ず・ぼん6●町田市立図書館が嘱託員制度を導入するまで

町田市立図書館が嘱託員制度を導入するまで

手嶋孝典
[1999-12-18]

土・日曜日の3交替の勤務制度を堅持しつつ、祝日開館や開館時間の延長をするためには、嘱託員制度の導入は必至だった。町田市の行財政改革「オプティマ21」のプラン(96年策定)——図書館員の土・日曜日の出勤など——に対して、「図書館構想検討プロジェクト」メンバーたちはどういう対案を出したのか。町田市の嘱託員制度導入までと今後の課題をレポートする。

文◎手嶋孝典
てじま・たかのり●
1949年生まれ。

1972年町田市役所に就職。現在、町田市立図書館に勤務。
ず・ぼん編集委員。

1 はじめに

 本誌第5号に、練馬区立図書館の図書館協力員制度が紹介された。厳密には練馬区立図書館の場合とは異なる部分はあるが、相模原市立図書館との相互利用をきっかけに、町田市立図書館が1998年12月から導入した制度は、非常勤嘱託員という意味では同じものである。大きな違いは、町田市立図書館の場合、最長でも6年未満の雇用であるのに対し、練馬区立図書館のそれは、今のところ雇用止めはないということである。ただし、両者とも契約期間は、1年間であることは共通している。
 それから、町田市立図書館の場合には、館内の研修について参加が保証されているが、館外で行われる研修については今のところ参加を認めていない。一方、練馬区立図書館では、館外の研修にも積極的に参加しているという実態があるようだ。もっとも、練馬区立図書館の正規職員は、殆どが3年から5年で異動してしまうのに対し、嘱託員には雇用止めがないため、むしろ嘱託員のほうが図書館業務について精通しているという、いわゆる逆転現象が起きていることが、そのような実態を招いている最大の理由であると思われる。町田市立図書館でも逆転現象が起きないという保証はないので、そうならないような制度を作り上げていく必要があると考えている。本稿で町田市の図書館嘱託員制度について紹介するとともに、逆転現象が起きないような正規職員の制度についても触れたいと思う。

 そもそも、なぜ非常勤嘱託員制度なのかということから説明する必要があろう。非常勤嘱託員というのは、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第3条第3項第3号に規定する特別職に属する地方公務員のことである。このように書いても何のことか全然分からないと思うので、もう少し説明するが、第3条は「地方公務員の職は、一般職と特別職とに分ける」と規定し、同条第3項で「特別職は、左に掲げる職とする」と規定し、第1号から第6号までを例示している。そのうちの第3号で「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」と規定している。ここまで引用しても、嘱託員とは一体どのような職を意味するかは、依然として分からないのではなかろうか。
 鹿児島重治著『逐条地方公務員法』によれば、「これらの者はいずれも特定の学識または経験に基づいて任用される者であり、このような特定の要件に基づかない者を臨時または非常勤の職に任用しようとするときは、本法(地方公務員法——引用者)第22条第2項の規定に基づいて臨時職員として任用すべきである」[*01]とされている。ちなみに、地方公務員法第22条は、第2項から第6項まで「臨時的任用」について規定しているが、嘱託員はここで規定している「臨時の職」とは異なった職であることが、朧気ではあるがようやく分かるのである。
 いずれにしても、非常勤特別職の嘱託員制度については、本稿の最後で、改めて触れることとしたい。

2 土・日全員出勤という改善案?

 練馬区立図書館の非常勤嘱託員の歴史は古い。1988年の新館の開館に際し、本来であれば正規職員を増員すべきところを、全員が正規職員とはならずに、非常勤嘱託員が1名配置されたそうである。それが「後に図書館協力員という名称になった」[*02]とのことである。正規職員を増員する替わりに非常勤嘱託員を配置するという経緯については、町田市立図書館の場合でも事情は大して違わない。その点については、後で触れることとしたい。

 町田市の行財政改革プランは、「オプティマ21」と呼ばれている。オプティマム(Optimum)とは、最適条件を意味する語であり、オプティマ(Optima)はその複数形を表すそうである。実態はともかくとして、単なる合理化ではなく、行財政の最適化ということを目指しているところに最大の眼目が置かれているようである。それが1996年8月に策定されたが、その中で図書館職員の土・日曜日の勤務体制が俎上に載せられた。
 「図書館について、日曜開館、平日の開館時間の延長を推進するため、変則勤務を常態とする専門職(司書)による運営体制への切り替えを目指す」という勤務体制の改善案?が出されたのである。
 一見して分かるように、本来別次元であるはずの「勤務体制」の問題と「専門職制度」の問題が、ここではごちゃ混ぜになっている。というのは、「勤務体制」の問題は、「専門職制度」を導入するか否かとは無関係に労働条件の問題として存在し続けるからである。
 更に部別改善プランでは、「市民が余暇時間に使用する文化・スポーツ施設について、その利用度の高い土曜日、日曜日には、できる限り多くの正規職員が出勤し、市民サービスに対応できるよう勤務体制を見直します」として、土・日曜日の出勤を「常態」とするよう求めている。つまり、図書館職員は、土・日曜日には全員出勤するのが当然であると言っているのだ。
 土・日曜日に全員出勤するとなると、職員は平日に休みを取ることになる。週休2日制なので、月・火、火・水、水・木、木・金、金・月の5通りの組み合わせで均等に休むと仮定すると、計算上は、毎日4割の職員が休むことになる。もちろんこれは、勤務を要しない日だけであるから、休暇や研修等を考えると、月曜日から金曜日については、毎日5割程度の職員しか出勤しないことになってしまう。しかも、祝日開館を実施するとなると平日に代休を取るため、更に平日の出勤者は少なくなってしまう。どう考えても、土・日曜日に全員出勤を「常態」とするという勤務体制は成り立ちようがないのである。
 次に考えられるのは、土・日曜日に半分の職員が勤務に就くという体制であるが、この場合でも、半数の職員が月曜日から金曜日の平日に休むことになり、休暇や研修等での不在を加えれば、やはり実施困難な勤務体制であることが分かる。もちろん、三多摩地区の多くの図書館が、2交替の勤務体制を敷いていることは承知している。しかし、町田市立図書館の場合、とりわけ中央図書館は、全国でも有数の規模と貸出点数を誇っており、しかも、ビルの中の図書館という立地上の制約から、カウンターを4か所設けている。そのため、平日でも相当数の職員を配置しなくてはならないという事情があることも、土・日曜日の2交替勤務を困難にさせていると思われる。

3 三交替制堅持には何が必要か

 「嘱託員制度について」というタイトルなのに、何故勤務体制の問題にこだわるのか疑問をお持ちの読者もおられると思うが、もう暫くのお付き合いをお願いしたい。
 「土・日曜日には、できる限り多くの正規職員が出勤すべきである」という言い方は、一見もっともなように思えるかもしれないが、実は土・日曜日と平日の業務内容の違いを理解していない表面的な見方に過ぎない。確かに、現行の勤務体制では、土・日曜日に3分の1の職員しか出勤していないというのは事実である。しかし、出勤するすべての職員がカウンター業務に就くため、実際にカウンターに出ている職員の数は、平日よりも多くなっているのである。
 その理由について説明しよう。図書館業務の中で、資料の貸出し・読書相談・リクエスト・調べものの相談等の、利用者に対する直接サービスは、次に挙げるいわば間接的なサービスともいえる業務によって支えられているということを理解する必要がある。
 つまり、資料の選定・発注・受け入れ・分類・装備や督促等の間接的な業務が、図書館の仕事の中ではかなりのウエイトを占めていて、それらが直接サービスを支えているのである。

 また、おはなし会や映画会、講演会などの集会活動も図書館の基本的な業務である。集会活動は、土・日曜日に行われることもあるが、そのときに出勤する職員は、3分の1の職員以外、本来は勤務を要しない日に指定されている職員が、別枠で出勤しているという実態もある。
 利用者に対する直接的なサービスは、土・日曜日、平日を問わずに行う必要があるが、反対に間接的な業務は、業者の休みの都合等でむしろ土・日曜日に処理することはできず、平日に行わなければならない。
 土・日曜日は、カウンターワークを中心とした利用者への直接的なサービスに集中し、間接的なサービス業務は、平日に処理するほうが文字どおり合理的な方法ということになる。
 結論を述べると、土・日曜日は、現行の3交替制を維持しながら、祝日開館、地域館を含む開館時間の延長を実施することによって、「オプティマ21」の課題に応えていくのが、最適な方法であると考えたのである。
 ここでお断りしておくが、「考えた」のは、私個人ではなく「図書館構想検討プロジェクト」(11名で構成)及びプロジェクトの実質的な作業部会、あるいは小委員会ともいうべき、「勤務・職員体制チーム」(プロジェクトメンバーのうち5名で構成)である。チームは他にもいくつかあるが、プロジェクトのメンバーによって構成されるチームが必要に応じて作られたり、再編成されることが特徴である。いずれにしても、私はプロジェクト及びチームの一構成員として、土・日曜日の3交替制勤務を堅持し、かつ「オプティマ21」の課題をも同時にクリアできる対案を他の構成員と一緒に必死になって考えた。
 「勤務・職員体制チーム」は、土・日曜日の勤務体制について、解決を要する現状の問題点として、

(1)急病等により、勤務することが不可能になった場合、交替勤務者を見つけにくい(応援体制が確立していない)。
(2)昼の休憩時、三時の休息時に職員が少なくなるため、対応しきれずに、休んでいる職員を呼び出したり、利用者を待たせることがある。
(3)臨時職員の人数比率が高いため、サービスの質に問題がある。
(4)一日中カウンター業務になるため、体力的負担が大きい。
(5)学校五日制(第二・第四土曜日休み)や土・日曜日に行うべき行事、集会活動等への対応が不十分である。
を挙げ、これらの問題を解決することができれば、三交替制は堅持できること、かつ、その方法として、

(1)専門職制度の導入
(2)嘱託員制度の導入
が必要になるとの結論を導き出した。

4 臨時職員ではなく嘱託員を

 専門職制度の導入についての詳細は、図書館内に労使で設置した「組織等検討委員会」による、1997年3月27日付けの報告「町田市立図書館における専門職員の在り方」[*03]を参照していただきたい。専門職制度導入の目的は、職員の質の向上を図るということに尽きるが、町田市立図書館の場合は、一般的な専門職制度を目指しているわけではない。自治体職員としての自覚を持った図書館員を養成するために、図書館以外の職場への異動を義務づけようとしていることに制度の特徴がある。

 次に、嘱託員制度の導入の理由について説明しよう。町田市立図書館では、土・日曜日に臨時職員を正規職員とほぼ同数(中央図書館にあってはそれ以上)配置していたが、臨時職員の端末操作に大きな制約があった。町田市では、臨時職員のコンピュータ端末操作については、厳しい制限を設けており、それが足枷となっている。
 端末操作の制限というのは、
(1) 利用者のプライバシー保護
(2)臨時職員は、VDU[*04]労働に従事することを前提としていないため、VDU健康診断が受けられないという理由からである。
 図書館では、1991年10月に町田市コンピュータシステム管理運営委員会[*05]に諮って、臨時職員が端末操作を行う場合は、主に返却業務、必要な場合に限り、利用者情報に結び付かない貸出業務のみ認めてもらった。これらの業務については、バーコードをなぞる作業が中心であるため、端末操作の範囲に含まれないということになったのである。それにしても、臨時職員が行える業務は、制約が大き過ぎる[*06]

 また、中央図書館では、平日にも相当な人数の臨時職員を雇用していたが、産休代替の臨時職員以外は、契約は2か月となっていた。そのため、臨時職員を次々に探す必要があり、そのたびに仕事を教えなくてはならないという制約もあった。
 すなわち、雇用期間が短く、かつ端末操作に厳しい制限が課せられている臨時職員を嘱託員に切り替えていくことが必要とされたのである。
 ここで、疑問を持たれる読者も多いと思う。それなら、正規職員を増やせばいいのであり、非正規職員を増やそうというのは邪道ではないかと。もちろん、それが正論であることは認める。事実、そのような努力もしてきた。1990年に中央図書館が開館して以来、一般事務職員は、8名増員になっている(開館後の一般事務職員は、館長、副館長各1名、庶務係3名、奉仕係34名だったが、その後6年間で一般事務職員は、庶務係1名、奉仕係7名が増員されている)。それによって、恒常的であった時間外勤務も一部の担当を除いて減っている。また、休暇についても、一部の例外はあるものの、少数職場である地域館よりもむしろ自由に取得できるようになった。そのこと自体は、もちろん肯定されるべきである。
 問題なのは、それが業務上どこまで利用者サービスの向上に役立ったかである。私が評価する限りでは、1993年の九月から図書・雑誌について、都立図書館などから借用したものを除き、市内の図書館のどこでも返却できるようになったことくらいである。
 それだけではなく、理事者からは、地域館の建設は行うが、正規職員をこれ以上増やすことはできないとの通告もあった。もちろん、すべてを非正規職員で補うという訳にはいかないとしても、基本的にはそうせざるを得ない現実も踏まえる必要がある。そう考えたときに、同じ非正規職員を選択するなら、制約の多い臨時職員ではなく、嘱託員制度を導入した方がよりベターではないかと判断したのである。

5 サービス拡大への積極的な提案

 町田市の行財政改革プラン「オプティマ21」については、本稿2で紹介した。実は、このプランを具体的に推進するための実施計画として、1997年度から2001年度の5か年にわたる「町田市行財政推進計画1997年度版」(以下「オプティマ21(○○年度版)」と略記)が策定されていた。この計画は、ローリング方式により毎年度見直されることになっている。
 「オプティマ21(1997年度版)」では、開館時間の延長や、祝日開館、「図書館奉仕員制度」導入についても、勤務体制の見直しとして追加されていた。このことをどう評価すべきかが問題であった。
 「オプティマ21」については、業務命令という性格を持つため、基本的には実施する方向で検討すべきであることは明らかだった。もし、土・日曜日の3交替制勤務の見直しのように、どうしても実施不可能な事情がある場合には、客観的な第3者をも納得させられるような明白な理由が必要になる。
 もっと具体的に述べるなら、3交替制勤務を堅持するためには、それ以外の方法(例えば2交替制勤務など)では、メリットよりもデメリットの方が大きいということを理事者に理解してもらわなくてはならなかったのである。それだけではなく、2交替制勤務などの対案として、新たな利用者サービスについても提言する必要があった。それは、開館時間の延長と開館日数の増加である。もっとも、このふたつは、前述したとおり「オプティマ21(1997年度版)」で追加項目になっていた。だから、厳密な意味では対案とはいえないが、図書館主導で積極的な姿勢を示すことが、何としても必要だったのである。
 開館時間の延長については、ふたつの意味があった。ひとつは、中央図書館の夜間開館日を追加することと、地域図書館も夜間開館を実施することである。もうひとつは、夜間開館日以外の閉館時間を4時45分から5時に繰り下げるということである。そこで、中央図書館は、火・金曜日に加え、木曜日を午後8時まで開館することと、地域図書館は、新たに火・木・金曜日を午後6時まで開館するという案を策定した。ただし、経過措置として、専門職制度が導入されるまでは、木曜日の夜間開館の実施を留保することとした。

 祝日開館については、祝日に開館しても翌日は休館しないで開館するということを原則とする案を策定した。そうでないと、開館日数の増加にならないからである。
 以上について、「図書館構想検討プロジェクト」は、館内会議に提案した。図書館構想プロジェクトの提案にあたっては、提案してから職員の質問や意見を聞いただけでなく、館内会議提案前にも職員の意見を聞く機会を設けた。
 プロジェクトの見解を支持する意見もあったが、反対意見の多くは、三交替制の現状の問題点について、きちんと把握していなかったり、オプティマ21の課題についての認識が甘かったりで、図書館職員としての基本的姿勢が問われかねないものであった。「祝日は、土・日曜日と違い、子供を預かってくれるところがない。夫も出勤の時が多く、あてにできない」という切実なものもあったが、「地域館の夜間開館は、実施する必要がなく、五時閉館にすれば、オプティマの課題を満たしている」という消極的な意見もあった。
 私も含め、図書館構想検討プロジェクトのメンバーの多くは、調布市立図書館の委託問題が常に念頭にあった。3交替の勤務体制を堅持するためには、むしろ図書館側から積極的に地域図書館の時間延長を提起していくべきだと考えたのである。その程度のことも拒み、3交替の勤務体制の継続だけを主張するなら、職場を丸ごと委託されてしまうか、非正規職員にとって替わられる事態を招きかねないと反論した。
 結果的には、館内会議では提案通り認められたが、その後には、職員団体との事前協議という関門も控えていた。  
 「図書館奉仕員制度」導入については、具体的な内容が詰められていたわけではなく、有償か無償のボランティアの導入を図るという程度のイメージしかなかったようである。だから、それを逆手に取って、嘱託員制度導入の布石とすることが可能だったのである。その結果、「オプティマ21(1998年度版)」の「勤務体制の見直し」についての改善案は、「市民が余暇時間に使用する文化・スポーツ施設について、その利用度の高い土曜日、日曜日には、できる限り臨時職員の割合を減らし、市民サービスの向上を図るため、勤務体制を見直します。また、開館時間の延長や祝日開館、嘱託員制度導入についても併せて検討します」に大幅に変更された。

 また、「高度・多様化した市民要望に対応し、サービスの充実や効率化を目的として、専門職制度の導入を行います。」(「オプティマ21(1998年度版)」)として「専門職制度の導入」について明文化された。
 更に、「相互貸出の研究」という項目で「市民サービスの向上及び相模原市との連携を深めるために、図書に関する相互貸出の研究を進めます。」(「オプティマ21(1997年度版)(1998年度版)」)とされていたが、1998年12月から相模原市立図書館との相互利用が開始されることになり、そのための要員として、10名の嘱託員を採用することになったのである。

6 相模原図書館との相互利用

 町田市と相模原市は、境川を挟んで位置しているため、相互の関係も歴史的に古いものがある。今でも町田市の商店街への来街者は、相模原市民が町田市民に次いで多い[*07]。そのような訳で、1990年秋に町田市立中央図書館が開館して以来、相模原市民にも町田市の図書館を利用させて欲しいとの要望が寄せられていた。
 町田市長と相模原市長が毎年行っている首長懇談会でも課題になっていたが、1998年5月に行われた第6回首長懇談会で合意され、実施方法について協議を続けてきた。

 図書館としては、1998年12月から実施予定の相模原市立図書館との相互利用に向け、中央図書館の嘱託員10名、1999年4月から祝日開館と開館時間の延長の実施要員、新築移転する金森図書館の増員分として、中央図書館に更に10名、各地域図書館に4名ずつ20名の嘱託員(いずれも週4日、月16日勤務)の配置を求め、政策調整会議に付議した。政策調整会議及び三役会議は、相模原市との相互利用を優先し、祝日開館、開館時間の延長とは、切り離して対応することを決定し、相模原市立図書館との相互利用に必要な嘱託員10名分の補正予算、とりあえず4か月分が認められただけであった。
 そこで図書館は、嘱託員導入の見直し案を政策調整会議に改めて付議した。先の政策調整会議と三役会議の審議結果について「図書館としても、相模原市立図書館との相互利用を軽視しているわけでは」ないが、「現在の利用者に対するサービスの向上を同時に実現させなければ、利用者の理解は得られないのではないかと考えてい」るとし、「相模原市立図書館との相互利用に対する批判的な意見がいくつか寄せられてい」る事実を指摘した。そして、地域図書館の嘱託員は、週3日、月12日勤務とすることと、嘱託員の配置人数は、段階的に達成することなどを内容とする修正案を出したのである。
 嘱託員の配置人数については、結論がなかなか出ず、とうとう1999年度当初予算編成の市長査定まで持ち越された。結局、ぎりぎりになって中央図書館に週4日、月16日勤務の嘱託員を4名増員、地域図書館には週3日、月12日勤務の嘱託員をさるびあ図書館に四名、鶴川、金森、木曽山崎、堺の各図書館に2名ずつ配置することで、ようやく決着した。ただし、さるびあ図書館については、正規職員を1名減員することになった。
 この間の一連の制度改革については、職員の労働条件に大きく関わることから、業務レベルの決定(館内会議)とは別に、職員団体との協議も行われた。「相模市立図書館との相互利用について」「図書館職員の減員について」「図書館の祝日開館及びなど開館時間延長の実施について」それぞれ協議を行ったが、祝日開館については、すんなりと決着したわけではなかった。職員団体としては、構成員の様々な意見をまとめるのに大きな苦労があったようである。

7 専門職制度はますます必要になった

 町田市立図書館の嘱託員は、おしなべて優秀である。とりわけ中央図書館の嘱託員の採用にあたっては、市の公報で公募したが、なんと437名もの応募があった。第一次選考(履歴書、作文)で44名に絞り、第二次選考では、面接と小テストを行った。厳しい選考基準をパスしただけに、能力も意欲も十分な人が殆どである。とにかく、「図書館で仕事をしたい」、「図書館の仕事は楽しい」という人たちが多い。そのことは、日常のカウンターでの仕事ぶりを見たり、職員研修の受講レポートを読むとひしひしと伝わってくる。だからといって、このままの状態を続けていれば、図書館は安泰であるという訳では決してない。逆に、私自身も含めて、正規職員のあり方が問われているはずである。終身雇用制にどっぷりと浸かり、更に永年の慣行とはいえ、司書(補)の資格さえ持っていれば、自ら希望しなければ原則として他職場への異動もない、という現在の任用制度を変えていかない限り、町田市立図書館の将来は、決して明るいものとはならないと思う。
 本稿の1で、練馬区立図書館で現に起きている正規職員と嘱託員とのいわゆる「逆転現象」について取り上げた。町田市立図書館では、そうならないような正規職員の制度について触れたいと述べたが、そのことについては、本稿4でも明らかにしたとおり、図書館に専門職制度を導入することが唯一無二の解決方法であろう。そうしない限り、図書館が大好きで、図書館で仕事がしたくてしょうがない嘱託員と対等またはそれ以上に仕事をすることは困難だからである。
 町田市立図書館の嘱託員制度について、中間的に総括を試みると、導入の効果は、著しく大きく、制度の運用についても、概ねうまくいっていると評価できると思う。もちろん、克服すべき課題も多い。
 以下、成果、課題及び問題点について、思いつくままに列挙してみる。
 先ず、成果(評価できる点)であるが、
(1)意欲と能力ともに十分の嘱託員が採用できた(特に中央図書館)。

(2)臨時職員の制約(短期雇用、コンピュータの端末操作ができない)を克服できた。
(3)心ある正規職員にとっては、いい意味での刺激が与えられた。
 次に、問題点及び課題(評価できない点、克服すべき点)については、
(1)報酬が安い。業務に取り組む姿勢や実際の仕事ぶりを見ると何とか改善したいと胸が痛む。
(2)5年の雇用止めがある。このままでは、5年後が恐ろしい。
(3)時間外手当が認められていないため、館内会議に出席できない。

(4)出勤日が少ない上、ズレ勤務のため、朝礼に出席できず、連絡事項等が徹底しにくい。また、2名配置の地域図書館では、2名同時に出勤することが殆どないため、意思の疎通に欠けやすい。2000年度からは、地域館の嘱託員を4名体制としたい。
(5)館外の研修に参加する制度がないので、制度化に向けて検討したい。
(6)正規職員、嘱託員、臨時職員の3層に階層分化が拡大している。せめて中央図書館の平日の臨時職員(年間を通じて常時雇用しており、本来の臨時とは実態がかけ離れている職層)は、嘱託員に切り替えたい。
(7)正規職員と嘱託員の業務の仕分けを緻密におこなう必要がある。
(8)中央図書館の嘱託員と地域図書館の嘱託員では、勤務日数が異なるため、業務の習熟度に差ができやすい。特に、地域図書館の嘱託員は、週3日勤務のため、継続性のある業務を任せにくい。
(9)産前産後休養、育児休業は、制度としてあっても無給である。

等が挙げられるが、問題点及び課題については、図書館独自に解決可能なものは、それ程多くない。
 そもそも、本稿1で述べたとおり、地方公務員法第3条第3項第3号の嘱託員というのは、非常勤特別職という位置付けである。非常勤といっても「地方自治法の解釈としては、職務の内容によって区別すべきもので、隔日勤務であっても常勤の職員である場合があるとされている」[*08]ということで、自治省行政実例があるそうだ。なんだかおかしな話であるが、一方で、「国家公務員法では、非常勤の職員の勤務時間は、日々雇い入れられる者は、1日8時間を超えず、その他の場合は常勤職員の勤務時間の4分の3を超えない者とされている。地方公務員法でも『非常勤』等の言葉が用いられているが、この場合の常勤、非常勤の区別は、一般職の勤務条件について国家公務員のそれとの権衡を考慮しなければならないこともあり、国家公務員の区別の例によることが適切であると解される」[*09]そうである。要するに、「日々雇い入れられる者」以外は、「常勤職員の勤務時間の4分の3を超えないもの」を非常勤職員とするということである。
 更に、特別職については、地方公務員法第3条は、第1項で「地方公務員の職は、一般職と特別職に分ける」と規定し、第2項で「一般職は、特別職に属する職以外の一切の職とする」と規定し、更に第3項で「特別職は、左に掲げる職とする」として第1号から第5号までを列記している。「これは例示ではなく限定列記である」[*10]とされ、第3号で「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」と規定しているのである。
 結局、嘱託員という位置付け自体が、地方公務員法上あいまいであり、実態とも合っていないというのが、私の結論であるが、制度発足以来50年近くが経過していることを考えれば、無理からぬことなのかもしれない。

 自治労(全日本自治団体労働組合)は、「短時間公務員制度の創設」を制度改革の方向として目指している[*11]が、自治省でも検討を進めているようである。1999年4月27日に出された地方公務員制度調査研究会報告でも、「一般的な短時間勤務職員制度の検討」という項目で、検討の必要性について認めている[*12]。1日も早い制度化が望まれる。

[付記]本稿は、町田の図書館活動をすすめる会の会報「知恵の樹」(No.34〜40)に連載したものに大幅な加筆、訂正を加えたものである。

[*01]『逐条地方公務員法』

第6次改訂版、1998年、学陽書房、P.32
[*02]「後に図書館協力員という名称になった」
小形亮「非正規職員は、正規職員を超えていくのか」『ず・ぼん』第5号、1998年、P.103
[*03]「町田市立図書館における専門職員の在り方」
前掲書P.114〜119
[*04]VDU

Visual Display Unitsの略。視覚的表示装置と訳されている。日本では、VDT(Visual Display Terminals)という用語が一般的に使用されているが、Terminalsがコンピュータの端末機器を意味しているのに対し、Unitsはワープロ、パソコンなどの単体利用の機器、周辺機器をも含む意味を持つとのことである(『自治労「団体交渉のためのVDUガイドライン」』1985年、全日本自治団体労働組合)。
[*05]図書館では、一九九一年…
「町田市コンピュータシステムの管理運営に関する規程」(平成元年12月7日規程第14号)第4条〜第9条
[*06]…臨時職員が行える業務は…
町田市役所では、1999年9月1日以降、産・育休の代替等に限り、条件付きではあるが、臨時職員のOA機器の使用が認められることになった。しかし、条件がかなり厳しいため、殆ど適用外とされてしまう。
[*07]町田市の商店街への来街者は…

1998年11月29日(日)の調査によると、来街者の居住地別比率は、1番多いのが町田市で35%、2番目が相模原市で27%、3番目が横浜市で11%を占めている。しかし、前年の調査と比較すると、町田市内からの来街者の比率が減り、相模原市、横浜市からの比率が増えている(『町田市中心商店街来街者動向調査報告書1999年3月版』1999年、町田商工会議所、P.III-2〜3)。
[*08]「地方自治法の解釈としては…
自治省行政実例昭和26年8月15日地自行発第216号(前掲『逐条地方公務員法』P.24)
[*09]「国家公務員法では…
前掲書P.24。ただし、人事院規則及び地方公務員法の該当条項を省略して引用した。
[*10]「これは例示ではなく…

前掲書P.26
[*11]自治労…
『1999臨時・非常勤・パート集会』(1999年、自治労東京都本部)P.46
[*12]一九九九年四月二七日に…
『地方自治・新時代の地方公務員制度—地方公務員制度改革の方向—』(1999年、地方公務員制度調査研究会)P.23