伊藤菜子[フリーライター]●細くなくったって若くなくったってパンクスなのだ

伏見憲明さんが自身をパンクスだと表明した本だと思いました。「中野サンプラザまでクラッシュのコンサートに行ったこともあるのよー」と、以前聞いたことがあったので、へえ、伏見さんはパンクロックも好きなのねえと、漠然と思ってはいたけれど、「リアルであることこそが、ぼくのパンクです」なんて、キッチリ言っちゃうなんてカッコいいっス!! 私もこの言葉、どこかで使わせていただきたい。勝手に拝借してもいいですか?
 
あと、どこかで伏見さんの姿を見て、「ちっともパンクスなんかじゃないじゃん」と言ってる人よ。パンクっぽいファッションで身を包んで、バンド活動するだけがパンクスじゃないんだからね。細くなくたって(ゴメン)、年が若くなくたって(さらにゴメン)、生き方や思想がパンクスだということです。

そして『欲望問題』という本自体、パンクミュージックのように、伏見さんの言葉がストレートに響いて、頭に入ってきました。語られていることは平易ではないのだけれど、ホントにわかりやすく、スルリと入ってくるのです。

最初の章に登場する、少年愛者である鈴木太郎さん(仮名)の悩みについては、「自分は犯罪に引っかかるような性的欲望を持ってるわけじゃないから関係ない」という人にとっても、自分の欲望問題と重ね合わせて、または延長線上として考えられるのではないでしょうか。私の欲望対象だって、たまたま犯罪には引っかからないだけであって、もしかしたら線引きされた向こう側にいたかもしれないわけですし。異常だと言うのは簡単だけど、異常と言う前に、自分の欲望問題と照らし合わす人が増えたら、世の中も少しは変わるかなあ。

伏見さんは「ぼくは、この社会は自分の理想に近づく可能性を残しているのではないか、と直感しています」と言っています。「理想の社会だなんて楽観的」だと「ノー」を言うのは簡単なこと。でも「あえてイエスと言いたい」と。「イエス、バットというのが立場です」に、私も1票入れたいです。バット以下はそれぞれが考えて、理想に近づけていこうよと、なんだか前向きな気持ちにさせてくれました。

伏見さんて、ご自身でも言っておられるけど腹グロだし、黒い血がドクドク流れているような人間です(私もそうなんだけど)。でも根底では愛のあふれる優しい人だっていうのが、私の実感。『欲望問題』を読んだ後も、なんとなく温かい気持ちになりました。なので多くの人に読んでもらえるといいなあと本気(マジ)で思います。「欲望問題」という言葉も、「恍惚の人」(古い?)とか「失楽園」「愛ルケ」のように流行語になって、大ベストセラーになってくれたら、とてもうれしいです。

いとうななこ●1969年、東京都生まれ。フリーのライター&編集。