

 前政権の政策とは違いを出したいという欲求や、補助金を交付するだけの仕組みからは脱却したいという意欲は分かるのだが、これはあまりにひどい。環境、超高齢化、持続可能性、社会的連帯感などそれぞれの理念はもちろん正しいが、それらをただ寄せ集めただけでは何も言っていないに等しい。こうなってしまった原因は検討会のかなり早い段階である問いを開いてしまったことにあるようだ。それは「住みたいまちとは何か」という都市に生きる人間にとって究極問題とも言うべき問いかけである。その結果、「都市」「まち」という言葉にひきつけられるようにさまざまな社会問題や理念が集まり、結果として壮大な無内容になってしまった。
 低炭素化という巨大なプロジェクトを進めるにあたって、こうした全方位に拡散していくような進め方はあまりよい結果を生まない。環境未来都市でも低炭素化でも同じだが、それがどのようなものになるのかはっきりと分かっている者は誰もいない。だからこそ、そのあり方は理念のようなものではなく、かつてイギリスで始まった市民革命のように具体的な手触りとして示される必要がある。その意味では、環境モデル都市は画期的な試みであった。そこまで一度立ち戻った上で、今度は都市から国へと舞台を移して、低炭素化という革命的な出来事を具体的にどう見せるかを考えるべきだろう。

●炭素リーケージ
 地球温暖化対策基本法に挙げられている三つの主な政策はその役割を担う最有力候補である。特に国内排出量取引制度と地球温暖化対策税は経済に直接影響を与えることから、新しい社会の到来を告げるにたる大きなインパクトが期待できる。しかし、ともに産業界を中心として根強い反対があり、今のところ導入のめどがたっていない。
 たとえば、内閣総理大臣を議長とする新成長戦略実現会議でも、経団連の会長である米倉弘昌が次のように反対の意見を述べている。

  現在検討されております排出量の取引制度や、あるいは再生可能エネルギーの全量買取制度、地球温暖化対策税というのは海外からの投資を呼び込むどころか、逆に我が国でのものづくりを阻害して、そして海外への生産拠点の移転を助長してしまうのではないかと懸念いたしております。最終的な報告書の取りまとめに当たってはこうした制度の導入が盛り込まれないようにお願いしたいと存じます。(国家戦略室2010「第5回 新成長戦略実現会議 議事要旨」)

 産業界が懸念しているのはいわゆる「炭素リーケージcarbon leakage」と呼ばれる現象である。炭素リーケージとは、ある地域で炭素排出のコストが増加すると工場などがその地域の外に移転し、移転先の地域で炭素の排出量が増加する現象を指している。産業構造審議会の地球環境小委員会の資料によれば、2020年までを見通した場合、炭素価格は二酸化炭素1トンあたり0〜50ドル(約4000円)程度の範囲で推移するものと予想されている。これがなぜ問題になるかといえば、各国ごとに二酸化炭素の削減余地、すなわち、追加的に1トン削減するための費用(限界削減費用)が異なるからだ。同じく地球環境小委員会の資料によれば、各国の限界削減費用は、EUが約48ドル、アメリカが約60ドル、韓国が約21ドル、中国が約3ドルであるのに対して、日本の限界削減費用は約476ドルに達している。そのため、日本では1トンあたり476ドルかけて追加的に炭素を削減するよりも、炭素市場で50ドルで買った方がはるかに経済合理的になり、これによって低炭素化が進むことはない。仮に日本市場だけ1トンあたり500ドルの炭素価格を設定すれば、間違いなく産業は安い炭素を求めて国外に流出する。そのため、国内における排出量取引制度の導入には反対の立場をとらざるをえない、というわけだ。経団連は決して抵抗勢力などではなく、論理的に考えても妥当な見解である。
 再生可能エネルギーの全量買取制度や地球温暖化対策税でも同様の論理が成立する。ここで問題になっているのは突き詰めていえば、グローバル化した経済を国内的な規制でどう制御するか、すなわち、イギリスで起きたことと同様に規制と経済の関係づけの問題である。どの国も最終的にはこの問題に自らの解を与えなくてはならない。

●経済に先行する社会
 理念ではなく具体的な手触りをもち、なおかつ国家的な規模の政策によって低炭素社会の到来を印象づけながらも、炭素リーケージは生じさせない。ここで求められているのはそうした綱渡りのような政策技法である。
 かなり難しい作業になるが、考える手がかりがないわけではない。産業界が経済的手法に反対しているのは、先にみたように炭素リーケージによって産業の国外移転が生じるからである。あまり表だって議論されることはないが、実は、国外移転が生じにくく、炭素リーケージも発生しないものもある。それは、一人一人の生身の人間、日本の一般国民である。日本語という辺境言語の障壁と、それにもかかわらず達成された高い経済性によって、国外に移住する日本人の数は今でもごく少数にとどまっている。そのため、国内で炭素に高い価格がついたとしても、それを理由にして国外に移住する人々が大量に発生するとは考えにくい。
 産業界が経済的手法に反対する理由にも実はこれが効いてきている。経済原理から言えば、高い炭素価格がついた場合には工場を国外移転させればよい。経済活動の自由が保障されている以上、倫理性を別にすればそれに反対する理由はないし、現に安い労働力を求めて多くの工場が中国に移転している。低炭素化の場合にそれができないのは、高い技術力とそれに見合う労働品質は日本でしか手に入らないからである。したがって、高い炭素価格がついたとしても、実際には炭素リーケージは起こらない。起こるのはただ、日本が国際競争力を失い、輸出産業が衰退するということだけだ。
 そのため、産業界に炭素価格の上乗せを要求するのはあまり適切な政策ではない。再生可能エネルギーの全量買取制度が国家プロジェクトに入っているのは、再生可能エネルギーの普及が大きく進むとは予想されておらず、コストは産業界が吸収できるぐらい小さいと見込まれているからだろう。
 そうすると、ここで取りうる政策オプションは産業界への直接的な影響は小さいが、社会に与えるインパクトは大きく、具体的に低炭素社会の到来を印象づけられるものにかぎられる。それには地球温暖化対策税、すなわち、炭素税の一般家庭に限った導入がもっとも適している。
 政府の各種審議会は産業界を取り込む形で進められるため、産業界が反対するとその政策がすべて頓挫することが多い。しかし、産業界と一般家庭を切り離して、その一方にのみ政策を導入することも可能であり、その可能性はぜひとも考えてみるべきだ。
 規制と経済の関係づけの問題で言えば、産業組織と国民のあいだにある国外移転可能性の違いを用いて炭素リーケージの問題をクリアし、日本の社会そのものを低炭素化の規律空間にすることによって、そこから間接的に低炭素経済への移行を促すということになる。これは言語障壁と高い経済性という世界でも例をみない条件がそろっている日本だからこそとれる方法でもある。炭素の限界削減費用が日本だけ突出しているのも本質的には同じ理由による。すなわち、かねてより省エネという低炭素経済が運営できたのは、それを支える社会的な条件があったからにほかならない。今度はその条件をはっきりと低炭素社会として示すときがきたということだ。
 炭素税を一般家庭に導入する具体的な手法についてはさまざまなものが考えられるだろう。たとえば、電気やガソリンといったエネルギーに定率で課税する方法や、エコポイントを逆転させて、エネルギー効率の低い電気機器に課税する方法もあるだろう。もちろん、消費税のように消費全般に課税する方法もあるし、確定申告で還付して税制中立にしてもよい。
 いずれにせよ重要なことは、どんな形であれ、低炭素社会を具体的に見せてしまうことである。身に迫るものがなければ、人は本気で考えようとはしない。総量規制の議論はそれからでも遅くないし、逆に言えば、そこからしか始まらない。計画停電になってはじめて本気で節電を考え始め、実際に節電効果が目に見える形で現れたように。低炭素化も同じように考えればよい。低炭素社会が低炭素経済を導く。それを具体的に示すだけで、25%削減宣言のたしかな裏書きになる。
 政府が発する言葉の中で最近頻繁に耳にするものに「選択と集中」という言葉がある。何かを選択し、何かに集中させるときが来ている。この考え方自体は正しい。だが、本当に大事なことは、「何を選択しない」で、「何に集中させない」か、今ここで捨てていかなくてはならないものをはっきり示すことだ。大量に炭素を排出する産業は将来的に維持できない。エネルギーを大量に使う生活も維持できない。何がなぜできないのか、それをはっきりさせることで初めて、何を選択して何に集中させるべきなのか、その意味が見えてくる。その第一歩を、日本は炭素税から始めよ。

【文献】
*インターネット上の資料はすべて2011年3月31日のもの。

環境省,2011,「2009年度(平成21年度)の温室効果ガス排出量(速報値)について」(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2009sokuho.pdf
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経済産業省,2011,「再生可能エネルギーの全量買取制度における詳細制度設計について」(http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004405/038_02_02.pdf
国家戦略室,2010,「第5回 新成長戦略実現会議 議事要旨」(http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20101201/20101201_gijiyoshi.pdf
首相官邸,2009,「「環境モデル都市」13都市の取組概要について」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/siryou/pdf/13EMCs.pdf
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首相官邸,2011,「「環境未来都市」構想のコンセプト中間取りまとめ(案)」(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kentoukai/dai5/siryou3.pdf
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