2010-08-09

初ライブと初小説 [北尾トロ 第30回]

アガっていたとしか言いようがない。ぼくの歌とまっさんのベースが先へ先へと暴走を始めたのだ。おかもっちゃんが引き戻そうとするが、どうにも修正できず。間奏時の動きも壊れたおもちゃ並である。しかも、叩いていたリズムパッドが曲の途中で倒れ、見かねた客に手伝ってもらって演奏を続ける始末。みじめだ。やっと冷静に場内を見渡せるようになったと思ったら、もう最後の曲だった。

「いやいやいやいや、まいったなもう」

楽屋に戻ると、おかもっちゃんが笑い出した。

「どうなってしまうのかって、お客さんも緊張して見てたよ」

表へ出ると、みんなから声をかけられた。曲は悪くないけど、見ていてヒヤヒヤしたと意見は一致している。ライブとしては最低だったってことだが、こっちは一仕事終えた高揚感に包まれているので、いいようにしか受け取らない。打ち上げの席でも、まっさんは強気一辺倒だ。

「曲がいいってことはさ、ライブをこなせばこなすほど聴きごたえが出てくるってことだよね。この調子でガンガン行こうよ。今日は知り合いばかりだったけど、だんだん普通の客も増やしていってさ。イカ天とかも応募してみようか」

意外なことに、音楽歴の長いおかもっちゃんも、このままでは終われないと言い出す。

「なんだかんだいってもライブは楽しいよ。やったもん勝ちだよ。実力はともかく、わしらみたいなバンドは少ないと思う。そういえば伊藤ちゃん、会場で女の子に話しかけられてたじゃん。あれは誰?」

「他のバンドを見に来たらしいけど、わしらがおもしろかったって。つぎはどこでやるのかって尋ねられた」

「追っかけ1号だ。大事にしないといかんねえ」

ということで、バンド活動は継続させることになり、次回ライブはクリスマスパーティーを兼ねて高円寺の「次郎吉」を貸し切ってやることが決まった。対バンなしでゆったりやりたいと思ったのである。曲目を増やさないと間に合わなくなるため、新曲作りに精を出さないといけない。

秋が深まり、『ボブ・スキー』の仕事が忙しくなってきていた。ある日、編集長の福岡さんに呼ばれて学研へ行くと、スキー小説をシーズン連載しないかという。

「ぼくは伊藤君、小説が書けると思うんだよね」

小説? そんなもの、書きたいと思ったこともない。ライター仲間には、いずれ小説家になりたいと言ってるヤツもいたが、ぼくにはそんな気、さらさらないのだ。そのことを話すと、まっさんは大喜びした。

「ひゃひゃひゃ、それはやるべきだよ」

「でも、スキー小説なんてな、ロクに滑れもしないのに。できるとしたら、スキー場で働くしがない男の話くらいのもんで」

「それでいいんだよ。その主人公は我々と同じく、業界の隅っこであくせくしてることにしようよ。書くべきだ、書きなさい。題名はそうだな、まだ水面にも顔を出せない男の話だから『アンダー・ゼロ』でどう?」

まるで福岡さんの回し者のように、熱心な説得を受け、ぼくは成り行きで小説を書くことになった。だが、小説を書いてみたいと思ってないのだから、どうしても熱が入らない。実際、毎回の締め切りは苦闘の連載で、しかも我ながらおもしろくない話が延々と続くことになった。長いライター生活の中でも五本の指に入る、思い出したくない仕事だ。

この連載が単行本になりました

さまざまな加筆・修正に加えて、当時の写真・雑誌の誌面も掲載!
紙でも、電子でも、読むことができます。

昭和が終わる頃、僕たちはライターになった


著●北尾トロ、下関マグロ
定価●1,800円+税
ISBN978-4-7808-0159-0 C0095
四六判 / 320ページ /並製
[2011年04月14日刊行]

目次など、詳細は以下をご覧ください。
昭和が終わる頃、僕たちはライターになった

【電子書籍版】昭和が終わる頃、僕たちはライターになった

電子書籍版『昭和が終わる頃、僕たちはライターになった』も、電子書籍販売サイト「Voyager Store」で発売予定です。


著●北尾トロ、下関マグロ
希望小売価格●950円+税
ISBN978-4-7808-5050-5 C0095
[2011年04月15日発売]

目次など、詳細は以下をご覧ください。
【電子書籍版】昭和が終わる頃、僕たちはライターになった

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