岩井志麻子[作家]●ぼっけえ驚いたわ

封筒開けて本を取り出して、添えられた依頼書を見て。ぼっけえ驚いたわ。

驚き、その1。……とにかく、つまらん! いやー、クソおもしろうない。
こんなつまらん本、久しぶりに読まされたわ。わしがいったい、どんな悪いことをしたというんじゃ。と、泣きたくなるほどにな。
そもそも何を書いてあるか、何がいいたいんか、まるでわからんし。その前に、いっこも興味ない話ばっかしじゃし。
なんで、私なんかにこんなものの書評を書かそうなんて考えたのか。あんたらほんま、私にナニを期待しとるんじゃ。
最初から最後まであまりにもコムツカシイ理屈まみれで、とにかくどうやっても内容が頭に入ってこない。
一応は最後まで読んだけど、内容はいっこも覚えとらんわ。オドレのドタマが悪いんじゃといわれれば、その通りなんだけどよ。
なんかよおわからんが、このひとがコムツカシイことを考えられる、コムツカシイ理屈を文章にでける人だ、というんだけはわかった。

驚き、その2。原稿料が激安! 
最初、1枚が1万円と思った。常識で考えてたら、そうじゃろ。ところがどうも、2千字(つまり原稿用紙5枚)で1万円らしい。
腰が抜けたで。物書きになって結構な年月が過ぎたけどな。1枚2千円なんて提示をされたんは、ほんま初めてじゃ。別に私は、有名出版社のメジャー誌でばかり書いとる訳じゃないよ。そいでもこんな安い、人をバカにした原稿料は見た覚えがない。
なんぼ貧乏マイナー出版社じゃいうても、あんたら人としての常識も思いやりも気配りも、何もないんかい。

驚き、その3。あとがきの傲慢さ。
命がけで書いたから、命がけで読んでほしい。……あんたいったい、何様のつもり。
これは本当に、あごが外れかけたわ。いったいどんな育ち方をしたら、ここまで俺様になれるの。ていうか、これは不幸の手紙か!? 勝手に送りつけてきて、命がけで読めだとぉ!? その言い草はなんなんだ。なんぼ温厚なわしでも、怒るで。
私も職業が物書きじゃ。しかしな。ただの一度も、こんなん考えたことがないで。オドレの書くものがつまらんからじゃろ、いうんは無しじゃで。
ようまあ恥ずかしげもなく、命がけなんて言葉を使えるよな。社会の差別について考える前に、人としての恥じらいについてちょびっと考えてみんか。
わしも一生懸命書きました、くらいは言うけどな。そんなん、職業なんだから当たり前じゃないか? 頑張りでもなんでもないワ。
だいたい銭をもらう以上、それは商品。買うてもろうたからには、読者様のもの。
こっちが命がけで書こうが暇つぶしに書こうが、読者様には関係なかろうが。おもしろかった、つまらんかった、読んでよかった、読まなきゃよかった、それらはもう、書き手にはどうしようもない読者様の自由だ。
あんたひょっとして、差別された差別された騒ぐんは、この本に書かれてある内容によるものではなく、あんたのその傲慢さ故ではないんかい?
そいで、命がけでとか偉そうコく割りには、(笑い)←を散りばめとるよな。
なんなんよ、これは。それこそ、笑うかどうかは読者様が決めることじゃ。
あんたが、「おい愚鈍な大衆どもよ、ここが笑うところだぞ。親切に俺様が指示してやってんだからよ」というとる訳か。
差別について闘う前に、あんたのその傲慢さをどうにかしようや。話はそれからじゃ。

いやはやほんま、内容のつまらなさと原稿料の安さと書き手の傲慢さで、最初から最後までむかむかしっぱなし。
こんだけ不快な目に遭わされたら、せめて文句の一つも書かせてもらわにゃ気が済まんわ、というんで書かせてもらいました。
いいですか、著者さんと出版社さんよ。これは書評でも感想でもなく、クレームだからな。本来なら、1万円じゃ済まさんで。

【プロフィール】
いわいしまこ●
1964年、岡山県生まれ。小説家。『ぼっけえ、きょうてえ』で日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞受賞。東京MXTV「5時に夢中」毎週木曜日レギュラーなどテレビ出演も数多くこなす。現在『新潮45』にて「どスケベ三都物語」連載中。

【著書】
タルドンネ 月の町/講談社/2006.11/¥1,600
オトコ・ウォーズ/マガジンハウス/2006.10/¥1,200
永遠の朝の暗闇/中公文庫/2006.10/¥648
猥談(野坂昭如、花村萬月、久世光彦との共著)/朝日文庫/2006.8/¥400
痴情小説/新潮文庫/2006.6/¥400
黒い朝、白い夜/講談社/2006.5/¥1,500
無傷の愛/双葉社/2006.5/¥1,600
べっぴんぢごく/新潮社/2006.3/¥1,500
悦びの流刑地/集英社文庫/2006.3/¥429
女学校/中公文庫/2006.2/¥495
薄暗い花園/2006.1/¥533
死後結婚/徳間書店/2005.12/¥1,600
瞽女の啼く家/集英社/2005.10/¥1,400
合意心中/角川ホラー文庫/2005.9/¥438
黒焦げ美人/文春文庫/2005.8/¥400
チャイ・コイ/中公文庫/2005.3/¥476
嫌な女を語る素敵な言葉/祥伝社/2005.3/¥1,700
楽園に酷似した男/朝日新聞社/2005.1/¥1,500
東京のオカヤマ人/講談社文庫/2004.12/¥448
女神の欲望(中村うさぎ、乙葉との共著)/メディアファクトリー/2004.12/¥1,200
自由恋愛/中公文庫/2004.11/¥495
出口のない楽園/メディアファクトリー/2004.11/¥1,400
魔羅節/新潮文庫/2004.8/¥400
邪悪な花鳥風月/集英社文庫/2004.8/¥419
花月夜綺譚/ホーム社/2004.8/¥1,700
永遠の朝の暗闇/中央公論新社/2004.8/¥1,600
夜啼きの森/角川ホラー文庫/2004.5/¥514
淫らな罰/光文社/2004.5/¥1,500
恋愛詐欺師/文藝春秋/2004.3/¥1,333
偽偽満州/集英社/2004.2/¥1,300
私小説/講談社/2004.1/¥1,500
最後のY談(中村うさぎ、森奈津子との共著)/二見書房/2003.12/¥1,500
ぼっけい恋愛道 志麻子の男ころがし/太田出版/2003.11/¥762
痴情小説/新潮社/2003.10/¥1,400
薄暗い花園/双葉社/2003.9/¥1,300
岡山女/角川ホラー文庫/2003.7/¥476
志麻子のしびれフグ日記/光文社/2003.4/¥1,200
悦びの流刑地/集英社/2003.3/¥1,200
女学校/マガジンハウス/2003.2/¥1,400
楽園/角川ホラー文庫/2003.1/¥419
猥談/朝日新聞社/2002.12/¥1,200
黒焦げ美人/文藝春秋/2002.9/¥1,143
ぼっけえ、きょうてえ/角川ホラー文庫/2002.7/¥457
チャイ・コイ/中央公論新社/2002.5/¥1,000
合意情死/角川書店/2002.4/¥1,300
自由戀愛/中央公論新社/2002.3/¥1,400
魔羅節/新潮社/2002.1/¥1,400
東京のオカヤマ人/講談社/2001.10/¥1,400
邪悪な花鳥風月/集英社/2001.8/¥1,800
夜啼きの森/角川書店/2001.6/¥1,500
岡山女/角川書店/2000.11/¥1,300
ぼっけえ、きょうてえ/角川書店/1999.10/¥1,400