月別アーカイブ: 2009年11月

ず・ぼん15

国立国会図書館が蔵書のデジタル化に本格的に取り組み始め、図書館の現場もまた、インターネットをどう活用していくかが問われています。
図書館は硬直せず、新しい在り方にどうチャレンジしていけるのか。「図書館のこれから」を考えるきっかけとなる現場の声をひろってきました。

『ず・ぼん』15号では、インターネットを活用したサービスで2007年ライブラリー・オブ・ザ・イヤーの優秀賞を受賞した「横芝光町立図書館」を訪ね、そのサービスを牽引してきた坂本成生さんへインタビューを行ないました。取り組みの背景にある、坂本さんの「思想」が見えてきます。

オープンタイプの図書館管理システム「Enju」を開発したProject Next-Lメンバーによる座談会では、プロジェクトの成り立ちから、「Enju」をどう図書館で活用できるのかを詳細に話してもらいました。

今年2009年10月31日に開館した米沢嘉博記念図書館の現場取材リポートでは、明治大学が構想する「東京国際マンガ図書館」にも触れられています。

ず・ぼん編集委員会による座談会「図書館のコンサバ」では、「読書履歴の秘密を守る」「リクエスト批判」「図書館の無料の原則」「公共性」の4つのキーワードから、図書館の原則を問い直しました。また、同テーマで、日本図書館協会の理事である常世田良さんにもインタビューを試みました。

「流動する図書館員」では、いくつもの図書館を経験されてきた非常勤職員の5人の方に集まってもらい、図書館を流動する利点・難点を聞いています。

ポット出版社長・沢辺均の日記-50[2009.11.17〜11.20]

あっと言う間に年末。twitterで、仲俣さん、高島さんたちと、出版社社員だけでない、
出版の話をしてみようとか、イベントいろいろ。
ポットの本がらみの販促イベントも盛りだくさん。

●2009.11.17火
午前中はマンションの管理組合理事会
午後、「日本語の文字と組版を考える会」を一緒にやってた杏橋さんの息子さんから
写真集の相談話。
決算書=税務申告書類を経理の幸江ちゃんとまとめてる。
そして夜は松沢さんと打ち合わせ。
松沢さんと、二人掛かりで髙橋に「説教」した。
カバー表紙を写真にすることにした。
ポット出版史上はじめて、芸人さんをつかった写真を撮るんだ。
さてだれでしょう?

●2009.11.18水
昼は雑用を細々片付けて、レジュメも大急ぎでつくって、
夜は「元気会」でお話。
テーマは「出版のいまとこれからを展望」、印刷・DTP・印刷設備関係の人多く、
スーツ率も高いあつまり十数名。
終わってから、「講演料」かわりの台湾料理店でゴチになる。

●2009.11.19木
出版会議。販促イベントも目白押し。
松沢呉一「クズが世界を豊かにする」は新宿ブックファースト。1月予定。
ず・ぼん」は最近このサイトで図書館問題にキビシく発言する松沢さんとトーク。
これ2月18日(木)にほぼ決定。池袋ジュンク堂。
年明けに「二人で生きる技術」を、Uさんと大塚さんで新宿ジュンク堂で計画。
落語を観るならこのDVD」販促落語会を書店でやる計画は、
12月19日(土)予定で横浜の石堂書店さん。
ほかにも岩松了「溜息に似た言葉」のリブロ名古屋店イベントの成功につづけ、計画。
夜は「ず・ぼん」の打ち上げ。オレは、竹田青嗣さんと橋爪大三郎さんとの新企画(本だけじゃない)で、
東工大に打ち合わせに行くことになって欠席。
さすが「ず・ぼん」の編集委員。松沢さんの「黒子の部屋」の図書館問題シリーズにも、
冷静な感想だったらしい。コンサバな図書館員なら怒りそうなのにね。
東工大からもどったら、もう編集員は帰った後。そりゃそうだ23時すぎてたもんね。
打ち上げ参加していた、那須、佐藤、髙橋、大田、に様子を聞いたり、雑談。

●2009.11.20金
ポット会議。
2008年度ポットの決算を会議で報告。決算書をややアレンジした(勤務時間数等も加味したもの)ものを
使ってね。
午後、髙橋に説教。つづいて夜にデザインチームに説教(ってこれは指導かな)。
松沢呉一「クズが世界を豊かにする」販促イベントで、松沢さんの相手をしてもらう●●さんに依頼メール。
受けてくれるといいんだけど。ブックファーストは快諾してくれたんだけどね。

さあ、連休だが、いろいろあるんだな。

『低炭素革命と地球の未来』●11/22(日)毎日新聞に広告出します

9月に刊行した『低炭素革命と地球の未来─環境、資源、そして格差の問題に立ち向かう哲学と行動』(竹田青嗣、橋爪大三郎著)の三段八割(サンヤツ)広告を、11月22日(日)の毎日新聞朝刊に出します。
20091120_mainichi_sanyatsu.jpg

低炭素革命と地球の未来 環境、資源、そして格差の問題に立ち向かう哲学と行動


著●竹田青嗣、橋爪大三郎
定価●1,800円+税
ISBN978-4-7808-0134-7 C0036
B6判 / 192ページ / 並製
目次や著者プロフィールなど、詳細はこちらをご覧ください。

東京朝鮮高校ラグビー部、負けた〜

東京朝鮮高校ラグビー部、残念!
東京大会決勝で、國學院久我山に負けました。ああ残念。
東京朝鮮高校ラグビー部員たちの歴史を綴った『青き闘球部』の著者、李スンイルさんによると
最初のタックルが決まらず、才能ある久我山選手に走り回られた、とのこと。
でも、大阪朝鮮高校も去年の高校ラグビー日本一の啓光という強豪に勝って出場を決めたのだから、
東京だってあきらめるわけにはいかない、と。
そうだそうだ。

昨日は『ず・ぼん』15号の発刊打上げでした。
出前とってビールで乾杯!
さっそく16号の新企画の提案も出て、盛り上がりました。

出版部は、今週から来週にかけて入稿ラッシュで、

小浜逸郎さん著『子供問題』、岩松了さんの書き下ろし戯曲『マレーヒルの幻影』
松沢呉一さんの『クズが世界を豊かにする』……。

『子供問題』は、さっき高橋が白焼きを戻して完了。書店には、12月10日(木)あたりから
並びはじめます。
『マレーヒルの幻影』は、12月5日(土)〜12月27日(日)の日程で、本多劇場にて公演が行われます。
出演はARATA、麻生久美子ほか。会場では、脚本も販売します。
舞台を観たあと、活字であらためて戯曲を読むのも、楽しみが倍増するはず!?
岩松さんの本をポットから出すまでは、戯曲というものにほとんど興味がなかったけれども、
読んでみると、戯曲は意外に面白い。セリフだけで物語を読み解いていく面白さ、というか、行間を自分で
うめていく面白さというか。

そんなこんなでバタバタしている出版部だが、
今日の会議で出版部が稼ぐ時給単価を見て、死んだ。
笑うしかない悲しい数字で。
まずは現状把握と改善の道をさぐらねばだ。
次の出版部ミーティングは燃えるぞ。
とはいえ、今日の気分は落ち込みぎみ。なんぼなんでもあの数字はないでしょ。
高橋も今日はめげている。

『子供問題』●予約受付中

2009年12月10日刊行予定の近刊『子供問題─学校、家族、メディアに見る子供をめぐる矛盾』(小浜逸郎著)の予約を受付中です。

批評家・小浜逸郎が2001年から約十年にわたり発表してきた文章から、子ども、教育に関わるものを一挙収録。
「子どもという存在について」「メディアから見る子ども」「学校、教育の現場に見る子ども」と、三つの切り口から、現代の子どもたちが直面する問題を論じていく。
2010年2月には、この本と対をなす『大人問題』を刊行予定です。

目次など、詳細はこちらをご覧ください。

ご予約希望の方は本が出来次第、送料無料でお送りします(代引の場合は代引手数料300円[代金1万円以下]のみご負担いただきます)。

本のタイトル/冊数/お名前/郵便番号/住所/電話番号/メールアドレス/お支払い方法(郵便振替または代引がご利用できます)をお書きのうえ、こちらへメールをお送りください。折り返しご確認のメールを差しあげます。

子供問題─学校、家族、メディアに見る子供をめぐる矛盾


著●小浜逸郎
定価●1,900円+税
ISBN978-4-7808-0136-1 C0036
四六判 / 192ページ / 上製
[2009年12月10日刊行予定]

内容紹介や目次など、詳細はこちらをご覧ください。

図書館とメディアの本『ず・ぼん15』●発売中です

ポット出版の新刊『ず・ぼん15』が11月20日(金)より発売中です。全国の書店、オンライン書店でお買い求めいただけます。お問い合わせフォームからの、直接のご注文も承っております。

図書館とメディアの本ず・ぼん15横芝光町立図書館/米沢嘉博記念図書館/Enju

編●ず・ぼん編集委員会
定価●2,000円+税
ISBN978-4-7808-0137-8 C0000
B5判 / 192ページ / 並製

目次など、詳細はこちら

談話室沢辺 ゲスト:J STYLE BOOKSオーナー大久保亮  第2回「書店経営の実情」

●書店の仕事とは


沢辺 最近印象に残る人の例はどんなもの?

大久保 子供向けのワークショップをされてる方から、子どもに土を使って何かを学ばせたい、それから野山に関する知識を面白く子供に伝えたい、ひいては環境問題に目を向けさせたい、という問い合せがありました。僕なりの観点から、その人の企画に使えそうな本をリストアップして、それぞれの本をすべて解説したりとか。

沢辺 で、買ってくれました?

大久保 買ってくれますよ。まあ買ってくれたということよりも、いい企画が出来たってフィードバックをもらえて、楽しいですよね。やっぱりその人の世界でしか考えられないこと以外のことを僕が提案できたので。例えば、野山駆け巡りながら環境問題も面白いけど、家畜をテーマにして、その家畜と肥えた土壌の関係だとか、そんなところからやるともう少し世界が広がって見えます、とかね。僕なりのセンスでアプローチの仕方を提案すると、「あ、これ企画いただき」とかそういう話になるんですよね。そうするとやっぱり在庫のない本屋でも少しは役立てるかなって(笑)。こういうことは、僕の今までのキャリアを活かした仕事にはなってるかなとは思いますね。というのは、会社勤めのときには、例えば役員が、あれどうなってる? これは?って思いつきでいうこともあるわけです。それをいちいちこう全部調べて、きれいに資料に落とす。またこれを調べたら当然こういう質問も来るだろうっていうのを考えた上で資料をまとめるわけですよね。こういう経験はいま役立っていますね。
だから、そういう人には、馴染みの本屋だけの域じゃなくなって、すごく大切にしてもらえるようになってきたなっていうのは自分でも感じますね。そこまでやってくれるなんて思ってなかったし、まあ普通だったら金を取れるくらいですよね。それくらいのクオリティのものをやってるっていう自信はあります。

沢辺 そうだよね。六本木の有料図書館だったら、有料なんだから、そのくらいのレファレンスはやってほしいっていうレベルの話だからね。

大久保 資料探しだけでもみんな大変なんですよね。例えば大きい書店さんに行って、自分の考えていることに関わる本を選ぶ時間だけだって相当な時間がかかるわけじゃないですか。ここからだって新宿行って往復もうそれで1時間でしょ。本を選んで、なかったらまた渋谷に行って、ってやってたら、もう何日分もそこで労力を浪費する。僕だったらだいたい1日、長くても2日。場合によっては1回リスト出して2日で取り寄せて、見ていただいて、すり合わせして。回答は1日くらいで返してますね。しかもその間、その人は別の仕事ができるじゃないですか。僕はそういう役の立ち方をしたいなって思うんですよね。やっぱり地域の人が仕事で上手くいってくれないと私も困るわけですよ。大不況でアパレルの方に次々倒れられちゃったら、僕は商売をしていけないんですよね。遠くから来ていただくような店じゃないですから。とにかく地元の人に役立つ。それはクリエイターさんだけじゃなくて、お年寄りから子供まで。地元の人に役立てられる店じゃないと僕は意味がないと思うんですよね。

沢辺 でもひょっとしたらそれで金取れるようになるかもしんないね。

大久保 いや、まあ取るつもりはないですけどね。

沢辺 いやもちろん。大久保さんにはないかもしれないけど。

大久保 普通だったらコンサルティングフィーは十分取れますよ。本代よりよっぽどこっちのほうが高いですよ。

沢辺 いやいや、本だけでなく、そういう付き合いがあればそこに目をつけて、ねえねえちょっとこういうのを10万円でやってくれない?って声がかかるとか。

大久保 4回くらいスカウトされましたもん。ウチの会社来ない?って。中には怒りだしちゃって、「君がここで店番してなきゃいけないのか!」とか言って(笑)。いけないんじゃなくて好きでやってんですからってなだめたりとか。いろんな人がいますよ。

沢辺 金払うからってやってよという人もいるでしょ?

大久保 全然本に関係ない仕事とか手伝ったりもしますよ。英語でプレスリリース書いたりとか。海外の展示会初めてなんだけどどうしたらいいかっていわれて。じゃあプレスリリースをまず雑誌に出すとか、とにかくもう宣伝しましょうって言って、結局翻訳もして。

沢辺 いいこと聞いたな。こんど頼もう。違うか(笑)

大久保 いいですよ。そういうお付き合いですよね。

沢辺 声がかかるかもしれないよね。

大久保 かかってます(笑)

沢辺 だけどこういうことって、最初からそういうことやりますからなんか声かけて下さいって言ってもダメで、大久保さんがそういうことを本という媒介を通じてみせてきたことっていうのが先にあって、それで付いてきているってことだもんね。

大久保 まあそうですね。
でも、僕が金を取らないのは、別にサービスで人間関係をつなぎ止めたいって思ってるわけじゃなくて、それで金を取っちゃうと、書店業のクオリティが下がると思うんですよ。そこまでやらなくても、例えばそれがレベルAだとしたら、レベルCとかDぐらいのサービスを店舗の中で出来ないと本当はおかしいんですよ。それが書店員の仕事でもあるわけじゃないですか。理想論ですよ、理想論。実は、それが、書店という小売業のクオリティと事業体力をつけさせることにつながる。だからそれを付加価値として、あらたに金を取るようじゃ書店員はダメだと思うんですよ。それだとただの売り子になってるだけで……。

沢辺 うん。そうそう、解る解る。

大久保 そういう思いがすごくあるので、あえて金を取らないという気持ちもすごくあります。

沢辺 コンサル目指してるわけじゃないもんね。書店的基盤があるからこそ、今受けてるっていうか、相談してくれたりするってことももちろんあるわけだしね。

●神宮前という土地柄

大久保 あとは土地柄が特殊だっていうのはありますね。これが町田の駅前の本屋で同じようなことをやろうとしたってたぶん出来ないですよね。ここにいるお客さんだからってのはすごく大きいと思います。

沢辺 なるほど。

大久保 だからまあ、そういう意味でもあの場所は、この場所っていうのは商売は難しいですけど、良かったかなと思いますよね。何が幸せかって言うと、いままでもう4年目ですけど、1回もここじゃなきゃ良かったなって思ったことなかったですね。ここじゃなかったもっと商売しやすいのにとか、こっちの方が良かったなとか、早まったなって思ったことはないですね。それは店を構える人間としてはすごく幸せですよね。
商売はもちろん難しいです。今日も来て下さったお客さんから「こんな目立たないところに本屋があったんだ」て言われた。その人は竹下通りからもっと先にある、アパレル関係の方だと思うんだけど、「こんなところにこんないい本屋あるの知らなかった」って。「ここは目立たないよね」「知らないよね」って皆さん言いますよね。まあそれが良くも悪くもあるんです。

沢辺 良くもあるでしょ。

大久保 そう、もちろん。

沢辺 裏通りの目立たない路地にあって、あれこんなとこに書店ができたんだって、見つけたときって、見つけるほうもうれしいわけですよ。それって裏通りで目立たないっていうマイナスが、プラスになるよね。

●軌道に乗せるまでの試行錯誤

沢辺 でもどうなんですか? 商売的に言うと、初年度は黒字になったんですか?

大久保 なってない。なってるわけないじゃないですか(笑)。やっと今年に入ってからですかね。

沢辺 え、じゃあ今現在は何とか黒字になってるんだ。

大久保 まあ威張れるほどの黒字じゃないですけど。黒字っていうか、ロスは出してないって言ったほうが正確ですね。いや、伸びてますよ、このご時世でも。伸びてますけど、ゆっくりゆっくりです。

沢辺 それ売上ベースで?

大久保 そうですね。

沢辺 でも減価償却は?

大久保 そんなこと考えてないですよ。考えられませんよ(笑)

沢辺 MBA持ってるくせに?(笑)

大久保 そう。考えない考えない(笑)

沢辺 損益分岐点とか……(笑)

大久保 そんなこと考えない(笑)。そんなこと考えたら毎日暗くなるじゃないですか。だからそりゃね。富士山登るような感覚なんですよ。朝、頂上のことを考えたら、毎日仕事なんてできないですよ。

沢辺 今日は一合目までいこうとか?

大久保 そう。達成できる地点をひたすら眺める。

沢辺 自分の食い扶持は出せます? 十分に。

大久保 そりゃ十分じゃないですよ。
ただ、垂れ流しは止まりました。

沢辺 何年ぐらいで止まったの?

大久保 2年かかりましたね。
1年目はボロボロで。なにやってもなにやってもダメでしたね。

沢辺 なにやってもって、どんなことをやったの?

大久保 品揃えもそうですし、商品の入れ替えも頻度はすごかったし。チラシは月に1万枚を2年間毎月やりましたね。

沢辺 1万枚のポスティングを?

大久保 はい。

沢辺 例のハガキ式ですよね。

大久保 ハガキ式もありますが、いろいろ試行錯誤しました。最初はビニールのショッピングバッグに広告と、あとちょっと興味を引きそうなチラシを入れたりして。そのままゴミ箱に捨てられないような、あ、この中に入ってるのってなんだろうって思ってもらえるようなものを組み合わせて入れて。

沢辺 版元のチラシみたいなとか?

大久保 いや、それはお客さんの宣伝や、お店のカードだったりですね。袋に入れて、配る手間は一つなんで、同じぐらいの時期にオープンしたレストランのチラシとかも入れて、配りましたね。

沢辺 月に1万枚ってことは……。

大久保 週3千枚強。

沢辺 週3千枚。っていうことは1日、7日毎晩やったとして一晩430枚。

大久保 一晩1千枚目標でやりました。

沢辺 そうだよね。毎日は出来ないもんね。

大久保 1千枚から2千枚くらい。この辺は、集合住宅ばっかりなので、1時間1千枚はいけますよ。何の自慢にもならないですけど。

沢辺 例えばさ、J STYLE BOOKSを起点にすると、どれくらいのところまで配りきれるの?

大久保 北は山手線の線路際から千駄ヶ谷方向にはサザビーズくらいまででだいたい1千枚ですね。2丁目から3丁目にかかるところで1千枚。で、表参道駅方面で言えば、まい泉あたり6丁目のエリアまでで1千枚とか。そんな感じですね。

沢辺 じゃあそれ1時間。まあそれなりに大変だわね。

大久保 いや、もう出来ないですよ。

沢辺 もう出来ない?

大久保 もうやる自信ないですね。倒れる。いまはもう考えたくもない。走りますからね。
昼間ポスティングしてる人たち見ると、いいなって思いますよね。こんなにのんびり配ってられてって。だって店が終わって、配れるのは3時間しかないわけですからね。

沢辺 小走り?

大久保 小走り。走ってる方が気持ちが保てるので。タラタラとやってると気持ちも落ちちゃうじゃないですか。だからタンタンタンってリズムつけて走る。ペースつけて配ってると気持ちもやっぱり乗るわけですよ。でも、配ろうとしたら「入ってくんな!」と怒鳴られたりとか。40歳近いMBAホルダーが……泣けてきます(笑)。
でもまあそれもやっぱ楽しくて。あ、いつも領収書を切ってくれるあの人はこんなところから来てくれてたんだって発見があったり。
チラシってすごいベタじゃないですか。コンサルティングをやってる人とかは、そんなのゴミになって終わりだよって、やりもしないくせにみんな言うわけですよ。だけど、意外にみんな見てて、しかも見たらすぐ来てくれるんですよね。こんなの入ってたって言ったり(笑)

●ポスティングの効果

沢辺 MBA仕込みの応答率で言うと(笑)、0.2%くらい?

大久保 いやいやいや、もっとありますよ。1%くらいはあるんじゃないかな。感覚的には。

沢辺 じゃあマーケッティング的に言うと、かなりの好応答なんじゃないの?

大久保 好応答だったと思いますよ。だから僕は、ポスティングが無意味かっていったら、無意味じゃないと言い切れます。ただ、やり方ですね。どういう内容でチラシを作るか。どういう形で入れるか。それは何百通りとやりましたよ。
ちょっと厚みのあるフリーペーパーで、くしゃっとされないようにしたりとか。で、最後に行き着いたのがハガキなんですよね。ハガキは意外にみんな捨てないんですよ。ホントのハガキと思うのかどうかわかんないですけど。

沢辺 厚みじゃないかなあ。それとさ、J STYLE BOOKSのハガキチラシってさ、大久保さんが作ってる感じがするの。

大久保 あ、そうですか(笑)

沢辺 大久保さんが自分のインクジェットプリンタかなんかで、つくってる感じがする。いや、素人の手作り風がいいと言っているわけじゃなくて、大久保さんらしくいろいろ工夫されてるなっていう風に思うんだよね。

大久保 それは言われたこと何度もあります。2年もやりましたから、1人何枚も見るわけじゃないですか。見てくうちにその変化も見えてくるし、やっぱりこの辺はグラフィックの方が多いので、ああいうの気になるのか、「あ、ここ変えた」とかそういうのちゃんと見てくれるんですよね。で、店に来てみたら、いつもこの人1人しかいないな……。

沢辺 そうそう。

大久保 もしかしたらこの人が自分でつくって、自分で配り歩いて、全部一人でやってんのかなって、そこまで見てくれるっていうのもまたありがたいですね。だから、一人でやってたから良かったかなっていうのは今はありますね。この人は店を閉めたあと、一人でやってるんだって、そのチラシの背景までちゃんとみんな見てくれる。

沢辺 物語、ね。僕は、店ができた時にぱらっと覗いたときはね、オシャレなカッコいい本屋出しやがって、という第一印象ですよ。率直に言えば。

大久保 (笑)気取りやがってって感じで。

沢辺 いかにもじゃないですか。場所も場所だし。そういう人がやりそうだなって。で、大久保さん二枚目だしさ。

大久保 いや、そんなことないです(笑)

沢辺 なんだけど、やっぱ一番印象に残ってんのはチラシ話だよね。

大久保 もう無茶苦茶、泥臭いですよね。

沢辺 時々立ち話するようになって、まあ一応応答は親切だから、ただキザってわけじゃないんだなって。それで時々お喋りするようになって、一番すげーって思ったのが、チラシ。1千枚撒いてるって言ってたとき。

大久保 そうですねー。あのときは絶好調のときです。チラシだけは(笑)

沢辺 僕もポスティングやったことあるけど、ホント嫌だった。

大久保 嫌ですよ。ポストに入れてる時に住民の人に会うのも嫌だし。

沢辺 そうそう。僕の場合は商売がかかってなかったから、どんなぼろアパートでも、ともかくポストの数があるとこ見つけりゃ、嬉しいっていうだけになっちゃって。だからポストの中にチラシが溢れているようなところでも入れる。そうすると一応減って嬉しいなあって思うんだよ。でもそんなそんなの効果もないってことは見た瞬間に解るのに、効果とか考えないでともかくこの手元を減らすっていうことしか考えなくなっちゃうじゃん。一戸建てかなんかが続いてるとさ、もう腹がたってきたりさ、やんなってきたり。一体何のためにチラシ配ってんですかねみたいな。

大久保 だから、配り方も考えましたよ。さあ今日やるぞって行って、でもポストがチラシだらけだったらその日はもう止めるし。何曜日が一番効果あるかとか。日曜日に頑張って配って、月曜の朝一にOLさんが見て、週末楽しかったねみたいな話をしながら手紙をさばいて、その中にチラシがあって、あ、本屋だっていうのを想像したりとか。何曜日が一番効果あるのかとか。配り方も色々考えたり。それがどれだけ効果あったのかっていうのは解んないですけど、ただ、そこで繋がってる方もたくさんいますし。

沢辺 僕が話したときに、「ねえねえ大久保さん自分で配ってるわけ?」みたいなことを聞いたと思うんですよ。

大久保 そうですね。その時話したのは、なるべくポストにある名前を頭に刷り込むようにしてるんです、と。

沢辺 そうそう。

大久保 あれもよかったんです。こっちは顔と名前が一致するわけじゃないですけど、領収書の宛名見て、千駄ヶ谷の先の方ですかっ?って話しかけたりして。えーなんで知ってんのって。もしかしてチラシ見てきて下さったんですかって。やっぱり自分の手で配ってよかったなと思いましたね。

沢辺 僕なんかもう人間が堕落してるからさ。チラシ配ろうとか思うと、いかにコストを落として、誰にどうやって効率的に配らせるかなんてことを考えるけど、「大久保さんが自分で配ってるの?」って聞いた時に、「もちろんそうですよ。ポスト見て名前も覚えるようにしてるんですよ。領収書を切る時に一声かけると割と喜んでもらえるんで、それだけ覚えるようにしてるんですよ」と言ったときに、やっぱちゃんと一生懸命やってんなーって思ったわけです。人間の共感って言うのかな。それがついてる気がすんだよね。

大久保 そうかもしれないですね。僕自身もチラシなんて効果ないって思ってやってたんですよ。そう思ってやってたんですけど、やる限りは、たとえ効果が1でも、0じゃない限りはやれば効果がそれなりに出る。だったら、その努力は惜しむべきじゃないですよね。だからやれることは全部やろうって。そういう感じですよね。やれることをやってんのかって言うのは、いつも自分に言い聞かせてますよね。それはキャリアがないから上手には出来ないですけど、ただ、ちゃんと考える。僕なりに考えて、お前自分がいまできることやってるかっていうのは常に思ってますよね。

●転職、独立で見えてきたこと

沢辺 だから大久保さんって、なんか変な言い方だけど、転職をプラスに転化してますよね。

大久保 転職をプラスに……いやもう、それはそれしか食ってけるものがないですからね。こっちも必死ですよね。

沢辺 転職ってさ、必ずしもプラスに出来る機会は多くなく、どっちかっていうと転職するたびに給料減ってくみたいな。

大久保 給料は減ってますけどね(笑)

沢辺 もちろん給料は減ってるけど、書店を自営するっていうものすごい困難な道を何とかやっていけてるのは、大久保さんの前の仕事経験を十二分に活かしているから、っていう気もするんですよね。
でも最初のデザイン書はあんまり……グラフィックデザイン系の本は、あんまりよろしくなかったですよね。

大久保 最初の品揃えですか?

沢辺 うん。

大久保 最初の品揃えはまあ、僕自身もマーケティングしてたわけじゃないし、ここにどういう人がいるかも解らなくて。例えば建築家の方がこんなにいるとは思わなかったし。まあせいぜいファッション系の人は多いだろうなぐらいですよね。で、開店して一ヶ月もしない頃、たぶん近所に住んでる方なんですが、その方に「あなたね、自由が丘だったらいいわよこれで。でもここにいるのはね、プロ中のプロよ。トップクラスの人たちが、とにかくいるわけだから、これじゃああなた、商品が弱い」って言われて。総入れ替えです。それでもやっぱり僕の専門分野じゃないですから。僕もグラフィックは好きで、趣味程度には買ってましたけど、やはりプロの求めるものって言うのは解んないですよね。今でも解んないかもしんないですけど(笑)。そんな感じです。
でもそう言ってもらえるのって、僕にとってはラッキーなことなんです。

沢辺 ねえ。


窓際には、デザイン関係の書籍を並べている。

大久保 言われなかったら解んないですよね。たぶんそこで、かなりのお客さんを失ってるんですよね。皆さん期待して来て下さっているのに、ああなんだ、ちょっと素人っぽいなって。最初は僕はそんな玄人好みのものよりも、いろんな分野に、例えば建築の興味ない人が、建築に興味を持ってもらえるようなイメージだったんですよね。で、とにかく、ジャンルは、学参とかアダルトとか抜いたとしても、それ以外のものはなるべく幅広いジャンルでやろうとした。みんなが今まで興味を持たなかったジャンルも興味を持てるようなイメージで品揃えはしてたんで。それじゃあ、やわいと言えば、やわいですよね。そこで品揃えをがらっと変えて。

沢辺 よくその人がいてくれましたよね。

大久保 そうですよね。で、言ってくれた。

沢辺 普通だったら言わないよ。でもそれを引き出せたっていうのが、大久保さんになんかあったのかもしれないね。
でもさ、大久保さんを基準にすると今の本屋さん、大変だよね。

大久保 いや解んないですよ。僕は他の本屋さんのことは良く知らないので。本屋の友達ほとんどいないですからね。
組織に入っちゃうと、やる意識はあっても自由が与えられない、っていう話くらいは耳にしますけどね。まあそれぐらいしか知らない。

沢辺 不安じゃなかったですか?転職して。

大久保 転職して、いや、不安ですよ。

沢辺 僕も独立したての時は、いてもたってもいられないほど、泣きたくなるほど不安だった。


知人が雑貨や食器などを展示し、大久保さんがそれに合わせた本を展示するスペースもある。

大久保 でも、それもお客さんに助けられてますね。1年目から来てくれているお客さんで、やっぱり1人で独立して、その不安な時期を過ごした経験のある方が、ああ、俺も良くわかるよ、デザインをやってて、今日は1日中だれともしゃべってねえなと思ったりとか、そういう辛かった経験や失敗した経験だとかをお店に来ては話をしてくれたりとか。
励ましてくれて、買い物してくれて、という人はね、けっこういるんですよ。だからこのエリアはあったかいなって思いますもんね。会社辞めるときは上司に「世の中冷てえぞ」って言われましたけど。冷たいなって思ったことはないですね。不安はもちろんあるし、朝まで寝られたことって数えるぐらいですよ。夜中絶対起きますし。けど、まあ割と図太いんですよ。線細そうに見えて、負けず嫌いなんですよね。

●書店、出版業界に思うこと

沢辺 じゃあ最後に、書店業界では仕入正味が少ないっていう意見が多いわけだよね。で、大久保さんが4年かけて、日曜日もでて、アドバイスも含めてレファレンスサービスみたいなことまでしても、まあ自分の食い扶持くらいは出ますよ、という程度だとしたら、やっぱり商品マージンが余りにも低いっていう思いはありますか?

大久保 いや、それはマージンは高いにこしたことはないんですけど。規模の小さい、新しい書店だからなおさら思うのですが、制度は一つのルールだと思ってるんです。そのルールの中でどうにかするのが僕の仕事。なので、そのルール自体を改正しようということに心血注ぐよりは、そのルールの中でいかに実入りを増やすかとか、売り上げを伸ばすかとかということを考えることしかしてないですね。
当然マージンは多ければいいんですけど、かといって、他の業界で置き換えて考えてみたら、最終的なマージンってどうなのかなと思うんですよね。例えば、アパレルは、マージンがたくさんある。でも、在庫をたくさん抱えるし、違うところで費用が、例えば営業費用がかかったりするじゃないですか。トータルで考えた時に、残るマージンは、アパレルだって似たようなもんなんじゃないの、なんて。レストランなんかもそうですよね。そんな儲かんないよって。マージン少ないし、廃棄しなきゃいけないし。船場吉兆みたいなこともしてらんないし。
そう考えると商業ってそんなとこなんですよね。そこをうだうだ言うのはやめようと。「大久保さんここに本屋開いて下さい」って誰かに頼まれてやってるわけじゃない。僕はやりたくて、マージンが低いのは承知の上でやってるわけだから、そこをうだうだ言う暇はないですよ。
それよりも、仕入のロスや返品のロスをいかに減らすかとか、自分のスキルを高めることでそういうのをカバーしていくほうがいいんじゃないかなって。
もちろん取次とか見てると、もっとね効率のいいオペレーションやってローコスト化して、お互いのマージンを増やすことは簡単だろって思いますよ。改善の余地はたくさんあると思う。でも、僕自身、制度がどうだこうだいうようなレベルじゃないし、もっと自分にできることは何かと考えますね。
僕は商店経営を極めたいと思っているんです。開店の時に数千万レベルの資金を持ってたら、会社を辞めるときにそれを担保にお金を借りて不動産でも買って、家賃収入が得られるように安心を確保しておいて、その余力で本屋をやれば、食い扶持に困ることもないし、資金も回る。でもそこは敢えて、ちょっとカッコいい言い方ですけど、背水の陣を敷いてギリギリのところで自分を追い込みたい。少しでもない知恵が絞れるように。やっぱり困らないと知恵なんか出ないじゃないですか。困らないとチラシなんか配んないですよ。

沢辺 そうだよね。出来れば帰ってすぐ寝たいもんね。

大久保 寝たいですよ。やっぱり自分をどれだけ追いつめてるかだと思うんですよね。そうしないと知恵なんか出て来ないですよね。

沢辺 うーん。まあルールは横並びで、大久保さんだけが低いわけじゃないんだもんね。

大久保 ええ。みんなに決められたルールなんですよ。

沢辺 まあ少々の差はあっても、みんな一緒だしね。ちなみにいま返品率ってどのくらいですか?

大久保 返品率……。どれくらいだろう。

沢辺 そういうのは出してない?

大久保 出してない(笑)。

沢辺 業界平均は40%だよ。

大久保 40まではいってないですね。

沢辺 書籍はほぼ注文どおり? 見計らい(※書店からの注文ではなく、取次会社の判断で納品される商品のこと)が来てるんですか?

大久保 ん? すいません業界用語がわからなくて……。

沢辺 いやいや、そんなの全然問題ないですよ。

大久保 配本、自動配本みたいなものですか?

沢辺 そうそう。

大久保 それは、ほとんどないですね。たまに1〜2冊注文以外の本が混じってるけど。

沢辺 じゃあ、ほぼ自分で注文出した分?

大久保 全部自己発注ですね。小書店がパターン配本を外して個別注文すると欲しいものが入らないってよく聞きますが、いまひとつピンとこない。

沢辺 欲しいものが入らないっていうのは、「1Q84」みたいに置いとけば売れる本ってどんな店でもほしいわけですけど、そういうのが取り合いで小さな店に入らないっていうことだと思いますけど。ピンとこないっていうのはどういうこと?

大久保 欲しい本は入ってるから。

沢辺 例えば「1Q84」にしても?

大久保 うん。入ってますね。『ミシュラン』とかも入ったし。もちろん500冊とか言ったらくれないでしょうけど。

沢辺 いくら「1Q84」とか「ミシュラン」でも、500冊も売れるわけじゃないもんね。

大久保 売れないですよ。だけど、十分さばくくらいは入ってます。

沢辺 ふーん。

大久保 あと僕から『本の現場』で唯一不満なのは、出版不況の正体が分からない、ということ。明らかにされてないと僕は思うんですよ。
感想メールでマクロだのミクロだのって話をしたと思うんですけど、本では、出版統計の数字が語られていたり、あとはまあアナログ的な話はされてるんですけど。
でも、例えばの話をすると、「SWEET」っていうファッション誌が最近売れています、と。マクロ統計的にはいままで下火だったのが伸びてます。評論家とかが何年後かにその数字を見て分析する時に、ああ、あの時は原宿にH&Mやフォーエバー21が出来て、ファストファッションが流行って、それがファッションの意識に火をつけて、それで「SWEET」は伸びたんだ。そんなふうに分析するかもしれないですよね。統計の上辺の数字だけを見て語る人は。
だけど、実はあれはおまけが売れたんだよというのが現場レベルでの実際だったりする。そういうミクロの分析がたぶん必要なんですよね。
そのうえで、出版不況ってホントに不況なの?って、ほんとは僕は疑ってるんですよ。ホントにみんなが言ってるほど不況なの?って。たぶん沢辺さんもそういうところおありだと思うんですけど。

沢辺 うん。

大久保 出版不況の正体って誰も語ってないと思うんですよ。ホントの意味で。正体が語られずに、制度変更のことばっかり言ってるのは、非常に危険だと思うんですよね。出版業界の川上から川下までみんな不健全で、不健全な状態の中で外科手術したらみんな倒れます。手術にならないですよね。そういう怖さがあります。
ルールづくりにタッチできない側としては、どうなろうとそれに従うしかない。いつの間にかそういう論調になって、勝手に決まったら怖いなという不安はありますよね。それは、沢辺さんとか永江さんとか、発言力を持っている方がきちっと言ってくれると嬉しいなっていうのはありますね。

沢辺 うーん。僕も不況だとは思ってないのね。日本経済全般においても。例えば、車にしても、明らかに俺たちが若い頃のステータスシンボルにはもうなってない。俺たちの若い頃は見栄があったわけね、MARKⅡ乗りたいなとか。そんなのいま何もないでしょ。

大久保 みたいですね。

沢辺 僕自身も、いやあレンタカーでいいよって思ってるわけね。明らかに効率的だから。社会全体が、もうそんなにどうしても買いたいものがなくなってしまった状況でしょ。これはよく言われることだけど、可処分時間に占める読書の割合が減ってきているわけですよね。それはインターネットが、時間だけじゃなく中身も代替えして奪っているからだと思う。だから相対的に雑誌とかが落ちている。ま、本は微減だけど。
だから、大して不況なんじゃなくて、いままでみたいなどバカ売れの仕方がもう通用しなくなってるだけに過ぎないような気がしてならない。ちょっと前だったらセブンイレブンを10店舗出せば8店くらいは黒字になっていたけど、いまは厳しい。ただ出せばいいというわけにはいかなくなって、既存店も落ちてきていると。それは不況ではなくて、社会の変化だと思う。町の小さな本屋が潰れていくというのも、他の業種だって小さな店は潰れてるでしょ。

大久保 本屋だけじゃないですよね。

沢辺 この近所の裏通りで八百屋が潰れたでしょ?

大久保 あ、そうですか。

沢辺 まい泉の近くには豆腐屋があって、なかなかいい豆腐屋だと思ってたんだけど、あそこも潰れたし。それと同じことじゃない。
和民に行けば、みんなで飲んで、1人2000円ぐらいで割り勘できちゃうのに、大して高くない店で3千、4千円。で、和民のほうが種類も豊富だしさ。そうすると、ここはあのおばあちゃんのみそ汁うまいんだよ、みたいな特徴がないと、小売業は難しい。豆腐屋が潰れるのと同じ理屈だと思うんだけどね、本屋が潰れるのは。違いますかね?

大久保 僕なんか下町の人間なんで、僕の祖父や曾祖父はわずか数十年というあいだに、関東大震災、太平洋戦争があって、店や家を失って、それでも続けてやってきたことを考えると、どこまでが不況なのかっていうのはあるんですよ。ちょっとやそっとのことで世の中のせいにしてられないなとは思いますよね。

沢辺 うん。そうですよね。

大久保 あくまでも僕の場合ですけど、世の中のせいにしてなにかを変えよう、などというのはまだ早いと。という感じですね。感情的ですけど(笑)。そういう意地とかは必要だと思います。なにをやるんでも。

沢辺 ところで、大久保さん、J STYLE BOOKSをやっていくなかで、いくつかは捨てたわけだよね?

大久保 ん? 何をですか。

沢辺 んー。日曜日の休みもないとか。

大久保 ああ、犠牲にしているものは沢山ありますね。もう仕事一色ですね。

沢辺 ですよね。でも後悔はないよね。面白いんだもんね。

大久保 そうですね。後悔はないですね。考えたこともないですね。先への不安はまだまだありますが(笑)。来月どうなってるかなんてわからないですからね。

沢辺 そうね。

大久保 だからいまだに通勤定期は1ヶ月分しか買ってないんですよ。もしかしたら来月不要になるんじゃないかと思って。

沢辺 はあー。

大久保 それがずっと続いてますね。

沢辺 その気持ち解る。

大久保 その、キャッシュフローを持たせたいとかじゃなくて、気持ちの問題なんです。

沢辺 わかる。気持ちの問題だね。来月はどうなるかわからないと言ったって、何か起こった時には、後始末だってあるわけで、3ヶ月分買っておいても全然無駄になることなんてありはしないし、仮に無駄になったって大した金額じゃない。だけど、なんかそこから始めないと、緊張感が途切れるみたいな気分だよね。だから、なぜか1ヶ月ずつ買う自分っていうのはあるんですよね。

大久保 そう。なんかね、あるんですよ。

沢辺 なんかあるんですよね。そこでこうなんか崖っぷちにいるぞ、みたいな。

大久保 ええ、あるんですよ。

沢辺 そうですね。いやー面白かったです。どうもありがとうございました。(了)

次回予定

J STYLE BOOKSオーナー大久保さんとの談話は今回で終了です。是非、お店に行ってみてください。
次回の「談話室沢辺」は11月2027日(金)を予定しています。
ゲストに、太郎次郎社の須田正晴さんをお招きして、版元ドットコムのこと、電子書籍のことを語りました。
お楽しみに!

プロフィール

大久保亮(おおくぼ・あきら)
J STYLE BOOKSオーナー

J STYLE BOOKS

Web http://www.jstylebooks.com/
住所 東京都渋谷区神宮前2-31-8メイハウスビル1F <Google Map>
TEL & FAX 03-3402-7477
定休日 日曜(不定休)
J STYLE BOOKS

いただいたご本『恋の蛍』

● 松本侑子『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』(光文社)1800円+税

え? 松本侑子さんって太宰治なんて好きだったんだ?
と送っていただいたご著書のタイトルを見てビックリ。松本さんの作風からは太宰はかなり遠い感じがしたからだ。

でも読みはじめると、太宰という作家のかげで誤解にさらされてきた女性を取り上げた評伝小説で、フェミニストの松本さんらしい問題意識に貫徹された一冊であった。

「 「死ぬ気で恋愛してみないか」「先生を、愛してしまいました」昭和23年、太宰と入水した山崎富栄の知られざる生涯。幸福な少女期、戦争の悲劇、太宰との恋、情死の謎とスキャンダルを徹底した取材から描く「愛」の評伝小説。」

「酒場の女」という具合に(世間や文壇の)女性蔑視のもとに語られてきた山崎富栄は、実は令嬢で、英語が堪能な女性経営者だった。そんな彼女がなぜ貶められてきたのか。彼女を通して見たときに太宰はどのような作家として像を結ぶのか。緻密な取材、調査に定評のある作家・松本侑子ならではの迫り方で、ひとつの生き方、ふたりの関係に光を与えている。

はじめてのGoogleブック検索【グレート・ギャツビー編】

Googleブック検索というものがあるのは、ご存知だと思います。
でも、使ったことがある人は少ないのではないでしょうか。
私自身、これまでは「試しただけ」で、特に何に使うということはありませんでした。
「Iwamatsu Ryo」と入れて、「おお岩松さんは海外でも紹介されているんだな」と馬鹿なことを思ったりしただけです。

ところが昨日、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』(村上春樹訳)の中の「ともあれ、それはただの私事にすぎない」(私事に圏点)という台詞は、原文でどう書かれているかを調べるように頼まれ、初めて明確な目的を持って使ってみて、「これは、もっと使ってみないと駄目なのでは?」と感じました。
今回やったのは「ある言葉が、特定の本のどこに出てくるのか」という基本的な使い方ですが、いくつか発見があったので、「どのように使ったのか」を記録しておきます。

まず、スタート地点は、「村上春樹訳の現物は手元にある」「『ともあれ、それはただの私事にすぎない』という台詞が、訳書のどこに出てくるのかわかっている(ちなみに274ページ)」「原書はない」というところでした。

現物が手元にあり、探したい台詞の場所がわかっていたのは、重要です。
現物がなければ、買うか、借りるか、立ち読みするか、Googleブック検索で調べる必要があります。
また、台詞の場所がわからなければ、気合いで探すか、誰かがページ数とともに引用してブログを書いてくれていることを祈って検索するか、Googleブック検索で調べる必要があります。
が、村上春樹の『グレート・ギャツビー』は、検索の対象になっていません。

この手間を省けたので、今回は5分で探せました。
手順は、
1.台詞の近くの、本の中にあまり出てこないであろう固有名詞を選ぶ
2.選んだ固有名詞を英語でどう綴るか調べる
3.Googleブック検索で原書を検索し、さらに、選んだ固有名詞を検索する
4.発見
です。以下、もう少し具体的に書きます。

1.台詞の近くの、本の中にあまり出てこないであろう固有名詞を選ぶ
「ともあれ、それはただの私事にすぎない」という台詞を英語でなんと書くのかを考えるのは、私には無理です。訳し方も、いろいろあるでしょう。なので、探したい文の近くにある、訳し方がひとつに決まる地名や人名などの固有名詞を検索するのがよいのではないか、と思いました。今回は、台詞の4行後に「ルイヴィル」という地名があったので、それに決定。
このとき、さらに近くにある、訳が想像できる言葉を見ておくといいと思います。今回は「トム」「デイジー」「新婚旅行」にしました。

2.選んだ固有名詞を英語でどう綴るか調べる
これは、「ルイヴィル」をググるだけです。「Louisville」でした。

3.Googleブック検索で原書を検索し、さらに、選んだ固有名詞を検索する
Googleブック検索で「Great Gatsby」を検索すると866件ヒットして、上位に原書が出てきます。下のほうを活用できれば面白いのだと思いますが、今回は最上位の原書だけ。とりあえず一番上に出てきた本をクリック。さらに「Louisville」を検索すると、10件ヒット。この中から「トム」「デイジー」「新婚旅行」が近くにある箇所を探しました。すると、121ページが該当箇所だとわかります。

4.発見
ところが、この本の121ページはプレビューの対象になっていません。ご丁寧に「この書籍を購入」というリンクがあり、Googleブック検索の対象になっている原書がこの1冊だけだったら、買っていたかも。
今回は別の「The Great Gatsby」があったので、そちらで「Louisville」を検索。今度は7件ヒット。さっきの本が3件多いのは、IntroductionやChronologyの部分にも「Louisville」が出てくるから、のようです。
2冊目の「The Great Gatsby」だと97ページが該当箇所で、5行上の’In any case,’ he said, ‘it was just personal.’が<「ともあれ、それはただの私事にすぎない」と彼は言った。>の原文だとわかりました。

以上で検索は終わりです。

その後ほかの箇所もいじっていたら、「この書籍に登場する場所」「よく使われている語句」などを見ることができる「書籍の概要」というページがあることを知りました。たとえば「The Great Gatsby」に登場する場所『風俗見聞録』によく使われている語句
面白いです。やっぱり、馬鹿な感想しか出てきません。
というわけで、はじめてのGoogleブック検索【グレート・ギャツビー編】はここまで。
また何かに使ったら、書き継ぎます。

追記(2009/11/19)

宣伝のことをすっかり忘れていましたが、「ともあれ、それはただの私事にすぎない」という台詞、それから『グレート・ギャツビー』について調べたのは、劇作家の岩松了さんからの依頼です。

『グレート・ギャツビー』に想を得た「マレーヒルの幻影」(作・演出/岩松了)が、12月5日(土)から、下北沢の本多劇場で公演されます。

時は1929年大恐慌前夜。NYで再会した日本人の男と女の人生を描く──。

この『マレーヒルの幻影』は〈恋をする〉ではなく、〈恋をつくろうとする〉ドラマだと自分では思っている。若い頃無条件に始まったはずの恋を、あらためて諸々の条件のもとに〈つくり直さなければならなかった男女のその困難の物語〉と言えばいいだろうか。(戯曲『マレーヒルの幻影』著者あとがきより)

公演の戯曲は12月11日発売予定。本多劇場では先行販売を行ないます。

また、「ともあれ、それはただの私事にすぎない」という台詞については、9月に刊行した『溜息に似た言葉』の中で、詳しく取り上げられています。『グレート・ギャツビー』、『溜息に似た言葉』を合わせて読むと、舞台『マレーヒルの幻影』が、より楽しめるのでは!

公演情報『マレーヒルの幻影』

●2009年12月5日(土)〜27日(日)東京:本多劇場
●2010年1月9日(土)大阪:シアター・ドラマシティ
作・演出/岩松了
出演/麻生久美子、ARATA、三宅弘城、荒川良々、市川実和子、松重 豊

チケットの予約方法など、詳細は森崎事務所へ。

2009.11.18元気会第43回勉強会&親睦会「 出版のいまとこれからを展望」のレジュメ

元気会第43回勉強会&親睦会

出版のいまとこれからを展望
勉強会

日時:2009年11月18日(水)18:30〜19:45
会場:千代田区飯田橋 2-18-2 日立キャピタル株式会社
講師:沢辺均(ポット出版代表)

■01■ 出版の紹介

●01 売上げなど
・書籍新刊・発行形態別出版状況
年/新刊点数/推定発行部数/平均価格/推定発行金額
2008/76,322点/39,739万冊/1,170円/4650億6700万円
2007/77,417点/40,405万冊/1,152円/4655億7700万円
2006/77,722点/40,177万冊/1,174円/4715億8900万円
2005/76,528点/39,797万冊/1,191円/4740億8900万円
2004/74,587点/39,636万冊/1,217円/4823億7500万円

これをさらに、2004を100とした指数でいくと(200×の数字÷2004の数字)
2008/102.33/100.26/96.14/96.41
2007/103.79/101.94/94.66/96.52
2006/104.20/101.36/96.47/97.76
2005/102.60/100.41/97.86/98.28
2004/100.00/100.00/100.00/100.00

・CVS売上げ(2007年度)=7,兆566,8億88百万円
 外食業売上げ(2007年度)=4,兆036,4億84百万円 (社)日本フランチャイズチェーン協会調査
・講談社=1443億円/981人 (2008年8月現在)(2007年度)/小学館=838名
1位 講談社 1443億100万円/2位 小学館 1413億4400万円/3位 集英社 1389億7800万円/4位 角川GH 720億3300 万円/5位 学習研究社 641億2200万円/6位 日経BP社 533億5900万円/7位 ゼンリン 512億7800万円/8位 新潮社 310 億円/9位 ぎょうせい 307億4100万円/10位 光文社 305億8100万円/11位 文藝春秋 298億3400万円/12位 中央出版  231億3900万円/13位 日本放送出版協会 212億3400万円/14位 新日本法規出版 209億900万円/15位 マガジンハウス 206 億円/16位 東京書籍 205億2600万円/17位 デアゴスティーニ・ジャパン 200億円/18位 メディアファクトリー 198億6000万円/19位 岩波書店 195億円/20位 主婦の友社 192億6800万円
・新刊発行点数=80,595 (1点当たりの売上げ冊数=11,411冊 )

●02 出版社/書店など
・「出版年鑑」2008 4,055社(ピーク1997年比−557社 4,613社)
・日本図書コード管理センター (JPO)
・日販データ=出版社等 3,500社、書店等 11,000店、CVS等 22,000店
・年間10点以上の新刊 1000社
・書店の数
 2001年・20,939店/2002年・19,946店/2003年・19,179店/2004年・18,156店/2005年・17,839店/2006年・17,582店/2007年・16,750店

●03 本の値段
・22%  8%  70%(67%〜/歩戻し)
・初版発行部数と定価と総生産高
 初版(新刊)の制作部数
 推定発行部数÷新刊点数
 2008/5,206.76冊
 2007/5,219.14冊
 2006/5,169.32冊
 2005/5,200.32冊
 2004/5,314.06冊
・単行本・文庫・新書・全集双書・絵本(他に辞典・図鑑)の2008年の推定初版(新刊)の制作部数
 発行形態/推定初版部数/推定発行部数÷新刊点数 2008年
 単行本/3,714.61冊/16,676万冊÷44,893点
 文庫本/14,530.34冊/12,669万冊÷8,719点
 新書本/10,515.86冊/3,812万冊÷3,625点
 全集・双書/3,252.36冊/5,476万冊÷16,837点
 絵本/4,938.62冊/885万冊÷1,792点
・70%の内訳(原価30%〜40%→43%〜57%)
・新刊委託・注文・常備・長期・延勘(見計らい)
・編集者のノルマ
・DTPの果たした役割

■02■ 出版をめぐる状況

●電子書籍/電子雑誌
 kindle/appleタブレット/iPhone

●Googleの書籍デジタル化

●国立国会図書館のデジタル図書館構想(長尾構想)とジャパンブックサーチとジャパニーズブックダム

●責任販売
 35ブックス/小学館・講談社

●書店の減少

●出版不況
 沢辺は「出版不況」という表現は使いたくないと思ってますけど。

●04 本の注文はどう伝わって出荷されるのか?
・書店から
 出版社に電話・ファックス
 取次に電話・ファックス・電子データ
・取次
 取次倉庫に在庫/WEBセンターなど(別料金)
・出版社
 出版社から品出し・委託倉庫から品出し・書店への直送(受領書)
・アマゾン
 自社倉庫/取次倉庫(大阪屋・日販)/出版社への注文/在庫情報なし=取り扱い
・TRC
 「週刊新刊全点案内」ストックブックに載る本と載らない本

■番外■プロフィール

ポット出版(法人名 株式会社スタジオ・ポット)
・1989年 1冊目発行(径書房発売)/2007年 12冊発行/既刊約120冊
・デザイン・編集制作請負業(編集3人・デザイナー3人)/出版(編集3人・営業1人)/社長
 兄弟会社 スタジオ・ポットSD←版元ドットコムのシステム開発から、出版社を中心としたサイト開発
・保管・品出しは倉庫に委託/VAN加盟・倉庫でデータ受発信
・有限責任事業組合(LLP)版元ドットコム組合員
1956年生まれ
1986年まで地方公務員
渋谷区役所/組合活動/保健所予防課、国民年金課、土木公園
デザイン事務所勤務をへて、1988年10月スタジオ・ポット開業(デザイン)
1989年11月 「外国人が公務員になったっていいじゃないかという本」をポット出版として発行(発売は径書房)
1994年7月「ず・ぼん 図書館とメディアの本 1」を発行(新泉社発売)
2000年版元ドットコム
2006年NPOげんきな図書館(東中野・江古田図書館を受託)副理事長