2010-08-16

新連載「プータローネットワーク」と事務所の居候 [下関マグロ 第31回]

新橋にあるリクルートの『とらばーゆ』編集部に打ち合わせに行き、帰ろうとしたときに声をかけられた。

「増田くんじゃない、元気?」

村上麻里子さんだった。村上さんはかつて『ポンプ』という雑誌の事務局にいた人である。この『ポンプ』という雑誌はちょうど僕が大学に入学した78年に創刊されている。中身は今でいえば、ネットの掲示板をそのまま雑誌にしたようなものである。当時としては画期的な試みで、僕は創刊号からずっと買っていた。

僕は読者でもあったが、投稿者でもあった。その『ポンプ』がまさにネットのオフ会のようなことをはじめ、読者同士が集まるというということが行われていた。村上さんはそこの事務局にいた女性で、オフ会のサポートをしていた女性で、美人だった。僕はその、オフ会のような集まりに何度か参加したことがあったが、ライターの仕事をするようになってからは足が遠のいていた。

「村上さんがなんでこんなところにいるんですか?」と僕が聞くと、村上さんは、リクルートに転職して『週刊就職情報』という雑誌の編集をやっているのだということを教えてくれた。

「ちょっと近所でお茶でもしようか」と誘われ、近所の喫茶店へ行った。

「増田くんが『とらばーゆ』の仕事をやってるの知ってるわよ。なにかウチの雑誌でもやってよ」

そう言われて、僕はカバンの中に入っていた『ボブ・スキー』を取り出し、「ほがらか歳時記」という見開きページを見せた。そこには脳天気商会提供とあり、伊藤ちゃんが北尾トロ、僕が高杉マグロのペンネームで記事を書いていた。内容は、スキーの裏ネタやこぼれネタを取り扱うものだった。文章はもちろん、写真も自分たちで撮り、本当にヘタだったが、イラストや四コマ漫画も自分たちで描いていた。

「村上さんがやってる『週刊就職情報』を読んでいる読者の人たちって職がない人たちでしょ、だからそういう人たちを取材して、僕らがちょっとしたコラムやイラストなんかも添えるってどうかな」

「おもしろそうねぇ」

村上さんが身を乗り出してきた。

「連載のタイトルは『プータローネットワーク』っていうの」

勝手に連載と決めつけてしまったり、僕の勢いがすごいので、村上さんは、まあまあと手で僕を制止するようなかんじで、

「その『ほがらか歳時記』コピーさせて」と言った。

これはなんとかなりそうだ。村上さんによれば、2ページは無理だけど、1ページならなんとかなりそうだと別れ際に言った。

僕は大急ぎで地下鉄に乗り、新橋から荻窪のマンションへ向かう。このことを一刻も早く伊藤ちゃんに伝えたいと思ったからだ。当時は、荻窪のマンションが僕と伊藤ちゃんのライター事務所だった。

夕方、事務所に帰ると、伊藤ちゃんではなく、おかもっちゃんがいた。

「あれ、きょうはどうしたの? 会社早く終わったんだね」

声をかけても、おかもっちゃんは浮かない顔をしている。そしてこう言った。

「きょう、ここに泊めてもらっていいかな?」

「もちろん、そりゃ構わないけど、どうしたの?」

おかもっちゃんは西荻窪で女性と同棲しているはずだった。

「いやぁ、それが、きょうは帰りたくないんよ」

それ以上はくわしく聞かなかったけれど、彼女となにかうまくいかないことがあったらしい、と僕は思った。

「当分泊まってもいいよ」と言いながら、あることを思いついた。

「なんだったら、住んでもいいよ。ほら、ここは6畳の部屋がひとつに3畳の部屋がひとつ。あとはキッチンにお風呂場。それで、伊藤ちゃん、僕、おかもっちゃんで3畳ずつお金を払うというのはどうよ」

実際、6畳の部屋には伊藤ちゃんと僕のデスクがあって、3畳のほうは使っていなかったのだ。

おかもっちゃんは、顔を輝かせた。

「きょうはとりあえず、布団借りて泊まるけど、住むことも考えさせて」

「ああ、どうぞ、どうぞ、好きなだけいていいよ」

と恩売ったところで、

「ところで、おかもっちゃん、金貸してくれないかなぁ」

「なんだぁ、いくら必要なの?」

「家賃がちょっと足らないんで5万円ほど……」

「じゃ、いっしょに飯でも行くかね、駅前のキャッシュディスペンサーでおろすよ」

「ありがたい、助かるよ。今度原稿料が入ったら、返すから。ほらここにね、こうして書いておくから」

僕のデスクの前の壁にはすでに「伊藤ちゃんに10万円借りる」と書かれている。その下に「おかもっちゃんに5万円借りる」と一行書き足した。

このころの僕はとにかく金がなかった。浪費が原因なのだが、それでも原稿料が入ってくるアテはある。そう考えて、伊藤ちゃんやおかもっちゃんにしょっちゅう金を借りていた。どうしようもない僕であった。

この連載が単行本になりました

さまざまな加筆・修正に加えて、当時の写真・雑誌の誌面も掲載!
紙でも、電子でも、読むことができます。

昭和が終わる頃、僕たちはライターになった


著●北尾トロ、下関マグロ
定価●1,800円+税
ISBN978-4-7808-0159-0 C0095
四六判 / 320ページ /並製
[2011年04月14日刊行]

目次など、詳細は以下をご覧ください。
昭和が終わる頃、僕たちはライターになった

【電子書籍版】昭和が終わる頃、僕たちはライターになった

電子書籍版『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』も、電子書籍販売サイト「Voyager Store」で発売予定です。


著●北尾トロ、下関マグロ
希望小売価格●950円+税
ISBN978-4-7808-5050-5 C0095
[2011年04月15日発売]

目次など、詳細は以下をご覧ください。
【電子書籍版】昭和が終わる頃、僕たちはライターになった

このエントリへの反応

  1. [...] ているようだった。データマンや学研の仕事以外にも収入源があるようだったし、「週刊就職情報」の仕事もまっさんが取ってきてくれたものだ。ただ、その先となるとどうしたらいいか [...]

  2. いつも楽しく読ませていただいています。
    単行本になる際は巻頭に登場人物の似顔とプロフィール
    を掲載するといいですね

    文章上達講座やっています

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